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もんてすきゅー
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【3,732字】電車が止まっていたので仕方なく歩いて帰るお話

※このお話には残酷な表現が含まれています。 [newpage] 「ふぅ…今日は良い物たくさん買えてツイてたわね。」  両手いっぱいの紙袋には半日近くを費やして獲得した戦利品がたくさん。  都会まで出かけるのが久しぶりだったこともあってか、普段は縁のない大きなデパートでついつい買い込んでしまった。 「さて、帰りの電車まであとどれくらい…え、ウソ。人身事故で遅延…?」  日頃からたまにニュースで見るとはいえ、専業主婦の私には電車の遅延なんて縁のない話。  たまたま出かけた今日という日、しかもこれから帰ろうというタイミングでなんて実はツイてないのかも。 「しかも復旧時刻未定の運転見合わせだなんて、こういうものなのかしら。それならバスかタクシーを…いえ、どれもダメそうね…」  停電なんかで電車が止まると”帰宅難民”と呼ばれる人たちが代替手段に殺到するということくらいは知識として知っている。  発生から既に1時間以上が経過していることを考えれば、今から向かったところで何時間も待つに違いない。 「…ま、それなら仕方ないわよね。早く帰って夕飯の支度をしなきゃだし、最後の手段を使わせてもらうわね。」 [newpage] 「さて、この辺でいいかしら。」  デパートの1階まで下りてから外へ1歩踏み出すと、そこはもうたくさんの人でごった返していた。  これ以上広い場所へ移動するのは難しいと判断した私は瞳を閉じて意識を集中させる。 「…んっ、……は、ぁ……」  周囲の雑踏が引き起こす喧騒が徐々に悲鳴混じりのものへと変わっていく。  少しずつ巨大化していく私はそんな小さなノイズが”足元”から上がってくるのを他人事のように聞き流していた。 「…やっぱりここだとちょっと狭いわね…ビルを押し倒しちゃいそう…」  まだ巨大化は半分も完了していないはずなのに、背中がさっきまで居たデパートに、人よりも幾分大きめな胸の膨らみが前にある高層ビルにぶつかってしまっている。  不安定な今動くわけにもいかず、感情的にもこれ以上後ろに下がりたくはなかった。 「あ、やだ…胸が、だめっ…んんっ…」  片方だけでも直径10mほどにまで大きくなった私の胸が、ビルの壁面をあっけなく押し破ってその内部を犯し始める。  未だたくさん残っているらしい人たちも懸命に逃げようとしているものの、建物そのものが胸に押されて徐々に傾き始めていることで走ることさえままならないでいた。 「というか、袋に瓦礫が入っちゃっても嫌だし、倒しちゃったほうがいいわね。ん、っしょ…と。」  どのみち助からない彼女たちへの情けも兼ねてひと思いに胸を前へと突き出した。  私の胸板よりも薄っぺらくなっていた憐れなそのビルは、高さ100m超とは思えないほどのあっけなさで向こう側へ崩壊していく。 「あら、少し巻き込み過ぎちゃったかしら。まぁ、いいわ。お家に帰るとしましょ。」  巨大化と同じく昔の能力は未だ健在のようで、私の行為によって発生した民間人の犠牲者情報が意識の中になだれ込んで来る。  自分の何気ない行動によって奪われた1,000を超える尊い命とその未来を想うと、小さな罪悪感と大きな優越感で心が満たされるのだった。  ☆ ☆ ☆ 「んー…ちょっとくねくね曲がりすぎじゃない?こっちで合ってるのかしら…」  ”交通手段”として巨大化したのはいいものの、電車を乗り継いで1時間という我が家までの道のりがわからない。  仕方なく、帰りに乗るはずだった電車の線路を辿りながら、その道なりを徒歩で帰宅中の私である。 「ごめんなさいねぇ。大きな道を歩いてあげられれば良かったのだけど。」  両手いっぱいの紙袋をしんどそうに掲げながらとぼとぼ歩くその姿は、買い物を満喫した主婦にしか見えない…はず。  実際にはおろしたての冬用ロングブーツよりも遥かに小さなビルやらマンションやらを無造作に踏み荒らしていた。 「やっぱりこの国だと市街地で戦うのに200倍は大きすぎるわよねぇ。」  片側1車線程度の道路ではもはや片足すら入らないので、わざわざ”道”を選んで歩く意味なんてほとんどない。  40m近い空き地なんてものもそうそうあるわけなく、私の両足はそこに何があるかも誰が居るかも関係なく、すべてを平らにし靴跡だけを残していく。 「昔はこの新雪を犯すような感触を楽しんでた頃もあったっけ…懐かしいわぁ。」  普段は見上げているはずの立派なビル群が、ただ足を踏み下ろしていくだけでグシャリと小気味よく潰れていく。  自分が周りの人間とは違う”特別な存在”だと自覚させるには十分すぎる力だった。 「でも通り道に居るってだけで踏み潰しちゃうなんて…ふふっ。今でも十分悪いコトしてるわね。」  足元で必死に逃げ惑い泣き喚きながらも何もできずただ無力に命を散らせていく彼女たちには当然ながら何の罪もない。  私も別に殺戮を楽しんでいるわけではなく、ただ家に早く帰りたいがために”便利だから”という理由で巨大化して歩いているだけ。 「あと10分くらいかしらねぇ。そういえば最初は巨大化も3分間しかもたなかったっけ。」  ポケットのスマホが鳴りやまない避難警報でブーブーと煩いのも、私が歩みを止めない限り続くのだろう。  そんな身勝手極まりないイライラをぶつけるようにミニチュア世界を力強く踏みしめ始めた頃、前方のスクランブル交差点の辺りに空から何かが降りてきた。 『正義のヒロイン、侵略者を倒すために華麗に参上!私が来たからにはこれ以上の…』  せいぜい普通自動車ほどしかない”小さな足”で器用に人を避けながら舞い降りた彼女はいわゆる正義の味方。  身長40mの身体で毎週のように侵略者と戦っている彼女は、今回のようなイレギュラーな状況にもわざわざ現れてはお決まりの口上に夢中のようだった。 『…って!!侵略者情報が出たと思ったらママだったのぉー!?』 「遅かったじゃない。”現役”ヒロインさん♪」 [newpage] 『え、ちょっ、待って、どういうこと?理解が追い付かない…』 「うふふ。混乱してるわねぇ~♪」  一人娘を産み育てながらもママさんヒロインとして活躍していた私が引退したのは、ほんの1ヵ月ほど前の話。  現役JKと巨大ヒロインという二足の草鞋に苦労しながらも私の何倍もの人気を得ているこの子は、とっても将来有望で母親としても鼻が高い。 「ま、そういうことだから私は帰るわね。貴女も遅くならないようにするのよ~。」 『ええっ!?ちょ、ママ!!足元めっちゃ踏んじゃってるよっ!?』  大きいんだから仕方ないでしょーと適当にあしらいながら自宅へと歩みを再開する。  正義の味方の出現に一縷の望みを抱いていたらしい人々も、その微かな希望ごと私が踏み下ろすブーツの靴底へと消えていく。 『待ってってば!!せ、せめて踏まないように飛んでよ!!今でもまだ飛べるよね!?』  人を踏まない優しい巨人として有名な娘が足元をふわふわと浮かびながら追って来る。  もちろん今でも飛ぶことは出来るしそうすればこの足元の惨状がなくなることはわかるけど。 「嫌よ、疲れるじゃない。こんなに荷物あって歩くだけでも大変なんだから。」 『…え、理由それだけ…?』  全力疾走ほどとまではいかないけどランニング程度の疲労感がある。  今の私の気分からすれば街をメチャメチャに踏み荒らしてしまうことよりも避けたい面倒さだった。 『うぅ…ママは立派な正義の味方だと思ってたのに…こんなに酷いコトするなんて…』 「これまでに何百万人も救ってきたんだもの。数万人くらいどうってことないでしょ。」  多数を救うためであれば少数の犠牲は止むをえないというのが私の現役時代からの持論でこれは今も変わらない。  一挙手一投足で散っていく命を想いすぎては心がいくつあっても足りないのだから。 『で、でもっ…』 「あら、止めたいならママに遠慮せず止めればいいのよ。それが正義の味方のお仕事でしょ?」  と言っても靴底と同じサイズほどしかない”小さな巨人”に止められるほど私も甘くない。  それをわかっているからか私によって踏み荒らされていく憐れな街並みを眺めつつも手出しが出来ないようだった。 『…私は、なんて無力なの…』 「ん、そのうちママみたいに強くなれるわよ。そのためにも帰ったら夕飯をたくさん食べましょうね。今日は好物のハンバーグ作ったげるから。」 『……うん。』  罪のない人々の救済を諦め肩にちょこんと座り込んだ愛娘が可愛くて、つい母親としての顔が出てしまう。  知らないうちに踏み潰してきた人のなかにも私たちのような親子が居たのかもしれないと思いながらも、私の大きすぎる足が目の前に広がる住宅街へ向かっていることは変わらないのだった。 完


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