【8,600字】巨大ロボット整備士志望だったのに巨人兵士担当になってしまったお話
Added 2022-04-22 15:00:00 +0000 UTC※このお話には過激な表現が含まれています。 [newpage] 『まもなくカリメール小隊が帰投します。特別整備隊はただちに出動してください。』 この基地一体に響くような大音量の通信が、私たちのお仕事の始まりを告げてくる。普段はよく笑うくせに、こんなときだけ仕事のできる風な冷たい声で告げるあの子の表情がありありと浮かぶようで嫌になった。それはまるで、私たちの間に上下関係が出来たみたいで。 「ほら、新人!むすっとしてないでさっさと出発するわよ!」 「は、はい!すみません隊長、今行きますっ!」 もちろん、整備士という支援部隊とはいえこれでも軍人の端くれ、命令とあらばそこに個人的な感情を差し込む余地はない。優秀と名高い新任女性司令官からの直々の指名で本部配属となった双子の妹とは異なり、私が配属されたのは”特別”な整備隊。確かに整備士志望だったはずが、その仕事内容は想像していたのとはまるで違っていた。 「第三整備班急げ!脚部パーツの換装と燃料モジュールの充填準備!」 「了解!!」 巨大な機械を専用車両で運んでいく彼らの行き先に聳え立っているのは、人類が開発した最強ロボットである人型機動兵器だった。全高16mを誇るその軍事技術の結晶をメンテナンスすることは、全整備士の憧れと言っても過言ではない。入隊通知を受け取ったときは自分もそこに混じっていると確信していたはずなのに、私たちは彼らとは反対方向へとひた走っている。 「隊長!各班搭乗完了しました!」 「よし。それでは各車両、合流ポイントに向けて出動!」 私たちが乗り込んだのは、真っ赤な車体に銀色の梯子を載せた緊急車両。いわゆる消防はしご車25台で向かう先は、火災現場でもなんでもない、私たちの唯一の仕事現場だった。 ☆ ☆ ☆ 「た、隊長!そろそろ合流地点のはずなんですが…」 「どうかしたか?」 「いえ…その、現地は余りにも遮蔽物が多く、この台数の展開は困難かと…」 「…なるほどな。各班!衝撃に備えろ!!」 私たちの車両が大橋を越えて旧市街地の一角へと進入した直後のこと。隊長たちが何やら会話したかと思えば、全員に対して発出されたのはまさかの耐衝撃体勢の指示だった。遥か昔に放棄されゴーストタウンと化しているこの街の真ん中で、緊急停車した車両に居た私たちは身を屈めて頭を庇う。そんな指示の意味が正しいとわかったのは、それからたった数秒後のことだった。 ズシーン!!ドシーン!! ドガーン!!バガーン!! 「きゃあああ!!」 「うろたえるな新人!」 先輩に怒られなんとか口を噤みながらも、絶え間なく襲い来る轟音と大地を揺らす衝撃に、心の中では悲鳴を抑えられない。何が起こっているのか、頭では理解していても、心の準備が追い付かなかった。思えば、”あちら”よりもこちらが先に到着していたことは初めての体験だったからだろう。 『あら?合流ポイントに居ないんじゃない?』 『ほら、だからこんな場所を指定しないであげたらって言ったのに。』 『うふふ。だって、たまにはねぇ?合流ポイントの座標を再送信しておくわ。』 『それってまるで催促じゃない。』 私が怯えている間にもカリメール小隊の方々のクスクスと楽し気な会話が頭上を飛び交っていく。隊長の通信機が新たな通信を受信したことを告げ、私たちの車両は揺れの収まらないなか再び動き始める。私が座る右手の車窓からは、モクモクと立ち込める砂埃の先に、遥か天上まで伸びていく白い巨塔が見えていた。 「ホント、いつ見てもバカでかいわよね…」 「ええ、ガンエースの10倍でしょ?そりゃ、あんな所から見下ろせば、世界が違って見えるはずよね…」 「…お前たち。それ以上はやめておけ。除隊じゃ済まされないかもしれないぞ。」 内心では彼女たちのように思っている人も少なくはない。それでも、彼女たちカリメール小隊、通称巨人部隊は、私たち人類に圧倒的な戦力をもたらした。人間の100倍、侵略者である異世界人の10倍という巨体を誇る彼女たちが居なければ、私たち人類は今ごろ異世界人に支配され、毎日のオヤツにされていただろう。 「ま、まもなく合流地点!カリメール小隊も依然接近中です!」 「ここで十分だ!全車両停止!衝撃対応体勢!!」 10年前であれば栄えていたであろう、大型ショッピングビルが立ち並ぶ五差路の交差点で緊急停車した私たち。25台もの消防はしご車がぎゅうぎゅう詰めとなったこの場所へ向けて、彼女たちはなおも向かってきている。恐怖を感じるなというほうが無理な話だった。 『やっぱり足の踏み場もないじゃない。どうするのよ隊長さん?』 『そんなの適当に踏み壊せばいいだけでしょ。ああ、整備隊の子たちは踏まないようにね。』 『難しいコト言ってくれるわねぇ。知らないうちに踏んじゃってても知らないわよ。』 そう言いながらここ合流地点を中心として徐々に散開していくカリメール小隊。その途上では、この車両の倍以上も巨大なサンダルが次々と踏み下ろされ、進路上にあった旧市街の建物が余りにもあっけなく踏み潰されていく。放棄されているとはいえ、文明の象徴がまるでゴミ掃除か何かのように片付けられていく光景は、彼女たちを”人類の救世主”ではなく”破壊の女神”のように映させた。 『あ、居た居た。赤いと目立って良いわね。危うく踏んじゃうとこだったわ。』 『ホントに踏まないでよ?うちの娘もそこに居るんだから。』 (…ッ!) 仕事だからと意識しないようにしていたのに、そう告げるその声が、あまりにも”母親のそれ”だったから。頭では理解していても、心では理解したくないことだってこの世にはある。それでも、ただの末端整備士に過ぎない私に、選択の余地なんてないんだけど。 『ほらほら、そろそろその辺にして集合。貴女たちも早く帰りたいでしょ?』 『そうね。今ならまだ夕方のタイムセールに間に合うかしら。』 『うちは今日子供を迎えに行かなきゃなのよ。』 『はいはい。それじゃ並んで。』 そうしていよいよ私たちのすぐ近くに並んでいた高層ビル群が次々と巨大なサンダルに踏み潰されていき、彼女たちの巨体を支える8本もの足が露わとなる。一瞬で平らとなった建物からは瓦礫一つこちらに飛んでくることはなく、薄っすらと広がる土煙は圧倒的なまでの暴風によってすぐさま吹き飛ばされた。ただ、余りにも近かったせいか私たちにも少なからず影響が出ている。 「隊長!13号車が吹き飛ばされて横転しています!14,15号車にも損壊ありとの報告!」 「13号車からの隊員の救助を最優先にして!14,15号車は放棄!予備班には受け入れと再編成の指示を!」 「了解!!」 「…あーもう!!修理代はカリメール小隊宛てに請求しておきなさい!」 「えっと、隊長…それは本気で…」 「…冗談に決まってるでしょ。残りの各班は持ち場について!作業開始よ!」 ☆ ☆ ☆ 厚さ数mというもはや壁のようなサンダルの靴底のすぐ傍に止まった私の車両は、靴の上へはしごをかけて登り、その上での清掃活動が担当業務となっていた。丸い先端が1.5mほどの高さに反りかえっている靴底は、ベチャアとこびり付いた”何か”で赤黒く染まっていて、彼女たちカリメール小隊が今日もまた大きな戦果を上げてきたことを示している。 「うぅ…よりによってママ担当だなんて…」 「何をしている新人!ぼーっとしていると落ちるぞ!」 「は、はいぃ!」 10kgを超える清掃道具を背負い、命綱もなく建物2階相当という高さまではしごを登る行為は、紛れもなく命懸けの行為だった。それなのに、その登っている先は彼女たちの靴の上でしかなく、しかもその相手が実の母親ともなれば気分が落ち込むのも仕方がない。自分たちなどまるで虫ケラのようだと突きつけられる存在は、せめて赤の他人であって欲しかった。 『隊長!全班登頂しました!』 『了解。これより上部清掃開始!10分以内に完了せよ!』 体長からの無線での指示を受け、靴の上に登った私たち10人はそれぞれの持ち場である足指へと向かおうとする。しかし、小指でさえ人間の数倍もの太さを誇るそれらはサンダルの上をみっちりと占拠していて、人差し指の前には数十cmほどの足場しかなく、親指に至っては靴から前方へと飛び出していた。 『カリメール小隊の皆さん!これより足指の清掃を行います!くすぐったいでしょうが我慢をお願いします!』 『ふふっ。うっかり”汚れ”を増やしちゃわないように気を付けるわ。』 『…それと、もう少し足を引っ込めて頂ければ清掃しやすくて助かります。』 『はぁい。こうすればもっとやりやすいかしら?』 隊長と会話したママたちは、足指を引っ込めるのではなく持ち上げてぐぱぁと指を開く。すると、その間に挟まっていたのか、私たちの身体ほどもありそうな大きな物体がボトボトと剥がれ落ちて降って来る。その中の一部と”目が合った”私は、思わずこみ上げてくる吐き気をなんとか抑えることで必死だった。 『今日はたくさん居たから念入りにお願いするわね。』 『…了解しました。』 それらは、私たち人間の10倍サイズでありながら、バラバラに引き千切られ細切れにされている身体の一部。細く長い手足に、豊かな膨らみを持つ胴体、そして絶望に歪んだ美しい少女の頭部だった。今日もまた、100体を超える彼女たち異世界人が、カリメール小隊によって僅か数分のうちに駆逐されたという。それは、以前であれば、ガンエースの2個大隊が半壊しながらようやく追い返せるほどの規模だった。 『ほらそこの新人ちゃん。おサボりしてるならプチっと踏み潰しちゃうわよ~。』 「や、やばっ…!」 それが実の娘だと知ってか知らずか、足指をウネウネと動かして威圧してくるママに、私だけでなく周囲の皆さんまで怖がらせてしまう。上官以外からもキッと睨まれた私は、慌てて人差し指の下に潜り込むと、ソールにこびり付いている赤黒い物体を清掃用具で掻き出していく。視界が足指が作り出す影にすっぽりと覆われているということは、ママがその指を下ろしただけで私の人生が終わることを意味していた。 『はぁ…それにしても本当に面倒よねぇ。どうしてこの子たちは一緒に小っちゃくなってくれないのかしら。』 『仕方ないでしょ。異世界人に私たちの常識なんて通用しないのよ。』 『グチャッと踏み潰したら死んじゃうっていう常識は通用して良かったわね。』 『ホントね~。』 私たちがわざわざこのような”清掃行為”を行う理由は、彼女たちの今の発言に込められていた。カリメール小隊が帰投し元の人間へと縮小処理を行った際、その身体に貼り付いていた[[rb:異物 > 彼女たち]]は縮小せずそのままとなる。もし、人間の10倍という巨体の一部でも残っていれば、人間となった彼女たちにとってはひとたまりもない。これは、カリメール小隊が「自分たちで踏み潰した残骸に押し潰されないため」に必要な処理なのだった。 『…ん?っていうか、この子たちって、貴女まさか…』 『あら、もう気付いちゃった?そのまさかよ♪』 『ーーーーー!!!』 突然、人間とは異なる言葉が大音量で聞こえてきたかと思ってそちらを見上げてみれば、カリメール小隊の一人が手の中に2体の異世界人を握り込んでいた。その様子を見て私たちに強い動揺が走るものの、隊長の仕事を続けるようにという指示によって意識を無理矢理足指へと戻す。 (うぅ…装備一式に防毒マスクも配ってくんないかな…こんなこと愚痴ったらママに怒られそうだけど…) 開放感のあるサンダルでありながら、それなりの距離を歩いたからか足指からは目視でわかるほどの汗が染み出してきていて、そこらに散らばる残骸と混ざり合って凄まじい匂いとなって襲い掛かって来る。顔だけなら小綺麗なママも足の年齢は隠せないらしく、もうすぐ50近い歳相応の傷んだ足裏からは、掃除用のヤスリによって簡単に角質が剥がれ落ちてきた。 『んんっ…くすぐったい…』 「マズい…!TUE展開!!」 「えっ?わわっ!?」 急に焦った様子の班長がそう告げるのとほぼ同時に、他の指に居た先輩たちが非常用防護システムを作動させる。ボフンと急激に大きく膨らんだバルーンに驚いている暇もなく、真上に位置しているママの足指が私たちを圧迫するかのように下りてきた。 『ん、んんぅ…』 「TUE耐久限界120%突破!!圧力が強すぎます!!」 「ダメです!!薬指1機大破!!」 「何をしている新人!!TUEを作動させろ!!みんな押し潰されるぞ!!」 「ひゃ、ひゃいぃっ!!」 慌てて押し込んでボタンの感触もわからないまま、背中から大きく膨らんだバルーンがママの人差し指を辛うじて支え始める。それでも上昇し続ける圧力によってけたたましい警報音は鳴りやまず、第2、第3の大破を報告していた。全体の半数が大破してしまえばママの足指を抑えきることはできなくなり、そのままプチっと押し潰されてしまうだろう。 『…ん。なんとか持ちこたえたかしら。ごめんなさいね?どうしても痒くなっちゃったの。』 なんとか圧力が正常値に戻ったTUEを解除してホッと息をつくと、どうやら他の人たちも無事みたいで安心する。ママが足指を掻いただけでそれに巻き込まれて死ぬだなんて、そんな結末はまっぴらごめんだった。それでも、この仕事はそういった不慮の事故と常に隣り合わせであり、不人気な最大の理由でもある。 『足の裏に潜り込むのは危ないから、このまま間を掃除してもらうほうがよさそうね。』 最初からそうしてよという言葉は今は飲み込んで、ぐぱぁと開かれた親指と人差し指の間に入り込んでいく。それでもサンダルを履いたままという都合上、限界まで開いてもそこまで大きな隙間があるわけでもない。私は自分の背丈を超える足指という壁に挟まれながら、その間にこびり付いている物体をこそぎ落とし始めた。 『んんっ…やっぱりくすぐったい…』 「え、ちょっ、それはホントにやめっ…」 『…だから、こうすればいいかしら。』 「ひぃ!!」 グオオとしゃがみ込んだママが伸ばしてきたのは、これまた私たちよりも巨大な左手の指先だった。モジモジと今にも蠢きそうな足指の間にそれぞれ軽く挟み込むと、たったそれだけで支えとなってそれ以上の圧迫は避けられる。ただそれは、入り口をママの指先によって囲われて、足指の牢獄に閉じ込められたことを意味していた。 『ほら、これなら潰しちゃう心配もないわね。奥まで綺麗にしてもらえるかしら?』 (…今日の晩御飯、絶対私の好きなもの頼んでやるんだからー!) そこは、気を抜けばすぐに意識を持っていかれてしまいそうなほど、濃密な熱気と湿気、そしてママの足が発する強烈な臭いが充満する地獄のような場所。世の中にはこういった場所が好きな人も居るらしいと聞くが、正気だとは思えない。そして涙目になりながらも指の股部分を目指して進む私もまた、正気でなんて居られなかった。 「ケホッコホッ…ママには今度からもっと足洗って来てって言わなきゃ…っていうか!二度とママ担当は嫌だけど!うぅ…」 もちろん、そんな願いはこの仕事を辞めない限り望むべくもない。いつの日かガンエース整備担当への転属願いが叶うまで、巨大な女性の足指を綺麗にするというこのお仕事を続けるしかなかった。今はただ、自分たちが虫ケラであるかのように錯覚させられないよう、意識を逸らす以外に出来ることはない。 ☆ ☆ ☆ 『カリメール小隊の皆さん!上部洗浄完了しました!ご協力に感謝します!』 『はぁい。』 『後は仕上げに洗い流してもらうだけね。こっちも念入りにお願いしようかしら。』 靴の上から撤退し、放水準備を整えて居並ぶサンダルの壁を見上げていた私たち。頑固な汚れを手作業で落とした後は、地上からの放水によって足指周辺の洗い流しと、靴底の洗浄作業が待っている。ようやく終わりが見えてきたのと同時に、頭上から聞こえてくる甘い声もピークに達しようとしていた。 『ほら、貴女もそのオモチャ、さっさと処分しないとでしょ。』 『ほうひょっひょ…いはへはは…』 『優しいんだか身勝手なんだかわかんないわね。』 どうやら持ち帰っていた異世界人たちを脱がせて下半身をしゃぶっていたらしく、上半身が一度ビクンと跳ね上がるとだらりと脱力してしまう。それを見た私たちは、異世界人である彼女もまた、巨大であれ一人の少女に過ぎないのだと思い知らされる。自身の10倍の巨体を持つカリメール小隊の方から壮絶な舌責めを受けてしまっては、圧倒的な快楽に逆らえないのだろう。 『ん、イったわね。お疲れ様。』 「…ッ!?」 そうして口から異世界人を抜き出した彼女は、聖母のように微笑んだかと思えば、そのまま小さな頭部を摘まんで斜めに軽く捻る。パキッという大きな音が響くとともに四肢を投げ出した彼女が、首の骨を折られ絶命したのは明白だった。絶句した私はママのほうをチラリと見上げるものの、その表情に変わった様子は見られない。これが、カリメール小隊の日常なのかもしれなかった。 『あら、可哀そう。』 『何言ってるの。この子たちだって人間を軽く数百人は殺してたじゃない。』 『まぁそうなんだけど。ところでもう1体はどうするの?』 『1体は出来るだけ保存状態の良い死体、1体は出来れば生きたままって話だったんだけどね。これじゃあ危険な気がするのよねぇ。』 1体が絶命したのを目の当たりにしたからか、もう1体は涙を流しながら手の中で暴れ狂っている。もちろんそんな抵抗は何の意味もなく、全身を握り締められた手に力を込められれば呻きながら大人しくなった。その様子に思わず心を抉られそうになったものの、彼女たちが人類にとっての脅威であることを忘れてはいけない。 『ま、その辺りは帰ってから司令官ちゃんに聞くとしましょ。清掃始めてくれるかしら?』 「…了解です。各班、作業開始!」 彼女たちには彼女たちの仕事があり、私たちには私たちの仕事がある。成すべきことを成すことが、私たちの唯一の指名だった。 ☆ ☆ ☆ 長い任務を終えてようやく帰宅した私。最初にしたいことといえばもちろん、言うまでもなくゆっくりお風呂に入ることだった。 「お帰り、おねーちゃん♪」 「…ただいま。」 「あはは。元気ないなー。何かあったのぉー?」 「わかってるくせにー!」 「ふふっ。心配してたけど十分元気じゃん。」 「うるさいっ。どうせ、私がしんどい思いしてる間に、あんたは本部で司令官とイチャイチャしてたんでしょー!」 「えー。そんなことないけどなぁー。もしかしてぇ…」 そう言って距離を縮めてくる妹。これ以上は近づかないで欲しい。けど、そんな願いもまた無意味なのだった。 「…嫉妬してるんだぁ?嬉しいなぁ…♪」 「ち、ちがっ!私は、別にあんたのことなんて…」 「あれぇ?”どっちに”嫉妬したかなんて言ってないのに。司令官サマじゃなくて、あたしのほうなんだ?」 「っ…!」 「ふふっ。わかりやすいおねーちゃん♪ほら、すっごく臭いから早くお風呂入ってきたら?」 「誰のせいだと思ってるの!…って、これはあんたに言っても仕方ないか…ママが帰ってきたら、これ押し付けといてちょうだい。んじゃ。」 「フットケアグッズ?あはっ!おねーちゃんったら健気すぎてきゅんきゅんしちゃう♪」 本部であったときとは態度が180度違う妹の相手をこれ以上しても疲れるだけだと足早にお風呂場へ向かう。なんだかんだ言いながらも、準備万端整えられている浴室の様子に、妹の愛情と有能さを思い知らされる。一切合切を脱ぎ捨てて突っ込んだ洗濯機が仕事を始めると同時に、浴室とは反対側の後ろの扉が開かれた。 「お背中流したげる♪」 「…あのねぇ。もう良い歳なんだから一緒にお風呂なんて…」 「次の任務でもママ担当にしちゃうよ?」 「ッ!?まさか、あんたにそんな権限は…」 「ふふっ。さあ、どうでしょう♪」 「ああ、もう!清掃の大変さを甘く見ないでよね!」 「うんうん。全部見てるから知ってるよー♪」 聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするものの、もはや考える労力さえ惜しくなった私は妹へ素直に背中を明け渡す。数分後、妹の更なる有能さを全身で思い知らされることになるなんて、このときの私には想像することなど出来なかったのだった。 完