「ほら、みてみてー? 私の足の裏、いろんなものがくっついてるでしょう? さっきこの国の首都を滅ぼしてきたんだよー?」
彼女はわざとらしくフリフリと足を振ってみせる。汗の雲の向こうに見えるそれには、列車や自動車、ビルだったのだろう瓦礫が確かに張り付いている。指紋の一つ一つですら人間からすれば深い谷のようであることが容易に想像できるスケール感だ。左手にかわいらしくぶらさげたブーツでさえ、街を丸ごと飲み込んでしまえる大きさだろう。
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ご依頼で描かせていただきました、ギガサイズ狐鈴ちゃんです。
高画質版のいつもの汚れの有無と濃さの差分のほか、
レヴァリエさんによるSS(約11500字)付きです。
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「おー、たかいたかーい。さっすが、この国で一番高いタワーだね~」
首都を一望できる、とあるタワーの展望台。ジオラマのような町並みを切り取る窓のガラスに、ペッタリと両手をついてはしゃぐ少女が一人。巫女服とも道士服ともつかない衣装、銀髪をかき分けるようにして突き出た狐耳。まるでアニメやゲームの中に登場する狐娘を絵に描いたような出で立ちだ。
端麗な容姿に可愛らしい狐耳、そして扇情的な衣装。何かのコスプレと思ったのだろう人々が、カメラを持って人垣を作るのにそう時間はかからなかった。
彼女は振り向くと、向けられたカメラに愛想を返してポーズを決める。写真に撮られるのは嫌いではない。これから、この比ではないほどのカメラが自分に向けられるだろう事を想像して、ぞくりと身を震わせる。しなやかな狐毛に覆われた愛らしい耳が、ぴこぴこと揺らいだ。
「よーく見ておかないとね……。これから全部、なくなっちゃうんだから」
強化ガラスの向こう側に広がる首都の町並みを見下ろして、彼女はそう小さく独り言ちる。今はまだ小さな彼女のその呟きはシャッター音にかき消され、誰に届くこともなかった。
町並みと狐娘を撮影していた人々が景色にも飽きて帰りのエレベーターへ乗り込もうとしていた時に、それは起きた。晴天だったはずの空に、雷鳴のような轟音が轟く。腹の底に響くような地鳴りに続いて、下から突き上げるような強烈な揺れ。電灯がチカチカと瞬き、乗り込むはずだったエレベーターは当然のごとく緊急停止する。一体何が起きたのか。彼らが状況を飲み込めないでいるうちに、大音量のささやきが彼らの鼓膜を打ち据えた。
「ふふ、みんな撮影ありがとう。でもお姉ちゃん、もうちょっと撮影されたくなっちゃったな~」
展望台を後にしようとしていた人々には、その声に覚えがあった。ついさっきまで首都の町並みを背景に撮影をしていたあの狐娘のものだ。その声は優しく囁きかけるような調子だったが、マイクで拡大されたかのように大きく、人々の頭蓋を激しく揺さぶる。
「だからみんな、そのカメラで私を撮って。ね?」
ようやっと揺れが収まったと思ったら、2回目がきた。爆音に続いて、またしても突き上げるような揺れ。展望台内に悲鳴が満ちる。今度は、揺れだけでなく窓の外にいたものと目が合ってしまったから。
「見えるかな~?」
それは展望台にいる人々に向けられた言葉なのか、自身に向けられた言葉なのかわからない。ただ、展望台の人々からは間違いなく見えた。アメジストのような紫色の瞳が、展望台のガラスいっぱいに広がっているその様が。
「うんうん、見えるねー。おっけー。それじゃあー、今からお姉ちゃんがこの街を滅ぼしてくとこを、特等席からよーく見ててくださいねー?」
瞳が信じられない速度で遠ざかる。その際に見えたその顔は、やはりあの狐娘の可愛らしい顔だった。混乱する人々を他所に狐娘は……立ち上がった。その事実に人々は戦慄する。あの狐娘は、この展望台をしゃがんで覗き込んでいたのだ。地上630メートルの、この国で最も高い展望台を。
「やっぱり見ててくれる人がいないと盛り上がらないからね~。君たちは特別だよ~?」
ずうぅん、ずうぅん、と足音高く、道路も家も関係なしに足を踏み降ろす狐娘。あろうことか、その両足は今、タワーを跨ぐようにして下されていた。展望台からは、ちょうど彼女の履いているオーバーニーブーツの筒口、そこからこぼれ出た太ももの肉が目の前に来る。もしかしたら、塔の先端は彼女の履いていたミニスカートの中かもしれない。もし天井がなければ、下着を拝むことができるだろう。
「ふふ……私、こんなにおっきくなっちゃったんだ……。こんな高いタワーをまたげるくらい……」
恍惚とした声が人々を襲う。この狐娘は、巨大な自分に、そしてそんな自分を魅せつけることに興奮を感じている。直接的にそう理解させられる。
「もし私が腰を下ろしたらー、この国で一番高いタワーでイケナイことができちゃうね……」
窓から見える太ももがぴくりと張り詰め、地鳴りを伴って動く。あまりにも視界全体が動くものだから、タワーにいる人々からはまるで自分自身が上昇しているかのように思えただろう。そして、電気の絶たれた展望台に突然夜の帳が下りる。それがたった一人の少女のスカートの中に囚われたのだという事実を、誰もが受け入れられずにいた。
けれども、窓によって遮られているにも関わらず伝わってくる少女の熱気と匂いが人々に現実を突きつける。自分たちが、一時の性的快楽を満たすための道具でしかないというあまりにも惨めで現実離れした現実を。
「なんてね。大丈夫だよー、ふふっ! みんなにはちゃんとー、おっきなお姉ちゃんがこの国を滅ぼすところを見ててもらわないといけないからねー」
スカートの暗幕が上がり、急に差し込んだ光に視界が白む。遅れた明順応に細めた目を開けると、そこには優しくも恐ろしい笑みを浮かべた彼女が手を振っていた。だいぶ離れているように見えるが、そこまでの間に刻まれた足跡は3つほど。町並みを押し花のように固めた足跡は、この程度の距離ならいつでも戻ってきて踏み潰せるんだよ、と暗に語っている。
「ほら、よく見てて? 人間さんたちが一生懸命作ったビルがー、私の手にすっぽり収まっちゃうんだよ?」
彼女はビルを引き抜いて愉しそうにケラケラと笑った。どんな原理かそのビルは崩落してもおかしくないような状態の中でも形を保ち、彼女の手に握られている。きっと妖術か何かで強化されているのだろう。
「ちょうどいい長さ……どうしちゃおうかなー?」
タワーの方に向き直ってしゃがみ込み、手に持ったビルを見つめる彼女。むっちりと押しつぶされた太ももの間に見える藍色の下着と、頬を染めて意味深に眼を細めるその様子から、人々はそのビルの末路を想像せずにはいられなかった。
「たとえばー、こんなことに使っちゃったりー」
その想像の通りに、ビルは彼女の股間へと運ばれた。藍色のきめ細やかな女性の下着。男性であれば誰しもが覗き見たくなる魅惑のそれに、ビルがグイグイと押し付けられる。建築技術の粋を集めたはずのそれは彼女の下着のクロッチと比較してあまりにも小さく、おそらくその下に隠れているであろう怪物の口に飲み込まれてしまうだろうことが容易に予想できる。首が痛くなるほどに見上げてようやっと頂上が望めるビルが、まるでおもちゃのようだ。
けれど、彼女はビルを下着の上から股に押し当てて、ほんの小さく喘ぎ声を漏らしただけでその手を止めた。
「なんてね! どうぉ? 入れられちゃうかと思った?」
ひとまずは最悪な死に方をせずに済んだことに、ビルの内部の人々は胸をなでおろす。とはいえ、藍色の下着の股布にはビルの先端が削れて出来た汚れがへばりついているあたり、何に使われるにせよこのビルが無事で済むはずがないことは明らかであった。
「クスっ……怖がっちゃってる。かわいいー」
持ち上げられたビルを、湖のような瞳が覗き込む。ガラスの向こうに慌てふためく影を見とめて、彼女は満足そうに微笑んだ。
「そうだね、怖かったねー。それじゃあー、お姉ちゃんがみんなをぎゅーっとしてあげるね?」
重力の方向が激しく入れ替わり、ビル内の人間ははさっきまで壁だった場所に叩きつけられた。彼らには建物が横に倒されたこと以外は知りようがなかったが、足元から轟く規則的な地鳴りが、自分たちがどこに置かれたのかを教えてくれた。あの巨大な狐娘の、乳房の上。この地鳴りは胸の鼓動なのだ。
ぴたりと肌に吸い付くような薄絹、彼女の胸の形をそのまま模るその谷間にビルは横たえられていた。
「それじゃあ……えいっ、ぎゅーっ!」
そして谷間は閉じていく。その間に挟み込まれたビルがどうなるかなど、想像するに難くない。わざとらしくぎゅーっと口に出す彼女の愛らしい声に紛れて、鉄が軋み石の砕ける音が乳肉に遮られてくぐもって聞こえる。1キロは離れている、タワーの展望台からも。
「はい、おしまーい」
彼女が胸から手を離すと、弾力に溢れた乳房はぶるんと揺れて元の形に戻る。谷間から、かつてビルだったものの残骸がさーっと流れ落ちて、はるか下方の町並みを爆撃した。それだけのことをやっておきながら、当の彼女は頬を染めて心地好さそうな目で町並みを眺めている。
「こやー……君たちは本当に弱いねぇ。私がぎゅーってしただけで壊れちゃうんだもの……」
ずずん、ずずん。重々しい地響きを立て、彼女は立ち上がる。しゃがんでいるだけで山のようだった存在感が、天を覆い尽くした。こうなると、この国一番のタワーですら腰にも満たない。タワーに取り残された人々は、自分たちがいかに小さくもろい存在であるか、あの狐娘がいかに巨大で強大な存在であるかをその目で思い知らされる。
「みてみてー。私がお散歩するだけで、よわよわの君たちはみーんなやられちゃうんだよ?」
ずしん。彼女が一歩踏み出せば、地の底から突き上げるような揺れが街全体を襲う。ただそれだけでビルの窓は滝のように流れ落ち、車は跳ね上がり、街路樹はなぎ倒された。
「んっ……」
そんな一歩の様子を見て、彼女は小さく喘ぎ声を漏らす。たったの一歩でこれほどまでの被害を生み出す自身の巨大さに酔い、全てを好きにできる優越感に興奮しているのだ。今の彼女にとっては、街を破壊する行為が、歩くということそれ自体が自慰行為そのものだった。
「はぁ、はぁ……。ほら。私がこーやって、足を持ち上げてね……次に下ろす場所を探すでしょー?」
大地に深々とめり込んでいたブーツが軋みを伴って浮き上がると、名残惜しそうにまとわりついていた地面が糸を引くかのように巻き上げられる。大地が揺れ、引きずられた大気が不気味な叫び声をあげて渦を巻いた。ただ足を上げただけで。
そして、まだ無事だった町並みが影に呑まれる。摩天楼の谷底から見上げる靴底は、信じられないほど近くに見えることだろう。それでも、彼女の靴底から剥がれ落ちてくる瓦礫や、かつて車だった鉄板が地面に落ちるまでに十秒余りかかるのを見るに、その靴底は人間の基準ではまだまだ遠い。まるで大空をスクリーンにして描き出された映像のようですらあった。けれど、逆光に象られ、厚い影を描くその靴底が与える重圧は間違いなく本物だ。
「そーだなぁ……ここにきめた!」
そのセリフを持って、足の下にいた彼らの運命は決したと言っていいだろう。残念ながら、240メートルもある彼女の足から逃れられる術はそう多くない。
空そのもののようにすら見える靴底が、ぐんぐんと大きくなっていく。街はまるで黄昏のように暗く、靴底から剥がれ落ちた瓦礫が明度差に白んだ空を流れていく。この世の終わりですらお目にかかれるかわからない光景の中、彼らはその靴底がいよいよ高層ビルの屋上を踏み砕き、爆ぜさせるのを見た。そしれそれが最後の光景となる。
「えい、ずずーん!」
白々しく、可愛らしく、彼女は自身の足音を口真似する。たった今、何千人もの人々をその足の下に踏み潰したというのに、その口調はあまりにも軽く、楽しそうで、嬉しそうであった。
「……ふふっ」
小さく溢す微笑み。甘美な破壊の快楽が、彼女の体を駆け巡る。こうなってしまっては、もはや彼女自身でも歯止めが効かない。
1歩、2歩。大地を揺らして、足を踏み出す。
3歩、4歩。ぞくりと体を震わせて、自分自身を抱きしめる。
5歩、6歩、7歩。頬を染めて、言葉すらなく、ただひたすらに踏みしめる。自分のブーツが整然と整った町並みをめちゃくちゃに踏み潰してしまうのを食い入るように見つめて、思わず股に手が伸びた。
「んっ……!!」
下着の上から、彼女は最も気持ちがいい場所をこすりつけた。街を壊して気持ちよくなってしまう、その背徳感と、それを咎めることができるもののいない圧倒的優越感。それに争うこともできず、次なる快感を求めて彼女のブーツが持ち上がる。手当たり次第、無差別に、ただ気持ちよくなるためだけに何度もなんども。
その度に地面は上下にメートル単位で揺れ、彼女に直接踏み潰されていない場所ですら建物の倒壊は免れなかった。とはいえ、あの狐娘はもはやその場所にある建物が立っていようが倒れていようがブーツを踏み下ろして足跡に変えてしまう。ただひたすらに、破壊の快楽を欲望のままに貪っているようだった。
「こやぁっ、こや、こや……こやああぁんっ!!」
一際大きな嬌声が、生き残った人々の鼓膜を揺さぶった。次いで、天を支えていたかのような脚がカクンと折れる。信じられないような質量が大地へと叩きつけられ、まるで水しぶきか何かのように町並みが舞い上がる。そんな惨事すら彼女は眼中にないようで、体を弓なりに強張らせ、しなやかな尻尾をピーンと突っ張って押し寄せる快感に身を委ねているようであった。
「こやー……こやぁ……」
熱い吐息が高空へ雲を描き、肌を伝う玉の汗が流れ落ちて赤茶けた大地にしょっぱい湖を作り出す。暫しの間、彼女はそうして事の余韻にぼーっと浸っていた。
「んー?」
だから、自分の周りの景色が変わったことに気がついたのはほんの少し冷静になってから。
「あちゃー、また大きくなっちゃったねー」
彼女の目から見えるのは、もはや航空写真そのものとなった町並み。身長3万メートル、人間とのサイズ比で2万倍となってしまった彼女は、ゆっくりと立ち上がる。今となっては山ですら踏み潰すことのできるその巨体が立ち上がる様は、遠く離れた地方からでさえ地平線を超えて見えたことだろう。
「あのタワーは……あーあ、ぺったんこだねー」
赤茶けた破壊跡の中でも特にくっきりと残された二つのクレーター……すなわち彼女のお尻跡の中にそれはあった。さすがに600メートル超の大型構造物ともなれば残骸も目を引く。彼女から見てわずか3センチ弱のそれは、クレーターの底に張り付くようにして引き伸ばされていた。尻餅で押しつぶされたのか、巨大化しているお尻に巻き込まれたのかは定かではないけれど。
「あんなに高いと思ったのに……あんなに大きいって思ったのに……それが私のお尻で……」
押し花のように綺麗に押しつぶされた残骸を観察するうちに、たった今果てたばかりの彼女は早くも疼き始める。人間サイズだった時、天を衝くようだったタワーがー膝丈になり、そして今は指先にも満たない大きさになっている。さっきまでビル街を踏み潰して遊んでいた自分ですら、簡単に踏み潰せてしまうくらい大きくなったんだという実感が彼女の奥底からジワリと滲み出てくる。
「ふふ……ねぇ、みて? こーんなに大きくなっちゃった。さっきまでのお姉ちゃんにも敵わなかったよわよわ人類のみなさーん、これがどういうことかわかるかなー?」
もう既に荒野と成り果てた首都の跡地に、彼女はあえて大げさに足を振り上げ、踏み降ろした。人間サイズであればカツンと硬い音を立てるのであろうブーツのヒールが、もはや音とも言えないような衝撃波を轟かせる。追って大地に叩きつけられたエネルギーが爆ぜ、彼女の足を中心として波紋のように土の津波が幾重にも広がっていった。
「そうだねー。人類の皆さんはー、お姉ちゃんに滅ぼされちゃいます!」
この狐娘は、何の躊躇もなくそれをするだろう。そう思える宣告だった。底抜けに明るく、そして楽しそうに。この狐娘にとって、人類の滅亡など自分が快感を得るための道具でしかないと、はっきりと読み取れるほどにまで。
「けど、こんなに大きいと、もう何を踏んでもわからなくなっちゃうなー……ビルとかって、サクサク潰れるのがとっても気持ちいいのに」
言いながら、彼女は太ももの肉をむにゅりと押しのけてブーツの筒口に指を差し込んでいた。そのまま靴下を脱ぐようにブーツをずりずりと押し下げていくと、その下からは汗に湿った艶やかな素肌が現れる。瑞々しくハリに満ちたふくらはぎや、ほんのり赤みのさした膝。陽光を捉えてキラキラと輝く雪原のような素肌がヴェールを脱ぐ。誰しもが見惚れるような美しさだった。
そして彼女の足先から名残惜しそうにブーツが離れると、それに囚われていた足指が気持ちよさそうに踊り出る。程よく脂肪を蓄えて丸みを帯びた、柔らかで女の子らしい足指。その指の間を、ブーツの中でじっくりと蒸らされていた汗が雲になって流れ落ちていく。
ねっとりと、見せつけるようにしてブーツを脱ぐ。脱ぎ終えたブーツをビル街の端にそっと委ねるその所為にさえ、どことなく色っぽさが覗いた。その靴底が一歩分の街を押し潰すのを、ゆっくりと愉しむように。
「これならちょっとは気持ちよくしてくれるかな~?」
かわいらしく首をかしげて、誰にともなく問いかける。もちろんそれに答えるものなどない。あえて言うならば、彼女の胸の高鳴りだけがその答え。彼女はまだかろうじて無事な衛星都市へと足をかざす。15キロメートルの歩幅からすれば、ほんの一歩だ。
「いくよー?」
期待に満ちた眼差しで地図のような街を見下ろす。足の長さだけで4.8キロメートル。中心となる駅どころか、その両隣までをも影に包むその脚は、まさに一歩で街一つを丸ごと踏み潰してしまえる大きさだった。
「えい、ずっしーん……っ!?」
靴を脱いだ効果は、彼女の想像以上だったようだ。あの白々しい口真似の語尾は、想定外の快感に貫かれて息を飲むことになった。夏の砂浜に裸足で降り立ったかのようなこそばゆさが、彼女の足裏を貫いたのだ。こそばゆさとは、すなわち快感。巨大なはずのビルが、家が、まるで砂つぶのように感じる。そんな事実だけで早速手が股に伸びそうになる。けれど我慢だ。首都は滅んだけれど、まだこの国には第2の都市がある。そこまで耐えて、そこで一番気持ちよくなろう。
「あはは、くすぐったくていい感じだよー、よしよし」
彼女は努めて冷静であろうとしたが、それでも抑えきれない高ぶりが、踏み潰された街をぐりぐりと踏みにじる足の動きに見て取れる。それでも殺しきれない快感が、彼女の手を爪が食い込むほどにまで握りこませた。脱いだのが片足だけでよかった。もし両方とも脱ぎ捨てていたら、この国を制覇する前に膝をついて果てていたことだろう。
とはいえ、一歩で消費する街の量も先ほどまでとは桁違い。直接足の下に押しつぶされた街はもちろんのこと、その周囲10キロメートルは壊滅だ。大きな都市でもなければ、気持ちいいところは1歩で終わってしまう。
もはや用済みとなったこの地方を後にすべく、彼女は平野の端の山脈に足をかけた。山はそれとは思えないほどに簡単に崩れ、彼女の足を受け入れる。数世紀もすれば、この足跡はブーツの底を象った湖と谷として名所になるかもしれない。
彼女の足であれば、人間が5時間ほどかけて車で走る距離もほんの数十秒。間にある都市を何の気なしに踏み潰しながら、彼女はあっという間にこの国第二の都市にたどり着いた。
「みなさーん、こんにちは! 巨大お姉ちゃんが、みなさんを滅ぼしに来ましたよーっと!」
都市の果てに並ぶ山脈に立ったまま、それでいて素足側の足が都市に翳される。もはや距離という概念を破壊するほどにまで、彼女は巨大だった。人類の歴史の中で30キロメートル以上もある巨大な物体など地球を除いて存在しなかったし、そんな巨大なものが意思を持って、それも自分たちを滅ぼすために動いているなど想像してみたこともないだろう。
けれど彼女が人類を滅ぼせる力を持っていることは確かなようだった。
「さーて、どうしてあげようかな~?」
吟味するような眼差しが人々を貫く。完全に獲物か、食卓の上に乗った料理を見る目。期待と興奮が入り混じって爛々と輝いている。
「人間さんたちー、弱すぎて何にも感じないから……もう片方も脱いじゃおっかな」
もうすでに息も荒く、彼女は左足のブーツに指をかけた。人間の力ではびくともしない太ももが、ビルなどとは比較にならないほどの指先を受け入れてむにむにと形を変える。艶やかな黒絹のブーツが足を離れて、天を貫く白い柱が露になる。彼女はただブーツを脱いだだけだが、それはまさに天変地異。大規模な地鳴りと地震を巻き起こし、人々を地面へと這いつくばらせた。
「はい、脱いじゃった~……っ」
なるべく感じないで済むように、彼女は山脈に足を下ろした。たった1キロメートル前後の山など彼女にとっては地面も同然で、連なる山並みは彼女の足の裏の凹凸に書き換えられる。土踏まずの部分が、新しい最高峰だ。
たったの一歩で地図の書き換わるさまを目の前で見せられた人々は、もはや気が気ではなかろう。そんな人々を嘲るように、彼女はその頭上へと足をかざした。
「ほら、みてみてー? 私の足の裏、いろんなものがくっついてるでしょう? さっきこの国の首都を滅ぼしてきたんだよー?」
彼女はわざとらしくフリフリと足を振ってみせる。汗の雲の向こうに見えるそれには、列車や自動車、ビルだったのだろう瓦礫が確かに張り付いている。指紋の一つ一つですら人間からすれば深い谷のようであることが容易に想像できるスケール感だ。左手にかわいらしくぶらさげたブーツでさえ、街を丸ごと飲み込んでしまえる大きさだろう。
「わかる? 今からー、みんなもこうなるんだよー?」
よーく見て、と言わんばかりに足を近づける狐娘。都市規模で上がる悲鳴を、彼女の狐耳は敏感に捉えて嬉しそうにピコピコと弾む。
「うんうん、すっごくいい反応。お姉ちゃん、踏み潰し甲斐があるなー」
一度足を持ち上げ、一度は夜を連れてきた街に太陽を返す。まだ彼女がそこにいるのには変わらないのに、街の悲鳴が小さくなった。助かるかもしれない、そんな希望を一度与えた上で……。
「えい、ずしーん!」
そんな希望が幻想であったことを、身をもって教えた。
空気に遮られてうっすら青く見える、もはや遠景の山並みのようなその足裏。空色のスクリーンを何枚も破ってくるかのように、その色は現実味を増していく。急激な下降気流に巻き込まれた航空機が一足先に引き摺り下ろされてビルに突き刺さり、そしてそのビルですら嵐のような暴風に耐えかねて次々に傾いた。けれどもこれは破滅の一歩の、ほんの序章に過ぎない。空は暗く、まだ暗く、影は濃く、もっと濃く。足裏の凹凸が不気味な影を伴った山肌のようにすら見える距離になってもまだ近く、近く。まるで少女の足裏をズームで拡大していくかのように、視界の全てが足裏で埋まる。倍率、2万倍。もはや微生物同然となった人間と、街と、足が触れ合った。
「あっ……こやぁ……!」
自分で自分を抱きしめるようにして、どうにか堪える。やっぱりたくさん踏み潰すと気持ちがいい。
なるべく多く楽しみたくて、そーっと足を下ろした甲斐があった。まだまだ壊せる場所は残っていそうだ。
「えへへー……お姉ちゃんの足がみんなを食べちゃうぞー!」
足を下ろした場所の目の前でさえ、無事な建物が散見される。しかし狐娘は足指をぐぁぱっと開いて、せっかく難を免れた建物たちを容赦なくその間に挟み込んだ。
「ひぁっ!」
足指の間に入り込む小さな街。人間サイズでタワーから見下ろしていたあの巨大なビルが、砂つぶ同然となって指や爪の間に入り込み、爆ぜる。足指の間に感じる快感と、改めて実感する自分の巨大さに酔いしれ、狐娘は可愛らしい嬌声を空に轟かせた。
がくり、と力が抜けて手に持っていたブーツを思わず取り落とす。ブーツはその大きさが故に信じられないほどゆっくりと落下していった。勿論止めようと思えば間に合うけれど、彼女はただそれが空を割いて落ちていく様を興奮に火照った頭でぼんやりと眺めている。このサイズのブーツが地面に落ちたらどうなるか、彼女ですら知らず、気になってしまったから。
重みのある靴底が、大地を砕いた。砂埃か何かのように街並みが舞い上がり、駆け抜ける爆風がビルの林をドミノのように押し倒す。ここまでは、およそ彼女の予想通り。それを追って、比較的軽い黒絹の部分が舞い降りる。ふわり、と地面に覆いかぶさったそれは、しかし激しい地響きと家々の断末魔を伴った。狐娘の汗を吸って重くなっていたとはいえ、彼女の手にはほとんど重さにも感じない絹が、ちっぽけな人間の家屋を10キロメートル以上にわたって押しつぶした。
むっちりと重い彼女の身体ではなく、彼女がただ身に着けていたもの。そんなものが、人間の街をいとも簡単に押しつぶすその様に、彼女はいよいよ限界を迎える。
「うそ……私が脱いだブーツだけで街が滅んじゃった……っ♡ もう、ダメ……!」
最高潮に高まった興奮に、いよいよ歯止めが効かなくなる。けれど、もう我慢もしなくていい。かねてより彼女は、この街ですることを決めていたのだから。
天を衝く白い柱のような、美しい脚がピクリと張り詰めた。それ自体が生き物であるとは到底信じられないそれは、けれど確かに有機的な動きを持って持ち上がる。見せつけるように、魅せ付けるように、瓦礫と砂塵の尾を引いて、大地から離れる。蠱惑的で魅惑的なその仕草は、彼女がこれからしようとする行為を万人に悟らせた。
先ほどと同じように、先ほどとは比べ物にならないほどにまで巨大化した体で。一番気持ちのいいところをぐいぐいと指で圧迫しながら、彼女の足が大地へと降臨する。
「こやぁ……」
うっとりと、ため息のように声を漏らす。彼女の足を中心として渡っていく土色の波が、家を巻き込み、ビルを巻き込み、果ては山すらも押し崩した。そんな大惨事を気にも留めないどころか、その惨事を慰み者にして狐娘は激しく燃え上がっていく。
たくさん壊したい。この大きさをみんなに魅せ付けたい。もっと、もっと……!
ぐりぐりと地面を踏みにじり、足の下に埋もれた全てを味わい尽くしたのちに、破壊をもたらす巨足が再び大地を離れる。それを直視できるものはそう多くなかっただろうが、さりとてそれほどまでの質量が地面から引き剥がされる衝撃は凄まじい。狐のおみ足から目を背けたものにですら、次なる惨劇の幕が上がったことがはっきりとわかっただろう。
「ぁっ……んっ……逃げても、いいんだよ……? おちびさんたちが、逃げられるなら……そのちっちゃい足で、頑張って逃げて……♡」
4.8キロメートルの巨足が、今度は中心市街地にむけて踏み込まれる。200メートル近くあるビルがまるで紙細工のようにくしゃりと潰れ、辺り一面がすべらかな肌色に置き換わった。何十万もの人々が必死に逃げ惑った町並みができたことは、ただ彼女を一息喘がせるための供物となることだけ。
「はい、ずしーん。クスクス……もう逃げなくて良くなったね……♡」
とろんとした目つきで下着をぐいぐいと股に押し込みながら。犠牲者へと手向けた言葉の一つですら、彼女が気持ちよくなるための道具だ。
「ん……そうだよ、逃げようと思うから怖いんだよね。お姉ちゃんに踏み潰されてー、みんな楽になっちゃえ♡ えい、えい!」
大地を揺るがし、空を破り、彼女の足が交互に大地へと降り注ぐ。女性的で柔らかそうな足が、情け容赦なく大地を爆ぜさせて。舞い上がる大地の欠片を振りまいて、まるで水たまりで遊ぶ少女のように。
「ちっちゃなみんなが、私の足で潰れて、壊れて……♡ こやぁっ♡ こや、こや、こやあぁっ♡ 」
びりびりと大気を震わせて、彼女が体を硬直させる。けれども、先ほどの時のように彼女が腰を落として激しい地震を見舞うことはなかった。
「はぁ……はぁ……ふふ、おっきくなりすぎちゃった」
漆黒の闇。今しがた最高潮を迎えた彼女の、その股の前に太陽光を反射してきらめく青い球体があった。この絵面だけ見てそれが何であるかを理解できるものはそう多くないだろうし、理解したとしても信じられないだろう。けれど、その表面には確かに、破壊の跡が見て取れた。小さな小さなそれは、よく見れば人の足跡に酷似していることがわかる。さらに倍率を上げれば足跡の淵に、かろうじて生き延びた微生物たちが慌てふためいていることもわかるだろう。
「……終わりにしよっか」
満足げに呟いた彼女は、用済みとなった舞台を片付けにかかる。股の間にふよふよと浮かぶそれを処分するのは、そう難しいことではなかった。
柔らかな太ももが、狭まっていく。白く、柔らかそうで、程よく肉のついた魅惑の太ももが。その間に囚われた哀れな、使用済みの惑星に向かって。
そこに暮らす人々にとっての世界そのもの。それは、彼女の甘やかな囁きに幕を閉じた。
「えい、ぷちっ……♡」
おわり
以下差分