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①弱オスのぼくに女の子のイジメ方を実演して自信をつけてくれる爆乳ツンデレ幼馴染 第一章 《デカブラオカズ手コキ編》 前編《20000字》

「うわ。あいっかわらず、ザ・モテない男って感じの部屋ね。このシャギーラグとか前来た時から変わってないし。まさか年がら年中敷きっぱなしなんじゃないでしょうね?」


 部屋に入って早々挨拶がわりのダメ出しをかましつつスクールバッグをテーブル脇に置くと、エリカは我が物顔で僕のベッドに座った。腰の下まである栗色のツインテールを同級生の男が寝起きする寝具の上に平然と広げ、真正面の勉強机に座る僕などお構いなしに足を組む。

 きっと幼馴染だから気を許しているわけじゃない。そもそもリスクに計上されてすらいないのだ。そうと分かっているのに、むちむちした足の付け根が見えそうになるたびに視線が吸い寄せられてしまうオスのサガが癪で癪でたまらない。


「っ、う、うるさいな。別にいいだろ」

「はぁ? あんたそんなだからダメなのよ」


 ご挨拶な罵声にムカッとさせられる。とはいえ食ってかかれば、こっちが意見する暇もないぐらいの激詰めをくらうことはわかっている。エリカと正面切って口喧嘩をしても勝ち目がなんかないんだ。ただ余計な体力を消費した挙句、言い負かされてストレスが溜まるぐらいなら、初めから黙っておいたほうがいいというのが僕の出した結論だった。

 それに悔しいけれど、エリカ基準で考えれば、確かに僕は『ダメ』なのだろう。県内屈指の進学校であるウチにぎりぎり滑り込んだ僕とは違って、エリカは定期テストはほとんど満点が当たり前。先月のハイレベル記述模試だって全国順位で上から二桁の成績だったらしい。また勉学のみならず、エリカは運動の方面でも秀でており今は部活動に所属していないものの、少なくとも中学の頃は陸上競技で県の指定強化選手だったし、体力テストでは男子の基準に照らし合わせてすら余裕のA判定を叩き出している。

 そして極めつけは前述したスペックを差し引いても、外見だけで一生飯を食っていけそうな容姿――180cmに届かんばかりの日本人離れした長身とそれに恥じない圧巻のプロポーションだ。上背を考慮してなおバストとヒップの主張は激しすぎるほどなのに、それらをむすぶ腰回りはくびれていて細ましい。豊満で華奢、本来相容れないはずの対極的な概念が彼女の身体には同時に成立している。さらに首から上に目をやれば、意志の強さを思わせるキリッとした大きな瞳とくっきり整った目鼻立ちが肢体に劣らぬ強烈なインパクトを放つ。確たる才能に裏打ちされた高貴な女である自負が雰囲気にいっそうの箔を付けていた。

 学校の連中に言わせれば、文武両道・才色兼備を体現するまさに非の打ち所がない高嶺の花らしい。概ね肯定せざるをえない……が、幼馴染からしてみればその評価には肝心な項目を欠いていると文句を言いたい。


「……で、なんだよ、わざわざ話って」


 ただでさえキツい印象を受ける目尻をいかにも不機嫌そうに吊り上げて、エリカはそんなことから説明しなきゃいけないの、とでも言いたげな表情になった。

 当たり前だ。今日の放課後になって突然、「話あるから。あんたの部屋でいいわ」とだけ伝えられて、こうして僕の予定などお構いなしに転がりこんできたのだから。せめて状況を理解するための説明義務ぐらい果たしてもらわなければ困る。それなのに、どうしてそっちが苛立っているんだ。


「今日の昼休み英語の教科書借りに行ったのに、あんた教室に居なかったでしょ」

「はぁ? ……まぁ、タイミング悪かったんだろうな」

「で、近くにいた女子に聞いたのよ、どこ行ったか知らないかって。そうしたら、その子なんて言ったと思う?」

「えっ誰だよそれ」

「知るわけないでしょ、そんなこと。っていうか、どうでもいい」

「っ、このっ……」

 

 話を聞かせたいからわざわざ僕の部屋にまで来てるっていうのに、的を射ない質問はちゃんちゃら取り合わない。おまけに物言いまで高圧的ときた。自制していてもこめかみに青筋が浮かびそうになる。


「なんで私に聞くの、とか?」

「ちがうわよバカ。……それ誰、って」

「は?」

「っ…! それ誰って言ったのよその子っ! どういうことよ、何やってんのよあんた!」


 頭の中を疑問符が埋め尽くす。ほらでた、やっぱりいつもの悪癖だ。その話の一体どこがわざわざ話したかった内容なのか、コイツが何に声を荒げたのかさっぱりわからない。他人に理解させるための説明が致命的に欠如している。このジコチュウ女は僕の理解なんてすっかり置いてけぼりにして手前勝手に進んでゆくくせに、僕がついてきていないとわかると道先から大声で怒鳴りつけてくる。


(なんだその、こっちが悪いみたいな剣幕。そっちにだって非があるだろ)


 そうは思いつつも、根が小心者な僕はやっぱり人に怒鳴るとか、そういう強い感情を他人に叩きつけることができない。かろうじて目線を逸らしながら、非難のわけを問う。


「いや、どうしてそんなこと僕に言うんだよ」

「はぁ!?本気で言ってんの? 名前覚えられてないのよ、同じクラスの女子に!」


 どうやら僕がクラスメイトの女子に名前を認知されていなかったことに対して腹を立てているらしい——なるほど、ここまで聞いても意味が分からない。今はつい先日GWが明けたばかりの五月で、クラスが一新されてからまだひと月そこそこしか経っていない。そんな状況で特別目立っている奴ならまだしも、新しいクラスメイトの名前を完全に覚えている奴がどれだけいると思っているんだ。

 状況を頭の中で思い浮かべて考える。エリカは件の女子生徒に対して僕の所在を問いかけたものの、彼女は聞かれた名前と僕とを結び付けられなかった。確かに僕はクラスでは目立たない存在だし、今年からのクラスメイトだったら記憶にとどめていなかった可能性も十分ありうるだろう。けれどそもそもの問題はエリカが相手によって呼び名を改めるなんて気配りをしない点にある。おそらくは見ず知らずの女子に対しても、僕を指し示すときに苗字ではなく下の名前で呼び捨てにしたはずだ。となると仮にその子が去年からのクラスメイトであっても、わかってもらえるかどうかの時点で怪しい。

 最早事実の真偽を確かめる状態ではないうえ、エリカの素行の問題もあるかもしれないのに、なぜだか名前を認知されていないことを責められている。それが今の状況というわけだ。そこまで整理した僕はあまりに不当かつ理不尽な罪状にすっかり呆れたというか、まともに取り合うのもいい加減面倒な気持ちになっていた。


「……はぁ。だから、何だよ」


 すると、その怠そうな返事が気に障ったらしく、エリカの語気がますます荒くなった。


「異性として意識されてすらいないってことじゃない! 恥ずかしくないわけ?」

「……名前覚えてないくらいあるだろ」

「ないわよッ!絶対ないっ!」

「大袈裟だって」

「大袈裟じゃない!!ありえないってば!!」


 今にもベッドから立ち上がらんばかりにエリカは前のめりになって捲し立ててくる。その剣幕の凄まじさはとても「そんなことくらい」と一蹴できる軽々しいものではなくって、彼我の受け止め方のあまりのちがいに面食らってしまった。それでもう一度、今度はエリカの視点に立ってみてようやく得心がいった。

 そうか。異性に興味を持たれないなんて、そりゃ毎年クラスの男子の半分以上に告白されるような奴には本気で分からない感覚なのかもしれない。何もしなくても異性が勝手に群がってきてちやほやされる。交際相手どころか、その気になれば遊び相手だって選びたい放題だ。

 対して僕は他人に誇れる大した取り柄もないし、社交性に富んでいるわけでもない。悲しいかな、僕は僕が異性の恋愛対象に選ばれない類の人間であることをいちばんよく理解している。だから積極的に女子と接点を作りにいくなんて分不相応な真似はしない。どうせ恥をかくだけなら、名前のないモブは始めから彼女らの意識の外に置かれていればいい。

 直前までエリカが全面的に悪いと思っていたはずなのに、見つめなおした自分があんまりみじめだったものだから、もしかするとそのツケがまわりまわって今、目の前に結実しているのかという考えすら浮かんできた。


「なんでそんなにけろっとしてられんのよッ…!」


 絹を裂くようなエリカの怒声。如実に隔たってしまった幼馴染との価値観の差異がすごく虚しかった。彼女と僕とは住む世界が違う、昔の関係にはもう戻れないんだ、と。冷徹な現実の刃を突き入れられているみたいに胸が痛む。その痛みの前ではもう呆れとか苛立ちなんてものは意味を失くしてしまって、ただ漫然と心の中にわだかまるどんよりとした物悲しさが、僕自身を傷つけていた。


「そんなんじゃ、あんた一生彼女できないわよっ!!」

「っ……はぁ…。そう、かもな。でも……お前には、なんにも、関係ないだろ」

「なっ!?」


 もう僕なんかに絡むなよ、と喉元まで出かかった言葉をかろうじて嚥下する。それでも突き放した物言いが十分効いたようで、エリカは何かを言いかけたものの、結局下唇を噛んで押し黙った。


「…………」

「…………」


 壁掛け時計の針の音がやたらとはっきり耳に届く、重い空気の沈黙。中学にあがってから、少しずつ深まっていたお互いの溝が今のやり取りで決定的になったように思う。けれどもあるいはこれが本来収まるべき形なのかもしれない。エリカを取り囲む環境の中で、何の取り柄も持たない僕がおそらく一番の場ちがいだ、なんてこと薄々気づいていたよ。もういい。一緒にいてイライラさせられるんなら、疎遠にでもなんでもなればいい。そうなれば、劣等感から解放されて、これ以上無駄なストレスを抱かなくて済む。

 我を通したいエリカはもう一度、僕を説き伏せようとするはずだ。そこで何か言ってきても取り合わないで徹底的に無視する。周囲に持て囃されることに慣れているやつは逆に粗雑に扱われる空気に耐えられない。気の短いエリカならなおさら。そうとも、気を遣って関係を維持することよりも縁を切るほうがずっと簡単なんだから。


「…………」

「…………」

「……ねぇ」

「…………」

「ねぇってば」

「…………」

「ねぇ」

「……何だよ」


 無理だった。あんまりにもらしくない、しょぼくれた声。じっとこちらを見つめたままでうるうると揺れている瞳。それが癇癪を起こすたびに大泣きしていた昔の面影を彷彿とさせて、自己嫌悪だとか劣等感だとか、そんなものとは比べ物にならないぐらいの痛みが自暴自棄になりかけの気持ちを強烈にきつけした。


「こっち来て」

「……なんで」

「いいから」

「……なにが」

「もっと、近くで喋りたい」

「っ……」

「お願い」

「…んだよ」


 立ち上がり、ベッドのすぐそばまで歩いてゆく。エリカの座るすぐそばまで来ると、いきなり袖を掴まれた。無言の、でもせがむような上目遣いがじっと見てくる。それでもう僕には隣に腰を下ろす以外の選択肢は選べなくなった。とはいえ、僕は性根がどうしようもないヤツだから、せめてもの抵抗というか、変な期待を抱かない自己防衛のつもりでわざと少し距離を取って座ったのだけれど、そのわずかな隙間すらもエリカは強引に詰めてくっついてきた。

 こちとら健全な思春期男子だ。同級生の女子から肩と肩、足と足が触れ合うのもお構いなしに密着されては、たとえ相手に気がなくとも無条件でドキドキさせられてしまう。そうやって言い訳を繕ってみても心臓の鼓動は憎らしいほど正直に喧しい。


「あんた、昔はそんなじゃなかった」


 なけなしの自尊心が音を立てて軋む。やはりどれだけ諦めていても、面と向かって詰られるショックは大きい。それでも普段劣等感と向き合う時よりもいくらか痛みを感じないのは、エリカと向かい合って言葉を浴びせられているわけではなく、隣り合って同じ方向を向いているおかげなのかもしれない。

 だが、続くエリカの言葉は全く予想外なものだった。


「可愛い女の子にチヤホヤされて人気者になりたいって言ってたじゃない」

「えっ……何だよ、突然」

「覚えてないの?」

「だからいつ」

「小二の…たぶん、最初の授業参観日。将来の夢をテーマに、作文の宿題出たじゃない。何書くか相談しながら下校したでしょ」

「まぁ、言ってた、かも」


 嘘だ。恥ずかしげもなく口にしていたのに、今はもう捨てた夢くらい覚えている。自分が特別な存在だと信じて疑わず、何でも思うがままになると信じていたあの頃。玩具やゲームをほしがるみたいに身の程知らずな願望を口走っていたっけ。今の今まで忘れていたのに、記憶を探れば鮮明に思い出せる、眼が眩むほどまばゆい思い出だ。


「女の子にモテモテになりたいって作文、本気で書こうとしてたくせに。今はちがうの?」

「そんな、昔のこと」

「そんなに昔じゃないでしょ」

「お前だって、昔って言っただろ」

「言葉の綾よ」

「……」

「ねぇ」

「……思ってないよ、もう」

「嘘つかないで」

「嘘ってわけじゃ」

「なら正直に話しなさいよ」


 くだらない卑屈さのフィルターを介さないで、ありのままの本心をとつとつと吐き出せている。こんなに肩の力を抜いてエリカと話せているのは本当に久しぶりな気がした。


「いや、そりゃ……モテたいとか、チヤホヤされたい、とかって……男なら、それくらい普通だろ……」

「一般論の話なんかしてない。今のあんたはどうなのかって聞いてるんだけど」

「ち、がわ…ない」

「ほら、やっぱりそうじゃない」


 エリカの手が僕の拳骨を覆い、固く握った指の溝を上から何度も撫でてくる。思い違いかもしれないし、単に買いかぶっているだけかもしれない。でも不器用ながらに寄り添おうとしてくれていると信じたくなってしまった僕は、その細指をおずおずと握り返した。


「……」

「……」


 再びの静寂。エリカが手を重ねてきた理由に踏み込む勇気が持てず、また手を握り返した自分自身の気持ちを明らかにする覚悟もできていない。それは向こうも同じようで、お互いがお互いの真意をというか、距離感をはかりかねているみたいな空気がある。けれどもう息苦しさは感じない。嫌なことは嫌だとはっきり言う、あの気の短いエリカが僕と手を繋いでいるだけの沈黙の時間を甘んじて受け入れているからだ。このまま時間が止まってくれてもいいのに、と思ってしまうぐらいには居心地のいい満足感を感じている。

 肺の下あたりにわだかまっていたものがなくなったみたいに、息が大きく吸える。何度か深く呼吸をしているうちに、ふと、真正面にある勉強机の写真立てに焦点が合った。飾っていたことすらもう忘れかけていた、埃がかった写真。その中の僕たちも同じように手を繋いでいる。まるであの頃に戻ったみたいだ、と見比べてはっとした。

 陸上をやっていたとは思えないほど、長くて白い綺麗な指。その爪には何か薄らとコーティングがされていてきらきらと輝いている。意外だった。すっかり大人びたくせに髪型は昔から変わらずツインテールのままだし、エリカは意味のないことにあまり興味を持たないからオシャレにもそうだとばかり思っていた。でもちゃんとエリカは変わっていたんだ。

 たぶん気づかなかった、わけじゃない。僕が気づこうとしていなかったんだ。情けない話だけれど、エリカがどんどん手の届かない存在になればなるほど取り残されたように感じた僕は、自分を安心させるために今の彼女に昔の面影を無理やり見出そうとしていたのかもしれない。

 家が隣同士のよしみで学校が終わってからは大抵どちらかの家で過ごしていたこと。夕方のアニメの再放送を流しているうちに二人して寝てしまったこと。帰る時間になって寝起きが悪いエリカをいつも僕が宥めていたこと。なんてことのない日常がまるで昨日のことのように思い出せる。その全てが僕には宝物のような記憶であるけれど、輝かしい現実を歩み続けているエリカにとってはそうじゃない。やがて記憶は色褪せて思い出すことさえなくなってしまう、そんな現実が受け入れられなかった。だからさっきの取るに足らない思い出話をエリカもまた同じように覚えていてくれたと知って、本当に目頭が熱くなるぐらい嬉しかったんだ。


「私、すっごくモテるの」

「ぇ……あぁ、うん、知ってる…」

「ろくに顔も知らない同じ学校ってだけの男子が、代わる代わるSNSにDM送ってくるし、告白されるのだって今月だけでもう三回」

「すご……」

「別にすごくないわよ。ろくに喋ったこともない相手だし。全くどこ見て好きなんて言ってるのかしら。……ともかく、あんたが気後れしてるそのへんの女よりも私の方がずっとずぅー…っとモテる」


 僕は相槌の代わりに繋いだ手に少しだけ力を入れてみた。すると確かに握り返してくれる反応があって、おかげでいつもなら劣等感をくすぐられるような話も凪いだ気持ちのまま耳を傾けることができた。


「でもそれって当たり前なのよ。勉強も運動も自分磨きも見えないところでうんと努力してる。負ける要素なんか一個もない。信念の格とか意志の強さとかそういうのもひっくるめて、あんたの知る女のなかで私がいっちばん強い。異論ある?」

「強い……? つよい……いや、うん、ない、けど」

「何よ」

「ないよ、ない。エリカが、いちばんだと思う」

「そうよ」


 相変わらず話の全体像が見えてこない。それでもさっきの横暴な話しぶりとはちがって、僕がちゃんとうしろをついてきているか一歩一歩振り返って確認しているみたいに思えた。もしかしたら、僕たちはやっと仲直りできるのかもしれない、とそんなふうに感じていた時だった。


「じゃあ、そんな私があんたの言いなりになったら、女への引け目なんか綺麗さっぱりなくなるに決まってるわよね?」

「えっ……は、なんっ……え?」


 いきなりだった。本当にいきなり。これまで一段ずつ踏みしめて上っていた階段を百段くらいまとめてすっ飛ばした理屈でぶん殴られて、頭の中が真っ白になった。まとまらない思考の中で、唯一の寄る辺である今の台詞がこだまする。けれどどれだけ思考力をはたらかせてみても、単語ひとつひとつの意味は取れるのに組み合わさると常識的にあり得ない意味の文章になるので、脳がエラーを吐き続けている感じが続いている。

 真意がまるでわからない。わからないけれど、エリカは何か大きな転機に踏み切ろうとしている。そんな緊張感はひしひしと伝わってきて、僕はちらりとその横顔を盗み見た。


「………ぇ、っと……っ。」


 生唾を呑んだ。

 意志の強さを感じさせる眉はきりりと吊り上がり、唇はへの字に結ばれている。いかにも「機嫌が悪いから話しかけるな」というオーラを纏った、エリカお得意の“虫よけ”の表情だ。とはいえ、実際にはくすみひとつない肌とツンとしたことで際立つ造詣の鋭さが相まって不機嫌さすら美しく魅せてしまい、かえって周囲の視線を集めているのだが、今はその白い肌が熟れた林檎を思わせるほど真っ赤に色づいている。


「……なによ」


 視線に気が付いたエリカはさらに眉間の皺を厚く、唇をむすっと尖らせて、いっそう険しい表情をつくった。でも刺々しさはない。察しが悪い僕にイラついてるというわけではなく、なんというかガワだけツンとして不機嫌なふりを装って、気恥ずかしさを誤魔化そうとしているように見える。


「じ、自信つけてあげよっかって言ってるのっ。……してみる? 私と、その、えっちなこと」

「っ……!」


 びくん、と身体が跳ねる。肺を後ろから叩いてるはずの心臓がなぜだか耳のすぐ後ろに移動したみたいに、忙しない鼓動が爆音で鳴り響き始めた。背中を流れ落ちてゆく冷や汗が気持ち悪い。口内の水分なんか、さっぱりなくなってしまっている。現実味のわかない展開であるはずなのに身体が訴える不快感が妙にリアルで、これが夢であることを僕に信じさせてくれない。


「しっ、したい」


 だったら、せめて夢から醒めるまでは都合のいい妄想の世界に浸りたかった。高飛車を地で行くエリカらしからぬ提案への疑いだとか、その裏にある彼女の真意だとかを考える余裕は一切なくて、ただこの柔らかく握り返してきてくれる手のさらに先にあるぬくもりに触れたい一心に突き動かされていた。


「ん」


 まるで今日の晩飯のメニューを聞いた時の相槌みたいな一音にも満たない返事をしたエリカは、ふてぶてしいというか無愛想というか、いい顔をしなくとも周りに寄ってくる男に疎ましさを感じているような、ともかくいつも通りのツンと澄ました表情をしていた。ただその中で頬から鼻先にかけてはやはり真っ赤に色づいていて、今の一連のやり取りは僕の妄想でも勘違いでもなく、エリカの恥じらいと引き換えに供出された特別な提案であることだけはかろうじて理解できた。


「なら、まずは腰、抱いてみて」


 握り合っていた指同士がゆっくりと解かれる。開いてみてわかる、手汗でぐっしょりと濡れた僕の手。キモチワルい感触であっただろうに、エリカはいやな反応ひとつせず握り続けてくれていたんだ。

 そのいじらしさが臆病な僕の背中を押す。


「後ろから腕回して、ぎゅって」


 今更ながらに汗ばんだ手をベッドのシーツで拭き、制服のプリーツスカートとブラウスの境目のあたりに手を伸ばす。素肌はもちろん、女の子の肌に触れるなんてのは、衣類越しでさえドキドキする。指の先に掴んだブラウスをおずおずと手繰り寄せながら近づき、思いきって手のひら全部でエリカの腰を捕まえた。


 胸や尻や足といったオスの劣情を集めがちな分かりやすくセクシャルな部位と比べれば、そこは異性に触れさせてはいけない場所でもなんでもない。女の子の身体に邪な意図をもって触るのが初めてな童貞でも幾分か緊張しないで済む場所だと、そんな見立てを抱いていた僕が馬鹿だった。


「っ……♡」


 軽く添えたつもりの指が着衣越しの肌に埋もれてゆく。これがエリカの身体のうち、少しの身じろぎでばるんばるんと揺れまくる大質量な胸や、歩き姿を後ろから見ると交互に波紋を作り合う尻を触っているのであれば得心もいっただろう。でも今僕の手が触れているのは肉付きが豊満な部位とは対照的な、むしろ余計な脂肪が一切ついていない細ましすぎるくびれだ。乳や尻のボリューム感を高めるだけでなく、周囲のオスにこのお腹がまだ空いていることを強烈にほのめかしているのに、甘やかな包容力はなおも健在だった。


(うわすっごっ、やわらかっ……♡ おっぱいやお尻じゃないのに、こんなっ……♡ 女の子の身体って、男の欲望を受け止めるためのカタチしてるみたいだっ……♡)


 全身からありったけの熱がチンポめがけて流れ込んでくる。日常生活でたまたま透けブラやパンチラを目撃した際に一瞬だけムラっとさせられて起こる中途半端な勃起ではない。この興奮を肴に射精しなければ気が済まない、とチンポはすっかり発奮させられてしまっていた。


「ねぇ、ちょっと」

「っ!」

「それ、ただ掴んでるだけじゃない。腰を抱くってのは腰を掴んで抱き寄せるって意味よ。自分のほうに私の身体引き寄せなさいよ。もっと、ぐいって」

「えっ、ぁ、うんっ……」


 女の子の腰を抱いただけでセックスへの期待でチンポが膨らんでしまう、童貞丸出しな早とちり。それを気取られたのかと思って一瞬ひやりとしたものの、あるいは敢えてなのか、エリカはそのことには触れず更なる接触を急かしてきた。


「ほら早く。胸とか当たってもいいから」


 腕の内側はもう完全にパーソナルスペースだ。己を害する存在は立ち入ることを本能が許さない領域。その中へと女の子を抱き寄せる行為は「この女は絶対に僕に逆らわない。もう僕のモノなんだ」と男の自負を肥大化させる危険性を孕んでいる。それでも少し力を入れるだけで、絹のようなさらさらのツインテールごと、エリカの全てを僕の腕の中へ閉じ込められる。

 そうと意識した瞬間、劣等感と憧れで拗れた気後れがずるずると崩れ落ち、「本当はずっとこうなりたかった」と叫ぶ感情を剥き出しにされた僕は、好きな女の子をおもいきり抱き寄せた。


 むにゅにゅにゅぅぅぅ〜っっっ♡


「うぉ……っ♡」


 目一杯指を広げてみてもとても掴みきれそうにないであろう爆乳が、その凄まじい重量を僕の左胸に押し付けながらみるみる形を変えてゆく。ゆさゆさたぷたぷと軽率に揺れまくる見かけ以上のずっしりとした重量感に圧倒され、たまらず下心100%な心象最悪の悲鳴を漏らしてしまった。今にもボタンが弾け飛びそうなブラウスにはいちご柄のブラジャーが薄らと透けているが、それこそ苺程度であれば自重だけでぺちゃんこに潰しかねない質量だ。


「重いでしょ。すっごく大変なのよこれ」

「っ……♡♡」


 耳よりやや高い位置――こめかみの少し上から本人の声で爆乳の寸評を囁かれ、背筋をぞわぞわっと興奮が駆け抜けてゆく。


「座って勉強してる時なんか机に載せてないとやってられないし、運動する時はちゃんと固定してるのに揺れて痛いし。ほんと重すぎるし邪魔すぎるし、したくもないのにイライラしっぱなしよ」


 煩わしいことばかりな上、望んでもないのに誰彼構わずオスの劣情を集めてしまう。そんな部位をぶら下げて生きていれば、なるほど、ストレスが溜まりすぎて日頃からツンケンするのも当然だと思えてくる。わりと本気でこのえげつないサイズの爆乳が強気で勝気なエリカの性格を作った一因なのかもしれない。

 しかしだからといって、だ。


「ね、うざすぎるでしょ。このおっぱい」

「いやっ、う、うざいって言うかっ……♡」

「何よ。乳デカすぎてうざい、ぐらい言いなさいよ」


 同級生の男子に胸を押しつけて非難させようとするのは絶対に間違っていると言ってやりたい。本人が自分の身体を疎ましがるのと他人から咎められるのとではてんで意味合いが異なる。異性のプライベートゾーンともなれば尚更。僕たちが男と女である以上、どうしても性的に消費するニュアンスが入り混じってしまう。そんなこと頭のいいエリカなら絶対に分かっているだろうに、エリカは口の形を横一文字に引き結んでいる僕を見て、熱いため息をこぼした。


「はぁぁ~~……っ♡ あんたっていつもそうよね? 私がクラスでいっちばん最初にブラジャーつけ始めたのを冷やかされた時も、あんただけは揶揄わなかった。優しくって、ほんっ…とに意気地なし……♡」


 貶されている理由がさっぱりわからない。男どもから向けられる好奇の目を嫌悪していたろうに、どうして身体を売り込むような真似をして、僕を咎めるんだ。ふつふつと掻き立てられる欲情を必死になって押しとどめながら考えを巡らせていると、ふいにさっきの言葉が脳裏をよぎる。


『じゃあ、もしそんな私があんたの言いなりになったら、女への引け目なんか綺麗さっぱりなくなるに決まってるわよね?』


 千歩あるいは万歩譲って、エリカが僕のためになんでもしてくれると仮定したうえで、そこに含まれている意図を推測するならば、だ。もしかしてエリカは自分のカラダを使って僕の中に眠っているであろう、プリミティヴな繁殖欲を呼び覚まそうとしているのではないだろうか――頑固な油汚れのごとくこびりついた、女子に対する苦手意識を濯ぎ流すという、ただそれだけのために。


「何言われたら、おちんちんイライラするわけ?」

「っ♡」


 びくっ♡♡ びくびくっ♡♡


 エリカに話しかけられたと勘違いした愚息がびくびくと疼き、一目瞭然な反応を示す。目線が僕よりやや高い位置のエリカがこの至近距離で気づかないはずがない。勃起を見られた羞恥心でかぁっと顔が熱くなった。


「答えなさいったら。ねぇ。あんたのおちんちん、どうやったら喜ぶの」


 びくっ♡♡ びくんッッ♡♡


「ねぇってば」

「み、見ればわかるだろぉっ……♡ た、勃ってるっ♡ すっごいビクビクしてるだろぉがっ♡」

「っ……♡ ふぅん、そっか。そう、ちゃんと効いてる、のね。……あ、一応言っておくと、別に意地悪したわけじゃないわよ? 視界の下半分は胸で遮られて見えないから確認したの」

「えっ、ぁっ♡」

「このバカデカい胸ほんっ…とに邪魔でイラつかされるけど、欲情した男子どもの勃起がいちいち視界に入らないのだけは正直助かるわ。でも、今あんたのおちんちんが『すっごいビクビクしてる』とこ見えないんじゃ、意味ないわね。はぁ……ったく、わずらわしい。腹いせにそのイライラが態度に出るように、もっと焚きつけてやろうかしら……♡」


 エリカはひと呼吸置いて深く息を吸うと、たっぷりの挑発的な熱を孕んだ吐息を僕の耳の中に吹きかけた。


「ふぅ〜〜〜〜っ……♡♡ 悪かったわね、あんたの勃起に気づかなくって。だっておちんちんって、『女の子をイジめてやるぞ~』なんてカタチしてるから、てっきりもっと視界にぐいぐい写り込んでくるもんだとばかり。それが、おっぱいの陰でこそこそサカっちゃうとか……ふぅん、オスって結構なっさけないのね。ザコ勃起ご苦労さま」

「うぐっ♡♡」


 ビキビキビキッッ♡♡

 びくびくびくっっっ♡♡♡♡


 舐め腐った物言いを受けて、こめかみとチンポに血管が浮かび上がる。苛立ちと興奮が混ざり合って猛々しく燃え盛り始めた劣情の炎。そこへさらに酸素の役目を果たす言葉が送り込まれてくる。


「ほら。言えるでしょ今なら」

「っっ♡」

「『乳デカすぎてうっざ♡』」

「ぐぅっ♡」

「あんたの勃起が悪いわけじゃない。あんたの勃起に気づけないほどデカい乳が悪いのよ。でしょう?」


 他人の身体的特徴を貶めてはいけない、なんて子供でも弁えている道徳律だ。けれど、当の本人が推奨しているし、エリカだって僕を「なっさけない」だの「ザコ勃起」だのと攻撃してきている。ならば、正当な反撃と言っていい。心の中ではまだ半分ぐらいいけないことだと思いながらも、僕の倫理観はとうとう性欲に押し負けた。


「いいから言って。はい、『乳デカすぎてうっっざ…♡』」

「っ♡ ち、乳でかすぎて、うっっざっ…♡」

「いいわよ、格好いい。次は……『お高くとまった、ウシ乳ホルスタイン女が♡』」

「っ!?」

「言って。言わないと、ここでやめちゃうわよ。ほら、偉ぶってみなさいよ」

「おっ、お高くとまった♡ウシ乳っ♡ホルスタイン女がっ♡」

「『僕様のチンポ勃たせた責任取れ♡』」

「っ、ぼっ、僕のっ」

「『ぼ・く・さ・ま・の』」

「ぼく、さ、まのっ♡」

「『チンポ勃たせた責任取れ♡』」

「チンポ勃たせたっ、責任取れぇっ…♡」

「ふぅぅ〜〜〜〜っっ……♡♡」


 エリカを貶めることのできる特別な男に選ばれた達成感が、身体中にじわじわと漲ってゆく。

 やれコンプライアンスやら男女平等やらを声高に掲げる現代社会のモラルを真っ向から踏みにじる男尊女卑の特権を『いちばん強い女』から直々に手渡されたのだ。興奮のあまり、肺の間で心臓が狂ったリズムを叩くせいで酸素がうまく取り込めない。だらしなく口を開けたまま、短く息を荒げる僕は発情期の犬だった。


「できるじゃない。ていうか、あーもうッ、何なのよその顔っ♡ 女を従えて、満足そうにしてっ……♡♡ あんまりドキドキさせないでっ♡」

「はッ♡はッ♡はーーッッ♡♡」

「ムカつくっ♡ かっこよすぎてムカつくわっ♡ 今のイライラしてるあんた、すぅ…っごくかっこいい……♡♡ 私の培ってきた教養と知性総動員してほめそやしたいところだけど、あー、ダメね……頭ん中バカメスになってて、かっこいいしかでてこない……♡♡」

「はっ♡はっ♡はーーっ♡ エっ、エリカのっ、せいだぞっ…♡」


 機能停止一歩手前の知性を懸命にはたらかせ、かろうじて返事をする。本当は「他でもないお前からの焚きつけだからこんなに興奮しているんだぞ」とエリカへの特別な思いをほのめかしたかったのだが、言葉が足りず発情してしまった咎をなすりつけるただの責任転嫁な台詞になってしまった。

 しかし、そんな僕の不面目すら利用して、エリカは強弁を展開する。


「そうよ、私のせい。悪かったわね、イライラさせて。女である私より男のあんたの方がずぅ…っと偉いんだもの。勃起させた責任は当然私が取るべきよね? ごめんなさいね、オス様」

「う、ぁ♡ え、エリカっ、ごめ、ちょ、まってっ、まってっ♡」

「あっ、こら日和んないの……ったく、もー……♡ 自分で言うのもなんだけど、私は勉強も運動も人並み以上にできるし、男好きする見た目してると思うわ。でもね、あんたはこのかっこいいおちんちん生えてるだけで私より強いの。なんでかわかる?」


 ゆったりと太ももを遡上してくるエリカの手。乳に遮られて見えていないはずなのに手つきには迷いがなく、ズボンの上からチンポの輪郭をススーっとなぞってゆく。


「ぇっ、ぁっ、ぇ、まっ、まてって」

「やだ。待たない」


 一体どちらが『強い』のかわからないやり取りをしているうちに、エリカの人差し指はチンポの頭頂部へと辿り着いた。下着とズボンを貫通し、我慢汁がシミを作っているその場所を指の腹がとんとん小突く。


「これ。このおちんちんの先っぽを子宮の入り口に、ぶっちゅ〜♡って押しつけて…そのまま、びゅるびゅるびゅる〜っ…♡ってするだけで……あんたが今抱き寄せてる私のくびれなんか跡形もなくなっちゃうのよ。意味わかる? ボテ腹よ、ボテ腹」

「ッッ♡」

「大学生ならまだしも、高校生で妊娠なんて一発で自主退学よね。中学高校合わせて5年弱、一生懸命勉学に励んできたってのに、赤ちゃん身籠ったらぜーんぶパァ…♡ ね? あんたのお射精には私の人生をいとも簡単に歪められる力があるの」

「はっ♡はっ♡はっ♡♡」


 僕にとっての射精といえばもっぱらオナニーのことであり、メスのつがいに選ばれない劣等的な行為である引け目がいつもあった。その価値をメスを従える行為に昇華される形で再定義され、自我の底にわだかまった卑屈さの澱が攪拌されてゆく。だけど残念ながら、その理屈で劣等感が解消されるかといえば、決してそうではない。特に気掛かりなのはエリカの台詞の最後の部分だ。含意的には『僕の射精にエリカの人生を歪める力がある』のではなく、『全てのオスの射精に女の子を孕ませて人生を歪める力がある』が正しかろう。つまるところ、いくらエリカが方便を尽くして持ち上げてくれたところで、僕は特別な何かを持っているわけじゃない――。


「で、もっ…♡ でもっ、エリカぁっ…♡」

「何よ。何かまだ不安ごと?」

「僕の、射精だけがっ、特別なわけじゃないだろぉっ……♡」


 こんなことを言っても困らせてしまうだけだ。それが分かっているのに、心の奥深くに根を下ろしたコンプレックスが駄々をこねている。


「……はぁー…っ…」


 エリカの口から深いため息が漏れたのを聞いて、僕はたまらず、やってしまった、と目をつぶった。ここまで女の子にお膳立てをしてもらいながら、あと一歩のところで劣等感に足を取られて進めない。しかもそうやって卑屈である一方、チンポはずっと膨らんだままでえっちな展開を期待してもいる。とことんまで情けない性根を目の当たりにしたエリカはとうとう僕に幻滅してしまったんだと悟った。

 しかし、自己嫌悪で強く縫い付けられた瞼は、頬に何か柔らかいものが押し付けられる感触によって、驚きとともに大きく見開かされることになった。


「ちゅっ♡」

「ぁ、ぇっ?」

「私って軽率にこんなことする女だと思う?」

「なんっ、今の」

「いいから、答えて。怒るわよ」

「おっ……おもわ、ない」

「誰にでもこんなふうに腰を抱かせる女?」

「ち、ちがう、と思う」

「じゃあ、もう処女捨てちゃってると思う?」

「っっ……」

「答えて」

「おもわ、ない」

「そう。ちゃんと処女よ。あんた以外の男の部屋に上がったことなんかないし、身体触らせたことだってない。休みの日にデートしたことだってないわよ。ただの一度もね。そういうのをお高くとまってるだの調子に乗ってるだのって、性格ブス女から陰口叩かれることもあるけど、私は私を安売りなんか絶対してやんない。それを念頭においてよく聞きなさいよ」


 そこで一呼吸を挟んだエリカは、堰き止めていた鬱憤をいよいよもって決壊させた。


「あのね? 私がいったい何のために自分磨きしてると思ってんの? 他の女なんか目に入らないくらい、このおちんちんメロメロにしてやるためよ。勿論、見た目だけの話じゃない。貴重な高校生活を勉強に捧げてんのだってそう。いい大学進んでそれなりのとこ就職しないと育てらんないでしょうが、私たちのもとに生まれてくる可愛い子どもたちっ!」

「は、ぇ?」

「最低でも五人、できれば十人は産むつもりっ。だから今のうちにしっかり運動して、体力と筋肉つけて、あんたが何回でも抱きたくなるように努力する。そういう人生計画なのっ。わかるっ? あんたと幸せな家庭築くって大目的があってそのためにぜんっぜん足りない時間工面して色々やってんのっ」


 億分の一、あるいは兆分の一の奇跡が起こって、エリカと両想いになれるのではないか――そんな見立てを遥かに凌駕する激重感情を怒涛の勢いで捲し立てられ、衝撃のあまり、二、三度意識が飛びかけた。ありえない現実を夢だと決めつけた脳が、エラーを正すべく再起動を試みているみたいだ。

 だが、エリカの独白は止まらない――。


「だから『これ挿入させて』とか『ゴム有りなんて寂しい』とか『学校やめて赤ちゃん産んで』とかねだられたら、精一杯食い下がるつもりよ。けど、あんたがたった一言『言うこと聞けないなら結婚してやんねーぞ』って脅されたら首を縦に振るしかないのっ。理解した?したわよねっ?」

「っ、わかっ、わかんないっ、かもしんないっ……♡」

「はぁ~~っっっ……♡♡ だーかーらっ……♡♡ 私の人生の命綱あんたが握ってんのっ♡♡このバカっ♡」

「え…っ♡ あっ、ぁ……♡♡」

「あーもうっ♡ これ話すのはもっとずっと先になる予定だったのにっ♡ ちょっと目を離した隙にそこらへんの女に気後れなんかしてッ♡ うじうじうじうじする弱オスにされてッ……♡♡ …んっと、ムカつくったらありゃしないっ♡ そういうわけであんたが喪っちゃった自尊心を私がビッキビキに回復させて強オス様に磨き上げてやるって言ってんのっ♡ いいわねっ!?」


 まるで童貞が脚本を書いた三流純愛エロゲのような顛末をいきなり打ち明けられて、全身がぶるぶるっと悪寒した。ずっとすれ違ってゆくと思われていた幼馴染とついに和解できた嬉しさがただでさえ大きかったのに。それを上から両想いの文字でべったり塗りつぶされる衝撃といったら凄まじく、近しい感覚で言うと高校受験の合格発表の瞬間なんだけど、その時よりも本能に紐づけられたプリミティヴな悦びで、射精が肉体的なオーガズムならば、これは精神的なオーガズムといっていい。


「ちょっとこら、何だらしない顔してんのよ。気持ちよくなんのはこれからでしょうが」


 エリカのツンとした態度も、僕たちは両想いなんだというレンズを通してみれば、たまらなく愛おしいものに思えてくる。あばたもえくぼ、嫌味な高飛車もツンデレ、だ。興奮で舌が絡まってうまくしゃべれないから、とにかくコクコクと首を縦に振った。


「じゃあ正直に答えて。あんた、私をおかずに自慰行為したことある?」

「っ、あ、あるっ……♡ しぬほど、あるっ……♡♡」

「どういう感じで? セックスの妄想?」

「っ、す、透けブラとかっ、足とかっ……♡」

「へぇ、意外。ちゃんと見てるのね。目の前で足組んでも視線逸らすし、全然興味ないものとばっかり……ま、いいわ。ちょっと待ってなさい。まずはそのあたりの意識から変えていくわよ」


 そう言うとエリカは身じろぎをし始めた。カッターシャツのボタンを上から三つほど外し、腕を引っ込めて器用にごそごそやっている。そのうち衣擦れの音に混じって何やら硬いものが弾ける音がしたかと思えば、シャツの中からずるり、とスポーツタオルほどのサイズ感の白い布地が引っ張り出された。


「はい。正真正銘の脱ぎたて。いつもはもっと大人っぽいの着けてるんだけど、今日は体育もなかったしちょっと油断してた。こんなことなら、もっと……って、何固まってんのよ」


 僕の膝の上に広げられた、大粒の苺柄が映える白地のブラジャー。ぱっつぱつに張ったカッターシャツの上から柄は透けていたけれど、こんなに大きいだなんて聞いてない。僕の膝の上に悠々と跨るサイズのブラジャーってなんなんだ。バレーボールの半球ほどもあるバストカップは頑丈に成形されているようで、広げられてなお大きく山なりの立体を維持している。下着の嗜好が可愛らしさ全開であるだけに、その規格外な大きさとのギャップが強烈に繁殖欲を刺激される。何十、何百回と妄想したオカズの実物と対面した衝撃も相まって、僕はたまらず息を呑んだ。


「ちょっと。ねぇ、ちょっと。聞こえてる?」

「……ぁっ、ぇ、うん」

「もしかしなくてもあんた、私の下着なんて一生見られないかもとか思ってた?」

「ゃっ……そ、の」

「おもっきし図星じゃない、アホんだら。そういうとこよ、そういうとこ。手の届かないものに悶々としながらのオナニーが自己肯定感の低下を助長したのね。私をおかずにしたオナニーが弱オスに拍車かけてたとか全く笑えない」

「っ、ご、ごめ」

「だから謝んないの。これからリハビリしてくわよ。……んで、感想は? 私、これでも初めて自分の意志で男の子にこんなくっそ恥ずかしいサイズのブラ見せてるんだけど」

「っ、お、思ったより、かわいいの、つけてるんだなっ……って」

「なによ。いけなかった?」

「全然っ、だめじゃ、ないっ」

「あんたのおちんちんには効く?」

「っ……うんっ、効くっ。エリカが、こ、こんな……」

「こんな、何? がんばって言葉にして」

「い、イチゴ柄の……メルヘンチックな、下着でおっぱい吊ってるの、すごい、なんていうかっ……」

「興奮する?」

「するっ、くっそ興奮するっ……♡」

「そ。他には? 想像してたよりも大きいとか小さいとか」

「まじででかくてっ、圧倒されるっ……♡」

「ん、まぁね。普通はサイズで検索して通販する子が多いみたい。ただGカップ超えてくるとブランドやメーカーごとにフィット感も全然ちがってくるから、いちいち試着して確かめなきゃなのよ。胸が大きいのってほんとハンデでしかないんだから」

「そ、そう、なんだっ……♡」


 気恥ずかしさを誤魔化しているかのような早口の説明を聞き流しながら、僕は平静を装って返答した。本音を言えば、すぐにでも手に取ってみたかった。人肌のあたたかさを感じながらまじまじと広げてみたり、裏返してエリカの乳が収まっていたところへ顔を押し付けて思いっきり匂いを嗅いだり。変態的衝動でそわそわする。

 けれどもこれまでの言い分に鑑みれば、ブラジャーを手に取るそぶりを見せた瞬間、エリカは「強いオス様は女の下着になんかがっついたりしない」とか言われて咎められることは想像に易い。では一体なぜそんなものをこれ見よがしに広げて置いたのか。その理由は既に言い渡されてる。今の彼女はさながら、来館者に展示物の価値を説く学芸員だ。


「ブラジャーってのはね、魚拓みたいなもんなのよ。ほら、釣りを道楽にしてる人間が釣りあげた魚を紙に転写するアレね。女の子の胸の形と大きさをそのまま写し取ったブラジャーなんかまんま同義じゃない。服の下にどんな乳隠してるのか、見られるだけで丸わかり。言うなればね、ブラジャーはおっぱいの立体標本よ。乳の脱け殻みたいなもん。だから女の子は自分のブラ見られるのが死ぬほど恥ずかしいの。私のなんか、見なさいよこれ。片房で人の頭が収まるぐらいバカでかい。こんなの、遺伝子単位で授乳が得意な女だって言いふらしてるようなもんでしょ。おまけにおっぱい大きいとすっごい蒸れるから、汗の染み痕ついちゃってるし。ぱっと見で、『あぁ、コイツ孕んだら母乳びゅーびゅー噴き出す女なんだな』って思われちゃうじゃない。着替えの時とか同性に見られるのですら恥ずかしいのに、男の子に差し出すだなんてほんっっっ……と顔から火が出そう。バストサイズ110㎝のLカップなんて知られたくなかった。こういうのが好きだってことも、知られたくなかった。すぐにでもひったくり返して隠したいわ。ってのが、本音。……ねぇ、わかる? 今あんたはいっちばん強い女のおっぱいの立体プロフィールをじろじろ視姦してんのよ。私のこと、辱めて虐げてる最中なの」

「っっ♡♡♡」

「ほら、おちんちんに意識集中してみなさい。熱いマグマみたいな興奮がどくんどくんって流れ込んでる感じしない?」

「っ、するっ、するっ……♡♡」

「それが強いオス様の勃起よ。私の羞恥心が、あんたの勃起の栄養になってんの」

「ふぅっ♡ふぅぅっ♡ふーーっっ♡♡」

「あ、ただ興奮したからって直接手に取ったりするのはダメよ。強いオス様はおっぱいの抜け殻相手に発情なんかしない。いい?意識改善の一環なんだから、あくまでも女を見下す気持ちだけで興奮して。たとえば、いろんな女の顔、頭ん中でありったけ思い浮かべてみなさいよ。あんたが苦手意識抱いてるクラスの女ども、涼しい顔して瀟洒ぶってる女優やモデル、自分の可愛いさ鼻にかけて男に取り入るのが巧いSNSのインフルエンサー。まぁ、私でもいいけど。……その、あんたが引け目感じてた、女ってヤツはね、どいつもこいつもこんなおっぱい専用ぶら下げカップに四六時中わずらわしい乳を支えてもらってないとまともに日常生活送れないのよ。どう?改めて言葉にすると、女って、くっそ恥ずかしい生き物でしょ」


 すっかり草食動物に成り果てて失墜した弱オスの自尊心を、女の地位を徹底的に卑下した囁きが研磨する。道徳律を蔑ろにした詭弁のはずなのに、頭脳に回すべき血流のほとんどがチンポに流れているせいか、異様なほど耳障りがいい。


「言っとくけど、方便じゃないわよ。上半身にこんな脂肪のカタマリがあるのって非合理的だし。それでもおっぱいが首の下についてるのなんて、オスがメスの顔とおっぱい見比べて狙いを定めて犯したくなるように、以外の理由ないでしょ。それ踏まえたうえで、自分の心に聞いてみなさいよ。あんたは、こんなおっぱいの抜け殻相手にシコシコするだけで満足?」

「う、ぐ、ぐぐぅっ……♡」


 改めて、僕の膝の上にでかでかと鎮座する苺柄のブラを直視する。エリカと顔見知りでこれを欲しがらない男子が存在するものか。もしうちの学校にプールのカリキュラムが組み込まれていれば、あるいは彼女が運動部に所属でもしていれば、この愛らしい模様の乳魚拓は確実に盗難被害に遭ってこうして僕の手元に巡ってこなかったにちがいない。そしてどこの誰だか知らない幸運な彼はオスに全く靡かないエリカのツンとした態度と、ブラの内側に染み出した甘ったるい乳臭とのギャップに心ゆくまで劣情を迸らせるのであろう。

 頭の中で何度も妄想したシチュエーションを叶えられる絶好のチャンスが目の前にある。にもかかわらず、エリカの身体を腕の中に閉じ込めることを許され、上位の存在として敬われ、女の見下し方を教えられたことで、身の程を弁えない願望が今まさに発芽しつつあった。


「んで、ブラジャー相手にサカってるだけでいいの? 中身のおっぱいには興味ないわけ? 好き放題に鷲掴みにしたり、引っ張って伸ばしてみたり、吸い付いて痕つけたり、とかしたくないの?」

「っ、し、したいっ……♡♡」

「ほら、やっぱり。いいわよ、続きあんたの言葉で聞かせて」

「エリカのっ……おっぱいっ、揉みたいっ……♡」

「ん、それから? 一回むにゅっとしておしまい?」

「や、だッ。指めいっぱい広げてっ、手跡つくぐらい、揉むっ……♡♡」

「ふぅーん? 私の乳クッソ重いからただ揉んでるだけじゃあんたの手、腱鞘炎になっちゃうかもね。おっぱい下からぺちぺち叩いて水風船みたいに揺らしたり、ぐにゅぐにゅ引っ張ったりする遊びとか、おすすめだけど?」

「するっ、それもするっ♡ エリカのおっぱい引っ張って、遊ぶっっ……♡♡ あとっ、ち、乳首も吸うっ♡ デカ乳首ぜったい吸うっ♡」

「デカくない。せいぜい親指ぐらいよ。全体のバランスで見れば、別に普通……じゃないの。知らないけど」

「い、いや、親指サイズって、赤ちゃんじゃなくて、オスが吸うための乳首じゃんか、えっろ……♡」

「っ……♡ いいわよ。すごくいい、今のノンデリセクハラ。そういう発言が女を『おまんこエモエモ』にするの」

「えっ、な、なにそれっ……♡」

「子宮がきゅんきゅん疼いちゃって、子宮で恋する頭わるぅ…い状態、みたいな。私、エモいって言葉死ぬほど嫌いだから、ついでに女の格式ごと貶めてやろうと思っただけ。どう? 『おまんこエモエモ』。心情の機微を言語化できないバカ女が身体の発情をエモいって表現しちゃうの、くっそ間抜けだと思わない?」

「うんっ。やばいっ。エリカが絶対使わない言葉でっ、興奮するっ……♡」

「ほんとね。びくびくしてる」


 ズボンと下着を貫通して漏れ出たカウパー液を塗り広げられ、チンポにじゅわぁ……♡っと甘い痺れが人がってゆく。さながら冷えきった身体を熱い湯船に浸す感覚がそのまま快楽に転じたみたいだ。僕の意思とは関係なく膝が勝手に貧乏ゆすりを始めてしまい、見向きもされなくなったブラジャーは足元へずり落ちていった。


《中編に続く》


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