前回のお話はこちら

前回のお話はこちら A子に抱かれながら、こちゃはわくわくで、 心のあんこさんがあったかくなるようだった。 「いもーちょ、もうしゅぐあえるにぇ……!」 「こちゃ。 昨日も話したけど、妹は身体にお怪我をしているの。 だから、優しくしてあげてね。」 「ゆう! こちゃ、いもーちょとゆっくちしゅるにぇ!」 しかし、目...
こちゃが探検から戻ると、おさげには小さな金平糖がひとつ、
お顔は満足げにほころんでいた。
「ままちゃ、たんけんたのちかったにぇ!」と駆け寄ってくるその姿を、A子はほっとしたように迎え入れた。
「こちゃにょこたちゅしゃん! いもーちょ、
……こちゃ、ただいまにゃにょ!」
探検から戻ったこちゃが、もるもると駆け寄りながら声をあげた。
目はきらきらと輝き、冒険の余韻に頬を染めていた。
その視線の先にあるのは、自分の宝物──こたつさん。
だがそこには、妹が丸まって入っていた。
「……いもーちょ、もう……でてにぇ?」
声は明るく取り繕われていたが、その奥に「ここは自分の場所」という揺るぎない意思がにじんでいた。
呼びかけられたこたは、びくりと体を震わせた。
そして一瞬ためらったのち、するりと綿飴の裾へ身をすべらせ、こたつさんの奥へ潜り込もうとした。
体は半分以上すっぽりと布団の中に消え、ちょこんとおちりだけが残る。
その小さな丸いおちりが震えて見えるのは、心地よさへの執着か、それとも追い立てられる不安か。
暗がりに包まれた温もりに、こたの心は絡め取られ、ますます外へ出たくなくなっていった。
「……ここにいたいにょ……」
蚊の鳴くような声で、必死に願いを口にする。
だがこちゃは顔を曇らせ、眉を寄せる。
「こちゃにょ……こたちゅしゃんにぇ。いもーちょのじゃないにょ」
「でも……でも、こた……」
こたは言い返そうとしたが、その瞬間こちゃが身を乗り出した。
丸い体にぎゅっと力を入れ、こたつ布団の隙間へ滑り込んでいく。
もるもると転がるようにして中へ入ると、すぐにこちゃは顔をしかめた。
ふわりと甘い匂いの中に、どこか違う匂いが混じっているのがわかった。
「……ゆう…! こたちゅしゃん、くちゃいにぇ……!」
甘い綿飴の香りにまじって、かすかに鼻を刺すような匂いが漂っている。こたつさんの内側──こたが横たわっている場所に、治りきらない傷から滲んだ餡子=ゆっくりできない臭いが染みつき始めていたのだ。
「……うんうんにょ……におい……しゅる……!」
こちゃの声は小さく震えていた。
冒険の誇らしさも、宝物を見せびらかしたい気持ちも、すべてその瞬間にかき消え、こちゃのつぶやきが、こたつさんの天板の下にこだまする。
こたは一瞬たじろいだが、自分のせいだなんて思いもしなかった。
ただ、あまりにも居心地のいいこの場所を奪われたくない一心で、必死に中へ踏ん張っていた。
「いもーちょ……でちぇにぇ!」
こちゃは小さな身体でこたに体当たりするようにして、こちゃを押し出す。
お宝を見つけた冒険帰りの興奮も混じり、目は譲らないと訴えていた。
「だ、だめにょ……! こた、ここにいたいにぇ……! ずっと……!」
こたは押されながらも必死に声を張り上げる。
さらに、こちゃはおちりを左右に力いっぱい振りこたの体にぶつけた。
「ゆぉおお〜〜!」
柔らかな弾力を持つおちりが「ぺちん」とこたの身体に当たり、こたは中で押し返される形になって、思わず小さな声をあげる。
「ひゃうっ……! おねーしゃ! や、やめちぇにぇ……!」
それでもこちゃは必死で、おちりアタックを繰り返し、こたつを取り返そうとする。
「こちゃにょこたちゅしゃん! でちぇいっちぇにぇ!」
そのたびに天板がかたかた震え、今にも倒れそうになったその時、A子が慌てて手を伸ばし、こたつさんごと持ち上げた。
「ピィッ!?」
「こたちゅしゃ!!」
「だめだよ、二人とも!」
A子の声が部屋に響き、姉妹はぴたりと動きを止めた。
こちゃは、本気の威嚇では無いがぷくっと頬を膨らませ、こたをにらみつけている。
こたは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて叫んだ。
「ままぁあああ! こた、こたつしゃんとずっといっしょにいたいにぇ!! うばわにゃいで……! こたちゅしゃん……こたちゅしゃん!! ままぁ!ままあああ」
泣き声は次第に嗚咽に変わり、こたの小さな体は震えていた。
その姿に、こちゃも一瞬たじろぐ。けれど「これは自分のもの」という確信が崩れることはなく、唇をきゅっと結んでいた。
A子は二人を見比べ、こたつさんを抱えながら、どう言葉をかければよいのか迷っていた。
A子は、震えるこたを見下ろしながら、お下げに指先でそっと触れた。
「こた……約束だよ。おねーちゃんにちゃんと『返す』って約束したでしょう?」
──これで、こちゃに返して、
みんながうまくやれるようにしなければならないのだ。
こたはぎゅっと目を閉じ、喉を震わせた。
その声はひどく生々しく、部屋中に響いた。
壊された過去がフラッシュバックするように、こたの身体はジタバタと大きく揺れた。言葉はとぎれ、ときに嗚咽になり、まるで小さな獣が捕らえられたような叫びだった。
こちゃはその姿を見て一歩引く。
表情の中に浮かぶのは戸惑いとたじろぎだ。
A子は目の前の光景を見つめ、胸が引き裂かれるような思いに駆られたが、手元の小さなラムネスプレーを取り出す。
「こた、落ち着いて。こた、大丈夫だよ、深呼吸して——」
A子は声を震わせながらも、決断を下す。
ラムネスプレーをこたの顔の前に軽く噴いた。
ラムネの甘い香りがふっと立ち上り、こたの荒い呼吸に溶け込んでいく。
こたの身体の震えは少しずつ収まり、目の奥の過剰な恐怖がゆっくりと引いていった。呼吸が落ち着き、体の力が抜けて、ついにはこたはくったりと目を閉じた。
ラムネスプレーをこたの顔の前に軽く噴いた。
甘い炭酸の香りがふっと立ち、こたの荒い呼吸に溶け込んでいく。
震える体はやがて少しずつ鎮まり、瞳の奥に渦巻いていた過剰な恐怖が、潮が引くように遠のいていった。
呼吸は整い、力が抜け、ついにはくったりと目を閉じる。
A子は肩を落とし、胸の中で小さく呻いた。
――これは安らぎというより敗北だ。
こたの苦しみを解きほぐしたのではなく、薬で強引に押さえつけただけにすぎない。
それでも今は、この眠りに頼るしかない。
こたが深く眠っているあいだに、こちゃを安心させ、事態を繕わなければならないのだ。
「……いもーちょ……またねんねしちゃったにぇ……」
声は震えていた。無理もない。
A子は膝を折り、こちゃの目線にあわせて笑顔を作った。
「そうだね。ちょっと疲れちゃったの。……それはそうと、ねえ、こちゃ」
あえて話題を切り替える。
こたを眠らせたことの説明を深追いするのではなく、別の場所に意識を導くように。
「さっき、探検に行ってたでしょう? どうだった?
どんな宝物、見つけてきたのかな」
その言葉に、こちゃの眉がぴくりと動いた。まだ戸惑いを残しつつも、胸の奥に仕舞った興奮が呼び覚まされる。両手を胸の前でぎゅっと合わせ、小さく息を弾ませて言った。
「……みちゅけた! こちゃ、あまあまみちけたにょ!」
A子はその声に安堵を覚えた。
こちゃの関心が冒険と宝物の方へ移る。
けれども心の奥底では、こたを強制的に眠らせた自分の行為が、妹の記憶にどう刻まれるのかを思い、静かに胸を痛めていた。
A子は、膝の上で眠るこたの顔を見下ろしながら、胸を締めつけられる思いでいた。
こたが暴れて叫んだ時の恐怖に満ちた瞳──あれは、壊されたこたつを必死に守ろうとしていた記憶を呼び覚ましたに違いない。
「また、この子に地獄を味わわせてしまった……」
心の底でそう呟き、唇を強く噛む。
一方で、こちゃは探検の戦利品の話を語り終えると、
すぐに目を輝かせてA子の袖を引いた。
「ままちゃぁ……こちゃ、ぽんぽんしゃん、ぺーきょぺーきょ♡」
ぷるぷると震えながら、おねだりの声をあげる。
そのあどけなさに、A子はどうにか笑みを作った。
「はいはい、今日のおやつは……特別だよ」
冷蔵庫から、歯を失っているこたのための赤ちゃんヨーグルトを取り出す。
ふわりと柑橘の香りが立つ。オレンジピールの細かい粒が混ざっている。
普段なら、こちゃはおさげでスプーンを持ってひとりで上手に食べられる。
けれど今日は、器の前でわざとおさげを力なく垂らし、うるんだ目でA子を見上げてきた。
「……ままちゃ……こちゃ、あかちゃなにょ♡
あーん、ちて……?」
その上目づかいに、A子の胸はふっと緩む。
――無理をさせすぎたから、こうして甘えているんだ。
なんていじらしくて、かわいいんだろう。
赤ちゃんの食事用の匙を口に運んでやると、こちゃは安心しきったように目を細め、むーちゃむーちゃと口を動かす。
やがて頬をふくらませ、わざとらしいほど幸せそうに身をよじった。
「ゆうん♡ ままちゃにたべしゃせてもらうの……ちあわちぇ……♡」
そして最後は身体ごと容器に入り、小さな舌で最後の一滴まで器をぺろぺろ舐め尽くし、空っぽになった容器をおさげで抱きしめる。
お腹が満ちたこちゃは、満足そうにでっぷりと膨らんだお腹をさすりながら、ゆんぐーと伸びをした。
「ゆぅ……ぽんぽんしゃんいっぱい……こちゃ、
こたちゅしゃんで、ゆっくちちゅりゅ!」
座椅子から下ろすと、こちゃはこたつさんへ潜り込もうとする。
ところが、天板の布団をめくった瞬間、こちゃの表情がぴたりと固まった。
「……ゆゆ? く、くちゃい……?」
そこには、つい先ほどまで妹が身を丸めていた痕跡――まだ拭いきれない“匂い”が、残っていた。
「……ままちゃ……やっぱち、こたちゅしゃんから……ゆっくちできない
におい、しゅる……」
そう呟いて、こたつの出入り口に顔を近づけると、こちゃは眉をひそめた。
人間にはわからないが……
それは──こたの深い傷から滲み出したゆっくりできない餡子の臭い。
こちゃには、それが「うんうん」と同じに感じられてならなかった。
A子は何も言えず、ただ目を伏せた。
夜更け。
いつものようにラムネの効果が切れ、こたがゆっくりと目を覚ました。
「ぴいっ! ぴいい……」
こたは毎回、こたつさんと引き剥がされる時にパニックになるようになったのだ。
暗がりの中で小さな声を震わせる。
「……こたちゅしゃん……いない……。
……でも、こたちゅしゃ……おねーちゃにょ、だから……ちかたない……。
でも……でもぉ……」
声はやがてすすり泣きに変わり、毛布をぎゅっと握りしめながら「ゆんゆん」と嗚咽を漏らす。
A子は寝間着のまま起き上がり、そっと傍に寄った。
「大丈夫、大丈夫だよ。……ほら、からだをきれいにしようね」
柔らかい声でそう言い、オレンジクリームを指にすくってこたの全身へ優しく塗り広げていく。
荒れた皮膚にしみ込むたび、かすかな甘い香りが漂い、こたは目を細めて小さく身じろぎした。
A子はオレンジクリームを塗り終えると、こたの下腹部へも目をやった。
まむまむ──あの裂けてしまった部分も、以前は容赦なく餡が流れ出していた。床を汚さぬよう、吸収量の多いパッチと頻繁なおむつ交換で必死に守るしかなかった日々。
けれど今は違う。裂傷は薄い痕となり、そこからはうっすらと餡子が滲むのみ。必要なのは、小さなパッチを一枚貼っておく程度。A子はその確かさに、胸の奥からふっと力が抜けるような安堵を覚えた。
「……うん、もう大丈夫。こたのからだ、よく頑張ってるね」
そして、あにゃる。
かつては括約筋が壊れて、どれほど手を尽くしても漏れ出すものを止めることができなかった。栄養よりも処置よりも、排泄のケアに追われる日々──あの苦しさを思えば、今はただ軽い栓をしておけば済むようになったことが奇跡のように思える。
その時、か細い声が耳に届く。
「こた、うんうん、ちたい……」
A子ははっと顔を上げた。
これまで塞がれていた排泄の欲求。それが戻ったということは──。
「……えらいね、こた。体が回復してきてるんだ」
優しく声をかけながら、彼女は慎重に指を伸ばし、あにゃるを守っていた小さな栓に触れる。こたの体がびくりと強ばる。
「大丈夫、大丈夫だよ。ゆっくり、ね」
そう囁くと同時に、A子は呼吸を合わせるようにして栓をそっと抜き取った。
わずかな抵抗ののち、解放されたこたの体から、抑え込まれていた欲求があふれ出そうに震え始め……
「でゆよ♡ でゆよ♡ みちぇちぇにぇ!♡ こたにょゆっくちしたうんうん♡」
次の瞬間、抑え込まれていたものが解放される。
こたは胸を張り、堂々とした仕草で、ゆっくりと、しかし確かな勢いでうんうんを出し始めた。もりもりと音を立てて続いていくたび、おちりを誇らしげに揺らし、全身で「見てほしい」という思いを表す。
「でちゃあ♡ ままちゃ、みちぇちゃ?」
声には自信が満ち、笑みすら浮かんでいる。
A子はその姿を見つめ、胸が熱くなるのを感じながら静かに頷いた。
「すごいよ、こた……ちゃんと、うんうんできたね」
「ゆうん♡ まだ、でしょうにぇ……♡
ままちゃ、こたのぽんぽんしゃん、まっしゃーじちて♡」
A子はこたの体にそっと手を添え、オレンジクリームをやわらかく塗り広げる。
指がやわらかく円を描くたび、こたの体から余分な緊張がほどけていく。
押し込められていたものが、もう無理に耐える必要はないと告げるように、ぽんぽんの奥がぎゅるるると鳴った。
「ゆっ♡ ゆっ…♡ うんうんしゃん、
もっとおでかけしゅるっちぇいっちぇりゅ♡」
その声は誇らしさに満ちていたが、
先ほどの勢いとは違う、安心に包まれた穏やかな響きだった。
こたは胸を張り、A子にすべてを委ねるように体を震わせる。
そして──。
ゆったりとした解放が訪れる。
まるで腹を撫でられる心地よさに導かれるように流れ出していく。
こたの表情は安堵と喜びに輝き、何より「ママに見てもらえること」への満ち足りた誇りが宿っていた。A子はその姿を見つめ、そっと微笑む。
「いい子だね。こたの体、ちゃんと応えてる。
もう安心していいんだよ」
もりもりと勢いよく、2回目のうんうんがこたのぽんぽんから出て、柔らかい温もりが広がる。A子は思わずほっと息をつき、涙ぐみながら背を撫で、汚れをきれいに拭き取ってやる。こたも体を小さく震わせ、喜びに満ちた声を漏らす。
「ゆううんっ……ままちゃ……♡ こた、ゆっくちちちぇゆにぇ……♡」
A子は微笑み、優しく抱きしめながら囁く。
「すごいね、こた。ちゃんと出せたね……よく頑張ったね」
こたは胸いっぱいに歓喜を詰め込み、安堵のぬくもりに包まれたまま、小さく
「ゆっへん♡」と誇らしげに笑う。
その姿を見つめるA子の目にも、自然と涙が溢れていた。
背を撫でながら汚れを拭き取る手が、ふと下腹部に触れる。
──そこには、かつて異物を押し込まれ裂かれてしまったまむまむの痕。
あの虐待で壊れてしまい、もう赤ちゃんを宿すことも、生み出すこともできない。
こたがあんこのバトンをつなぐ未来は、永遠に奪われてしまったのだ。
A子の胸に、やりきれない痛みが走る。
けれど同時に、その小さな命が今もこうして自ら「生きる力」を取り戻していることに、どうしようもないほどの愛しさが込み上げた。
排泄を終えたこたは、ほっとしたように力を抜き、小さな顔をクッションの上に沈めて「こたはしぇかいでいちばんゆっくちしちぇりゅゆっくちにぇ♡」と呟いた。
壊れた痕跡は決して消えない。あにゃるは広がったまま、おむつの助けも欠かせない。
それでも── 一歩ずつ、確かに前へと進んでいる。
……だが、A子の胸の奥には別の懸念もあった。
うちには、──こちゃもいる。
まだ心の傷を抱えるこたは、毎夜トラウマに駆られて叫び、失ってしまった自分のこたつさんを埋め合わせるように、こちゃのこたつさんを奪おうとする。
これまでは力も足りず押し負けているが、この先本気でぶつかり合えば──
そんな恐れが、いよいよ現実味を帯始める。
それでも彼女はこたをそっと撫でながら、言い聞かせるように微笑む。
「大丈夫……焦らなくていい。きっと一緒に過ごせる日が来るから」
その夜も、こたはこたつさんなしで眠りにつく。
眠りながら、かすかに「こたちゅしゃん……」と呼び続ける声を漏らしながら。
A子はその寝顔を見つめ、胸の奥に渦巻く不安を押し殺した。
──このやり方しか、今はない。
そう自分に言い聞かせながら、毛布をそっと掛け直した。
ーーーー
翌朝。
朝のおむつ交換を終えたばかりのこたが、ぴょんぴょんと跳ねてこちゃの前へやって来る。
数日前まで生まれたてのようにゆっくりとしか歩けなかったのが嘘のようだ。
うんうんを出せた事でゆっくりを取り戻せた自信もあるのだろう。
一方、こちゃはこたの声に表情をゆがめる。
眉をきゅっと寄せ、心底嫌そうな顔。
「……ゆう……」
もともと、ママに言われて仕方なくこちゃは貸してあげていたのだ。
なのに、いつのまにか「代わりばんこ」にするのが当然みたいになってしまっている。
こたつさんはこちゃの宝物。しぶしぶかしてあげるものであって、
共有するものじゃない。
貸すことでさえストレスなのに、うんうんの臭いもつく。
ゆっくりできない日々が続いていた。
「ねえ、こちゃ。今日もこたにこたつさん、貸してあげようね?」
A子はこちゃの頭を優しく撫でながら囁いた。
その時、A子のスマホが鳴る。
「あ、ちょっと待っててね……」
こちゃの顔はすぐに曇った。ぷるぷると震え、脱力したようにぺちゃっと身を縮め、眉をぎゅっと寄せる。
「やーにょ…!」
「いもーちょがつかったあと、こたちゅしゃん、くちゃいにぇ。
こちゃ、ゆっくちできにゃい!」
こちゃの声は素直そのもの。
本音がぽろりと零れ落ちた。
その一言が、緊張を走らせる。
「うんうんくさい」──幼い言葉だが、こたにとっては突き刺さる刃だった。
今まで黙って受け入れてきた屈辱や渇望が、くすぶっていた火種に触れる。
「ゆ……!? うんうん……!?」
「こちゃのこたちゅしゃん! うんうんくしゃくしゃれちぇ
かわいしょうにぇ! もういもーちょにかしゅにょ、やーにょ!」
小さな声が破裂する。抑えていたものが引き金を引かれたように、こちゃは一気に噴き出した。
「こちゃゆっくちできにゃい!」
その一言は飾りのない本音で、幼い声だからこそ鋭く、部屋の空気を切り裂いた。貸してあげるつもりで始めたはずの交代が、いつのまにか「代わりばんこ」になり、毎日の安心が削られていったこと。大事にしていた自分の場所が順番待ちになっていること。小さな胸の中で育った不満が、一気に爆発したのだ。
「なにいっちぇりゅにょ、おねーしゃ!?
こたのこたちゅ、うんうんくしゃくにゃいもん!」
ここ数日の排泄で、こたのゆっくりできない記憶の一部が流れたこともあってか、こたは以前よりずっとこたつさんへの執着が高まり、自己を主張する力を取り戻していた。
弱々しくも、必死に自分の居場所を守ろうとする。
「こたちゅしゃんは、こたにょものでもありゅんだよ!
ままちゃもそういってくれりゅもん!」
「ゆっちぇにゃい! ままちゃあ! ままちゃああああ!」
小さな体がころんとぶつかり合い、甘い香りをまとったまるい頬と頬とが押し付けられる。
こちゃはこたのおさげを口でくわえてぐいと引き、こたは負けじと相手の体に体を押し当て、ずりずりと引き戻そうとする。
もるもる! もるもる!!
「ぴえええっ! いもーちょはくちゃいにょ!
うんうんのにおいしゅりゅもん!」
「やめちぇええ! おしゃげしゃ、ひっぱりゃにゃいで!」
しだいにおさげがもつれて絡まり、ふたりはひとつの塊のようになって転げ、こたつさんにぶつかる。繊維が裂ける小さな音。
その瞬間、二つのまるい体はびくりと止まり、目を見開く。
ぱちり、と裂け目が広がると同時に、2ゆの声が途切れ、そして
堰を切ったように泣き出した。
こちゃは自分の宝物が壊れたことへの怒りと悲しみで泣き、
こたは奪われかけた安らぎが崩れた恐怖で嗚咽した。
ふと、こちゃは悔しさに頬を膨らませ、大きく「ぷくーっ」と膨らんだ。
ゆっくりにとって最大の威嚇──ほっぺを目一杯膨らませるその仕草は、凶器のようにこたの心に直撃する。
こたは時間が止まったように固まった。
かつての飼い主の下で、「ぷくー」がきっかけになって自分が虐待された記憶の断片が、ふっと蘇る。
まむまむを貫かれおチビちゃんルームを破壊され、
おちりを何度も切りつけられ、あにゃるに色々な物を入れられ、
髪の毛をむしられ、お目目をくり抜かれ
そしてこたつさんを無理やり食べさせられー……
驚きと怯えが混ざり合い、こたはひっくり返った。
こたはこたつさんがもうそこにないこと、ぬくもりを失ったことを思い出し、ぷくーをされた恐怖で取り乱して大声で泣き叫んだ。
A子は慌てて二人に駆け寄り、それぞれを腕で抱きしめようとする。
「ど、どうしたの!? ごめん、目を離してごめんね、大丈夫だから」
だが、こたの体力は以前より確実に戻り、介護は一層手がかかるようになっていた。
暴れ、泣き、安定させるための手段を彼女が講じれば講じるほど、次の問題が生まれる——その負担は日に日に増していく。
A子は、二ゆんを抱きしめる腕に力を込めながら、目を閉じた。
認めざるを得なかった。救いのつもりで繰り返してきたことは、結局「与えては奪う」地獄の再演にすぎなかったのだと。
こちゃから「ゆっくり」を奪い、こたに新たな傷を刻み込み、それでも「仕方がない」と自分に言い訳して続けてきた。
反省は胸を突き刺すように痛むのに、止める選択肢は見つからない。
なぜなら、こたを安定させる他の方法を知らないからだ。
「これしかない」──そう思えば思うほど、その手は深みに沈んでいく。
二ゆんを交互に泣かせ、無理に宥め、また泣かせる。
そんな悪循環の先に何が待つのか、薄々わかっていながらも、
A子はもう足を止められなかった。
ーーーーー
数日後の夜。
A子はこたの小さな寝息を聞きながら、かすかな安堵と底なしの泥濘とを同時に抱きしめていた。
いつか完全に壊してしまうかもしれない予感を、見ないふりをしながら。
A子は、ここ数日ろくに眠れていなかった。
夜中に泣き出すこたをあやし、朝方になればこちゃのお世話が始まる。
気を抜けば、二ゆんはすぐにぶつかり合い、小さな体を傷つけ合う。
手当てをしても、また泣き出す。
落ち着かせようとラムネを使えば、目覚めたときの混乱はさらに酷くなる。
終わりがない。
いや、むしろ、終わらせてはいけないのだと自分に言い聞かせてきた。
けれども。
まぶたは鉛のように重く、心臓の鼓動は鈍く響く。
ふとした瞬間に意識が途切れそうになり、そのたびに「この子たちを潰してしまったらどうしよう」と背筋を冷たいものが走る。
指先も震えている。
ほんの少しの泣き声に、胸の奥で苛立ちが爆ぜるようになった。
かつては愛おしく思えた鳴き声さえ、今では刃物のように耳を刺す。
「……耐えられない……?」
声にならない声が喉の奥で漏れる。
だが、それでもお世話をやめることはできない。
限界に近づく意識の中で、A子の視線はふと机の上のスマホに吸い寄せられた。
指が勝手に伸びる。
「絶対にソレを見てはいけない」と思いながらも、なぜか手が止まらなかった。
指先が震えた。まぶたが落ちかけるような疲れの中で、スマホの画面だけが妙に鮮やかに光っている。
画面のサムネイルは、ざらついた低解像度の一点を切り取っているだけだった。そこに映る小さな影は、動揺して震える――地獄の断片。
コメントが流れる黒い帯が、無機質に踊っている。指が、勝手に再生ボタンへ向かって動いたのを、A子はあとになってからも止められなかった理由を説明できなかった。
「見ちゃいけない」——理性が瞬間的に警報を鳴らす。しかし画面に指を置いたままの手は冷たく、力が入らない。過去に自分がした「正しいこと」と、今この手が犯さんとしていることの境界が溶けていく感覚があった。胸の奥に小さな氷片のようなものが刺さり、同時に妙な熱が喉の奥へ這い上がる。
画面の再生ボタンに、指先がほんの一ミリだけ圧をかける。指先の震えが波紋となって手首まで伝わる。
A子はわずかに息を詰め、目を細めた。画面が白く光り、音の縁取りが指の隙間から滴り落ちる――その瞬間のほんの前、世界は一瞬だけ止まった。
そして、再生ボタンを押した。音の最初の一欠片が、まだ部屋に広がる前の、ほんの一瞬。
そのとき、ベッドサイドから小さな声が転がってきた。
「ママちゃ……あちたおっきちたりゃ、
こたちゅしゃんちょいっちょに、たんけんちたいにぇ♡」
こたはおさげをぴこぴこと振り興奮した様子でそう言った。
かつてなら胸がじんわり温まるはずの言葉。
「かわいいわがまま」を言ってくれることが、生きている証拠のように思えて、嬉しくて仕方なかった。
けれど、今は違う。
耳に張り付いたその響きが、ただ苛立ちを煽った。
A子の中で、怒りと嫌悪が渦を巻く。
(……あれは、こちゃのこたつさんなのに)
(どうして、当然みたいな顔で欲しがるの……?)
「ねえ、こた」
自分でもわかる。声が掠れて震えている。
眠気と苛立ちと、どうしようもない憎しみが入り混じっていた。
そのとき、不意に端末のスピーカーから微かな声が漏れた。
――泣き叫ぶ、あの時のこたの声。
『いちゃい! いちゃああああ! ざーくざーくやめちぇええ!!』
『ひっぷだんしゅしましゅ……!ゆるちて!』
『ピイイイイイイ!! こたちゅしゃん! こたちゅしゃあああああ!』
「ままちゃ……ゆっくちがいじめりゃりぇちぇりゅおこえがしゅりゅよ、
きょわいにぇ、ゆっくちできにゃいにぇ……」
小さな体が強張り、目が怯えに揺れる。
A子は思わず笑みを歪めた。
「忘れちゃったの? あなたのこたつさんが壊された時のことを」
そう囁きながら、画面をこたの目の前へ押し出していた。
再生音量を上げる。
『たちけてー! こたにょこたちゅう! やめちぇぇ!』
画面の中で必死に泣き叫ぶ自分を見て、こたは硬直した。
こたの瞳に映るのは、自分が切り刻まれ、こたつさんが燃やされていく光景。
「ピ、ピイ……!」と驚きに震え顔を背ける声さえ、A子の胸を奇妙に満たしていく。
「……っ、ままちゃ? にゃんで……にゃんで、
そんなもの、みしぇるの……?」
その声は、もう言葉というよりかすれた呻きだった。
目を大きく見開き、画面から逃げるように身を縮める。
A子の喉の奥が震えた。
「これ、あなただよ」
そう告げる自分の声が、どこか甘やかで、そして冷たい。
こたの震えが伝わる。
それでもA子は画面を消さなかった。
自己嫌悪と、言いようのない昂ぶりが胸の中でせめぎ合っていた。
こたの小さな体は震え、目は恐怖に見開かれたまま画面に釘付けになった。
映像の中で、自分がもるもる泣き叫び、切り刻まれ、こたつさんを奪われる。
画面に映る自分の叫び声を見つめ、こたは小さな体をぎゅっと縮めた。
胸の奥が痛く、心が張り裂けそうになる。恐怖と混乱が全身に広がり、呼吸は荒く、震えた声が夜の部屋に響く。
「ゆぅっ……こ、こた……ぴい……ぴい……」
その声と記憶が重なった瞬間、こたのあにゃるが緩み、じわりと温かさが広がった。
「ゆんやぁ……!」
オムツに溜まった温かさがじわじわと不快に広がり、身体を動かすたびにひんやりとした感触がこたを苛む。
おさげをそっと伸ばし、布団に沈むA子の腕に触れようとするが、
力は弱く、かすかな声しか出ない。
「ままちゃ……おむちゅしゃん……きもちわりゅいよ……
うんうんしゃん、ふきふきちて……」
目に涙を浮かべ、唇を震わせ、こたは全身で懇願した。
嗚咽を混ぜながら、必死に繰り返す。
「ままちゃ……ふきふきちて……ぴい……!」
画面の中の過去の痛みや叫びはどうでもよく、今、この瞬間、自分を守ってくれるのはママだけなのだ。
その切実な眼差しと声は、幼い無力さと恐怖の象徴であり、こたの小さな体はまるで壊れそうなぬいぐるみのように震えていた。
その姿を見たA子の胸は、吐き気と甘美な昂ぶりに同時に満たされる。
繰り返し流される虐待映像と、目の前で懇願するこたの弱々しさ——その矛盾に、理性はすでに押し流されていた。
心のどこかで「これは酷いことだ」と思いながらも、同時に「こんなにも自分に縋ってくる小さな命が愛おしい」と感じてしまう。
小さな体を丸め、オムツの不快さに身を震わせながら、必死に「ぴい、ふきふき」と繰り返すこた。
A子は布団の中で目を閉じ、動かずにその声を耳に入れる。
しかし、胸の奥で渦巻く感情は静まらない——自己嫌悪と甘美な満足、罪悪感と昂ぶりが交錯し、胸をぎゅっと締め付ける。
夜の静寂の中、ぴいぴいと泣き続ける小さな体。
信頼していたはずのママに助けを求めながら、同時に何もしてくれない
恐怖に震える——こたの全てが、A子の心を深く突き動かした。
こたのか細い「ままちゃ……ままちゃ……」という呼びかけは、暗闇に吸い込まれ、やがて途切れた。
ーー
私は気づいてしまった。
こたに、新しいこたつを用意してあげればよかったのに。
最初に、愛でラボの里親センターにこたを迎えに行ったとき、職員から聞いた説明を思い出す。
「壊れたこたつのプレゼントはもうやっていません」
その言葉をずっと、私の頭の中で絶対の真実のように思い込んでいた。
だから、手に入れる道はもう無いのだと。
でも、違った。動画の中で、誰かがこたつを作ってあげて、赤ちゃんゆっくりたちと一緒にぬくぬくしている場面を見たとき、その可能性はすぐそこにあった。
私はそれを知っていたはずなのに……。
その発想にすら、私は至らなかった。
私は、こちゃとこたを、不幸にしてしまったのだ。
最初から、ずっと。
愛したいと思った気持ちの裏で、彼女たちを縛り、
傷つけ、絶望に押し込んでしまった。
でも――こたの目の奥に浮かぶ絶望を見て、なぜか胸の奥がくすぐられる。
こたの小さな体が震え、言葉にならず「ぴいぴい」と声をあげながら、助けを求める。
信頼していたはずの私に縋りつこうとするその姿に、理性では咎めたいのに、心はどこかで満たされている。
私は、胸の奥で奇妙な安堵と快楽を感じていた。
絶望の中で無防備に自分を差し出すこたの姿が、私の心を折り、同時に癒してくれる。
拒みたい自分と、癒される自分――二つの感情が渦を巻き、私はただその場に沈み込むしかなかった。
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次回最終話です!

A子、覚醒。 こたは生きていた。 クッションの寝床にうずくまり、目を閉じて、震えるほど細い呼吸をしている。小さな身体はどこか硬直して、寝ているというより壊れた芋虫の塊のようだった。 オムツから大量のうんうんがじわりと滲み出て、クッションに淡い染みを広げていた。顔は涙の跡が乾ききらず、ゆっくりの影もな...
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前回のお話はこちら A子に抱かれながら、こちゃはわくわくで、 心のあんこさんがあったかくなるようだった。 「いもーちょ、もうしゅぐあえるにぇ……!」 「こちゃ。 昨日も話したけど、妹は身体にお怪我をしているの。 だから、優しくしてあげてね。」 「ゆう! こちゃ、いもーちょとゆっくちしゅるにぇ!」 しかし、目...

Unauthorized repost prohibited. おくるみに包まれた「こた」の身体は、残されたお下げごとぷるぷると震えている。 近くから、A子とこちゃのはしゃぐ声が聞こえ……片目だけが、うっすらと開く。濁った瞳が、光を探すように部屋をさまよい、やがて──A子がいないことを、認識した。 「ままちゃ……? ゆう、どきょ?」 …...

前回はこちら 愛で系雑誌に掲載されたA子のポエム ◆おまけ◆ テキストですが結構エグめの描写ですのでご注意ください。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 配信停止の後。 ──再生画面の周囲に、鍵マークのアイコンと共に、 「支援者限定アーカイブ」というラベルが小さく浮か...

【全6話、完結しました!】 次の話はこちら💁♀️ ーーーーーーーーーーーーー 以下ダイジェスト
Pakojiryu
2025-10-13 01:20:47 +0000 UTCPakojiryu
2025-10-13 01:18:24 +0000 UTCKMIF
2025-10-05 06:36:20 +0000 UTCざきだすG
2025-10-03 18:31:07 +0000 UTCPakojiryu
2025-09-30 11:36:47 +0000 UTCPakojiryu
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2025-09-30 10:01:55 +0000 UTCジョン・ドゥ
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2025-09-26 08:32:45 +0000 UTC