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メリッサの館 〜side:ケイ〜①

ケイ 「全く、こんな事ではメリッサお嬢様の使用人は務まらないぞ?」 エイミー 「はっ、はい……。すみません……。」  この世界でもトップクラスの大富豪、メリッサが住む館には、世話係の使用人が多数存在している。その中でも、この男勝りな口調の女性、ケイはメリッサに最も信用され実力もダントツの使用人である。そんな彼女は、新人の教育係でもあり、今まさに新人のエイミーに注意をしていた。  片目を隠したアシンメトリーの髪型、豊満な胸と引き締まった身体というスタイル抜群の体型がその口調や性格を表した格好良い女性の代表とも言えるケイは、丈が短めの黒いノースリーブカットシャツを着用しており、少し動くだけでも腹部やへそがチラッと見えてしまう、セクシーな格好をしていた。一方、ミスの多い新人のエイミーも、少し子供っぽいドジっ娘という見た目通りの格好をしていた。ノースリーブのセーラー服にミニスカートという格好は、幼さの残る顔つきのエイミーにはよく似合っていた。ただ、エイミーも胸は豊満であり、その胸に引っ張られる形となったトップスからは、腹部が大胆にさらされており、それが一応エイミーも大人の女性であると証明していた。  どちらも性格やスタイルに合った服装ではあるが、使用人には適していない様な服装だ。だがこれは全てこの館のお嬢様であるメリッサが選び着せているのである。 ケイ 「ただ掃除が疎かだったり、食器を割ってしまうなどというミスならまだしも、私達のこの仕事は、下手をしたらお嬢様に多大なるご迷惑をお掛けする事になる。最悪の場合、お嬢様の地位や品格まで落としかねないんだ。」 エイミー 「はい、その通りですね……。」  彼女達は使用人だが、家事手伝いだけが仕事ではない。この館は一見ただのお嬢様の別荘だが、実はこの世界のトップ企業の会社でもある。それ故に、裏社会の人間やこの企業の機密を探るスパイの侵入も珍しくなく、彼女達はそういった侵入者を迎撃、もしくは捕らえて拷問する仕事を任された使用人なのだ。 ケイ 「鍵の掛け方を忘れただけと言ってしまえば、それまでだ。些細なミスかも知れないが、一歩間違えば機密情報を盗まれるという大失態にも繋がる。」  この館には数多くの部屋があり、それぞれに鍵が設置されている。一般家屋等の玄関に付いている普通の鍵のタイプは勿論、カードキーのタイプ、指紋認証や顔認証タイプの鍵など、様々なセキュリティで守られている為に、かなり複雑で覚えるのも一苦労なのだ。 ケイ 「まあ、難しい事なのは重々承知している。だがすまない、規則は規則だ。いつものお仕置きを受けてもらう。」 エイミー 「ひっ…!はっ、はいぃ……。」  使用人の服装はメリッサの趣味趣向でデザインされているが、実はこのお仕置きを“行いやすくする”為でもあるのだ。そして使用人は何かミスをする度に、そのミスの重大さや、使用人のランクによってお仕置きのレベルが設定されたおり、それに従って罰を受ける規則になっている。  エイミーは新人である為、使用人ランクは低いものの何度もミスを繰り返しており、毎日のように罰を受けているのだ。一方、ケイは使用人ランクは最高であり、どんな些細なものでもミスをすれば相当な罰を受ける事になる。だがケイはあらゆる仕事を完璧にこなすエリートで、メリッサからも高い信頼と評価を貰っている。 ケイ 「では懲罰室へ──」 『侵入者が現れました。職員は直ちに侵入者の確保に向かって下さい。繰り返します──』  エイミーへの罰を執行するタイミングで、突如警報音と機械の音声が流れ始めた。館に仕掛けてある多数のカメラに不審人物が映れば、メリッサや使用人のいるフロアにすぐに警報がなる仕組みなのだ。 ケイ 「仕方ない。まずは侵入者を捕まえよう。すぐに準備して行くぞ、エイミー。」 エイミー 「はっ、はい!」  館に侵入した人物を捕らえる為、2人はすぐに準備に取り掛かる。  スパイは基本的に暗闇で行動する。自分が侵入したとバレないようにする為だ。だからスパイを捕らえる側は、その暗闇の中でも行動出来なければ意味がない。だから暗闇でも人の動きを感知し見る事が出来るゴーグルを装着するのだ。しかもこれには他にも様々な機能があり、使用人がスパイを捕獲するのに欠かせないアイテムなのだ。 ケイ 「よし、エイミーはそっちからフロアを一周しろ。私は反対側から入り組んだ廊下を進みながら侵入者を探す。」 エイミー 「わ、わかりました…!」  この館は広い敷地に入り組んだ廊下、いくつもの部屋がある迷路の様な別荘だ。これもスパイ対策で、侵入者自身が今どこにいて、どこへ向かえば良いのか分からなくする為なのだ。  使用人は部屋の位置や道を把握していなければならず、鍵を掛けなければならない部屋、罠用にあえて鍵を開けておく部屋を作るのも大事な仕事である。 エイミー 「ひっ……!」  暗い廊下をゆっくりと進んでいると、そこには侵入者が部屋を物色しようと廊下を歩いている所に出くわしてしまった。思わず声を出してしまったエイミーだが、相手は背中を向けていた上に、エイミーの声が届かない所にいた為、幸いエイミーの存在には気付かれていなかった。 エイミー (えっと、侵入者を背後から見つけた時は、そのまま気付かれないように接近して、スタンガンを当てる……。)  ケイに教わった事を脳内で復習しながら、エイミーはゆっくりと侵入者へ近づいて行く。 ??? 「……!!?」 エイミー 「ひゃっ!?」  気配を感じたのか、その侵入者は突然振り返り、エイミーの存在に気付いてしまった。  彼女の名前はリオ、泥棒だ。ここが世界トップクラスのお嬢様、メリッサの館というのは誰もが知っている。その為スパイ以外にも、単純に金目の物を盗む泥棒もいる。だが相手がスパイだろうが、泥棒だろうが関係ない。それら全員を捕らえるのが使用人であるエイミーの仕事だ。  だが、突如振り返ったリオに、エイミーは動揺してしまい、その場で慌ててしまいすぐに行動出来なかったのだ。その隙を突いたリオは、一目散にその場を離れ逃げて行ってしまった。 エイミー 「あっ…!」  そこでようやくエイミーは事の重大さに気づくが、もう侵入者であるリオの姿はそこには無かった。 エイミー 「し、侵入者、逃走中ですー!おっ、応援、お願いしますー!」  すぐに通信端末で他の使用人達に連絡をする。これはゴーグルに備え付けられた機能で、ボタン1つでその言葉をゴーグル装着者全員に伝えられる。そして、このゴーグルにはGPS機能もあり館内のマップと誰がどこにいるのか、これを常に表示している。エイミーが侵入者と鉢合わせたと分かれば、エイミーの居場所から侵入者のいるエリアを判断できるという訳だ。 ケイ 「仕方ない。廊下の全ての照明を点けてくれ。」  エイミーの連絡により、ケイもすぐに行動する。侵入者にも自分達使用人の存在がバレてしまったと判断し、照明を管理していた使用人に連絡し、館内の照明が全て点灯させた。これにより侵入者が暗闇に紛れ身を隠すという行動を防ぎ見つけやすくしたのだ。 ケイ 「私があっちへ行くべきだったか…。まあ、仕方ない。このまま進めば侵入者と鉢合わせるだろう。」  エイミーと反対方向へ移動していたケイは、現在のエイミーの居場所から逆算し、侵入者が自分の方へ向かっている可能性が高いと推測した。だがここは迷路のように入り組んだ館だ。侵入者がこちらへ逃走していると分かっていても、どこの道を通るかなんて普通は分からない。だがケイは、他の使用人がいるであろう場所、侵入者の思考回路、人間の心理を読み解きその行動を予測する。 ケイ (足音が近づいてくる。やはり来たか。)  慌てず冷静に、侵入者の思考回路を推理したケイは、その場で立ち止まり耳を澄ませた。すると、自分のいるエリアに向かってくる足音が聞こえてきたのだ。だがケイの方へと近づくGPS反応はない。つまり、その足音で侵入者が逃げて来たと確信したのだ。 ケイ 「そこまでだ。止まれ。」 リオ 「くっ……!!」  ケイの予想通り、角を曲がってきたのは侵入者であるリオだった。ケイはすぐに道を塞ぎリオの逃げ場を無くす。 ケイ 「さあ、大人しく捕まって貰おうか。」  ケイはその言葉と同時に、一気に間合いを詰めようとリオの方へと走り出す。だがリオは自身のベルトに装着していたアイテムを手に取り、それをケイに投げつけたのだ。そしてリオは、すぐにケイから逃げるように走り出す。 ケイ 「成程、煙幕か。」  リオの行動にすぐにそのアイテムが煙幕を張るタイプの物だとケイは理解した。だが侵入者のその行動は使用人は勿論、この館のお嬢様であるメリッサも想定内であり、その対策は万全だった。  使用人が装着しているゴーグルは、煙幕等の煙に対しても有効でフレームに付けられたスイッチを押すだけで煙幕の中でも人の動きを感知出来るようになるのだ。リオと対峙する為にゴーグルを外していたが、それをまたすぐに装着し煙幕に対処する。 ケイ (早急に終わらせよう。) 「その程度で──」  だが、リオもその対策を読んていた。ケイの行動を見ていたリオは、不敵な笑みを浮かべながらアイテムの起動スイッチを押した。 ケイ 「なっ……!?」 (何だ?その笑みは──)  その表情に違和感を覚えたケイだったが、もうリオを止める術など無い。リオが投げたアイテムが起爆し、煙幕の発生と共に眩く光り輝き、甲高い大きな音が鳴り響く。それはスタングレネードという閃光弾で、その閃光弾と同時に煙幕を張るという特殊なアイテムだったのだ。ケイが装着していたゴーグルではその一瞬の閃光と音を防ぐ事は出来なかった。 ケイ (特殊なスタングレネード…!?まずい……!耳が聞こえないこの状況では、敵の行動を“見る”事でしか判断できない…!)  ここで侵入者を逃がす訳にはいかないと、リオの動きを探ろうとするケイ。煙幕を張った人間の行動は、基本的に逃走するか、その煙の中で攻撃してくるかの二択だ。耳が聞こえない以上、そのどちらにも対処するには自身の目でリオを見るしかなかったからだ。 ケイ 「くっ……!」 (駄目だ……。目もやられている……!)  一瞬の閃光で、ケイは目もダメージを受けてしまい、しっかりと目を見開く事はできず視界もぼやけてしまっていた。だがそれでも全く見えなくなる程のダメージを受けなかったのは、その煙幕の中でも人の動きを見る事ができるゴーグルが、多少なりとも閃光を緩和させていたからだ。 ケイ (い、いない……!?何故だ、侵入者がどこにもいない……!!)  目がぼやけていようが、そのゴーグルは視界にさえ入っていれば、煙幕の中でも人の動きを検知できる。にも関わらず、ケイはリオの姿を捕らえる事が出来なかった。その理由は── ケイ 「んあぁ……!!」  眩く光り輝いた瞬間、リオは手首に装着していたワイヤーを天井に突き刺し、ケイの真上に移動していたからだ。真上など当然視界には入らず、その姿を捉えようがなかったという訳だ。そして、ケイは頭上に飛び降りてきたリオに蹴り飛ばされ倒されてしまった。 リオ 「ふぅ……、何とか上手くいったわね。じゃ、失礼するわ。」 ケイ 「くっ…!ま、待て……!」  ケイは蹴られた頭を抑えながらリオを静止させようとするが、頭を蹴られた事で軽い脳震盪を起こしてしまい、上手く起き上がる事も出来ず、リオを逃がしてしまったのだ。 ケイ 「くっ……!急いで連絡を……、しな、けれ………、ば………………!」  自分が取り逃がした事を他の使用人に連絡しようとしたが、脳へのダメージが想像以上に大きく、ケイはその場で気絶してしまったのだ。 エイミー 「もしまたあの侵入者がこっちに戻ってきたらどうしよう……。あ、ここって確か倉庫だったっけ……?」  ケイがやられてしまった事も知らないエイミーは、倉庫の前にいた。倉庫には過去の裏社会との取り引き資料や拷問具などの様々な道具が置かれている。宝石の様な高価な物はないが、ここにある道具も売ればそれなりの金にはなる。つまり、スパイにとっても、泥棒にとっても価値ある部屋であり、中の物を盗まれたら大きな損害となってしまうだろう。 エイミー 「やばいっ…!早く鍵掛けないと!」  倉庫の鍵は基本的には常に鍵が掛かっているのだが、つい先程、エイミーが倉庫内を片付けそのまま鍵を掛け忘れてしまったのだ。つまりこれが、ケイから注意されお仕置きを受ける事になったミスである。それを思い出し、今度こそ“倉庫の鍵”を持ってきたエイミーは、リオが来る前に施錠しなければと思い行動した。 エイミー 「あ、あれ……?鍵が、穴に入らない…!」  エイミーが持っているのは間違いなく倉庫の鍵である。だがその扉の鍵穴と合っていないのか、鍵が入らなかったのだ。 エイミー (あ、ここ……、倉庫じゃないのか。)  鍵が入らない事に違和感を持ったエイミーは、そっと部屋の中を覗いて確認すると、そこは倉庫ではなく、スパイを捕らえる為に作られた罠部屋だったのだ。つまりスパイに入ってもらう為の部屋であり、当然ここは元から鍵など掛かってはいない。だが、スパイを閉じ込める為のオートロック機能はあり、顔認証されていない人間が部屋の中から扉を閉めると鍵が掛かる仕組みになっている。 エイミー (そっか、ここ罠部屋だったのか。ここにさっきの侵入者を誘導出来れば……。)  エイミーはリオをここへ閉じ込める方法を考えた。実際、罠部屋とは基本的にこっそり忍び込んだ人間を閉じ込める様に設計されている。自分を捕らえようとしていると侵入者側に悟られれば、全てを罠と疑い部屋の扉など閉めないし、場合によって扉を開ける事自体避ける可能性もあるからだ。つまり、追われている状況であるリオをここへ誘導し閉じ込めるのは簡単ではないという事だ。 エイミー (っていうか、このタイミングでもしあの侵入者に出くわしたらどうしよう……。って──) 「あっ!いたー!!」 リオ 「あ、あんたはさっきの。」  まだリオを閉じ込める方法も考えていない最悪のタイミングで、本当に出くわしてしまったエイミー。まだ倉庫の鍵を間違えて鍵穴に入れようとしている状況のまま、どうすれば良いか分からず動けなかった。 リオ 「あんたが私の前にいるって事は、そっちに行けば私がこの屋敷に潜入した時の部屋に戻れるって事よね。」 エイミー (えっ……?)  エイミーにはそのリオの発言の意味がすぐには理解できなかった。何故自分がいるとここが侵入者が入ってきた部屋になるのだろうか?何故そう思われたのか?だが、自分のこの状況を改めて考え、エイミーはようやくリオの発言の意味を理解した。  まず、スパイ対策として設計されたこの館がの扉は鍵以外全て同じ作りで、廊下は迷路のようになっているせいで、まんまとその罠に嵌ったリオは、その部屋が自分の潜入に使った部屋だと勘違いした。そして、その部屋を閉め自分の逃げ道をエイミーが塞ごうとしていたと更に勘違いをしたのである。それに気づいたエイミーは、咄嗟に自分の性格を利用した作戦を思い付き行動した。 エイミー 「そ、それは……。」  わざと図星の様な表情を作り、目を泳がせながら言葉を濁す。如何にもリオの発言が正しいと思わせる様な素振りを見せたのだ。そして侵入者であるリオを捕まえに行く事もあえてせず、その部屋を守るかの様に立ち尽くした。  そのエイミーの行動に対し、リオは何かを悟り勝ち誇った様な笑みを浮かべた。 リオ 「ねぇあんた。私を捕まえたいんじゃないの?あんたが動かないなら、私はさっさと来た道を戻って逃げるわよ?」  その言葉を聞き、エイミーも自然体の演技でリオを騙そうと努める。 エイミー 「だ、大丈夫です!そっちには、私達使用人の中でも一番のエリートであるケイ先輩がいますから…!!」 リオ 「ケイ…?あぁ、あのやり手っぽい女?あいつなら私が蹴り飛ばしてやったからしばらくは動けないわよ。」 エイミー 「えっ!?ケイ先輩が……、やられたって言うんですか!?」  その言葉でエイミーは動揺してしまった。絶対にミスや失態などしないケイでも捕まえられなかった相手を騙せる筈がないと、絶望してしまったのだ。 リオ 「そうよ?だからあんたが私を捕まえないと、このまま逃げちゃうわよ〜?」  それでも、エイミーは必死に演技でリオを騙そうとする。 エイミー 「にっ、逃がしません……!今度こそ私が捕まえて……、あっ……!あぁ……、えっと、………………つ、捕まえます!!」  だが、急にリオに対し強い緊張感を抱いてしまい、口調がたどたどしくなってしまった。 リオ 「だったらさっさとかかってきなさい。」 エイミー 「そ、それは………。」 リオ 「全く……。そんなんじゃ、その部屋が脱出できる部屋だって自分から言ってる様なもんじゃない。」  だが、仕事の出来ないドジっ娘の印象が強いエイミーのその口調は、結果的に動揺している様が良く表れリオを上手く騙せていたらしく、リオはその罠部屋こそ、本当にリオにとって都合の良い部屋だと勘違いしたのだ。 エイミー 「んぁ!?そ、そんな訳…、ないじゃないですか……!!」  そのリオの言葉で自分が騙せていると分かり、喜びの反面、ミスは許されないと強いプレッシャーを感じてしまい更に緊張するエイミー。 リオ 「そう?……なら、私を捕まえてみなさいよ。」  だが、それもまたリオ騙すのには丁度良く、エイミーを挑発する様に言葉を返すリオ。 エイミー 「うぅ……!…………、も、勿論、やってやります……!!」  だからエイミーは、この部屋へリオを誘導する為にわざと挑発に乗った。 エイミー 「えぇい!!」  ぎこちない気迫でリオに飛び掛かるエイミー。その手に持ったスタンガンが当たればそれで良し。だが、当然ケイすら太刀打ち出来ない程の身体能力の高いリオは、スタンガンをサッと軽くかわし、エイミーの足を引っ掛け転ばした。 エイミー 「いたっ……!!」  これは演技ではなく、エイミーはスタンガンで気絶させようと飛び掛かったが、エイミー自身もそれで勝てる訳がないと分かっていた。寧ろ、ここで負ける事が、エイミーの仕掛けた最後の罠であり、作戦だった。 リオ 「やっぱり思った通りトロいわねあんた。それじゃ、失礼するわ。」 エイミー 「あっ!ま、待って!その部屋は──」  最後にリオを静止させる言葉を発する。当然リオはそんな言葉など聞かず、自ら罠へと足を運んでいく。エイミーの性格も功を奏し、リオはまんまと騙され罠部屋へと入って行ったのだった。 エイミー 「や、やった!私、侵入者を捕まえたんだ…!!」  偶然の賜物とは言え、リオの勘違いを利用し罠部屋へ誘導し閉じ込める事に成功したエイミー。ミスばかりして何の成果も上げてこなかったエイミーにとって、これ程嬉しい事はなかった。 エイミー 「あっ、そうだ…!お嬢様に報告しなきゃ!…………メリッサお嬢様!エイミーです!侵入者を罠部屋に誘導し捕獲しました!」 メリッサ 『お手柄じゃない、ご苦労さま❤じゃあ早速だけど、ケイちゃんのいる場所に来てくれるかしら?場所はGPSでお分かりですわよね?』 エイミー 「はっ、はい!承知しました…!」  メリッサの指示で、エイミーはすぐにケイの方へと向かった。そしてエイミーは、リオの話を思い出した。その話が本当なら、ケイは大きな失態をしてしまった事になる。つまり、お仕置きを受ける事になるのだが、それ以上にエイミーはケイの安否を心配していた。  一方のメリッサは、ケイのいる場所でエイミーの到着を待っていた。 メリッサ 「まさかケイちゃんが取り逃すだなんて、珍しいですわね。」 ケイ 「申し訳ございません。相手の方が一枚上手でした。」 メリッサ 「まあ、エイミーちゃんが捕獲してくれたみたいですし、私もケイちゃんが無事で何よりですわ❤」 ケイ 「ありがとうございます…。ご心配お掛けしました。」 メリッサ 「それより、一応規則的には貴女にもお仕置きをしなくてはならないのですが。」 ケイ 「はい、覚悟は出来ています。」 メリッサ 「そう言うと思っていましたが、正直……、今までの数々の実績を考えますと、今回の失態なんて不問にしても良いのですけどねぇ。」 ケイ 「いえ、それでは他の使用人に示しがつきませんので、罰を受けさせて下さい。」 メリッサ 「改めて言いますけど、貴女は最高ランクの使用人ですのよ?罰を与えるとなると、相当ハードなお仕置きになってしまいますわ。」 ケイ 「構いません。どんな罰でも受けます。」 メリッサ 「はぁ……、個人的には気が進みませんが、そこまで言うのであれば仕方ありませんわね。しっかりと罰を与えますわ。」 ケイ 「ありがとうございます。」 メリッサ 「全く、真面目過ぎるのよ貴女は。まあそれも貴女の取り柄なんですけどね。」 ケイ 「あ、それと……、今回エイミーは私の失態をカバーし、成果も上げてくれました。彼女の罰を不問にしてあげてもよろしいでしょうか?」 メリッサ 「罰を受けると言った貴女がそれを言うのかしら?全く……、まあ良いですわ。お好きになさい。エイミーちゃんの事は貴女に全てお任せしていますから。」 ケイ 「ありがとうございます。」 エイミー 「お嬢様ー!お待たせ致しました!」 メリッサ 「来ましたわね。エイミーちゃん、よくやりましたわね❤」 エイミー 「は、はい。ありがとうございます…!あ、ケイ先輩、ご無事でしたか!」 ケイ 「あぁ、なんとかな。それより、大手柄だエイミー。良くやった。」 エイミー 「あっ、ありがとうございます!!」 メリッサ 「さて、エイミーちゃん。私は貴女が捕まえて下さった侵入者のお相手をしなくてはいけませんの。ですが、ケイちゃんも今回の失態で罰を受ける事になりましてね?」 エイミー (そうか……。先輩がお仕置きを受けるんだ……。) メリッサ 「だから、貴女がケイちゃんに罰を与えて下さいまし❤」 エイミー 「えっ……!?わ、私がですか!?」 ケイ 「そういう事だ。エイミー、よろしく頼む。」 エイミー 「えぇ……、はっ、はい……。」  最も優秀な先輩に、最も仕事の出来ない自分が罰を与えると知り、エイミーは困惑してしまう。だが、お嬢様と先輩の指示には当然逆らえず、不本意ながらもその指示を受け、2人は懲罰室へと向かった。  使用人の罰を決めるのは、懲罰室に設置された大きな機械に搭載されたAIである。罰の執行人、罰を受ける人間の名前と、どんなミスをしたのか、それを入力する事で、事前に記憶したデータから使用人のランクを考慮し失態内容に適した罰を自動生成するのだ。 エイミー 「入力内容は……、これで大丈夫ですか?」 ケイ 「いや、この“最初にエイミーが侵入者の捕獲に失敗”を消さないと、エイミーも罰を受ける事になってしまう。それに、“侵入者との対峙条件が悪かった”訳ではなく、私の油断と力不足だ。それをしっかり入力しないと私は適正な罰を受けられない。」 エイミー 「うぅ……、でもケイ先輩が負けて侵入者を逃がしてしまうなんて……。」 ケイ 「私だって完璧ではない。ミスをしないように常に気を引き締めていたが、経験が長い程、過去の実績と知識に頼ってしまい、今回の様な油断を生む事になるのだ。私は勿論、エイミーも今後の教訓として、しっかりと私に罰を与えるんだ。それから、罰を与える側が私情を挟んだり、同情をしてはいけない。その為にAIが罰を決めるんだ。だからしっかりと事実を入力しないと駄目だ。」 エイミー 「そ、そうですね……。わ、わかりました……!」  ケイの人としての器の大きさ、その覚悟を改めて理解したエイミーも、ケイを責める覚悟を決めた。そしてそれと当時にエイミーは、ケイのその人柄と人望を改めて気付かされ、強い尊敬を抱くのだった。 ケイ 「まあ、今まで散々私にお仕置きされてきたんだ。仕返しだと思って楽しむぐらいの私情はあっても構わないぞ?」 エイミー 「そ、そんな……、仕返しだなんて……。ま、まあ、正直言うと……、先輩の“笑ってる所”を見れるのは……、楽しみです。」  お仕置きを受けるケイが“笑う”というエイミーの不可解な発言。だがケイはその言葉の意味を理解していた。 ケイ 「そうだろう?私は勿論苦しい思いをするが、本来この行為は“じゃれ合い”だ。素直に楽しむと良い。」  エイミーの言葉の意味を理解するどころか、それが当たり前の様に返答するケイ。そのじゃれ合いというものが、お仕置きの内容であり、笑うという行為なのだ。だが、何故お仕置きを受ける人間が笑うのか。何故じゃれ合いという楽しそうな行為が罰になるのか。  AI機器に入力した内容を変更し送信する。するとすぐにモニターに罰の内容が表示される。 エイミー 「えっ!?何で3つも罰があるんですか?」  そこに表示されたのは3つの仕置き内容だ。勿論、ケイが今回3つの罰を受けるのにもちゃんと理由がある。  1つは、油断が生んだミスだと言う事。つまり悪条件や不慮の事故から生まれたミスではなく、己の過信であり自身の考えの甘さが問題ならば、それは大きな失態であり、罰さなければならない案件だという事だ。  もう1つは、単純に最高ランクの使用人がミスをしたという事。最高ランクになるような使用人は、単純にミスなど許されない地位であり、それが与える罰を増やした要因である。  そして最後は、侵入者と対峙した結果、敗北し取り逃がしてしまったという事。悪事を働く侵入者を取り逃すという事が、根本的に多大なる被害をもたらす事になり兼ねない為、これも罰する対象となったのだ。 ケイ 「1つの大きな失態の中にも様々な原因があるという事だ。それらをしっかりと反省させ繰り返さないようにするのがこの罰の本質なんだろう。」 エイミー 「なるほど……。そして1つ目の罰として、先輩は“両腕を上げたまま我慢する”という罰ですか……。これは……、辛そうですね……。」  両腕を上げる事が罰、普通にそれだけ聞いたら、それの何が罰なのか?と思うだろう。だが、使用人は皆その罰がどれだけ辛いのかをすぐに理解できる。何故なら、腕を上げる事が罰なのではなく、その状態でじゃれ合いのような罰を受けなければならないからだ。 ケイ 「2つ目は、エイミーの尋問官トレーニング。つまり、エイミーが私を使って実際に拷問するように責め、それを私が腕を上げて我慢しながらレクチャーする、という事か。」  ケイやエイミーの主な仕事は侵入者の捕獲と尋問。だがエイミーはまだ尋問官の訓練をまだ行っていない最低ランクの使用人。それをAIが良い機会だと判断し今回の罰に起用された訳だが、実はこの使用人に行われるじゃれ合いのような罰は、スパイを実際に拷問する際にも使用されている責めなのだ。  だが、受け手が笑ってしまうようなじゃれ合いが、何故スパイへの拷問や使用人への罰に使われるのか。その答えは── エイミー 「腕を上げたまま、“くすぐり”に耐えろって罰ですか……。そんなの可能なんですか……?」  エイミーの言った“くすぐり”。その行為こそ、拷問や罰に使われる、笑ってしまう責めなのだ。じゃれ合いで行われるそれは、同じ条件の複数人が互いに攻め合うからこそ、お遊びで済むのだ。だがもし、受け手が拘束され身動き出来ない状態で、理不尽に、一方的に責められたら、それは少なくともじゃれ合いではなくなり、拷問へと変わる恐ろしい行為なのである。 ケイ 「いや、難しいとは思うが……、難しいからこそ罰なんだろう。」 エイミー 「ケイ先輩の身体の感度が表示されていないのは何故ですか?」  このAIには事前に使用人のデータが入っているが、それはランクや実績だけではなく、使用人のくすぐり対する感度も入っている。つまり、どこをくすぐられたら特にくすぐったく反応するか、というものだが、それを数値化し具体的にどの部位がどれだけ弱いかを示している。 ケイ 「おそらく、エイミーの尋問官としてのトレーニングの為だろう。この感度の数値化とAIの技術は、“滝 音葉”という他国の研究者が作ったらしいが、敵であるスパイのデータは、機械が実際に全身を責める、もしくは一定時間その素肌を直接見ないと分からないらしい。だから我々が実際に責める際は、相手のどこが弱点なのかを自分で探し出さなければならない。だからそのトレーニングをさせようという事だろう。」 エイミー 「なるほど……。それから、3つ目の罰の内容が表示されていないのは何故でしょうか……?」  エイミーの言う通り、モニターには3つの罰とあり、箇条書きで1つ目、2つ目と書かれているのだが、3つ目と書かれた所にその罰の内容は記されていなかった。 ケイ 「これは初めてのパターンだ。私も分からないが、2つ目まで終えたら表示されるのかも知れないな。さて、そろそろ始めようか。」 エイミー 「あっ、はい……!」  ケイはAIに指定された位置で立ち、エイミーに罰を始めるように指示をする。 ケイ 「では私への罰と、エイミーの尋問訓練を始める。」 エイミー 「はい!お願いします…!」 ケイ 「まず、くすぐり拷問を行う尋問官にとって大事なのは、相手の僅かな反応で身体の感度を見極める、指先の感覚だ。自分の指先から伝わる相手の反応、それを如何に感じ取れるか、その反応が反射的に出たものなのか、演技で反応したフリをしているのか、それを全て指先で感じなければならない。」 エイミー 「プロの技って感じですね……。でもくすぐったかったら笑いますよね?相手も我慢するとは思いますけど、口元が緩んだりはしますよね?それで判断する事も出来ませんか?」 ケイ 「うん、良い質問だ。確かに表情に出る相手もいるだろう。だが、我慢強い相手ほどくすぐったくても表情には出さないものだ。だが身体の反応だけは抑えられない。それに、責める向きの問題もある。」 エイミー 「向き、ですか?」 ケイ 「相手から見て、正面からくすぐられるのと、背後からくすぐられるのでは、感じるくすぐったさが変わるという実験結果がある。」 エイミー 「あ、でもそれ分かります…!後ろからくすぐられた方が、少しくすぐったい気がします。」 ケイ 「その通りだ。これはくすぐられる側が、相手がどこを責めてくるのか分からないから、というのが大きな理由だ。表情、つまり目線も見れない為、それも相手の行動を読めない要因になる。だからまずは背後からくすぐって、私の弱点を探す訓練をしよう。」 エイミー 「わかりました。じゃあ、始めます…!」  エイミーのその合図でケイは両腕を上げ頭の後ろで組んで、くすぐられる準備を整えた。それを理解し、エイミーはケイをくすぐり始める。 エイミー 「まずはやっぱり……。」  エイミーが最初にくすぐる場所として選んだのは、自身の弱点でもある腹部。カットシャツの裾からすでに腹部は露出しており、その隙間から両手を入れケイの脇腹にその手を添えると、その手をゆっくりと上下に擦るようにくすぐり始める。 ケイ 「…………………。」 (成程。)  エイミーのくすぐりがまるで効かないのか、ケイは無反応だった。それどころか、エイミーのくすぐり方を分析する余裕まであった。 エイミー 「あれ……?効かないんですか……?」 ケイ 「効いているのかどうかをその手で確かめるんだ。勿論今はエイミーの訓練だが、そもそもの目的は私への罰だ。遠慮せず好きな所をくすぐってくれて良い。」 エイミー 「はっ、はい。じゃあ……。」  やはり自分を指導する先輩の身体を触りくすぐるという事そのものに抵抗があったエイミー。ケイは、エイミーのくすぐる手付きでそれを感じ取りアドバイスをしたのだ。それを受け、エイミーは明確にくすぐりという行為を与えケイを笑わせようと努め、指をわしゃわしゃと動かした。 ケイ 「………………。」 (これは──)  それでもケイは無反応だった。笑い声など勿論出さず、身体の反応すら無くエイミーは困惑する。 エイミー 「えっ……、これでも笑わないんですか……?」 ケイ 「だがくすぐり方は良くなった。色々なくすぐり方、色々な場所を責めて、私の反応の違いを見逃さないようにするんだ。」 エイミー 「はっ、はい…!頑張ります…!」  改めて意気込んだエイミーは、脇腹からお腹の方へとずらし、指先でモゾモゾとくすぐり始める。 ケイ 「………………。」 (やっぱり、エイミーは責める側に向いているかも知れない。)  くすぐられる場所が変わってもケイは無反応だったが、しっかりとくすぐったさは感じていた。そしてエイミーの隠れた才能に気付き始めたのだ。 エイミー 「う〜ん、全然ダメだ……。」  一方のエイミーは自分の才能など知りもせず、ケイが無反応だった為に早くも気持ちが折れかかっていた。 エイミー 「先輩、くすぐったくないんですか?」 ケイ 「さあな。それを自分で確かめるんだ。スパイだって自分から弱みなど見せないぞ?」 エイミー 「そうですけど……。じゃあ、ここはどうですか?」  いつまでも無反応なケイに対し、エイミーも負けじとくすぐる場所を変え応戦する。 ケイ 「………………!」 (今のは、少し危なかった。)  エイミーが次に責めたのはケイのへそ。お腹をくすぐっていた右手がす〜っと下に移動し、その人差し指でへその穴をカリカリと引っ掻くようにくすぐったのだ。その手付きはまるで優秀な尋問官の責めのようで、ケイは思わず身体が反応してしまいそうになるのを必死に堪えた。ただそれは、ケイが比較的くすぐりに強い体質である事、そして腹部が弱点ではなかったから耐える事が出来たのだ。 エイミー 「私、こんな事されたら絶対笑っちゃいます。」 ケイ 「ここは特にエイミーの弱点だからな。」 エイミー 「うぅ……、なんかくすぐってる私の方がくすぐったくなってきました……。」 ケイ 「良い事だ。つまりそれだけ的確な責めが出来ているという事だろう。」 (成程。自分の弱点だからこそ、よりくすぐったい責め方が分かるのか。)  自分のくすぐりに弱い所ほど、どうくすぐられたらくすぐったいのか、どんな責め方が苦手なのか、それを自分がよく理解しており、度重なるミスで散々責められてきたからこそエイミーは腹部を責めるのが上手かったのだ。 エイミー 「ホントですか……!?やった、上手くできてるんだ……!でも、あまりにも身体がムズムズするので、別の所をくすぐります。」 ケイ 「あぁ、色んな所をくすぐって、まずは私の弱点を探してみるんだ。」 エイミー 「はい、じゃあ……。」  ケイのお腹から手を離したエイミーは、その両手をすっと上の方へと移動させた。 ケイ 「………………!!」  続いてエイミーが狙いを定めたのはケイの両ワキだ。ノースリーブのカットシャツを着用しているケイは、腕を上げたままの姿勢をキープしている為その露出したワキが無防備に晒されており、くすぐるのには恰好の的となっていた。 ケイ (危なかった……。)  そのワキにエイミーの指が触れると、サワサワと撫でるようなくすぐりが始まった。相変わらずケイは無反応だったが、内心かなり焦っていた。 ケイ (くっ……、やはり、ワキはかなりくすぐったいな……。)  ケイは比較的くすぐりに強く、また人一倍我慢強い。だから大抵のくすぐりは一切反応せず耐える事が出来るが、唯一ワキだけは敏感でケイの弱点だったのだ。どんなに我慢強くても、弱点はやはり特にくすぐったいと感じてしまう。まだくすぐり方が優しかった為に、何とか耐える事が出来ただけで、もしこの体勢のまま激しくくすぐられたら、と思うと焦りを感じるのも無理はない。 エイミー 「ワキも無反応ですか……。じゃあもう少し強く……。」 ケイ 「…………っ!!」  撫でるようにワキを刺激していたエイミーは、その指を少しだけ強く動かした。それに対し、ケイはまだ何の反応も見せなかったが、焦りは更に強くなっていた。 ケイ (あぁ、これはやばいっ……。くすぐったい……!)  手のひらや指全体で撫でていた優しい刺激と違い、指を動かし引っ掻くような動きが加わった途端、ケイが感じるくすぐったさが急激に変わったのだ。 ケイ (ワキをくすぐられながら腕を上げ続けるのがこんなに辛いなんて……。これは相当マズい……!)  自らの失態の責任を取る為、そして後輩の教育の為に、腕を上げ続けこのくすぐりを受け入れなければならない。勿論ケイはその苦痛を受けながら耐える覚悟だったが、予想以上にこのくすぐりが辛く、ケイの覚悟を身体がへし折ろうとしていた。 エイミー (う〜ん、先輩はホントに凄いなぁ……。どこをくすぐっても無反応だ。お腹周りも、ワキも弱点じゃない、って事?じゃあ先輩の弱点はどこなんだろ……。)  それでもケイが必死に耐えていた事もあり、未だワキがケイの弱点だとは気付いていないエイミー。そもそもエイミーにとって、弱点も分からない上に我慢強いケイから弱点を見つけ出すのは至難の業だった。 エイミー (お腹周りでも、ワキでもなければ……、あとくすぐりに弱い有名な場所は足の裏だけど……。) ケイ 「んっ…………!?」 (おっ、おい…!くすぐり方が強くなってるぞ……!?)  無心にケイをくすぐっていたエイミーの指に力が入った事で、ケイは更に強いくすぐったさに襲われてしまった。それにより思わず息が漏れてしまったが、身体を反応させない事に集中していた事もあり、何とかその反応は押し殺す事が出来た。そして幸いにも、考え事をしていたエイミーにその吐息は聴こえていなかった。 ケイ (駄目だ……!くすぐった過ぎて口元が緩んでしまう。エイミーに顔を見られていたら、私がくすぐったがっている事がバレてしまっていた。後ろからくすぐられているのが功を奏したが、このままでは耐えきれない……!) エイミー (あれ?でも足の裏が先輩の弱点だったとしたら、AIが腕を上げて我慢させるような罰を考えるのかな……?そう考えたらお腹とかワキが弱点だと思うんだけど、何で先輩はくすぐったがらないんだろう?) 「う〜ん、困ったな……。」 ケイ 「…………っ!!」 (それはこっちの台詞だ……!いつまでワキをくすぐるつもりなんだ……!)  ケイの無反応さに頭を悩ませるエイミー。一方ケイは自分が罰を受ける立場なのも忘れ、ワキをくすぐるエイミーに憤りを覚えていた。 エイミー 「先輩、ワキってどうくすぐったら、よりくすぐったく感じますか?」 ケイ (そうだった……。私は自らの失態の責任を取らなければならなかったんだ。あまりのくすぐったさに私の成すべき事を忘れていた。)  自分が今受けていたくすぐりは、エイミーの尋問官としての訓練でもあった事を思い出した。にも関わらず、弱点のワキをいつまでもくすぐっていた事に腹を立ててしまった事を、ケイは反省した。 ケイ (私とした事が……、このくすぐりの本来の目的を忘れてしまっていた……。これも反省しなければならないな……。) 「そう、だな……。指を全部使えば……、その分くすぐったいのは間違いないが、意外と、……その、人差し指だけで、引っ掻くように……、くすぐるのも、効果的だ。」 エイミー 「人差し指ですか……?成程、じゃあ試してみます。」  そう言ってエイミーは、ケイの教え通りに人差し指を使ってワキをくすぐり始めた。 ケイ 「…………っ!!!」  自ら責め方を教えただけあって、その刺激に備える事は出来たのだが、あまりのくすぐったさに、ついに身体がビクッと反応してしまったのだ。 エイミー 「あっ……。先輩、今──」  そしてその反応は当然エイミーにも伝わっていた。ついにケイが分かりやすい反応を見せた事で、エイミーは思わずケイにその真意を確かめようとするが── ケイ 「い……、いや、気のせいだ。」 (くそっ……、つい体全体で反応してしまった……。本当は指先に伝わる反応だけで、私の弱点を見つけさせたかったんだが……。それにしても、何故私は強がってしまったのだろう……?)  ケイは、思わず身体が反応してしまった事を、素直に認められなかった。エイミーの訓練の為か、己のプライドが許さなかったのか、それはケイ自身もよく分かっていなかった。ただ何となく強がってしまったのだ。 エイミー 「へぇ〜、そうですか。じゃあもう少しくすぐりますよ?」 ケイ 「…………好きにすれば良いんじゃないか?」  つい強がってしまったケイのその言葉にエイミーは、“優秀な憧れの先輩を自らの手で責める楽しさ”を味わい、顔をニヤつかせながらわざとケイを煽る。それに対しケイも引っ込みがつかず、あくまでしらを切り余裕を見せた。 エイミー 「確か、人差し指で引っ掻くのがワキには効くんでしたよね?こうやって……。」 ケイ 「んっ……!」  わざとらしく教わったくすぐり方を実践するエイミー。その人差し指による責め方があまりにもケイにとってくすぐったく、つい声を漏らしてしまったのだ。 エイミー 「あれ?先輩、今声が──」 ケイ 「気のせいだと、……言っているだろう?」 エイミー 「じゃあ、我慢して下さいね?」  ワキの筋に沿って人差し指をなぞるように動かしたり、ワキ全体をツンツンと突っつくようにと、わざとギリギリ耐えられるような責めを行いケイを翻弄するエイミー。 ケイ 「んんっ……!?くっ、……んん!!んっふ……!くぅ…………!!」  エイミーに挑発されそのプライドを傷付けられたのか、ケイは今まで以上に必死に我慢するが、やはり弱点をこれだけくすぐられては声を完全に抑え込むのは不可能だった。 エイミー 「先輩、ワキが弱点なんですね❤」 ケイ (やはりバレてしまったか……。だが、何故だろう……。素直にそうだと認められない……。) 「どうだろうな……?」 エイミー 「えいっ……!」 ケイ 「んぃいっ……!!」  不意にワキを人差し指で突っつかれたケイは、堪らず身体を捩りながら小さな悲鳴のような声を上げてしまった。 エイミー 「ふふっ……、先輩、くすぐったそうですね❤」 ケイ 「くっ……!そんな事っ……、んんっ!」 エイミー 「ほら先輩、ワキがくすぐったいんじゃないんですか?身体動いちゃってますよ?いい加減認めて下さいよ!」 (やばい、先輩をくすぐるの、楽しい……❤) ケイ 「んんっふふ、いっひひひ……!!んぃぃいっひっひっひっひっ……!!」  我慢の限界を迎え始めたケイの身体がくすぐりを拒絶して、本能のままに動いて抵抗しようとしてしまう。その上、口元も緩んでしまいついに笑い声が漏れ出してしまっていた。 エイミー 「あっ、ちょっとだけど先輩が笑ってる……!あの憧れのクールビューティな先輩が……、私のくすぐりで笑わされてる……!」 ケイ 「う、うるさいぃ…!っひひひ、んんっくっくっくっ!笑ってなんか……!」 エイミー 「まだ誤魔化すつもりですか〜?ここ、先輩の弱点なんですよね〜?」  先程までとは違い、明らかにくすぐったそうな反応をしてしまうケイ。もはやワキが弱点なのは明白で、エイミーもそれを確信し執拗にワキの窪みを責め続ける。 ケイ 「うひひひ…、んんっふふふ……!!」 エイミー 「あれ?先輩、腕下がってきてませんか?」 ケイ 「きっ、気のせいだぁ……!」  必死に強がってはいるが、腕が僅かに下がっている事をエイミーに指摘されてしまう。それを誤魔化そうと腕を再び上げるが、やはりすぐにその腕はケイの意思に反し勝手に下がってしまう。 ケイ 「んんっ……!っくく、これはっ……、っくぅ……、くすぐったい……、フリを……、ひぃっ……!しっ、してる、だけだ……!」 エイミー 「そうですか……。じゃあ、もっと良いワキのくすぐり方を教えて下さい!くすぐったいフリをしてるだけですもんね?」 ケイ (それはつまり、私が一番くすぐったく感じるくすぐり方を教えろと言う事か。) 「んくっ……!っふふ……、い、良いだろう……。」  自分がどんな立場に置かれていようとも、後輩の訓練において、自分が辛い思いをしたくないが為に嘘を教えるなど以ての外だ。それに、より良い方法があるのにそれを黙っているのも、教える立場の人間として問題だろう。それが例え、自分をより苦しめる事になろうとも、罰を受ける立場のケイには関係ない。 ケイ (私の弱点も見破られてしまった訳だし、一番敏感な所をどうくすぐるのが良いのか、それを教えるのも私の務めか。) 「くっ……!そ、そうだな……。ワキの中でも……、んんっ!!……っふふふ、特に敏感なのは……、っきひひひ……!く、窪みの部分だ。んっふ……、そこをくすぐったら、結構くすぐったいと、思うぞ……?」 エイミー 「窪みの部分ですか。……この辺ですか?」 ケイ 「うひぃいぃぃ……!!」  ワキの窪みを人差し指でサワサワとくすぐられたケイは、そのくすぐったさに堪らず悲鳴を上げ悶絶する。 エイミー 「おぉ、良い反応しますね〜!もっとくすぐっちゃいます❤」 ケイ 「んぃいいぃいっひひひひひひひ、んん………!!っふふふふふふふ!!」  耐え難いくすぐったさに、ケイの腕はまた少し下がってしまう。また、その笑い声も抑えられず漏れ出してしまう。歯を必死に食い縛り我慢しているが、明らかにくすぐったそうにしており、身を捩りながらそのくすぐったさと戦う事しか出来なかった。 エイミー 「ほら先輩、腕下がってますよ!もっとあげて下さい!」 ケイ 「ひっひっひっひっひっひっ!!むっ……、無理ぃひひひひひひ……!!」 エイミー 「でも口開けて笑ったり、腕を完全に降ろさずに耐えてるのは流石ですよね。私だったらすぐ逃げちゃいそうですし……。」 ケイ 「少し、っひひひひ……!ポイントが、んんっく、ズレている、からな……!いっひひひひひ……!!」 エイミー 「そうなんですか?」  ケイの弱点はワキ。その中でも窪みの部分が特に弱い。だが、ワキの窪みといっても、そこ全体が全て同じくすぐったさを感じる訳ではなく、中でもピンポイントにくすぐったい、最大の弱点があるのだ。 ケイ 「もう少し、っひひひひひ、下の……。」 エイミー 「下……?」  ケイの誘導に従い、エイミーはくすぐる場所を少し移動させながら確認する。 ケイ 「ういいぃい!!っひひひひひ、そこの、うひひひひひ、もう少し……、内側──」 エイミー 「ここ?」 ケイ 「そこぉ……!!っひひひひひ、んいぃぃいぃっひっひっひっひっひっひっ!!そこを、っくくくくくくく、もっと……、人差し指で、っひひひひひ、激しく引っ掻くようにぃいっひっひっひっひ!」 エイミー 「こうですか?」 ケイ 「それぇえぇえっへへへ、いぃいっひっひっひっひっ!!」 エイミー 「ココをこうやってくすぐるのが、先輩にとって一番くすぐったいんですね!」 ケイ 「ダメっ……、やっぱり、そこはっ……、ひひひひひ、くすぐるなぁ……!」 エイミー 「駄目ですよ?これは先輩のお仕置きなんですから❤」 ケイ 「くっくくく、んんー!っひひひひひ、もう……っきひひひひ、無理ぃ──」  自分の最大の弱点を、最も辛いくすぐり方で責められて、身体を動かさず、声も出さずに耐える事など出来る筈もない。そんなケイは、ついに限界を迎えるのだった──


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