因果応報1 〜翼編①〜
Added 2024-07-22 23:57:01 +0000 UTC熾月 「今回のターゲットは、大手アパレルブランド企業よ。」 翼 「ついに本命を探るのね。ま、相手がどこだろうと私のやる事は変わらないけど。」 熾月 「いよいよこの業界の事業も、あそこを落とせば私の物ね。じゃあ、いつも通りお願いね。」 翼 「了解。」 私の名前は天ヶ瀬 翼(あまがせ つばさ)。職業はスパイ。日下部 熾月(くさかべ しづき)というとある企業の社長の依頼で、敵対する企業の情報を探るのが仕事だ。まあ、所謂裏社会の人間だ。 元々私は、金目の物を盗みに熾月の会社に入った泥棒だった。だが熾月に見つかってしまい、警察にそのまま捕まる事も覚悟していたのだが、熾月に私のその罪を許す代わりに、ライバル企業へ潜入するスパイとして働いて欲しいと持ち掛けられ、今の関係性に至った訳だ。まあ身寄りのない私はこうやって悪事でも何でも働いて生きるしかないから、暮らせるだけの金が貰えるなら何だってやるつもりだし、捕まったら捕まったで、それまでの人生だったと割り切るだけだから、その提案に乗り専属のスパイとなったのだ。 私が今潜入したのは、この国、いや全世界でも一番有名と言っても過言ではないアパレルブランドの大手企業である。そして、様々な業界に手を出してきた熾月にとって、今の最大のライバル企業だ。私はこの企業の、戦略、経営方法、会社の体制などあらゆる情報を探り、それを熾月に流す事。その情報を熾月がどうする気かは私には関係ないし、興味もない。ただ私は潜入先の企業の情報を得るだけだ。 翼 「この部屋ね。」 早速この企業の社長室へ辿り着いた私は、デスクの引き出しを探し資料を漁る。 翼 「紙の資料は無し。データを保存しているであろうハードディスクやUSBメモリの類も無い……?って事はパソコンに入っているのかしら。」 私はデスクの上にあるパソコンに電源を入れる。ちなみに、大概のパソコンは起動しても暗証番号によるロックが掛かっている。だが私にはハッキング技術も持っているから何の問題もない。 翼 「やっぱりロック画面か。まあ別にこの程度なら……。」 私はいつも通り、特殊な装置をパソコンに繋ぎハッキングしていく。そして暗証番号のロックを潜り抜ける事に成功した私は、手当たり次第にパソコン内のフォルダを漁った。 翼 「大手企業の割に随分手抜きな管理ね。パソコン内にしかこういうデータを残していないなんて。」 私の度重なる経験上、紙での保存を避ける企業は確かに多いし、そういう場合はデータによる保存のみになるが、それなら普通はバックアップなどをする筈だ。まあバックアップのUSBメモリ等は社長が常に持っているのかも知れないが。 翼 「人事、商品開発、顧客リスト、この辺は全部フォルダごとデータを貰っとこうかしら。」 あらゆるデータが会社から消えれば、当然その企業は仕事が出来なくなるかも知れないし、その企業の顧客からの信用も失いやがて崩壊するだろう。だがこれが熾月の望みである。私もその熾月に雇われている以上、ターゲットの企業になど何の同情もしない。勿論不運だろうとは思うが、私は気にしない。ただ依頼された目的を果たすだけである。 翼 「さて、これぐらいで良いかしらね。」 熾月が求めそうなデータは全て手に入った。後はさっさとここから退散するだけ── 『侵入者発見。侵入者発見。社内の扉をロックしめした。従業員、警備員は直ちに侵入者を確保して下さい。繰り返します──』 翼 「っ!?」 大きな警告音と共に鳴り響く機械のアナウンス。突然の事に驚きながらも、私はここから脱出する為に急いで社長室を後にした。 翼 (誰かがここに侵入してバレた……?いや、ただの泥棒なら企業の本社より店舗や銀行など金が確実にある場所を狙う。この警告音は間違いなく私の事を指している。なら何故このタイミングに警告音が……?) 来た道を戻りながら、私はこの状況を必死に考えある1つの答えに辿り着いた。 翼 (そうか。これこそがこの企業最大のセキュリティ。データが盗まれた事がトリガーとなり、警告音を出す仕組みだったのかも知れない。) 一見手抜きに見える管理体制。だがそれはスパイを油断させる為のもの。誰もデータを盗もうとしなければ、どんなに甘い管理体制でも何の問題もないし、実際に盗もうとする私のような輩に対しては、データを盗った事が何よりの犯罪の証拠であり、私をこの建物内に閉じ込め捕まえる事も出来るという訳だ。 元々ここへは、扉からではなく音を出さずに窓ガラスを一部割り、鍵を外し窓から侵入している。その為、扉がロックされようが私には関係ない。 翼 「なっ……!?くそっ……!」 そう思っていたが、私が侵入した窓のあった廊下への道がシャッターによって封鎖されてしまっていたのだ。 翼 「こっちも……!?」 さらに、いつの間にか私を閉じ込める様に、反対側にもシャッターが降ろされていた。それはまるで私の退路を計算していたかの様に、私のいる場所だけを遮っていた。これには流石の私も慌ててしまった。そして思わず嫌な予感が私の脳内を過った。だがその嫌な予感を払拭するべく、私は諦めずに行動した。 他の廊下の窓はやはり鍵が動かせないようにロックされている。ならば窓を直接割るだけだ。どうせ私というスパイが侵入している事がバレているなら、ガラスが割れる音を立てようが関係ない。寧ろ、これしか脱出する手段もない。 そう思った矢先、私を閉じ込めるこの空間に、勢いよくガスが噴射され、一瞬にしてこの空間に充満してしまった。 翼 (まずい…!) 私は慌てて両手で鼻や口を塞ぎ、ガスを吸い込まない様にする。だが、両手が塞がれては窓ガラスを割る事も出来ない。それに、どんなに塞いでもガスは私の僅かな手や指の隙間から入ってきてしまい、やがて私はこのガスを吸い込んでしまうだろう。 やはり嫌な予感が的中してしまった。あの警告音はデータが盗まれた事をトリガーにした訳ではなく、初めから私には見えない監視カメラが私をずっと捉えられていたのだ。それを見ていた誰かが、嘲笑いながら私を手のひらで踊らせ、退路を断つ様に閉じ込めたのだ。 この仕掛けに気付いた頃、私はそのガスにやられ気を失ってしまった── 翼 「………んっ、んん…………………。」 ??? 「おはようございます。」 私が目を覚ますと、スーツ姿の女性が私の目の前に立っていた。よく見るとそのスーツは袖がカットされた、所謂ノースリーブのデザインで、インナーは胸元だけを隠す程度のチューブトップ。ボトムスも太ももから下の脚全体を晒すタイトなミニスカートという格好で、キリッとした目つきの冷静そうな顔とは裏腹に露出度の高い大胆な服装だった。 翼 「くっ…!何よこれ…!?」 その女の大胆な格好もだが、それ以上に驚いたのは私の状況だった。勿論、こうなる可能性も考慮はしていたが、実際にこういう目に遭うとやはり恐怖心というものが脳を支配してしまう。 私、気を失っている間にこの無機質で殺風景な部屋に運ばれ、両手首を斜め上に伸ばすように鎖付きの手枷に拘束されてしまったのだ。 だけど、どういう状況に置かれようが冷静さを欠いてはいけない。だから私は慌てずにこの女と話し始めた。 翼 「……あんたが私をカメラか何かで観てた奴?」 ??? 「何故カメラで観ていたと?」 翼 「あんなピンポイントに私のいる場所だけ閉じ込めるシャッターが起動した時点でカメラか何かで観て操作してたんでしょ?」 ??? 「残念ながらその推理は間違っておりますね。私のパソコンが私以外の人間によって起動、操作されると会社内にアラームがなり、建物内を移動する人物を捕獲するようにトラップが仕掛けられているんですよ。ちなみに、全てAIによってプログラミングされており、トラップも完全にオートメーション化されています。」 翼 「へぇ〜、随分金の掛かる仕掛けじゃない!たかがアパレル企業がそこまで金を掛けて侵入者対策するなんて、普通じゃないわね。」 警備員に発した『侵入者を確保しろ』という警告は、侵入者である私を騙す為の指示で、実際には従業員含め会社内の人間に、『部屋から出ずに待機しろ』という指示だったのかも知れない。 それにしても、いくら世界トップクラスのアパレル企業だからって、侵入者をガスで眠らせるとか、鎖と手枷で拘束とか、そこまでするのか?と疑問に思わずにはいられない。 ??? 「…………なるほど。」 なるほど、って何? いや、そもそもあんなトラップを仕掛けるという事は、この企業は私のような人間が侵入する事を想定していると言う事だ。つまり、ただのアパレル企業ではないという訳だ。 ??? 「いえ、こちらの話です。あぁ、申し遅れました。私、宮舘 泉美(みやだて いずみ)と申します。」 やっぱり。そんな気はしていた。宮舘 泉美とはこのアパレル企業の女社長だ。熾月も若くして様々な事業を行うやり手の女社長としてメディアでも話題になったらしいが、確かこの女は熾月よりも年下だった筈で、この女もメディアに取り上げられていた為、その名前は記憶にあった。 翼 「それで?この大手企業の社長さんが、私を捕まえて、一体何をしようって?」 泉美 「決まってるじゃないですか。拷問ですよ。」 翼 「……!!」 その物騒な言葉を耳にし、私は自分の運命を悟ると同時に、この女の素性も確信してしまった。 この女は、熾月と同じように裏の顔を持っているのだろう。でなければ侵入者を捕らえて拷問するなどという発想はまず出ない。仮に裏社会の人間でなくとも、何か外部に漏れてはまずい、隠したい事があるからこそ、私のような人間を捕まえる為の準備と情報を聞き出す手段を持っているのだ。 熾月は表の顔のこの女を狙っていた筈で、私もこんな事になるとは思ってもみなかった。ただ警察に捕まり牢屋に入れられるだけならと、犯罪も続けられたのだが、拷問を受ける事になると自覚させられると更に恐怖心が募る。 翼 「確かにあんたの会社の情報を盗んだのは認めるわ。でも、私が欲しかったのはアパレル企業のデータよ?あのパソコンを使っていたのがあんたなら、私が取ったデータが“表の顔”の情報だって事ぐらいわかってるでしょ?」 泉美 「ふっ、流石にここまでやればここが普通の会社でない事ぐらいは気づきましたか。ですが、さっきも言った筈ですよ。あなたがデータを取ったかどうかなど私は見ていませんし、カメラで録画している訳でもありません。」 そういえば、この女以外の人間が使った時点であの警告音がする仕掛けとか言ってたっけ。 泉美 「あぁ、それから、あのパソコンに入っているデータは全て偽装工作です。本当のデータは別の場所に保管しています。」 翼 「……あっそ。」 つまり私は偽のデータを掴まされた挙げ句こうして捕まり拷問を受ける訳だ。こんな屈辱的な事は無い。そんな怒りが恐怖心をいつの間にか上回り、絶対にこんな奴の拷問になど屈してたまるかと、強い対抗心が芽生えていた。 泉美 「私が求めている情報はただ1つ、あなたが誰に雇われたか、ですね。ちなみにですが、拷問に恐怖して今すぐその情報を吐くと言われても、私はそんな上辺の言葉など信用しませんよ?必ず拷問を行い屈服させ、正確な情報を吐かせます。」 翼 「誰が屈服なんかするって?拷問なんて怖くもないし、絶対にあんたなんかには屈しないわよ!」 怒りから生まれた対抗心に更に火がついた私は、わざとこの女を挑発した。実際、今の私は強がりでそういう発言をした訳ではなく、本当にこいつの拷問を耐え抜いてやろうと思ったのだ。 泉美 「そうですか。まあ精々その強気な表情を崩さないよう、頑張って下さい。必死に我慢しながら強がり、最後には屈して無様に“笑い悶える姿”こそ、私の望む至高の姿ですので。」 翼 「は?何よ笑い悶えるって。まるで私が笑うみたいに聞こえるけど?」 泉美 「えぇ、そう伝わる様に言いましたが?」 翼 「何言ってんのよあんた。これから私に拷問しようって言ったのはあんたよ?じゃあ何で拷問を受ける私が笑うのよ。」 泉美 「私が笑わせるからです。」 翼 「ふっ、何のギャグよそれ。そんな澄ました顔して意外と面白い事言うのね。」 泉美 「ギャグで言った訳ではありませんし、面白い事を言って笑わせる訳ではありません。」 翼 「じゃあ一体どんな拷問だってのよ。笑える拷問なんて聞いた事もないわ。」 泉美 「正確に言えば、“笑える”ではなく、“笑い悶える”ですね。」 翼 「笑い…、悶える……?」 笑うだけでそんなに苦痛を伴うとでも言うのか? 泉美 「はい。これは拷問ですから、苦しい思いをして貰う事にはなりますよ。」 翼 「だから、それが意味わからないって言ってんのよ…!拷問なのに笑うとか、笑うだけで苦しむとか…、私に一体何をする気?」 泉美 「わからないと言うなら教えて差し上げます。これからあなたに行う拷問は、“くすぐり”です。」 翼 「えっ……?く、くすぐり……!?」 泉美 「はい。あなたは私のくすぐり拷問によって、笑い悶えるという事ですね。」 なるほど。笑うって、そういう事ね。確かにくすぐられたら笑うわよね。って、呑気に考えている場合ではない。 翼 「ふ〜ん。随分、卑怯な手を使うのね。」 泉美 「卑怯?拷問に卑怯も何もないと思いますが?」 いやいや、どう考えても卑怯じゃない。こっちは腕を拘束されてるのよ?腕を拘束されてるって事は、一切抵抗が出来ないって事じゃない…! 泉美 「その様子だと……、どうやらあなたはくすぐりが苦手なようですね。」 そう、私はくすぐったがりなのだ。くすぐったがりな人間が、腕を頭上に上げるように拘束された状態でくすぐられるとか、卑怯としか思わないだろう。 翼 「寧ろくすぐりが効かない奴とかいる…?あ…、もしかしてあんた、くすぐりとか平気な女?」 確かにこんなクールぶった冷徹女がくすぐられてバカ笑いする姿は想像出来ない。 泉美 「いえ、私もくすぐったいのは大の苦手です。だからこそ、くすぐりを用いた拷問を行うのですよ。その拷問の苦しさはよく理解できますからね。」 翼 「へぇ〜、それは意外ね。あんたがバカ笑いする所も見たかったわ。」 泉美 「あなたがこの拷問に耐え、脱出できたら是非仕返しでもしてみたら如何ですか?くすぐりが苦手なあなたに、この拷問を耐える事など不可能でしょうけどね。」 翼 「言ったわよね?確かに私はくすぐりが苦手だけど、あんたには絶対に屈しないわよ。絶対に仕返ししてやるから、覚悟しておきなさい!」 こんな女でも笑い悶えて、苦痛を感じるくすぐり拷問。つまり私にとってもこの拷問は効果的で苦痛を感じるものという事だ。しかし、だからと言って弱気になる訳にはいかない。勿論私もくすぐりは苦手だし、笑うのを我慢するなんてできないかも知れない。 だが、それでも私は屈しないと決めたのだ。だからくすぐられると分かっても弱気になんかならないし、寧ろ強気に挑発して余裕を見せたのだ。 泉美 「それは楽しみですね。精々、必死に耐えて下さい。」 そう言って、この女は手に持っていたタブレットを操作する。いよいよ、くすぐり拷問が始まろうとしていた……。