レラ 「んっ………、んん…………?」 気を失っていたレラが目を覚ます。まだ意識がぼんやりとする中、自分の置かれている状況を確認するため辺りを見回した。 暗く無機質で何も無い部屋。窓や時計もなく、時間が一切把握できない地下室のようにも感じる。そしてレラ本人は、壁に背をつけるように立たされ、手首、足首をそれぞれ金属の枷に固定され、身動き出来ないようにされていたのだ。 腕は斜め上に持ち上げられ、両脚は肩幅に開いた状態で拘束されている。目が覚めた瞬間こんな状況にさせられていれば、誰でも冷静ではいられない。それは戦闘部隊の隊長であるレラも同じだ。 レラ (くっ……!何なんだこれは!何故こんな事に……!) 焦りながら枷を外そうと必死に身体を動かすレラ。だがネジ止めされた枷は人力でなど絶対に外れない。そんな中、自分が何故こうなってしまったのかを考え、気を失う前の事をようやく思い出したのだ。 レラ (そうか……。私は後ろから何者かに攻撃されたんだ……。一体誰が?私の部隊の中にテレサの部下が潜んでいた?いや、だとしたらその人間も私の部隊員達が制圧している筈だ。と言う事は…………。) 考えを巡らせたレラが辿り着いた答えは、あまりにもショッキングなものだった。 仮に裏切り者がレラを気絶させたとしても、その裏切り者は残りの部隊員達が制圧する。そして残りの部隊員達が、今度はテレサを制圧する。それがなされれば、レラはこんな場所に拘束される事などなく、組織の医務室などで寝かされる筈だ。にも関わらずレラがここに拘束されていると言う事は、テレサを制圧出来なかったという事になる。 それはつまり、部隊員の中に裏切り者がいるのではなく、部隊員全員が裏切り者だと言う事に他ならない。それならレラがこうして拘束されている理由も、テレサが冷静にレラを心配するような素振りを見せた理由も、全て納得がいくのだ。 レラ 「くそっ……!」 まだこれは仮説に過ぎず、自分が裏切られたという保証もない。だが他に考えられる理由がない。仮に複数人が裏切ったとして、部隊員が敗北したとしても、それならば部隊員も全員ここに拘束される筈であり、自分一人が拘束される理由にならない。寧ろこの事実が、部隊員全員に裏切られた証拠とも言えるのだ。 レラ 「とにかく事実を確かめなくては……。まずはここからの脱出だ。」 無駄だとは分かっていても、他に何も出来ない以上、レラは手足を動かしてこの枷を外せないか試みるしかない。 そうしている内に、この暗い部屋にも目が慣れてより周りを見渡せるようになる。そこでレラは初めて気が付いた。 レラ 「なっ……!」 (もう一人いたのか……!?) レラの右隣。少し離れた位置に、もう一人同じように拘束され気を失っている女性の存在を初めて認識出来たのだ。 レラ (部隊員ではない……。この服装……、もしや潜入捜査組織の人間か?) 部隊員同士は直接顔を合わせる事はない為、潜入捜査組織の人間がどんな服装かもレラは把握はしていない。だが、そこに拘束されている女性は、まさにスパイだと言わんばかりのレザー生地の衣装を纏った女性ならば、そう思うのは必然であろう。 レラ (そうだ。今回、潜入捜査員から取締保安部隊に証拠が送られて、私達戦闘部隊が緊急出動となった。その戦闘部隊員が私を裏切ったという事は、テレサは私達がここへ来る事は知っていた筈だ。つまり、潜入捜査員が潜入する事も分かっていた……?わざと情報を見つけさせ、私をここへ来させるキッカケを与えたんだとしたら、潜入捜査員も私と同じで組織に裏切られここに拘束される理由になる。) 「おいっ…!起きろ!」 ??? 「んんっ……。な、何……?…………!?なっ、何よこれ!!」 レラ 「目が覚めたか。私は取締保安部隊に属する戦闘部隊、隊長のレラだ。」 シオン 「取締保安部隊!?私は潜入捜査組織のシオンよ。私はテレサという女の悪事の証拠を取締保安部隊に送ったんだけど……。」 レラの隣に拘束されていたのは、地下室で催眠ガスによって眠らされてしまったシオンだったのだ。シオンもまた、金属の枷により手足を拘束されていた。 だがレラとは違い、壁に直接ネジ止めされた枷に拘束されているのではなく、壁に取り付けられたフックと彼女を拘束する腕輪のようなタイプの枷のフックが繋がれて拘束されていたのだ。腕は頭上に纏めるように、それぞれの枷のフックが1つの壁のフックと繋がれ、脚はレラと同じように肩幅に開き拘束されている。 フックは短く、手足を僅かにずらす程度の動きしか出来ず、シオンもまともに身動きがとれない状態である。 レラ 「やはり潜入捜査組織の人間か……。」 シオン 「やはりって……?何か知ってるの?」 レラ 「どうやら私とお前は、組織そのものに裏切られた可能性が高い。」 自分がここに置かれた経緯、これまでの流れから導き出した仮説、レラはそれらを全てシオンに話した。 シオン 「あまりにもショックだけど……、確かに辻褄は合うわね……。でも仮にそれが本当だとしたら、テレサって一体何者なの…?潜入捜査組織と取締保安部隊があの女に従ってるって事でしょ?」 レラ 「そう言う事になるな……。取締保安部隊はこの国の法を守りそれを取り締るトップ組織だ。その上層部が奴に屈したなど、正直思いたくないが、他にこうなった原因を考えられる理由がない。」 シオン 「組織のトップそのものが、悪事に手を染めていたのかも知れないわね…。」 レラ 「屈したのではなく、最初から手を組んでいた、という事か……。」 二人が現実を受け入れられずショックを受ける中、突然二人の正面に位置する扉の鍵がガチャンと開く音が聞こえる。 レラ 「……!?」 シオン 「誰か、入ってくる……?」 扉が開くと廊下の光が薄暗い部屋を照らし、二人はその眩さに思わず目を瞑る。そして再びその扉が閉ざされ為目を開けると、そこには予想通りの人物が立っていた。 テレサ 「あら?二人ともお目覚めのようね❤」 レラ 「貴様ぁ……!」 その姿を見た直後、レラは怒りを露わにする。その握り拳で憎き相手の顔を殴ってやりたいが、枷による拘束がそれを阻んでしまう。 テレサ 「うっふふ…❤だから言ったじゃない。あなた自身の心配をした方が良いって❤」 レラ 「テレサ、貴様一体何者だっ!?」 テレサ 「私の名前はテレサ・マーガレット。それであなたの質問への答えになるかしら?」 レラ 「マーガレット、だと…!?」 その名を聞き、レラは全てを悟ってしまった。 シオン 「何なの……?」 レラ 「取締保安部隊の総帥の名は、オルト・マーガレットだ。」 シオン 「えっ……!?それって……。」 テレサ 「そう、私の祖父よ❤」 レラ 「取締保安部隊の総帥が悪に手を染めていたのか…!」 テレサ 「そういう事になるわねぇ。祖父がよく言ってたわ。取締保安部隊と潜入捜査組織にはそれぞれ優秀な若い女性がいるって。だけどこの世の中には必要悪もあって、その優秀過ぎる人間が必要悪を見つけ兼ねない、ってね。」 シオン 「それで私達が必要悪の為に犠牲になったって事……!?」 テレサ 「優秀過ぎるて上に捨てられるなんて、悲しいわねぇ❤」 レラ 「ふざけている……!!」 テレサ 「別に私は祖父に協力しただけよぉ?寧ろあなた達が憎む相手は私の祖父じゃない?」 レラ 「同罪だっ!その馬鹿げた思想に協力してる時点で、貴様も狂っている!」 シオン 「そうよっ!そもそも、あんただって犯罪者じゃない!」 テレサ 「なんとでも言いなさい。世の中の正義は法律に従う者じゃない。勝った者よ?」 部下 「テレサ様、お取り込み中失礼します。」 扉をノックする音と共に、部屋の扉が再び開かれテレサの部下が入ってくる。 部下 「彼女を連れて参りましたので、これから準備を致しますが、よろしいでしょうか?」 テレサ 「えぇ、お願いするわ。」 部下 「かしこまりました。すぐに取り掛かります。」 テレサと話す部下が、別の人間と共に一人の女性を部屋へと運び込む。 シオン 「あ、あなたは……!」 その運び込まれた女性は、シオンをここへ潜入するよう依頼メールを贈った、サヤであった。二人と同じように気を失ったサヤが、テレサの部下達に運ばれ、シオンとレラの間に立たされる。 両腕は真上にきつく伸ばされ、1つの枷が左右それぞれの腕を通して固定する独特な拘束具を用いて、サヤの腕は一切動かせないように完全に固定される。足も同様に、1つの大きな枷が左右それぞれの足を固定するようなデザインになっており、それらの枷に手足を固定されたサヤは、アルファベットのIの字のようなポーズで拘束されてしまった。 そして次に運び込まれたのは大きなモニター。それを壁に張り付けるように拘束された彼女達の目の前に設置する。モニターの電源が入ると、その上部に取り付けられたカメラが彼女達を捉え、それがそのままモニターに映し出された。それは例えるならば、三人を丁度そのまま映し出す大きな姿見鏡である。 そして最後に、暗い部屋に設置されていた蛍光灯が点き、ようやくまともなライトが照らされた所で部下達はその部屋を出ていった。 テレサ 「さあ、最期に私を楽しませてね❤」 そう言い残し、テレサも部屋を後にしてしまった。 レラ 「なぁ、シオン……、と言ったか?この女性を知っているようだったが…?」 シオン 「えぇ。彼女はサヤ。潜入捜査組織にテレサの罪の証拠を見つけて欲しいと依頼した女性よ。」 レラ 「何?それなら彼女はシオンを嵌めた張本人ではないか?」 シオン 「私もてっきり彼女に騙されたと認識していたけど、気絶させられた挙句、私達と同じように拘束されたって事は、テレサにとっては彼女も邪魔だったって事……?本人は薬物の取引を行う現場の指示役として働いていたって言ってたけど、テレサに弱みを握られて、仕方なくテレサの指示に従っていたって聞いたわ。」 レラ 「テレサからしてみれば、いつでも自分に牙を向ける飼い犬のような存在だったのかも知れないな。自身への反逆を機に処分しようと企んでいたのかも知れないな。」 シオン 「彼女のこの行動がキッカケで、全てが動き出したって訳ね。」 レラ 「まあ彼女に限らず、私がテレサを知り疑いを持ったり、シオンが別の誰かから依頼がくれば同じ事になっただろうな。」 シオン 「そうね。……そんな事より、なんとかここを脱出出来ないかしら。」 レラ 「私も手足に力を込めて枷の破壊を試みたが、びくともしなかった。シオンの枷はネジ止めされた私の枷よりフックで繋がれている分、破壊できる可能性は高そうだが、どうだ?」 レラの提案によりシオンも必死に身体を動かし拘束を解こうと試みる。だがやはり枷は壊れず、フック同士がガンガンと金属音を立てるだけで終わってしまう。 シオン 「……ダメね。こっちもびくともしないわ。」 レラ 「やはり難しいか……。だがこのままでは餓死してしまうし、奴らに何かされても抵抗出来なければ、どちらにしろ殺される事も充分あり得るからな。」 そう言ってレラは再び枷の破壊、あるいは枷を固定するネジが緩む事を願い必死に身体を動かす。その姿に「まあ仕方ないか」と無駄だとは分かりつつも一緒に抵抗するシオン。 部屋中に金属音だけが鳴り響く中、その音でサヤがようやく目を覚ました。 サヤ 「んっ………、んん………?な、何………?」 レラ 「目を覚ましたようだな。」 サヤ 「えっ……?」 シオン 「また会ったわね、サヤ……。」 サヤ 「シオン、さん……?」 シオン 「シオンで良いわよ。それより、この状況理解できるかしら?」 サヤ 「………!?な、何よ……、これ……。」 シオンの言葉、そして目の前大きなモニターに映された拘束される自分自身を目の当たりにし、自分の置かれてる状況をすぐに理解したサヤは、その枷を解こうと必死にもがく。だが、肘を曲げた状態で拘束されたレラや、壁に完全に固定されていないシオンと違い、両腕で限界まで真上に伸ばされキツい体勢を強いられたサヤでは腕や足に力を込める事すら難しく、よりその拘束の頑丈さを思い知らされるだけだった。 サヤ 「くっ……!全く動けない……。」 シオン 「本当はテレサを逮捕して事件が解決してから再開する予定だったんだけどね…。サヤは何でここに拘束される事になったのか、何となく理解できる?」 サヤ 「……確か、部屋にいた所に突然テレサが入ってきて……、………そうだわ、何かスプレーのような物を吹きかけられて……。」 レラ 「気が付いたらこうなっていた訳か。サヤ、君もやはりテレサに切られたのかも知れないな。」 サヤ 「切られた……?まあ私とテレサの間には何の信頼関係もないし、テレサからしたら私はいつでも捨てれるコマだったでしょうけど、……あなたは?」 サヤとも情報を共有する為、レラは自分達のこうなった経緯、ここに至るまでの流れを全て話した。 サヤ 「私のせいでこんな事になってしまったのね。」 レラ 「まあ正直、結果はそうかも知れないが、シオンはともかく私ならいつか奴の悪事に気付き自ら制圧しようと行動したかも知れない。」 シオン 「私だって、誰かが依頼すれば今回のようにあの女の証拠を掴むし、そうなれば今回と同じ結果になったわよ。」 レラ 「そういう事だ。上層部が私達を陥れる為に動いていた以上、悔しいがこういう運命になるのは変わらなかっただろう…。とにかく、今は力を合わせて脱出する事を考えよう。」 サヤ 「…………そうね。でも、こんな拘束、どうにかなるの?」 シオン 「それよね…。サヤが起きる前も散々もがいたけど、やっぱりびくともしなかったわ。」 レラ 「他にする事もないから枷を解こうと努めたが、無駄に体力を消耗するだけで全く効果がない…。」 サヤ 「そう……。ん…?ねぇ、あれ。」 なす術なく、呆然と立ち尽くしていると、突然自分達を映す大きなモニターの映像が一瞬暗転したかと思えば、次に映し出されたのはテレサの姿だった。 テレサ 『うっふふ❤皆さんご気分はいかがかしら〜?』 シオン 「テレサ…!!」 サヤ 「くっ……!」 レラ 「良い気分な訳がないだろ…!」 テレサ 『あら、それは残念だわぁ。折角趣向を凝らした拘束で楽しませてあげたのに❤』 シオン 「何が趣向を凝らした拘束よ!これで私達がどう楽しめるって言うのよ…!」 テレサ 『その拘束にはしっかりと意味があるのよぉ?それに、これからあなた達に与えるお仕置きは、ちゃんと“楽しめる内容”になってるわ❤』 サヤ 「お仕置き……?」 レラ 「仕置きが楽しめるだと?ふざけるなっ!」 テレサ 『別にふざけてなんかいないわよ?あなた達が楽しめるように笑顔になれるお仕置きを準備したんだから❤』 シオン 「笑顔になれる……?って、何?どういう事?」 テレサ 『それじゃあ、私も忙しいからこれで失礼するわね。存分に楽しむと良いわ❤笑えるお仕置きを、ね❤』 レラ 「お、おい…!待て…!!」 テレサが通信を切断し、モニターは再び三人を映し出す映像に変わってしまった。結局、テレサの謎めいた発言の真意が分からないまま、それを確かめる術もなくなってしまった。 シオン 「な、何なのよ一体……、笑えるお仕置きって……。」 レラ 「くっ……!私達を一体どうする気だっ!」 サヤ 「笑える、お仕置き……。前に、聞いた事があるわ。」 その不可解な言葉に、サヤは心当たりがあった。それは以前、テレサが別の部下と話をしていた時の事。 薬物の売買をする中で、テレサはとある裏社会の人間と取り引きをする中で、裏切り者への制裁やスパイへの拷問を学んだと言う。その部下との会話でサヤが聞き取れたのは、その拷問はその苦痛とは裏腹に責められている人間が笑顔になる、という何とも想像しがた言葉だったのだ。 レラ 「本当か?一体どういう事なんだ?」 サヤ 「ごめんなさい。遠くで会話しているのを聞いただけで、それがどういったものなのかまでは分からないわ。」 シオン 「笑えるお仕置き……。言葉通りならそのお仕置きを受ける人間が笑うって聞こえるけど、お仕置きの内容がバカバカしくて思わず笑える、みたいな解釈もできるわね……。」 サヤ 「いいえ、拷問を受けている人間が笑っていたって聞いたわ。だから言葉通りの意味の筈よ。」 リラ 「つまり私達が何かされて笑うという事か……?」 シオン 「それはそれで意味わからないわね…。」 リラ 「だが1つだけわかる事は、私達は仕置きとして、拷問かそれに匹敵する何かをされるという事だ。」 シオン 「拷問か…。私は潜入捜査組織の訓練に拷問訓練ってのがあるけど、その中に笑うような拷問なんて無かったわね。」 サヤ 「拷問だなんて……一体何をされるのかしら……。」 どうしてもその得体の知れない拷問内容が気になってしまい、その不安と恐怖で身震いしてしまうサヤ。しかもこんな身動きできない無防備な体勢では何をされても抵抗が出来ない為、恐怖を感じるのも無理はない。 レラ 「無意味な事かも知れないが、少しその拷問の実態を推理してみるか。」 シオン 「そうね…。他にやれる事もないし、お仕置きするとか言っといて今の所何も起きないし。」 不安を抱いていたサヤと違い、レラとシオンはこの状況でも冷静だった。勿論、サヤも普段から冷静な性格であり慌てふためいている訳では無かったが、レラやシオンのその姿と比べると精神的な余裕は無かった。それがこの状況に置かれた人間の本来の姿ではあるが、レラとシオンはそれだけ普段から大きな修羅場を経験してきた、強い人間だとも言えるのだろう。 レラ 「まずは笑えるというキーワードで考えてみるか。苦痛を伴う拷問かどうかは置いておいて、普段自分がどういう場面で笑うか考えてみよう。」 シオン 「そうねぇ…。イメージだと友人との談笑とか、単純に何か嬉しい事や楽しい事があった時よね、普通は。後は、面白い事。例えばコメディアンの芸とか?」 レラ 「そうだな。笑顔と考えると、芸術作品や美しい風景などを見て感動した時などは顔が綻ぶだろうか。それから、笑いとは少し違うが、苦手な相手と上手くやるために愛想笑いをしたり、その場の空気を読むために苦笑いしたりはするな。」 サヤ 「私は……、普段から笑う事なんてないから、正直イメージもあまり出来ないわ…。あ、でも強いて言えば、テレサは今回みたいに人の不幸や自分の思い通りになった時の喜びで高笑いしてるわね。」 三人が思う、それぞれの“笑い”に関するシチュエーションを考えてみたが、この状況で笑えるという内容には程遠く、そもそもどれも拷問とは思えないものばかりだった。 シオン 「やっぱり笑える拷問なんて意味分かんないわね…。そもそも、笑いってプラス的な要素じゃない?拷問を受けるという状況がマイナス的なのに、それが矛盾してるのよ。」 レラ 「確かにそうだな……。だがテレサは笑える仕置きと言った。」 シオン 「笑えるって言い方、やっぱり引っかかるわ。」 サヤ 「どういう事?」 シオン 「笑えるって、つい笑ってしまうって感じよね?言葉の意味合い的に。」 レラ 「それが何だと言うんだ?」 シオン 「つい笑ってしまうって事は、自分で笑おうと思って笑うってよりは、笑いたくなくても“自分の感情とは裏腹に笑ってしまう”って感じしないかしら?そっちの方が“何かをされた人間”が起こす行動としては合っていそうよ。」 レラ 「つまり、“笑う”というよりは“笑わされる”に近いという事か?」 シオン 「そっちの方が責められるという状態とも合致するように感じないかしら?」 サヤ 「何かをされる事で、これから私達は“無理矢理、笑わされる”って事?」 レラ 「確かにその解釈の方があり得そうだ。だが問題は、結局何をされるのかが分からないという事だ。」 シオン 「そうね…。サヤ、テレサの今までの行動とかで何か他にヒントになりそうな事はないかしら?」 サヤ 「そう言われても……。…………あっ。」 日頃のテレサの行い、趣味嗜好など、彼女の思想を思い浮かべ考えたサヤが1つ思い浮かんだのは、彼女のとある好みだった。 サヤ 「あまりテレサの事も知らないけど、女性の服装にはかなり特殊なこだわりがあるみたいね。」 レラ 「服装?奴は普通のレディーススーツを着用していたようだが、普段着の話か?」 表向きは会社のCEOとして経営しているテレサは、清潔感もあり誰が見てもまともなスーツを常に着用している。その為、特殊なこだわりというものは全く感じなていないレラ。シオンもまた先程のモニターに映ったバストアップのテレサしか見ていないが、それでもよくあるレディーススーツという印象しか持たず、レラに共感するように頷いた。 サヤ 「彼女自身の服装じゃないわ。私を含め、自分が従える部下に着せる服よ。私以外にもこういう露出度の服装を強いられている部下がいるわ。」 レラが弱みを握り逆らえないように従えている部下はサヤだけではない。他にも数名の女性が同じ立場にいるのだが、その女性を含めた裏の仕事に関わる部下は全員サヤと同じぐらいの露出度のある服を着せられているのだ。 シオン 「そう言えば、その服はテレサに着せられてるって言ってたわね。」 レラ 「そうなのか?」 サヤ 「服の中にセンサーとGPSが仕込んであって、私はそれで常に監視されているのよ。前から気にはなってたけど、そういう機器を仕込むなら服の布が大いに方が本来は都合も良いじゃない?私以外の部下にまでこういう服装をさせているのは、テレサの趣味嗜好があるんじゃないかしら?それに……。」 レラ 「それに?」 サヤは恥ずかしがりながら言葉を詰まらせるが、意を決するように再び話し始める。 サヤ 「…………前にこの服を着た状態で、……か、身体を触られたり、ポーズを取らされた事があったわ……。」 シオン 「ポーズ……?」 サヤ 「モデルがするようなポーズよ。今思えば、腕を上げるような仕草のポーズが多かったような気がする。」 レラ 「奴は変態同性愛者なのか……?」 シオン 「同性愛者かどうかは分からないけど、露出した身体を触るとか、ポーズを強いるとかってのは確かにそういう嗜好を持っていそうよね。」 レラ 「そう言えば、私達に施したそれぞれの拘束にも意味があると言っていたな。今の私達はサヤが強いられた腕を上げるポーズだ。」 シオン 「それに、私とレラの肌の露出度も、サヤが着せられた服と似てない?これって、偶然なのかしら……?」 サヤ 「確かにそれは私も思ったけど、二人は優秀すぎるから組織に裏切られたって話じゃなかってかしら?」 レラ 「私は、隊長に昇格した際に昔の師匠に会って、今の戦闘スタイルならこういう服装が良いと教わった。実際それで動きの幅も広がり師匠からの的確なアドバイスだと受け取っていたが……。」 シオン 「私も数年前……ぐらいだったかしら。潜入捜査員は時に色仕掛けで男を惑わす事も必要だと訓練され、組織からこの衣装を支給されたわ。」 サヤ 「もしかして、そんな何年も前からこの日の事が計画されてたって事……?」 レラ 「偶然にしては出来過ぎているな。全員自らの好みというより、結果その服装になったという共通の経緯があるあたり、そこからすでに嵌められていた可能性が出てきたな。」 シオン 「実際、拷問するなら下着等の薄着、もしくは裸の方がダメージを与えやすくて効率も良いと聞いた事があるわ。」 サヤ 「つまり、この服装も、この拘束も、テレサの嗜好であり無理矢理笑わせる拷問にうってつけって事ね。」 レラ 「少しずつ拷問の実態が見えてきたな。次は拘束方法の違いや、その中の共通点から推理してみるか。」 シオン 「動ける範囲とか、拘束の体勢には微妙に違いがあるけど、共通しているのは手足を拘束されているって事。そしてサヤが強いられたって言う、腕を上げたポーズね。」 レラ 「手を上げるポーズというのは、服従を意味すると言われているな。こういうポーズをさせる事で優越感に浸りたいのか…?」 シオン 「抵抗出来ないように拘束するだけなら、他にも拘束方法はありそうよね。わざわざ枷のデザインを変えてまでこの拘束にこだわるんだから、少なからずこの体勢じゃなきゃいけない理由はあるわよね。」 そんな考察をしながらこの拷問の実態を三人が探っていると、突然目の前のモニターから『ピコン』と何かの合図のような音が聞こえる。 サヤ 「な、何……?」 レラ 「何か表示されたぞ?」 シオン 「何なの?この数字……。」 その合図は、三人を映すモニターに新たなに表示が追加された男だった。その表示は数字。映し出された三人の身体の側面に位置する場所に、それぞれ三人分の数字が表示されたのだ。 レラ 「モニターの私の横には80と出ている。」 シオン 「私は31ってなってるわ。」 サヤ 「私は12。」 規則性を感じられない二桁の数字。だが確かにそれらはモニターに映ったそれぞれの身体から線を引っ張り「お前はこの数字だ」と言わんばかりに表している。その証拠に、リアルタイムで映し出された彼女達が身体を捻ろうとも、それに合わせて伸ばされた線とその先に表示された数字が、彼女達の動きとリンクし一緒に動くのだ。 そして再び音がなり、新たな数字が追加される。 シオン 「あ、また次の数字が表示されたわよ。今度は35……?」 レラ 「私は75だ。」 サヤ 「私は、8……?」 また表示された不規則な数字。しかもサヤに関してはついに一桁の数字が表示される。そしてこの数字も最初と同様に線が引っ張られ表示されているが、その線の元が最初とは違った。 レラ 「最初の数字はモニター内の私達の身体の側面から線が伸びている。てっきり個々の何かしらの数字なのかと思ったが、今度は私達の映像の上、身体の中心から線が伸びて表示されている。これは一体どういう意味なんだ…?」 シオン 「確かに数字は謎ね。でも、それぞれの数値に差はあるけど、一人の人間に表示された数字は割と近い数値よね。」 レラの数字は80と75。シオンは31と35。サヤは12と8。これらの僅かな規則は、レラは数字が高め、シオンは三人の中では中間から少し低め、サヤは極端に低めだという事。だが、それが何を表している数字なのかは未だに分からない。 レラ 「最初は身体の側面線、次は身体の中心……。それぞれが身体の外側と内側をの何かの数字を表しているのだろうか?」 サヤ 「なるほど。お腹辺りから伸びた線の数字が身体の中を表現してるって訳ね。」 レラ 「あくまで仮説だがな。」 シオン 「でも身体の中のその数字が何だって言うのかしら…?まあ外も数字が何に使われるのかは謎だけど……。」 レラ 「まあそうだよな……。……んっ?おい、また新たな数字が出たぞ。」 またしてもモニターから音が聞こえ、3つ目の数字が表示される。 シオン 「今度は2つ目のすぐ下から線が伸びて表示されたわね。私は38。また同じぐらいの数字だわ。」 レラ 「私は79か。初めて80は下回ったが、相変わらず高いな。」 サヤ 「私は……、30……?急に高くなったわよ…?」 シオンとレラは相変わらず自身の他の数字と大きな差のない数字だったが、サヤだけは今までの数字と極端に違った。それでも相変わらずシオンより低い数字ではあったが、唯一の規則であった「自分の数字は大きな差はない」から自分だけが外れ、何となく不安な気持ちになる。その数字が表すものは分からないが、自分だけ違うというだけで人間は不安になるのだ。 シオン 「何でサヤのその数字だけ極端に変わったのかしら…?」 レラ 「余計にわからなくなったな……。今回の数字でさっきの私の仮説も崩れてしまったし。」 シオン 「身体の外と中を表してる、って説ね。確かに身体の中から線が2つ伸びてると、身体の外、中って単純な話ではなさそうよね。」 レラ 「くそっ…!一体何なんだこの数字は…!」 自分が極端に高い数字である為、その数字が示すものが分からない不安からレラも徐々に冷静さを失ってしまう。それが単純に自分にとってメリットな数字なら良いが、これから得体の知れない拷問が行われると思うと、数字が高いと責められるレベルが高いのか、責められる回数が多いのかと、デメリットな事が脳裏をよぎり不安な気持ちが抑えられなくなっていたのだ。 サヤ (2つ目はお腹の中心、3つ目はへその辺り、っていうか、へそから線が伸びてる…?1つ目は……腰?というか、脇腹……?) 一方、モニターをじっと見つめていると、3つの数字が表す場所に気付き始めたサヤ。そしてまたモニターが4つ目の数字を表した事で、サヤは確信したのだ。そしてそれと同時に、サヤの不安は更に高まってしまった。 シオン 「またっ……!今度は、腕の方から線が伸びて……、40か……。今までで一番高いわ。」 レラ 「私も今までで一番高い数字、82だ。」 サヤ 「私……、61…!?」 サヤを表す数字の中では3つ目も高い方だったが、それでも三人の中では一番低い数字に変わりはなかった。だが4つ目はついに60を超え、決して低い数字とは言えなくなってしまった。その上、シオンを超える数字である。勿論この数字の最大値も分からない以上、その数字そのものが高いのかどうかは判断できない。だが、今まででの数字を基準にするしかなく、その数字は高い方だと言わざるを得ない。 シオン 「サヤの数字が私を超えた……。しかも急に表示場所が極端に変わった。」 レラ 「これ、まるで腕から線が出ているように見えないか?」 サヤ 「多分……、全部私達の露出した肌を示す数字なのよ。」 レラ 「露出した肌?」 サヤ 「1つ目は脇腹、2つ目はお腹、3つ目はへそ、4つ目は二の腕……。」 シオン 「言われてみれば確かに、そこを表す数字に見えるわ。」 レラ 「だがそれが一体何の数字だと言うのだ……。」 サヤ 「全部分かったわ……。」 シオン 「えっ…!?」 レラ 「本当か!?」 4つ目が二の腕を表示している事、そして自身のその数字が急激に高くなった事、この拷問がもたらすものが笑いだと言う事、それらからサヤは答えに辿り着いたのだ。これから行われる拷問の実態も、その数字が表す数字の謎も、この拘束方法がもたらす絶望感も……。
こーじ
2024-11-19 12:56:19 +0000 UTC炙り蜻蛉
2024-11-19 10:25:46 +0000 UTCこーじ
2024-11-19 10:10:09 +0000 UTCガリタル
2024-11-19 04:53:02 +0000 UTC