この国の安全や秩序を守る機関、警察。しかし、その警察も決して万能ではない。日々様々な事件や犯罪が起きるこの国は今、事件に対してそれを捜査する人員が不足しており、手がかりが無く実態も定かではない事件は、少人数での対応か後回しにされてしまう事が殆どだ。それ故に、未解決なままの事件も少なくない。 そんな中、ある警察官と裏で繋がり、警察組織では捜査しきれない事件を解決まで追う、たった二人の女性で成された組織が存在していた。勿論、この組織の存在自体法に触れており、あくまで裏の組織として秘密裏に活動を行っている、危険と常に隣り合わせの組織である。 これはそんな裏組織、Diver(ダイバー)として活動する女性、篝 緑咲(かがり つかさ)の物語である。 緑咲 「また仕事の依頼?この地域は相変わらず事件が多いのね。」 篝 緑咲、23歳。強気な口調が目立ち、あまり感情を表に出さない冷めた性格の持ち主である。明るい緑色のショートカットヘアが似合う美人でもあり、まさにクールビューティーの名に相応しい女性だ。そんな彼女には心に大きな傷がある。10年前に起きた通り魔事件により、当時中学生であった緑咲を一人で育てていた母親を亡くしているのだ。母親は一早く背後から迫る通り魔に気付き、たった一人の愛娘である緑咲を庇う様にし、心臓を刺され即死してしまった。その事件以来緑咲は、感情をあまり表に出さなくなり、特に笑顔を見せる事はなくなった。その後、犯人は捕まり事件は解決したのだが、たった一人の家族である母親を亡くし、身寄りのなくなった緑咲は中学を卒業すると同時にDiverとして活動する事となり、そこで護身術を身に着けた。 天音 「そうだねぇ…。仕事があるに越した事は無いけど、逆に言えば犯罪が多いって事だし、とても良い気分とは言えないな…。」 湊 天音(みなと あまね)、27歳。赤い髪を後ろで縛り、見た目からも活発さが際立つポジティブでボーイッシュな明るい性格で、少しドジで頼りなくも見えるが正義感が強い女性である。緑咲とは真逆の性格であり、一見相性は悪そうだが、緑咲を「つーちゃん」と呼ぶほど溺愛している。その愛に少し困らされている緑咲だが、自分を世話してくれた事や、生きる道を作ってくれた事に対し感謝と共に尊敬もしており、信頼という固い絆で結ばれている。勿論、少しバカにしている部分もあり、普段の言動からは尊敬している相手と接している様には見えないが、緑咲にとっても大切なパートナーである。 緑咲を世話し、生きる道を作った、というのはこの二人がコンビとして組織で活動している理由が関係しており、同じく10年前の通り魔事件がきっかけだ。当時高校生だった天音は、その通り魔事件の目撃者であり、天音が警察へ通報した事で事件は迅速に解決したのだ。天音も過去、強盗により両親を亡くしており、たった一人残された緑咲を見て、自分と同じ様な寂しい思いをして欲しくないと強く思い、緑咲を引き取り、妹のように接し世話をしていたのだ。その後、天音は昔からの友であり、警察官である仙石 涼華(せんごく りょうか)の提案で作られた裏組織で活動する事を決意する。その後も緑咲を妹のように育てていくつもりでいたが、緑咲もそこで活動したいという意思がきっかけでDiverが発足したのだ。ちなみに、Diverを裏で繋いでいるある警察官というのも、天音の友である仙石 涼華である。 その涼華は、父親が警察組織の上層部に属しており、高校生の時にはすでに裏で事件を捜査、助言をして、何度も解決している。その功績が認められ、高校卒業時にすでに裏組織で事件を捜査しながら大学に通っており、緑咲を引き取った天音を裏組織に誘ったのだ。そしてそれと同時に警察学校に通い始め、卒業後警察官となり今の部署に所属し、裏でDiverと繋がり、事件の情報などを送っているのである。 緑咲 「それで?今度の仕事の内容は?」 天音 「女性の拉致事件だよ。ほら、先週からニュースでもやってるじゃん?」 緑咲 「もう二人が被害に遭ってて、未だに詳細も不明って事件ね。そんな大きな事件の捜査依頼がこっちに来るの?」 女性拉致事件。その始まりは一週間前、18歳の女子高生一人が行方不明になったことから事件へと発展した。夏休みの今、その被害者は友達と遅くまで遊んでいた帰り道、行方不明になり連絡も取れなくなってしまった。人間関係等のトラブルも聞かない少女だったために、家出という可能性が極めて低く、誰かに連れ去られたのではないか?という事から拉致事件として捜査され、現在までにさらに一人、25歳のショップ店員の女性も被害に逢っている。場所や被害者の共通点が無い事など、拉致被害かどうかも分からない事件だが、女性が行方不明になるのは、決まって別の大きな事件が起きた直後のであった。そちらの事件に多くの警察官が捜査に駆り出されてしまい、僅かな人員による目撃情報等を集めるような捜査しか行われず、拉致した犯人がタイミングを狙って仕掛けているのでは?とニュースでも話題になっているのだ。 天音 「昨日、三人目の行方不明者が出たってさ。それもまた女性。20歳の大学生みたい。」 緑咲 「そう言えば、昨日は覚醒剤を使用した男が逃走して今も刃物を持って逃げてるってニュースが朝からやってたわね。」 天音 「しかも今回はさらに質が悪い事に、逃走している男は脱獄犯。警察としても、この男の逮捕は最優先で捜査するだろうね。」 緑咲 「でも、だからって女性が三人も行方不明になってるのよ?たった一週間の間に。それでもまだ何の情報もないって、捜査が甘いんじゃないかしら。」 天音 「だからこそ、涼華があたしらに協力を依頼してきたんでしょ?それだけ今は大きな事件だらけの物騒な世の中って事だね。」 緑咲 「まあ良いわ。女性が三人もこの地域で立て続けに行方不明になっている事、大きな事件の当日の夜に今回の事件が発生している事、これは間違いなく拉致事件、もしくは監禁事件と考えて間違いないわ。」 天音 「だね!涼華の話では二人目と三人目の行方不明者も親や友人と揉めたってトラブルも無いみたいだし、自ら行方を眩ますような人達じゃないだろうね。」 緑咲 「単独犯か、複数犯か、どちらにしろ、相当ずる賢くて残忍な男でしょうね。」 天音 「出来るだけ手掛かりを減らして自分に辿り着かせないようにしてるぐらいだしな。絶対ゲスい男だね!」 緑咲 「それじゃあ早速捜査しようかしら。私が囮になって犯人を誘き寄せるとして、問題は場所ね。」 天音 「ねぇ、つーちゃん。今回もつーちゃんが囮捜査するの…?」 囮捜査とは、犯人と思わしき対象による犯罪行為が実行されるの待ち、その瞬間を検挙する為に働きかける捜査方法の一つであり、実際に検挙する人間が文字通り囮となるのだ。天音は得意の機械を操作したり、時には自ら機械を作り上げてサポートする、いわゆるバックアップの役であり、犯人と直接対峙するのが緑咲なのだ。その溺愛する緑咲が危険な目に合う事を、天音はいつも心配していた。 緑咲 「いつも言ってるじゃない。私は機械の操作は苦手だし、逆に天音は見た目に反して護身術は全然じゃない。見た目に反して。」 ボーイッシュでスポーティーな見た目の天音だが、実際の所運動はあまり得意ではなく、スタイルは良いものの格闘技や護身術も使えない。だからこそ緑咲は自分からその役を買って出て、護身術を覚えたのである。 天音 「2回言う必要ある!?…まあ、事実なんだけどさぁ。」 緑咲 「何度言っても学ばないからよ。心配してくれるのはありがたいけど、これが最善であり、今までそれで事件を解決出来てる。何も問題は無いわ。」 天音 「んもぉ!つーちゃん冷たいぃ!!まっ、そんなクールなつーちゃんが好きなんだけどねぇ❤」 緑咲 「暑苦しい、仕事の邪魔、どいて。」 冷たい態度で接する緑咲に対し、愛情を込めて抱き着く天音、それを更に冷たい態度で返す緑咲。これがいつもの二人のスキンシップであり、信頼の証なのだ。いつものスキンシップを終えた所で、緑咲は捜査をするにあたり、涼華から送られた調査報告書に目を通し始める。勿論、背後から抱き着いて離れない天音をあしらいながら。 緑咲 「被害者が女性って事と、行方不明になった場所がこの地域って事以外、被害者三人の共通点が見つからないわね。」 天音 「まあ、強いて言えば、というかある意味必然なのかもだけど、三人とも美人だなぁ。」 緑咲 「確かにそうね。」 天音の言う通り、行方不明になっている女性は皆、顔立ちが良く美人揃いだった。それも拉致事件を裏付ける要因の一つとも取れなくもない。 天音 「まあでもっ、つーちゃんには敵わないけど!」 緑咲 「私のどこが美人なのよ。こんな冷めた根暗女、私が男だったら興味も湧かないわ。」 天音 「分かってないなぁ、つーちゃんは。クールビューティーでミステリアスな美人女性はそれだけで魅力的なんだぞぉ!?」 緑咲 「だから、その美人っていうのが一番納得出来ないのよ。私には自分の顔が良いとは思えないし、天音の方が顔もスタイルもよっぽど良いと思うけど。」 実際、確かに天音はスタイル(特に胸)は抜群で、明るい性格が似あう赤い髪と整った顔立ちをしているが、緑咲も十分にスタイルは良く、顔も誰が見ても美人と思える程である。 天音「まああたしが勝ってるのは胸の大きさくらいだって!!」 緑咲 「………そうね。」 緑咲はスタイルやファッションにはさほど興味無い上、男性受けする事や女性らしさを求める事もしないが、天音の巨乳を見せられると不快な気持ちになるのだ。本人は気付いてはいないが、そのスタイルに憧れているのである。尤も、緑咲の胸も十分豊満であり、世の女性からしてみれば憧れを抱く理想のボディなのである。 天音 「何その腑に落ちてない感じ。」 緑咲 「別に。とにかく、スタイルや顔立ちはどうあれ私がやるしか無いのは変わらないわ。早く手掛かりを見つけるわよ。」 被害女性に共通点が無い以上、実際に被害に逢った女性達の最後に目撃された場所、連絡が取れなくなった時間帯など、その状況に目をつける緑咲。 緑咲 「……まあ当たり前だけど、分かる事は人通りの少ない場所って事や時間帯が夜遅くって事ぐらいね。」 天音 「この地域内ではあるけど、被害があったであろう場所は3件ともそれぞれ結構離れてるね。」 緑咲 「同じ場所だと証拠が残る可能性が高いし、そこだけ捜査すれば良くなるから、警察としては都合が良い。つまり逆に言えば犯人にとっては都合が悪いものね。……って事を考えると、この地域で他に人通りの少ない場所、もっと言えば隠れやすい障害物が多く、住宅が少ない人目の付きにくい場所が犯人にとって都合が良くて犯行しやすい場所、となると――」 天音 「この辺だね!」 この地域全体の地図を見渡しながら緑咲の推理を考慮すると、考えられる場所は一つしかなかった。 緑咲 「えぇ。あくまで可能性の話だけど、この地区は犯人にとってかなり都合の良い場所。つまり犯行現場として適した場所って事になるわね。」 天音 「早速今夜歩いて調べてみる?」 緑咲 「そうね。まあ、今日は犯行は行われないでしょうけど。」 天音 「どうして?」 緑咲 「忘れたの?この拉致事件は大きな事件があった直後、その事件のあった日の夜に起こるのよ。」 天音 「そうか!昨日実際に大きな事件があったからこそ三人目の被害者が出たし、逆に言えば次にまた大きな事件があるまで犯人は行動に移さない。」 緑咲 「警察の捜査を自分に向けない様に仕組んでいる用心深い犯人は、今までの傾向的にこのタイミングでは拉致しない。仮にこのタイミングでも犯行を行うなら被害者はもっと出ていてもいい筈。」 天音 「そうだね。…でも、だとしたら今夜歩く必要あるの?まあ、大きな事件が起こるのは待ちたくないし、待ってるだけじゃ犯人なんて捕まえられないけどさ。」 緑咲 「当然必要よ。犯人が場所を変えるって事は、新たな犯行現場を下見する必要があるし、実際その現場を見つけたとして、そこにターゲットになり得る女性が頻繁に歩かなければ、そこを犯行現場にする必要が無いじゃない?実際、被害女性は全員帰宅途中に行方不明になっているし、偶然通りかかった女性を大きな事件直後に襲えるとは考えにくいわ。人通りの少ない場所だけに尚更よ。」 天音 「成程!つまりつーちゃんをターゲットとして向こうに認識させるための準備って事か!つーちゃん頭良い!!」 緑咲 「そういう事。私が“その場所を夜遅くに頻繁に歩く、ターゲットに相応しい女性”と相手に認識させる為に、今日から朝と夜にこの近辺を往復するわ。」 天音 「オッケー!じゃあ準備するよ!」 これまでの僅かな情報と傾向を頼りに、犯行現場となる可能性の高い場所を導き出し、いよいよDiverは捜査を開始した。
ガリタル
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