全ての人類が魔法を使うこの世界では今、日々新種の魔物が現れては人々に害を与えている。その生態は様々で、中には人の命すら奪う危険な魔物も数多く存在しており、それらの調査と討伐、その魔物の被害に遭った人々の救助を行う組織が存在する。そして私が所属するその調査部隊に、また行方不明者の救助依頼が入ったのだ。 私、レイシアは、魔物の生態に関する豊富な知識と、そのあらゆる魔力攻撃に対する治癒・防御術を得意とする魔法使いである。勿論、数多くの攻撃魔法も習得しており、魔物の生態に詳しい私は敵を分析し最も的確な攻撃を行う事ができ、部隊ではエリートと呼ばれている。評価されるのは嬉しいが、正直気恥ずかしくて堪らない。 レイシア 「この森の奥ね。」 今回、複数の依頼が同時に入った。そしてその調査場所はどれも同じ森だった。つまり、複数人がその森の同じ魔物に襲われた可能性が高いのだ。 1つ目の依頼は、薬草を採りに行った男女ペア。居なくなったのは女性側で男性からの依頼だ。別れて採取していた時、女性の悲鳴が聞こえ、男性の方が辺りを探すも行方が分からなくなってしまったとの事。近くに崖や足場が崩れたような場所が無い事から、魔物に襲われた可能性が高いと判明。不明な点は、そのエリアが比較的見通しの良い場所だったにも関わらず、一瞬にして姿を消してしまった事。そして、見覚えの無い草木が生い茂る場所が突如現れたという証言。草木を操る魔物がカモフラージュとしてその草木を出現させたのか? 2つ目は、3人組の女性冒険者。その3人が皆音信不通、行方不明になったと、数日後に会う約束をしていた商人の女性から。約束の日を過ぎても来ない為、依頼をしたと言う。 3つ目は、トレジャーハンターの女性。依頼主はトレジャーハンターの友人。森に出掛けると話した後、数日経っても連絡が取れない為、私のいる組織に依頼があった。 そして私がここへ向かっていた最中、組織に4つ目の依頼が入ったと連絡があった。同じ魔物の仕業かどうかは不明だが、少なくともこの数日間で一気に同じ森での行方不明者が相次いだ時点で、行方不明となった理由は同じだろう。 セラ 『レイシアさん、そろそろ最初の依頼者の男性が、相方の女性が居なくなったと証言していた場所っす。気を付けてください。』 この声の主は部下のセラ。セラは主にバックアップを得意とする魔法使いだが、現場に赴く私に何かあった時の為に私を救助してくれる役割も担っている。実際、魔法使いとして実力も高く、私も彼女の事を信頼しているからこそ、こうして単身現場へ調査に行けるのだ。 彼女の魔法、魔力通信は、お互いがどれだけ離れていても魔力を通じ会話できるという便利なもの。彼女は今、森の入り口で待機しており、その場で情報収集と森の地形調査、私の位置を魔力探知にて常に把握する、という仕事をしている。これにより、私に何かあればすぐにでも駆けつけ、救出できる状況を整えてくれているのだ。 レイシア 「了解よ。引き続きバックアップよろしく。」 男性からの依頼にあった、“見覚えのない生い茂る草木”という物は見当たらず、森としてはかなり見通しの良いエリア。やはり何者かが女性を襲った後、魔法か何かで草木を出現させた、と考えるのが妥当か。しかし、そんな器用な事が出来る魔物がいるだろうか?そう考えると、やはり新種の賢い魔物が現れたとしか……。 そんな事を考えながら先を進んでいると、そこには突如目を疑う光景が広がっていた。 レイシア 「な、何……、これ?」 セラ 『どうしました?』 不自然に草木やツタで組み上げられた植物の壁が道を完全に塞いでおり、そこが森の行き止まりとなっていた。その壁沿いには大きな木が複数本、間隔を開けて綺麗に横並びに生えており、並べられた木の手前は森の中とは思えない程、何も無い広大な広場のよえになっていた。その景色こそ、何者かが意図的に作り上げたテリトリーそのものであり、何かしらの魔物がここを住処にしているのは明らかだ。 そして更に目を疑ったのは、その複数本並べられた木の内の数本だ。そこには、まるで本物の人間かと見間違える程のリアルな人形が、木を背にして立たされていたのだ。その人形に近づいてじっくり観察しても、今にも動き出しそうな程リアルで、寧ろ本物の人間が人形にされたかと思える程である。 その人形達は皆、木の上部から不自然に垂れ下がった植物のツタのような触手に、両腕を纏めて括る様に巻き付かれ、その腕を頭上に持ち上げられていた。自立しない人形を立たせる為の工夫なのかだろうか?何にせよ、ここを住処にした魔物がこのような事を意図的にしているとしか思えない光景だ。 人形の数は8体。全てが女性であり、その服装も様々である。そこには、まるで植物を採取しに着たような格好の者、武器を持った冒険者のような者、トレジャーハンターと言えばそう見えるような格好の者の姿が確認出来た。 つまり、それらは行方不明となり捜索依頼が出された女性達の特徴と一致するかのようで、とても偶然とは思えなかったのだ。本物の人間が人形にされたかのように見えたのは、それが理由である。 セラ 『それは気になりますね。その人形の特徴をもっと詳しく教えて貰えますか?』 その説明を受けたセラは、行方不明者の特徴と照らし合わせる為、更に細かい情報を私に求める。 レイシア 「まず1人目は──」 その説明をセラにしようとした時だった。私は突如背後から迫りくる魔物の気配を感じ身構えた。ゆっくりではあるが、かなり大きな魔力が徐々に近づいて来るのが分かる。 レイシア 「魔物が迫ってきてるわ。」 セラ 『可能なら様子を見つつやり過ごしてください。』 レイシア 「勿論そのつもりよ。まだここの調査も不十分だし、その魔物がこの事件の元凶かも知れないもの。」 木々の隙間から確認出来たその魔物は、自ら動き獲物を探すタイプの食人植物だった。勿論、今までに見たことの無い種類の物だったが、複数ある太い根が外に剥き出しになり、それらがウネウネと蠢きながら移動するその姿はまさにそれらと同種。 そして頭部と思わしき部分にある大きな花。その中心には獲物を呑み込む為の口のような部位もある。そしてその大きな図体に生えた無数の植物のツタのような触手。それらは人形が木に括られている触手と同じ物である。間違いない、この魔物が全ての元凶だ。 レイシア 「セラ、この手の魔物は目が悪い代わりに、物の動く気配や音に敏感よ。もしセラの声が聞こえてしまったら、私の存在に気づかれてしまうから、一度魔力通信を切って。何かあれば救援信号を送るから。そうなった時は、頼むわよ。」 セラ 『わかりました。気を付けてください。』 小声でセラに指示を出した後、セラはそれに従い通信を切る。救援信号とは、私がピンチになった時に助けを求める為に発する魔力の事である。私が万が一この魔物に捕食されそうになっても、その信号さえ送れればセラが救助に来てくれる。魔力探知でこちらの場所は把握してくれているし、セラの戦闘魔法は俊足。こんな森の奥地でも数分あればこの場に来れる程のスピードと、一撃で魔物を仕留められるだけの強力な魔法を持っている。 さて、問題はこの場をどうやり過ごすか。壁沿いに並んだ木以外何もない広大なエリア。当然隠れる場所は木の後ろぐらいしか無い上、この魔物の目的がこの木、もしくはそこに立たされた人形ならば、目が悪いとは言えそこにいる私の姿を確認する事は出来るためすぐに見つかってしまう。つまり、実質隠れる場所など無いに等しいという事だ。 一体どこに身を潜めれば……。と考えを巡らせていた時、私は閃いた。 相手は目で見た物を細かく認識する事に欠如した植物の魔物。そしてこの場には本物の人間と見間違える程の人形がいくつも存在している。つまり、この場をやり過ごす最も良い方法は、私自身がこの人形になりすます事である、と。 だが、そもそもこの人形があの魔物の捕食対象であれば、私も捕食されてしまうという危険はある。とは言え、どちらにしろ他に隠れる場所も無い上に、その魔物はもうすぐそこまで迫ってきている。どちらにしろ、このままでは私はすぐに見つかってしまうのだ。 もう考えている時間は無い。私は気づかれないように慎重に移動し、人形が置かれていない木の前に立った。そして他の人形と同じように両腕を上げた体勢で人形になりすます。動く訳にもいかない為あまり観察は出来ないかも知れないが、これで様子を見つつこの場をやり過ごす。 レイシア (どうやら向こうの人形の前まで移動したようね。やっぱり目的はあの人形のようね。) 私から少し離れた木の前まで移動した魔物は、そこに置かれた人形の前で触手を動かし何かをしているようだ。しかし、私からは距離もある上、木が横並びになっている為にその行動をしっかり認識するには顔をそちらへ向けなければならない。万が一その行動であの魔物に気づかれてしまったら元も子もない為、今はこのまま人形のフリをする事しか出来なかった。 ほんの数分、5分程の僅かな時間で魔物はその場から移動し始めた。あの魔物は人形に何をしていたのだろうか?魔物はすぐ隣の木には目もくれず、次の人形が立たされた木まで迷わず移動した。やはりこの魔物は人形に何かをする為、そしてその何かをやりやすくする為にこの木に縛り付けているようだ。 レイシア (ここなら、この魔物の動きを見れそうね。) 何度かその不可解な行動を続けた魔物は、いよいよ私の立つ木のすぐ右隣の木まで移動してきていた。そこなら距離も比較的近く、目を横に向けるだけである程度確認が出来るだろう。その木の前で止まった魔物は、全身の触手の内の一部だけを動かし、またその行動に出た。 レイシア (……ん?人形を、ただ触っている……、だけ?) しっかりとは確認出来ないが、やはり人形を捕食する訳でもなければ、強い攻撃を与える訳でもない。寧ろ愛する者を愛でるかのように、優しくその人形を触って楽しんでいる様に見えた。 その後も私は生きた人間であると気づかれぬよう横目で観察していたが、特別大きな危害を加えるような行動は一切見られなかった。やはりこれは、魔物にとってはただの娯楽なのだろうか? レイシア (来る……!) 隣の人形を数分愛でた後、再び移動する魔物がついに私の目の前までやってくる。これは実際にこの魔物が何をしていたのか知るチャンスでもあるのだが、この魔物の不可解な行動の最中、瞬きもせずずっと目を開け続ける事など出来ない。だから私はバレないようにそっと目を瞑り、目ではなく身体の感覚でこの魔物の行動を調べる事にした。 だが、得体の知れない魔物が目の前に迫っているのに目を瞑るというのは恐怖でしかなく不安で堪らない。それに本当にこんな事で人形になりすませているのかも不安である。人形じゃないと分かれば、それこそすぐに捕食行動に出るかも知れないのに、私は目を瞑ってしまっている為、その行動に対抗すら出来ないのだ。しかし、もう今更どうする事も出来ない。私はその恐怖心と戦いながらも、心を落ち着かせ人形のフリに徹するべく、呼吸も最小限に抑え身動きしないよう心掛けた。 とりあえずこの魔物は、やはり見ただけでは私を生きた人間だとは気づかなかったようで、特に先程までと変わらず私にも人形と同じように触手を伸ばしその行動を始めた。無数にあった魔物の触手、その内私に向けられているのはおそらく2本。それを私の脚に絡ませながら撫でるような行動をしていた。 私の服装は、丈の短いノースリーブのトップスに、七分丈のスキニーパンツというシンプルな物。足首は付近は素肌が露わとなっていたがそこには触れられず、パンツの上から絡みついてきた触手。その気色の悪い物に触れられた嫌悪感は若干ありつつも、布越しだった事がまだ救いで、冷静に人形のフリを続ける事が出来た。 しかし、問題は上半身である。丈の短い服を着ているという事は、腹部はその素肌が剥き出しとなっており衣服に守られていないという事だ。流石にその素肌に触手が触れる事を想像するとゾッとするが、どれだけ強い嫌悪感を抱こうとも我慢するしかない。まあ所詮はただ触られるだけと言えばそれまでで、それ以上の害は一切無い。 とは言ったものの、その触手に毒素などがあれば害が無いというのは嘘になるが、仮にあったとしてもそれはこの魔物の魔力によって生成されるもの。それならば、私の魔法ですぐに治癒も出来る。つまりは結局の所、私にとってはただ触られる事による嫌悪感のみ我慢すれば問題はないのだ。 レイシア (今の所、脚に絡みついた触手はただ戯れるように触っているだけ。やっぱりこれは、魔物がただの娯楽を求めるだけの行動のようね。) 下半身は満足したのか、脚に絡みついていた触手が離れていくのを感じた。今度はいよいよ上半身に触れてくるのだろうか?だが軽く触れてくるだけなら大丈夫。私が生きた人間だとバレないように、素肌に感じる気色悪ささえ気にしなければやり過ごせるのだから。と、平常心を保てと自分に言い聞かせ身体の力を抜いた時── レイシア 「んっ………!」 私は思わず、吐息のような小さな声を出してしまった。それにより、魔物の触手の動きが私の身体に触れたままピタリと止まってしまった。もしかしたら、今の僅かな声にもこの魔物は反応してしまい、何かしらの異変を感じ取って警戒しているのかも知れない。 レイシア (今のは失態だったわ……。) 私に襲い掛かってきた“刺激”により声を出してしまったのは、全て私の油断が原因だ。何とかこの魔物が感じた違和感を払拭しなくては……。 レイシア (くっ……、こいつ……!) 魔物は一度触手の動きを停止した後、私の正体を確かめるかのような行動に出た。具体的には、先程まではゆっくりと撫でるだけのように動かしていた触手を、少し素早く擦る(さする)ような動きで私を責め立てたのだ。これで私が何かしらの反応を見せるか調べ、人形なのかどうかを確認しようとしているのだろう。 レイシア (困ったわね……。) 今回はその“刺激”が来ると分かっていた事もあり、しっかりと身構えていたお陰でどうにか声を出すまでには至らずに済んだものの、さっきの油断が原因で魔物に疑念を持たれてしまった事は事実である。それによりただ触れてくる以上の攻撃を仕掛けられる恐怖と、バレずにやり過ごせるのかという不安が私に襲い掛かり心臓が激しく鼓動してしまう。 それから、“困った事”というのは、バレてしまうかも知れないという不安や恐怖、それによる激しい心臓の高鳴りだけではなく、もう一つ別の理由がある。新たに出てきてしまった“とある問題”がまた、私を困らせた要因となってしまったのだ。いや、寧ろそっちの新たな問題の方が私にとっては辛いかも知れない……。なぜなら、これを続けられるとまた声を出してしまうかも知れないし、仮に声を抑えられたとしても身体が耐えきれず動いてしまうかも知れないのだ。 と言うのも、そもそもその新たな問題というのがこの魔物の行動なのだが、私の身体に触れる触手が……、“くすぐったかった”のである。下半身の時はスキニーパンツ越しに触られただけだったからそこまで感じなかったが、素肌を晒した腹部に触れられた事で気が付いた。確かに素肌をこんな風に触られれば、くすぐったいに決まっている。 つまり、最初に小さな声を出してしまったのも、身体が動いてしまう不安があるのも、全てはこの“くすぐったい”という感覚が理由である。何より、私はこの“くすぐったい”という感覚が……、苦手なのだ。 レイシア (くぅ……!この動き、くすぐったい……!) 私の正体を確かめようとする、この腹部を擦る触手の動きがくすぐったく、私は身動きしてはいけないこの状況に苦悩していた。最初の動きぐらいなら身構えていれば我慢も比較的楽に出来たが、この動きはもはや明確な“くすぐり”という行為に感じてしまう。いや、寧ろくすぐって笑わせる事がこの魔物の目的なのかも知れない。 レイシア (でも、何が何でも耐えないと……。) 私の必死の我慢が功を奏したのか、魔物は先程の私の声を気のせいだと判断してくれた様で、また腹部を撫でる動きを始めた。これはこれでくすぐったいのだが、擦る動きに比べれば大分マシである。 レイシア (んっ……!?) そんな中、突如私の露出したへそに触手が触れ、ツンツンと突っつき始めたのだ。腹部を撫でる2本の触手は未だにその行動を続けていた所に、別の触手が不意打ちをしてきたようだ。目を瞑っていた事で新たに伸びてきた触手に気づけず、その不意打ちが原因で今度は身体がピクッと反応してしまったのだ。 当然、動きに敏感な魔物はそれにもまた違和感を持ってしまい、触手の動きを止め様子見をする。寧ろこの魔物でなくても、人間が人形遊びをしている時にその人形が突然ピクッと動けば違和感は持つだろう。つまりそれをより強く感じ取れる魔物は、今の私の失態をキッカケに疑惑をより強めてしまった事だろう。 レイシア (また……!) やはりこいつは生きた人間かも知れない。そう考えたであろうこの魔物は、また触手の動きを強め私の正体を確かめようとする。再び開始された擦る動き、それに加えへそをコソコソと優しく引っ掻く攻撃が追加されてしまった。 先程より明確に感じる強いくすぐったさ。不意打ちでなくてもくすぐったがりな私にとっては耐え難い刺激である。だがこの確かめる行動を我慢出来れば、この魔物はまた撫でる行動に戻るかも知れない。 腹部を擦る動きに加え追加されたへそを引っ掻く動き。今の所これが特にくすぐったく、他の事を考えて気を紛らわそうと努める私の邪魔をしてくる。 レイシア (くすぐったい……。これ、いつまで続けるつもりなの?) 私に対し更に強い疑念を持ったからか、この確かめる行動がさっきよりも長く感じる。でも動きが単調なお陰で少しだけ刺激に慣れてきた気もしている。このままならやり過ごせるだろう。 レイシア (ふぅ……。とりあえず、何とか誤魔化せたみたいでよかったわ……。) 長い確認行動を終えた魔物は、また腹部を撫でる動きとへそを突っつく動きにシフトする。ここまではまだくすぐったさも我慢できるレベルだから問題はない。後は私が今後、また不意打ちされても反応しないように出来るかどうか……。 レイシア (腹部を撫でていた触手が、少し上の方を責めて来てる……?) 腹部への行動に飽きたのか、魔物の触手は触れる場所を徐々に私の身体のもっと上の方へと移動してきた。ここから先は衣服に守られているからくすぐったさも軽減出来ると考えていたのだが、私の服は裾の部分にそれなりに隙間がある。それを理解しているのか、服の中へと侵入してきた触手は、私の肋や鳩尾(みぞおち)付近を責め始めた。 レイシア (ん……!その触り方……、くすぐったい……!) 胸の下、肋周辺に触手が巻き付いてきたかと思えば、その触手の先端で肋の骨と骨の間をコソコソと優しく引っ掻き始めた。もはやこれはくすぐる事を目的としているとしか思えない。 今までで一番くすぐったいと感じる、露骨なくすぐり責め。どこを責められても反応しないよう努めていたから何とか耐えられたが、これを我慢し続けるのは相当辛い。 レイシア (いつまで続ける気よ……!) 私への疑念を晴らす行動を除いても、もう5分は経過している筈だが、一向に私への責めが終わらない。まだ隣には別の人形もいくつか残っている。にも関わらず私への責めに執着するように長い時間を掛けている。やはりまだ疑念が残っているのだろうか? レイシア (くすぐったいのに、一切動けないなんて……。こんなの、いつまでも続けてられないわ……。) くすぐったいという刺激は、本来身体を動かして抵抗したくなる煩わしい感覚である。そしてその行為は“笑い”を誘発するものである。にも関わらず、今の私には身体を動かしてその攻撃に抵抗する事も、その感情に従い笑う事も許されない。しかも私は人並みにくすぐったがりである。そんな人間に、無防備な体勢を維持したままくすぐりに耐えろだなんて、まるで拷問のような苦痛である。 レイシア (早く……!早く次の人形に移動して……!) もうこれ以上続けられたら、いつ動いてしまうか分からない。だがこれが私の正体を確かめる為の行為なら、私がこれ以上怪しまれる行動をしなければ良いのだ。だから私は辛くても必死に堪え我慢する。これさえやり過ごせば、私はこのくすぐったさから解放される。 そう、思いたいのだが……。この魔物の攻撃がこれで終わる保証などどこにも無い。そして何より、この魔物が本当に“くすぐり”という行為を目的とし楽しんでいたとしたら── レイシア (そうだったら……、まずいわね……。) 私には今、大きな懸念点がある。それは例えこの肋とへそへの責めが優しくなったとしても払拭されるものではない。大事なのは、くすぐる強さではなく場所の問題だからだ。それこそ、私が生きた人間だとバレてしまうような大問題である。 くすぐる場所が胸から下の部位で終われば問題ない。だが、もしまだ続きがあるとしたら?もし、また別の新たな場所にも同じ事をしてきたら?そんな考えが私に大きな危機感を与え、不安で堪らなくなってしまう。 レイシア (お願いだから、これ以上先には行かないで……!) そう、肋より上に触手が向かって来られる事が、私にとっては大問題なのだ。そこは私にとって、最もくすぐられたくない敏感な部位だと自覚している。だからそこをくすぐられたら、私は絶対に我慢なんて出来ないだろう。 そして、よりによってそこは“くすぐり”という行為において、最も定番な部位である。だからこの魔物がくすぐる事を目的としていたならば、そこを責める対象と理解している可能性が非常に高い。寧ろくすぐりという行為をするなら、間違いなく責められる場所である。だから私は、これから“その場所”を責められる可能性を感じてしまったのだ。 今思えば、触手が人形の手首を括り両腕を持ち上げるように立たせているのも、それが理由だと考えれば納得がいく。意図的にそういう体勢にしなければ普段は閉ざされており、こうして腕を上げる事で初めて無防備に晒される事となるのだ。“ワキ”という部位は── レイシア (ワキだけは、触られたくない……。今ワキなんて触られたら……、くすぐったくて絶対に耐えられない……!) ワキ。そこが私の最もくすぐったいと感じる弱点である。そして人形になりすましている私は、人形と同じ体勢になる為にその腕を上げている。つまり、自らワキを晒している上にそれを維持し続けなければならないのだ。 しかも今の私は、ノースリーブというワキを隠せない服装である。そんな剥き出しの弱点を触手に触れられるかと思うと、その想像だけですでにくすぐったくて腕を下ろしたくなってしまう。 レイシア (触手が私から離れてく……。) 服の裾から入り込み肋をくすぐっていた2本の触手と、へそを突っついていた触手。これらがようやく私の身体から離れていったのだ。これが私を解放する目的なのか、油断させる為なのか、目を閉じている私には確認する術もない。どうか、これで終わりであって欲しい。この魔物の目的が、くすぐりではなくただのじゃれ合いであって欲しい。どうか……、ワキだけは触らないで欲しい。そう願いながら、気を引き締め警戒を続けた。 レイシア (ひぃ……!?) やはり、所詮は願いでしかなかった。一度腹部から離れた触手が、今度は私の二の腕に触れてきたのだ。そしてそこをサワサワと優しく刺激してくる。 触手が離れた後も撫でるようなくすぐりをしてくる可能性を考慮し、警戒は怠らなかった。だが、二の腕に触れられただけで想像以上のくすぐったさを感じてしまい、また身体がピクッと動いてしまった。にも関わらず、今回は触手の動きが止まらない。 今までは私が人形らしからぬ行動を見せた時、一度その動きを止めて様子を見たり私の正体を確かめる行動をしていた。だが今回は私の僅かな動きに気づかなかったのか、本能のままに二の腕を撫で続けている。 レイシア (だめ……!そこ、くすぐったい!!) 想定外の二の腕のくすぐったさ。触られた瞬間に身体が反応してしまう程だ。当然こんな風に触られてくすぐったくない訳が無い。そしてこの魔物が触手の動きを止めないのは、もう私の正体を疑っての行動だろう。だから私が腕を下ろしたくなるように、執拗に攻撃を仕掛けているのだ。 そんな二の腕よりも、ワキはもっと敏感な事を私は自覚している。それがより強い恐怖心を植え付けてくる。そして余計にワキに対する苦手意識も強くなり、我慢する自分のイメージが出来なくなってしまう。 レイシア (やばい……!ワキに近づいてくる!) いよいよその恐怖が現実になろうとしていた。二の腕を撫でる触手が、徐々にワキの方に向かって移動してきたのだ。そして触手がワキに近づくにつれ、明らかにくすぐったさが増していく。これこそ私の弱点がワキである証拠なのたろう。 レイシア (もうダメ……!それ以上は──) 私の思いなど知る由もない触手はワキへ目掛けノンストップで二の腕を降りていく。そのゾクゾクするくすぐったさと必死に戦う私は、身体がプルプルと震えてしまっていた。それでも触手の攻撃は止まらない。そして── レイシア 「んいぃ……!!」 ついに触手は私の無防備なワキに辿り着いた。そのあまりのくすぐったさに私は声を抑えきれなかった。その声は、間違いなく魔物に届いてしまっただろう。だが、触手はそれを想定していたかのように、身体を撫でる行動を開始した。 レイシア 「んんっ……!くぅ……、んっふふふ……!!」 ノースリーブを日頃の服装として選んだ事を初めて後悔した。わざわざ弱点が剥き出しになる服を着るなんて、まるで自らワキをくすぐって欲しいと誘っているようではないか。 ワキに辿り着いた触手は、私の不本意な誘惑に誘われ優しく撫でるような動きで私を責め立てる。その刺激に対し、私は歯を食いしばり唇をギュッと閉じるが、小さな声が何度も漏れ出てしまう。 レイシア (やばい……!やっぱりワキはくすぐったい……!!こんなの耐えられないわ……。でも、私は我慢しなければならないのよ……!) この撫でるだけの行動がくすぐる事でなくとも、ワキにこんな事されてくすぐったくない訳がない。しかも抵抗する事も許されず自らの意思でそのワキを晒し続けなければならないのだ。でも、私の行動に違和感を持った魔物にその正体がバレないよう、何が何でも耐えなければならないのだ。私は脳内でそう自分を鼓舞し必死に耐え続けた。 レイシア 「っひひ……!んっくく、んん……!っふふふ……!!」 (お願いだから、もうやめて……!ワキだけは本当にやめて……!!) 身体は震え、ワキを閉じたいという衝動に勝てず少しずつ下がる両腕。閉ざされた口から溢れ出る声。それでも触手によるワキ責めは止まらない。寧ろ更に私を苦しめようと新たな攻撃を仕掛けてきたのだ。 レイシア 「ひぃぃいぃ……!?っくぅ……、ふふふ、んんっふふふ……!!」 それはまるで人差し指でカリカリと引っ掻くような動きを、触手が再現したかのような責め方だった。これでようやく確信した。間違いない、この魔物の目的は対象をくすぐる事だ。くすぐる事の意味は分からないが、この動きはどう考えてもくすぐっているとしか考えられない。 それに、目的がくすぐりであればワキを狙ってきた事にも納得が出来る。なにせ、私に限らずワキなんて場所はくすぐったい所の定番である。寧ろワキなんてくすぐったい以外に感じる事なんて何もないと言っても過言ではない。つまり、そのワキを狙うという事は、くすぐるという目的に他ならない訳だ。 レイシア 「いっひひひ……!くふふふふふ……!!んっ、ふふふふ……、きひひひひひ……!!」 ワキを執拗に引っ掻く触手に耐えきれず、どんどん口から笑い声が溢れ出す。その声を抑えるのに必死で、私の腕が今どういう状況になっているのか自分でもよく分かっていない。少なくとも、腕を上げ続けこのくすぐったさに抗っているのは分かる。腕を下ろしてワキを閉じたくて仕方ない衝動を必死に抑えているという事は、腕は上がっているという事なのだろう。 しかし、その腕はちゃんと真上に伸ばされているのだろうか?元々の体勢を維持出来ているのだろうか?くすぐったさに耐えきれず、ワキを庇うように閉じていないだろうか?腕を上げ続けなければならないという使命感し従い、閉じていたかも知れないワキを自ら晒そうとしているのだろうか?その結果、腕を何度も上下に動かしてしまっていないだろうか? レイシア 「いっひひひひひ、や……、やめ……!んふふふふふふ……、わ、わきぃ……!っひひひひひひ、ワキ……、くすぐったいぃ……!!」 どんなにくすぐったくても、私は絶対に笑ってはいけない。どんなにくすぐったくても、絶対動かずワキを自ら差し出す体勢を維持しなければならない。何故なら、人形になりすます為に声を出したり動いたりする訳にはいかないからだ。 だが私は今気づいてしまった……。私が今必死に頑張っているのは、その“笑い声を我慢しながら、ワキをどうにか閉じないようにする”という事だけではないか?今、自分の感情をそのまま声に出してしまった挙げ句、閉じかけた腕を元の位置まで上げようと動かした気がするが……? レイシア 「駄目っ……!いいぃっひっひっひっひっひっ……!!ワキやめっ……、んんっふふふふはふ……!!くすぐったいぃ!くすぐったいいぃっひひひひひ!」 間違いない。ワキの窪みをカリカリと引っ掻く触手に耐え難いくすぐったさを覚えた私は今、静止を求めたその思いを口に出し魔物に訴えてしまっていた。 そして腕もワキを閉じようと下がっていた為、それを誤魔化そうと必死に元の位置へ戻す。でもくすぐったいワキを自分の意思で晒し続けられる訳もなく、また腕が下がってしまう。でも腕を完全に閉じたら魔物に正体がバレてしまうという考えだけが残っているのだろう。必死にワキを晒す努力をするものの、もうくすぐったさに抗えず上げ下げを繰り返していた。 レイシア 「あひひひひ、くっくくくくくく……!!ワキばっかり……!んふふふふふふ、もうやめて……!!」 もはやこれは人形ならばあり得ない状況だ。なら、何故魔物はくすぐり続けているのだろうか?いや、対象が人形だろうが、生きている人間だろうが、ただくすぐりたいだけなのかも知れない。それならば、何故私は魔物のその欲求を満たす為に必死なのだろうか?もはや私の正体がバレているのに、ここまで努力する理由はなんなのだろうか? そこまで考えが及んだ時、もはやこの我慢には何の意味もないと気がついてしまった。そしてそう思った瞬間、私が必死に繋ぎ止めたいた我慢の糸は、あっさりと切れてしまった。 レイシア 「んあっはっはっ!もう無理……!ワキくすぐったい!!」 口から溢れ出てしまった笑い声。そしてそれと同時に、ワキを庇う為にギュッと腕を閉じてしまった。もう人形になりすます事をやめた私は、その行動で自分が生きた人間であると魔物に証明してしまった。 だがもうそれは仕方ない。これ以上は私自身の身の安全の為に行動すると覚悟を決めた。 レイシア 「……!!?」 その触手を振り払い、敵から攻撃される前に攻撃しようと魔法を使おうとした瞬間の出来事だった。 私の魔法の発動よりも早く行動を開始した魔物は、素早く私の両脚に触手を絡ませた。それは、今まで私を撫で回した体表の触手ではなく、魔物の口内から伸びた新しい触手だった。つまり、捕食行動用に用いられる物であったのだ。私はその素早い行動に対する驚きと、捕食される恐怖に身体が固まってしまった。 レイシア 「しまっ──」 その隙を突かれてしまい、気が付くと私の下半身が魔物の体内へと呑み込まれてしまっていた。素早い捕食行動に抵抗出来なかった私は、もう魔法を発動する暇すら与えられなかったのだ。 レイシア 「くぅ……!!」 どんどん私の身体を呑み込んでいく魔物。それをさせまいと私は必死に両腕を伸ばす。魔物の口、その縁に捕まる事が出来たが、傍から見ればもう私の全身が呑み込まれてしまっている状態だ。だがまだ諦めない。この掴んだ手を離さなければ、これ以上この魔物の体内へと引きずり込まれる事はないのだ。そしてこの状況でも魔法さえ発動出来れば、魔物を倒すか救援信号は送れる。と、僅かな希望に賭けていたのだが── レイシア 「ひあぁぁあっ!!?」 魔物の体内から新たに触手が現れ、私のワキを再びくすぐり始めたのだ。魔物の体内から伸びた触手は私の身体に絡みつき、体内に入れようと引きずり込む。それに抗う為に私は魔物の口の縁を両手で掴んでいる。それにより私のワキは無防備に広げさせられている。その伸び切ったワキを、先端を素早くこちょこちょと動かしくすぐってくる。 今までにない強いくすぐり攻撃。私がそんな攻撃を受けながら魔法を使える訳がない。それどころか、無防備にワキを晒し続けられる訳もないのだ。 レイシア 「んあっはっはっ……!!」 一瞬たりともそのくすぐったさに我慢出来なかった私は、その手を離してしまいそのまま魔物に呑み込まれてしまうのだった……。
炙り蜻蛉
2025-04-02 12:47:14 +0000 UTC