翌朝、一早く目を覚ました緑咲はすぐにニュースを見るが、その日、女性が行方不明になるといった事件は一切報道されなかった。天音も涼華に連絡を取っていたが、警察にもそんな通報は届いておらず、警察は日々起こる事件の捜査に加え、犯人を誘き寄せるために作り上げた偽の轢き逃げ事件の対応に追われてしまっていた。 天音 「轢き逃げ事件の事は気にしなくても良いって涼華が。許可を出したのは自分だし、これで拉致事件が確実に解決するとも思っていなかったからって。」 緑咲 「……………。」 天音の励ましも空しく、緑咲は珍しく落ち込んでいた。自分の作戦は見事に失敗し、拉致事件の解決どころか、まるで犯人が緑咲をあざ笑うかのように、事件すら起こしていない。それに加え、涼華を含め警察に余計な仕事まで増やしてしまう始末だ。10年ずっと一緒にいる天音は、緑咲のそんな自分の不甲斐なさと怒りの表情を見て、自分のこと以上に辛く感じ心を痛めていた。そんな緑咲を見ていられなくなった天音は、部屋を後にしようとした所で、緑咲がようやく重い口を開いた。 緑咲 「………もう一つ。」 天音 「…えっ!?」 緑咲 「何かもう一つ。拉致事件が実行される条件があるのかも知れない。」 緑咲はその言葉と共に思い腰を上げ、以前涼華から送られていた調査報告書にもう一度目を通し始めた。緑咲は、まだこの事件を諦めてはおらず、今回の失敗を取り返すべく、再び行動を開始したのだ。それを見た天音は喜びと共に、事件を解決しようと動くパートナーに協力し、必ず事件を解決しようと持ち前の正義感に火を灯し、緑咲と一緒に調査報告書に目を通した。 天音 「……やっぱり、これ以上被害女性の共通点(犯行の条件)があるとは思えないなぁ…。」 元々何度も見ている調査報告書。それを今更見直した所で、そう簡単に新たな発見など見つからない。天音が諦めかけたその時、緑咲はある事に目をつけた。 緑咲 「これ、被害女性の服装とか関係無いかしら。」 天音 「服装?」 二人が見ていた調査報告書に乗っていた被害女性の写真は全てバストアップ、つまり胸元から上しか写っていない写真だったのだが、その三人の服装にはある共通点があったのだ。 緑咲 「えぇ。この被害女性の服装って、行方不明になった時の服装よね?」 天音 「うん。防犯カメラに映っていた画像を極限まで綺麗な画質にして、それを私の技術で顔が正面に見えるように作ったからね。」 緑咲 「道理で。調査報告書とは紙質も違うし、どうやって被害女性のこんな写真を手に入れたのかと疑問に思っていたけど、この写真だけは天音が作ったオリジナルだったのね。」 天音 「んで?彼女達の服装が何だって?」 緑咲 「被害女性の三人、皆ノースリーブを着ているわ。」 緑咲が見つけた被害女性の共通点、それは肩を露出しているいわゆるノースリーブの服を着ているという事だった。 天音 「まあ今は夏真っ盛りだしね。ここ最近ずっと暑いし、それこそ偶然なんじゃないの?」 緑咲 「でも、犯人は女性を拉致する変態男。だとしたら、その男にとって好みの服装とかあるのかも知れないわ。」 天音 「ん…、確かに…。そう考えるとあり得ない話じゃないかも。」 緑咲 「実際、昨日の私の格好は半袖のカットシャツにジーパン。ノースリーブではない私は最初から対象外だったのかも知れないわ。」 (……ん?でも、犯人が服装にまで拘っているとしたら、何か引っかからないかしら…?) 天音 「それなら、全身が映ってる映像から、私が彼女達の服装が全部写る写真を作ってみるよ。」 緑咲 「…ん?あ、そうね。私もそっちに行くわ。写真作るよりパソコンの画面一緒に見た方が早いでしょ。」 天音 「つーちゃんがあたしの部屋に!?どうしよ!掃除しなきゃぁ!!」 緑咲 「そういうの良いから。」 いつもの天音のノリを一蹴し、天音の部屋へ入るや否や、すぐに天音のパソコンの編集作業中の画面を覗いていた。そして瞬く間に編集が終わり、被害女性三人の全身を見比べると―― 緑咲 「これ、もしかして。」 天音 「うん。」 全身写る画像を見て、二人は更なる共通点に気が付いた。 天音 「三人とも、比較的露出度の高い服着てるね。」 緑咲 「もっと細かく言うなら、ノースリーブによる肩出しと丈の短い服によるへそ出し、ショートパンツやミニスカートによる脚の露出、って事かしらね。」 天音 「そうだね。首や胸元は出してる人と出してない人がいるし。」 緑咲 「胸元なんて男が一番ガン見しそうなのに、意外ね。」 天音 「いくら好きだからって、拉致してまで拝もうとする変態だよ?どうせ独自の変な性癖でも持ってるんだよ。」 緑咲 「そういうものなのかしらね。まあ、変態男の考える事なんて理解できないし、しようとも思わないけど。」 天音 「でも、本当にこれが犯行が行われる条件なんだとしたら、昨日つーちゃんが狙われなかったのも一応納得できるね。まあ、犯人がそこを犯行現場にしようとしてたらの話だけど。」 緑咲 「そうね。……あ、待って。」 天音 「ん?」 緑咲 「逆に言えば、私はこんな服を着て外を歩かなきゃいけないって事?」 天音 「つーちゃんが囮捜査をする以上、そうなるね。」 緑咲 「天音、今回だけはあなたの言う事を聞いてあげるわ。代わりに囮捜査をお願い。」 天音 「いや、でもつーちゃんにバックアップは出来ないし、涼華さんと直接連絡取れるのはあたしだけじゃん?それにあたし、護身術とか使えないし?」 緑咲 「いつもと言ってることが逆よ。」 天音 「つーちゃんもじゃん?」 緑咲 「あんた、私にノースリーブのへそ出しのトップスにミニスカートっていう露出度の高い服を着せたいだけでしょ。」 天音 「つーちゃん今日も推理力が冴えてるねぇ!」 緑咲 「あんたねぇ…。」 天音 「ほらほら、早速服買いに行かなきゃあ!!つーちゃんこういう服持ってないから、あたしが選んだげる❤」 緑咲 「こんな気の乗らない買い物初めてだわ…。」 肌を必要以上に露出する服を着る事に抵抗のある緑咲は、ノリノリの天音に強引に腕を引っ張られ、洋服店に連れて行かれるのだった。その道中、緑咲は常に「何で私がこんな目に…」「肌を露出する事に何の意味があるのよ…」「外で平気でへそ出しの服を着る女なんてどうかしてるわ…」と一人ブツブツ文句を言い続けていたが、緑咲のエッチな姿を妄想し興奮している天音の耳には何も入ってはいなかった。 洋服店に着くと、早速天音は肌を露出するデザインの服を集めては試着室に押し込まれた緑咲に持っていく。試着室に放り込まれた服を一つずつ吟味するも、どれもかなり露出度の高いデザインの物ばかりで、緑咲は大きなため息をついて天音に文句をつける。 緑咲 「百歩譲って肌を露出する服を着るのは良いとして、こんな胸しか隠さないような服を持ってこないで。トップスはノースリーブでへそが見えるぐらいの丈で十分な筈よ。胸元が大きく開いてる服である必要も、丈が極端に短い必要も無いわ。」 天音 「でも折角だから――」 緑咲 「着ないわよ。」 天音 「でもきっとつーちゃんに似合――」 緑咲 「着ないわよ。」 天音 「でも露出が高ければ高いほど犯人も――」 緑咲 「着ないわよ。」 天音 「じゃあせめて私に見せる為だけでも――」 緑咲 「着ないわよ。」 天音 「………わかったよぉ。つーちゃんはこうなると絶対折れないんだから…。」 緑咲 「そもそも必要のない事をする意味が分からないわ。胸元は出来るだけ隠して、丈もへそが少し見えるぐらいの物を真面目に選んで。」 天音 「それは犯行が行われる条件の服ってより、つーちゃんが着れるギリギリの条件が勝手に追加されてる気がするけど?」 緑咲 「真面目に選んできて。」 天音 「はいはい。真面目に選んできますよーだ。」 埒が明かないやり取りに折れた天音は、ふてくされながらも緑咲が出した条件にあう服を選び始めた。しかし、ボトムスだけは譲らないと、丈の短い黒いタイトスカートを押し付けられ、緑咲は仕方なくそのタイトスカートを穿き、試着室で天音の選ぶ服を待っていた。本当は下着が見えそうなスカートより、ショートパンツの方が良かったが、散々我儘を押し付けてしまった手前、流石にこれ以上は言えないか…、と思いながら。 天音 「ほらつーちゃん、これはどう?これで嫌なんて言わせないからね!?」 天音が時間を掛けて真面目に選んできた服は、緑咲の綺麗な緑色の髪にもよく似合う緑色のハイネックの服だった。ノースリーブである事と、僅かにへそが見える程度の丈、それでいて胸元はしっかり隠せる、緑咲の出した条件を全て満たせる服を持ってこられた為、ぐうの音も出ない緑咲は「違和感がなければ、これにするわ…。」と控えめな抵抗を見せ試着を始めた。 試着を終えた緑咲は、平静を装いながらも頬を赤らめながら、そっと試着室のカーテンを開けた。 緑咲 「…やっぱり、こんな服を好き好んで着るなんて、どうかしてるわ…。」 普段海水浴やプールにも行かない緑咲は、へそ出しは勿論、外で肩を出す事すらなく、その姿を天音に見られていると思えば思う程恥ずかしさが込み上げてしまい、目線が合わないよう顔を背けながらその姿をお披露目した。しかしあまりの恥ずかしさに、肝心のへそが見えているであろう服の裾の辺りを腕で隠してしまっていた。 天音 「うん、やっぱり緑色の服はつーちゃんに似合うね。でもつーちゃん、そこ腕で隠してたらへそ出ししてるか分からないよ?まあ、仕草からして出てはいるんだろうけどさ。」 緑咲 「…分かってるなら良いじゃない。変じゃないならこれにするわ。」 天音 「いやいや、犯人がへそ出しとみなさなきゃ意味ないんだから、一応露出具合は確認させてよ。」 緑咲 「わ、わかったわよ…。」 天音の言う事は尤もで、それに反論する事ができず、緑咲はより一層顔を赤らめながらお腹の露出している部分を隠していた腕をどける。すると、一緒に住んでいる天音すら見た事がない縦長の可愛らしい緑咲のへそが露になった。服の丈も、縦長のへそがギリギリ隠れないぐらいの長さで、しっかりとへそ出し服でありながら大胆に晒す程でもない緑咲にとっても理想の露出度であった。 天音 「うん!良い感じじゃん!……その絶妙なへそ出し具合とチラッと見えるつーちゃんのおへそ、最高だよぉぉぉぉおお❤」 緑咲 「やっぱり変態の発想は分からないわ。変じゃないならもうこれにするから、着替えるわ。」 天音 「あぁぁぁあああもうちょっとだけぇぇぇぇえええ!!」 天音の必死の叫びも空しく、緑咲は勢いよく試着室のカーテンを閉めてすぐに恥ずかしい服を脱ぎ去った。ちなみに緑咲が着替えている間、天音は店員に大声を出した事を注意されていた。 緑咲 「しかもこの服、結構な値段するじゃない…。何で服として機能もしていないデザインの癖にこんなに取るのかしら。」 天音 「服としてはちゃんと機能してるからね!?これはお洒落アイテムだから!!」 緑咲 「…分かってるわよ。着たくもない服を買うんだから、文句ぐらい言わせなさいよ…。」 天音 「じゃああたしが買ってあげようか?つーちゃんが今後も部屋で着てくれるなら❤」 緑咲 「…自分で買うわよ変態。」 天音 「ちょ、あんまり公共の場でその言葉は慎んでね…?そもそも変態じゃないし…。……今のは冗談だって。あたしも買う服があるから一緒に払ってあげる!あたしからのプレゼント!」 緑咲 「あっそう、そういう事なら…、じゃあ、よろしく…。」 プレゼントという響きは満更でもなかったらしく、緑咲はそっと天音に服を渡し買って貰う事にした。勿論、今後この服を部屋で着るつもりはないが。 緑咲 「で、何であんたもそんな大胆な服買ってんのよ。」 アジトに戻ると天音は先程緑咲の服と一緒に買った自分の服を取り出し着替え始め、それを緑咲にお披露目していた。しかもその服は緑咲のノースリーブのへそ出しハイネックよりも大胆な露出をする服であった。細く2本に分かれた肩紐しかないスポーツブラのような胸しか隠せていない黒い服にデニム生地のショートパンツ、太ももから下を覆う黒いニーハイソックスという格好だ。それを見た緑咲は恥ずかしさよりも呆れたような表情を浮かべる。 天音 「いやぁ、実はこういう服には興味あったんだけどぉ、中々機会ってゆーか、タイミングがなくてね!つーちゃんがいつもと違う自分をお披露目してくれたからさっ❤」 緑咲 「私は着ないって言ったわよね?」 天音 「…本当に着ないの?」 緑咲 「着ない。」 天音 「でもここから着て行かないと着替える場所ないでしょ?」 緑咲 「……囮捜査をする当日はね。」 天音 「じゃあ着替えてよ!」 緑咲 「話が矛盾してるわよ。私は囮捜査する時に着るって言ってるのよ。いくらなんでも、今日は新しい偽装事件なんて出来ないし、今日行くとしたらもう一度現場の死角や身を潜められる場所、逃走経路の模索ぐらいよ。」 天音 「だから、それをする為に着るんじゃん!」 緑咲 「…あのねぇ、囮捜査でも無いのにあんな恥ずかしい服を着る意味なんて――」 天音 「今日色んな犯行現場候補を回るんなら、どこかで見ているかも知れない犯人に、“自分好みの服”を着ている姿を見せた方が、犯人も拉致したいって思って狙われるんじゃない?そもそもそういう服を着た人が見つからなかったから昨日犯行が行われなかったって可能性が高いんだから!」 緑咲 「うっ…そ、それは…、そうだけど…。」 不意に正しい事を言い出す天音にはいつも調子を狂わされ反論できなくなってしまう緑咲。実際女性の服が拉致事件が起こる一番の理由なら、積極的に着て犯人にアピールしなければ囮捜査のしようも無いのだ。 天音 「それに、普段着慣れていない服じゃいざという時に動き辛いだろうし、その服にも慣れていた方が良いと思うなぁ!」 緑咲 「……あんたが楽しみたいだけじゃないでしょうね?」 天音 「まっさか~!知ってるでしょ?あたしは一刻も早く事件を解決したいだけ。勿論、つーちゃんが危険に晒されるのは嫌だけど、だからこそあたしが全力でバックアップしなきゃって思うし。」 (この気持ちに嘘偽りが無いのは事実だけど、つーちゃんのへそ出し服を今すぐもう一度見たいから、なんて言えない…。) 緑咲 「……わかったわよ。着れば良いんでしょ着れば。」 珍しく天音の本音に気づけず説得されてしまった緑咲は、自室に戻り緑色のへそ出しノースリーブのハイネックに黒のミニタイトスカートに着替え始めた。 緑咲 「…どう?これで満足…?」 天音 「いやぁ、だから、満足とかじゃないって!それ着て少し過ごして、夕方から捜査した方が良いよっていう…。」 (大満足です❤) 緑咲 「ここで少し過ごすのはあんたの願望でしょ。」 天音 「……………。」 急に問い詰められた天音は言い訳も思い浮かばず、だらだらと冷や汗を流しながらにっこりした表情を浮かべて誤魔化した。 緑咲 「やっぱりね。でも、天音の言う通りこの服を着てターゲットに見せるようアピールしなきゃいけないのも事実。だからもう出かけるわ。」 天音 「あっ、そ…そうだね!今日は事件直後じゃないし、犯行は行われないと思うけど、気を付けてね!犯人があまりのエロさに暴走しちゃうかも知れないし…!」 緑咲 「えぇ。防犯カメラのチェック、頼んだわよ。」 イヤリング型のカメラをつけて、緑咲は外でこんな格好で歩かなきゃいけない事に恥じらいつつ、緑咲の可愛らしい服を少し名残惜しそうに見送る天音に呆れながら捜査へ出かけるのだった。 緑咲 (ノースリーブって今まで着た事なかったけど、肩を出すだけで体感温度が全然違うわね。ここまで暑さが軽減されるとは思っていなかったわ。案外悪くないのかも知れないわね。…へそ出しは余計だけど。) 服として機能していないなど散々文句を言っていたが、初めてのノースリーブに満更でもない緑咲であった。 緑咲 (って、そんな事考えてる場合じゃないわ。しっかり捜査しないと。) 犯行現場になりそうな場所をいくつも捜査し直した緑咲。しかし、考えれば考える程自分が囮捜査を実際に行った場所が犯人にとって最も都合の良い場所である事を実感する。21時を回った現在、緑咲はその場所に来ていた。この時間から人通りも一気に減り、外灯も少ないこの場所で犯人が起こしそうな行動を脳内でシミュレーションしながら、自分の対応方法も考える。そんな事を繰り返しながら緑咲は、今朝の事を思い出し考え込んでいた。 緑咲 (何か…、何かが引っかかる…。) それは犯行の条件に服装が関係していて、それが一番の犯行理由の可能性が高いと気づいた時から、緑咲は“何かの違和感”に引っかかっていた。 緑咲 (犯人が拉致事件を起こす一番の条件は、自分好みの服装をしている事。そしてそれを隠すために、大きな事件が報道された直後で捜査員が枯渇している時を狙ったり、人通りの少ない道、人目のつかない夜で実行する。さらに毎回現場を変えることで、捜査の手をかわす。これら全ては一見して犯人が捕まらないようにする手口だけど、何か見逃している気がするのは何故かしら…。) 犯行現場候補で最も犯行が起こりうるこの場所。そこに唯一ある長い一本道。ここは外灯もあり、隠れる場所や逃走経路もない壁に覆われた長い道。比較的安全なこの場所では実際の犯行をシミュレーションする必要のない事で、緑咲は自分の中に引っかかる“違和感”を無意識の内に夢中で考えていた。するとそこで急に天音の通信が入り、緑咲はビクッとしながら我に返り、通信に応答する。 緑咲 「…何よ急に。びっくりするじゃない。」 天音 『前から誰か来るよ!?気づいてる!?』 緑咲 「!?」 考え事に夢中になりすぎて前からこちらに歩いてくる人物に気が付かなかった緑咲。それを聞いて慌てて正面を注意して見ると、遠くから黒髪のロングヘアと肩までかかる茶髪のセミロングヘアの、スーツ姿のОL二人組が歩いている事に気が付いた。 緑咲 「あぁ、あの茶髪の女性はこの時間にいつもすれ違うわ。黒髪ロングの女性は初めて見るけど、あの茶髪の女性の友人か同僚のОLじゃないかしら?」 天音 『あ、ホントだ。あたしもあっちの人はカメラで見た事ある。』 “同じ時間”に“いつも”すれ違う“女性”。犯行が一番起きそうな現場の“唯一安全な場所”。大きな事件が起きた“直後でもない日”。これらのあらゆる油断要素が原因で、緑咲はすぐに前方への注意を怠り、再び“違和感”の方を考え始めた。そして、何気ない楽しそうな会話をする二人組の女性とすれ違った直後、緑咲は“違和感”に気が付きハッとなった。 緑咲 (そうか…!これなら昨日犯行が行われなかった理由も納得できるし、この“違和感”が起こした偶然も必然に変わる…!) この事件についての大きな手掛かりに気が付いた緑咲が一刻も早く天音に真相を伝えようと急ぎ足になる瞬間、後ろから腕をグッと引っ張られると同時に両耳のイヤリング型のカメラが取られる。そしてそうなる前に360°見渡せるイヤリング型カメラから危険を知らせる天音の『危ないっ!』という言葉と同時に、緑咲は口に布を押し付けられ、抵抗する間もなく気を失ってしまった。イヤリング型カメラをヒールで踏みつけられ壊されると、天音にもその後の映像が届かなくなり、ハイネックの首元に仕込んだ通信機も壊され、天音の部屋には壊された通信機のザッピング音だけがなり響いていた。 天音「……つ、つーちゃぁん!!!!!」 悲痛に叫ぶ天音の声はもう届くことはなく、眠らされた緑咲を大胆に運んでその場を後にしていく二人の女性。一本道を抜けた先にある閑散とした公園に停めてある車に緑咲を乗せ、見事に拉致事件は四人目の被害者を出してしまったのだ。 緑咲達は大きな勘違いをしていた。この場所は隠れるところもなければ、辺りは静かなため襲われても声を上げれば悲鳴もよく響き、犯人が逃走する為の逃げ道も無い安全地帯であるが、人が通らなければ大胆な犯行も誰の目にも届かず、近くに民家がなければ悲鳴も聞こえず、ただ誰もいない一本道を逃走すれば良いだけだという事。そして、犯人が“女性”であるという事を…。 緑咲のリベンジは、敗北という最悪のシナリオで幕を閉じるのだった。