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裏組織Diver~緑咲の災難~2

 犯行現場となり得る場所を往復すること3日。歩きながら犯人が襲ってきそうな場所を予測したり、潜んでいそうな場所、逃走経路等も探しながら歩いた結果、その場所は犯行現場に非常に適した場所だと判断する事ができた。すぐ近くには公園もあるのだが、その公園は深夜になれば当然誰も歩かず、人が隠れる茂みも多い。さらにそこから少し車を走らせれば高速道路にも乗れる。寧ろこの高速道路を走る車の音で被害者の悲鳴までかき消せるのだ。つまり、襲える場所、隠れる場所、人目につかない場所、逃走経路が用意されている場所、その全てが犯行に適してしまっているのだ。そしてこの道は少し先の住宅街に住む人ぐらいしか通らず、夜になるとその帰宅する人すら滅多に通らないようで、何度も同じ時間にたった一人で歩く緑咲はよりターゲットになりやすい事も把握できた。 天音 「ここまで条件が揃ってれば、確実に犯人は犯行現場の候補にしてるね。」 緑咲 「当たり前だけど、普通に歩いているだけじゃ怪しい奴はいなかったわ。何度かすれ違ったのはОLや会社員らしきスーツの男性、部活帰り、塾、友人との遊びの帰りの学生。それ以外にも私服を着て歩く人が何人か。勿論ここを犯行現場に選んでいたとしても、どこかに潜んでいるんでしょうけどね。不自然な行動を取って目立つような事、この用心深い犯人がする筈ないし。」 天音 「そもそも犯人がそこに現れる保証もないしなぁ。現場を見る限り、犯行に適している場所ってだけだし。」  現場を朝晩に往復していたのは緑咲だけだが、真昼間の比較的人が多い時間帯には逆に天音が現場を何度も歩き、隠れられる場所を徹底的に調べていた。更に、朝晩の緑咲の捜査時には、緑咲に付けさせた360°見渡せるイヤリング型のカメラで怪しい人物がいないかアジトで監視していたが、結局不審人物になりそうな人は見つからなかった。 緑咲 「ここに現れなければ他を探すだけよ。でも、ここは私以外にも女性は頻繁に歩いているし、大きな事件の後に警戒していれば、私に興味が無かったとしても犯人は別のターゲットを捕えに来そうな場所よ。十分可能性は高いわ。寧ろここの方が今までの現場より犯行に適してるもの。間違いなく犯人は現れるわ。」 天音 「後は大きな事件が起こるのを待つだけか。」 緑咲 「いいえ。待ってるだけじゃ捕まっている被害者が危険よ。」 天音 「だからって、今のあたしらには何も出来なくない?大きな事件が起きなきゃ犯行は行われないんだし…。」 緑咲 「だったら、私達が大きな事件を起こすまでよ。」 天音 「マジで…?」 緑咲 「当然。私達の存在を隠蔽できる涼華さんに協力して貰えれば可能な筈よ。涼華さんはあくまで私達を裏で警察と繋いでいる人物。でも、警察内でたった一人で私達の存在を隠蔽するなんて出来る訳無いわ。実際、過去に私達が解決した事件も、結果的には警察が検挙した事になってる。という事は涼華さん以外にも私達の存在を知り、涼華さんに協力できる人が何人も警察内にいるって事よね?」 天音 「………それはあたしにも分かんないや。涼華のいる部署の人があたし達の協力者なのか、涼華が極秘でその部署の人達を動かしてるのか…。とにかくそこの部署で扱う事件の情報や捜査依頼をくれるのが涼華って事しか…。まあどっちにしろ、仮に涼華に頼めば出来るかも知れないとして、具体的にどうするの?」 (涼華には秘密にしておく様に言われたから誤魔化したけど、流石つーちゃんの推理力。殆ど合ってるよ…。)  緑咲の推理通り、涼華が所属している部署の全員がDiverの存在を知っている。その部署では特別任務が上から与えられ、法を守らなければならない警察では、踏み込む限度があり捜査しきれない事件をDiverに依頼し、事件解決後にその部署から報酬を貰っているのである。 緑咲 「涼華さんの管轄の地域で、今回の犯行現場になりそうな場所から一番遠い場所、そこで車による轢き逃げ事件が起きた事にするわ。そこで変装した天音にその事故での被害者と加害者の役を演じて貰う。そして更に事故を起こした車を盗難車って設定にして、犯人はその車で逃走中とニュースで流す。その直後に拉致事件が起こったとして、無事その拉致事件を解決出来れば轢き逃げ事件も犯人が捕まった事にして、被害女性も一命を取り留めたと報道すれば良い。実際にはいない人間の事件が出来上がり、誰も被害者は出ず、大きな事件としてニュースにもなる。」 天音 「ほほぉう、つーちゃんってば大胆❤」 緑咲 「違う意味に聞こえるからやめて。」 天音 「まあ後はそれが可能かどうかだね。実際は捜査しないにしても、少なくともその近辺に実際警察がいないと近くに住む人は不審に思わない?」 緑咲 「それについても問題ないわ。拉致事件が起こるとすればその日の夜。もし拉致事件が解決して、警察に偽装事件の後処理を行う暇がなければ、最悪轢き逃げ事件が誰かの悪戯電話だったとかで済ませられるし、その事件が迅速に解決した事にして、拉致事件も解決すれば、その後数日間の現場検証のような物は警察に変装した私達がうろついてれば近隣の人達には不振に思われない筈。」 天音 (私達が変装はまだしも、悪戯電話の方はそれで済ませられるのか!?) 緑咲 「っていうのを涼華さんに出来るかどうか聞いて。可能なら明日決行よ。」 天音 「…分かったよ。これで拉致事件が起きなかったら後で何言われるか分かんないけど、とりあえず聞いてみるか…。」  流石に度が過ぎた偽装行為を涼華に依頼する事に若干怖気付いていたが、その答えは―― 天音 「出来るって言われたんだけどっ!?涼華、っていうか、警察すげーな!!」 緑咲 「出来るなら何よりよ。」 天音 「あと“緑咲ちゃんは大胆な娘なのね❤”って言ってた!!」 緑咲 「………そう。」 天音 「とにかく、早速明日決行って事で許可も出てるから、あたしは朝一で轢き逃げ現場を作る地区に向かうね!つーちゃんは細心の注意を払って、犯行現場(仮)に向かって!」 緑咲 「わかったわ。バックアップよろしく。」 天音 「つーちゃんも、気を付けてね。」  いよいよ動き出した拉致事件の囮捜査。互いにパートナーの健闘を祈り、各々自室で準備を済ませ眠りにつくのだった。  翌朝。天音と涼華を含む警察の力により、嘘の轢き逃げ事件が起こり、それはすぐに朝のニュースで速報として伝えられた。それをアジトのテレビで見ていた緑咲も大きなニュースになった事を確認しすぐに行動に出る。といっても、犯行が行われるのは深夜。つまりこの行動というのは、ターゲットに“今日もいつも通り出かけた”というのを見せる事で、深夜にその道を再び通る事を教える為の行動だ。天音が作り上げたイアリングを装着し、この3日間繰り返した、同じ時間に出かける、という行動を開始した。ちなみに、その道を通った後はいつも少し離れた大通り沿いのネットカフェへ行き、天音がハッキングした現場周辺の監視カメラで怪しい人物を追っている。  今回もネットカフェに着いて一息した所でタイミング良く、緑咲がシャツの襟に忍ばせている小型通信機に天音から連絡が入った。 天音 『もしもし、つーちゃん?今平気?』 緑咲 「えぇ。“いつも通り”出かけたわ。今ネットカフェに着いた所よ。」 天音 『オッケー!私もこれからまた現場を見回りながらアジトに戻るね!』 緑咲 「轢き逃げ事件の方はどう?軽くニュースは見たけど。」 天音 『結構大事になってるみたい!今涼華んトコの新人さん達が研修を兼ねて偽の現場検証を行ったりしてるし、その映像もニュースになってる。』 緑咲 「思った以上ね。現場検証までやってくれてるのは助かるわね。これなら間違いなく犯行が行われる。あ、そういえば天音、他の犯行現場候補の防犯カメラのハッキングは終わってる?」 天音 『あっ、それは、…えっとぉ、………帰ったらやる。』 緑咲 「早くしなさいよ。この3日間でここ以外の犯行現場候補も調べまわってるんだから。」  緑咲は万が一の備えも万全に行っていた。いくらこの地域で一番犯行現場に適した場所で囮捜査をしようが、犯人がそこを犯行現場に選んでいなければ意味がない。だからこそ、他の現場の下見も行い、特製の監視カメラの設置も行っており、元々あった防犯カメラのハッキングを天音に任せていたのだ。場所がどこであれ、大きな事件の直後に犯行が行われるのは間違いない。少しでも証拠を掴む為、もっと言えば別の現場で犯行が起きたのなら、その瞬間をカメラで撮れればと思い緑咲が考えたのだ。 天音 『分かってるって!いくらドジなあたしでも、ハッキングを忘れるなんてミスはしないって!』 緑咲 「ドジな自覚があるならハッキングは昨日の内にやっておいて。」 天音 『うっ!痛い所を…!』 緑咲 「じゃあ、頼んだわよ。」  緑咲は通信を切り、天音のハッキングが終わるまで、自分が囮捜査を行う現場の方のカメラを監視しながら夜を待った。  時刻は21時を回ろうとしていた。緑咲は囮捜査を開始する為、天音に通信を繋ぐ。 緑咲 「そろそろ行くわ。そっちの準備も出来てる?」 天音 『ハッキングも、全カメラの録画も、監視体制も、全部ばっちり!!』 緑咲 「珍しく完璧じゃない。何か嫌な予感がするわ。」 天音 『ちょっ!怖い事言わないでよぉ!!』 緑咲 「じゃあ、行ってくるわ。」 天音 『うん、気を付けてね…!』  通信を切った緑咲は、いよいよ犯行現場へ向かい始めた。もうこの仕事を始めて大分経つが、やはりこの瞬間は普段クールな緑咲でも緊張する。残虐な犯人が自分を襲いに来るのだから、それも無理はない。護身術が役に立たなかったら、不意を突かれて太刀打ち出来なかったら、何か思いもよらないトラブルが起きたら、きっとそうなったら自分は死ぬ事になるだろう。緑咲はいつもこの瞬間そう考えてしまうのだ。それでも、元々死ぬはずだったその命は、母親と天音に救われこうして生きている。そんな命を無駄にする訳にはいかないと、気を強く持ち緑咲は歩きだした。 緑咲 (本当にここは人が通らないわね。まあ、時間が時間だから仕方ないのだろうけど。もう少し外灯があっても良いんじゃないかしら。)  いよいよ犯行現場(仮)に入った緑咲。ここから約10分。この犯行に適したゾーンが続く。襲われるとしたらこの10分だ。あくまで平静を装いながらも、目で回りを気にし、いつでも反撃体制を取れるように緊張感を持ちながら歩いていく。 緑咲 (この角は死角になっている所。曲がった瞬間襲われる可能性も――)  と、角を曲がった瞬間に思わず身構えるも、そこには誰もいなかった。その後もいくつかあるポイントに注意しながら歩き続けるも、犯行は行われることは無く、緑咲は何事も無くアジトまで戻ってきてしまった。  そしてアジトに戻ると、緑咲はすぐに天音に問いただす。 緑咲 「犯行は?別の場所で被害者は出た?」 天音 「おかえりぃ…。少なくともカメラの映像からは犯行の瞬間どころか、怪しい男の姿すら見つけられなかったよ…。」 緑咲 「…どういう事?轢き逃げ犯が逃走中で、ニュースでは(変装した)天音が意識不明の重体って事も出てるし、その車も盗難車で、今も捕まっていないって設定よ?これだけ大きな事件が起こして、不発…?」 天音 「うわぁ…。涼華からどんなお叱りを受ける事やら…。」 緑咲 「そんな事はどうでも良いわ。問題は、大きな事件のあった直後に犯行が起きるって線が薄れてしまったって事よ。これじゃあ本当に拉致事件なのか分からなくなってくるわ。」 天音 「3件とも偶然の事故か当の本人の家出的なこと?ってなっちゃうよな…。」 緑咲 「………いいえ、これがただの偶然起きた行方不明事件だなんてあり得ない。」 天音 「轢き逃げ事件が犯人にとって大きな事件じゃなかったとか…?」 緑咲 「可能性としてはあり得ない話ではないと思うけど…、多分それはないわ。三人目の被害者が出た時の直前の事件は覚醒剤を使っていた脱獄犯。これは確かに大きなニュースだけど、一人目の時は確か高齢者を騙した詐欺事件で、被害額は3万円。大した額じゃないっていうと失礼だけど、多額の詐欺事件って訳じゃない。二人目の時は高齢ドライバーによる衝突事故。これも誰もいない空き家に車が突っ込んだだけで被害者はいないし、運転手も軽傷で済んでいるわ。どれもン外時間報道されて、結果的に大きなニュースにはなったけど、少なくともこれら二つの事件に比べたら、盗難車での轢き逃げで被害者が重体って事になってる今回の事件は紛れもなく大きな事件よ。」 天音 「そうだよなぁ…。」 緑咲 「あと可能性があるとしたら、単純にまだ犯行が行われていないだけ。もしくは防犯カメラに映らなかっただけで、どこかで事件が起きていて、まだ事件が発覚していない段階…、って所かしら。」 天音 「確かにその可能性もあるね。用心深い犯人なら、防犯カメラの位置を完全に把握した上で死角を狙ってるって可能性の方が実際高いだろうし。」 緑咲 「えぇ…。悔しいけど、このままもう少し防犯カメラを見て、駄目なら明日ニュースになるのを待つしかなさそうね…。」 天音 「だね…。まあとにかく、つーちゃん今日はお疲れ様!実際事件がどうなったかは分からないけど、つーちゃんが無事で良かったよ。」 緑咲 「私は納得いってないわ…、こんな結末…。」  天音は緑咲の無事を喜ぶが、当の本人は悔しい思いを隠しきれなかった。そんな思いを抱いたまま、防犯カメラの映像を観察し続けたが、深夜の2時を過ぎても犯行の瞬間どころか怪しい人物すら映らず、操作は中断、緑咲は渋々眠りにつき、翌朝を迎える事にした。

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