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潜入捜査員、月城 美智流【前編】

美智流 「秘密裏に行われている非合法な売買を行う組織、ですか。」 円香 「えぇ。」  彼女の名は月城 美智流(つきしろ みちる)。警察だけでは捜査が困難な犯罪組織を見つけ出す為に秘密裏に作られた潜入捜査組織で活動している女性である。この潜入捜査組織は、身分を偽り犯罪組織へ潜入し、その実態や内部事情を探り証拠を得ることを目的としており、そこで情報を得る為には犯罪組織の人間に信用される必要があり、時には数年もの間 潜入する場合もある。  だが彼女の潜入は基本的にたった数時間。その組織に潜入し迅速に物的証拠を持ち出すのが彼女の仕事であり、その場に適した状況に瞬時に対応し、的確で冷静な判断ができる彼女だからこその仕事である。そんな彼女は潜入捜査員の中でも屈指のエリートであり、過去にいくつもの犯罪組織を壊滅させてきた実績を持っている。  そして今回は、裏社会の間で行われる不正取引や非合法な売買を行う組織、つまり麻薬や違法な武器といった売買を行う組織へ潜入しその実態と証拠を掴む任務を、上司の沖野 円香(おきの まどか)に任されたのだ。 円香 「数年前に警察が逮捕した男、確か美智流がここへ来る前だったかしら?そいつが経営していた企業から見つかった麻薬と、その企業と取引していた他の企業のリストに、今回 美智流に潜入してもらう企業、タチカワの名前があってね。」 美智流 「タチカワって、大手ファッションブランドじゃないですか。そんな企業が麻薬の密売ですか?」 円香 「逮捕した男と繋がっていた様々な企業に潜入してきたけど、未だに情報はなし。最後に残ったのがこのタチカワよ。だからここが今一番怪しいと踏んでるわ。」 美智流 「分かりました。潜入方法は?」 円香 「こっちで山中 美子って偽名の入った偽装の入館証と服を用意してあるわ。タチカワは自分達が手がけた、通称“お洒落スーツ”での勤務が義務付けられているから、美智流も必ずそれを着てね。それから、出勤時間や、勤務形態とか、社内情報をまとめた資料も置いてあるから、これからそれを頭に入れて明日自宅からタチカワに向かって潜入してきてね。」 美智流 「承知しました、必ず情報を掴んできます。」  翌日に備え、美智流は必要な物を持ち帰り準備を整えた。そして、入館証やスーツなどに不備が無いかを確認していた。 美智流 「これが入館証ね。それから、これがスーツと、インナーも決められた物があるのね。……インナーって、ノースリーブなの?それにこのインナー、丈が短くない……?」  タチカワが手掛けたスーツ、それを見ながら美智流は、その服のデザインに思わず拒否感を抱いた。というのも、スーツの下に着る服といえばワイシャツが一般的だが、少しカジュアルに見せる為にTシャツをインナーとして着る場合もある。だがこのインナーはノースリーブという少し独特なデザインな上にその裾の丈が短く感じ、自分がそれを着る事に強い拒否感を抱いたのだ。 美智流 「まあこれを着なきゃ潜入も出来ないし、とりあえず着てみようかしら……。」  拒否感を抱きつつも諦めの精神でそのスーツを実際に着用してみようと着替えた美智流。だが、いざインナーを着用して改めて拒否感をつのらせてしまった。 美智流 「何よこの服……、想像以上に丈が短いじゃない……!ちょっと腕を上げるだけでお腹見えてるんだけど……。」  ただでさえ丈の短い服、それに加え美智流の豊満な胸にインナーが引っ張られる形となり、少し姿勢を起こしたり身体を動かすだけで腹部がチラりと見えてしまいそうなデザインだった。 美智流 「しかもこれ、歩くだけでも腹チラしない……?肌を見せる服をお洒落だと思って着ている人達の気が知れないわ……。」  肌の露出する服の中でも、お腹が見えるような服は躊躇われがちだろう。それを、私服でも基本的に素肌の露出を避けてきた美智流が着たいと思う筈がない。 美智流 「スーツのジャケットも、このインナーに合わせているみたいに短いし……。」  腰の下、股関節付近までの丈があるのが普通のスーツのジャケットだが、タチカワデザインのジャケットはインナーと同じぐらいまでしか丈が無い。これでは美智流が懸念している腹チラを防ぐ事も出来ず、更に拒否感を高め嘆くのだった。 美智流 「スーツパンツも、股上が少し浅くてお腹の辺りで穿くのも難しそうね。……はぁ、こんな服着て外に出なきゃいけないのね……。でも、そんな事言っている場合では無いわよね。気を引き締めないと。」  恥ずかしい服装で過ごさなくてはいけない状況と、そんな中で潜入捜査という重大な仕事を全うしなければならない事に憂鬱な感情を抱くが、潜入捜査がバレれば自分の身に何が起こるかも分からない命懸けの任務である。美智流は改めて気を引き締め直し、翌日の潜入捜査に備えるのだった。  翌日、早速 美智流の潜入捜査が始まった。他の従業員と同じ時間に、同じように堂々とタチカワ本社のビルへ入り、入館証をかざす。偽装の入館証と言えど、潜入捜査組織が持つ技術を以てすれば本物と何も変わらない、完璧な入館証が作れる。それにより美智流はスムーズに社内への潜入に成功した。 美智流 (本当に従業員全員が同じスーツとインナーを着ているのね。あの女性なんて、がっつりへそ出ししてるじゃない……。)  従業員の淫らな服装を見ているだけで羞恥心を覚えた美智流は、歩く度に何度もインナーの裾を下に伸ばし、自身の腹部が露わにならないよう隠す仕草を繰り返していた。だがそんな行動に意識を向けている余裕もない。美智流はこの大きなビルのどこかに存在しているであろう、悪事の証拠を見つけなくてはならないのだ。 美智流 (この企業は表向きは真っ当なホワイト企業なのだろう。それは裏で悪事を働いている事すら知らない従業員の方が圧倒的に多く、悪事の証拠はこの大勢の従業員にすら見られてはいけない機密事項となっているだろう。つまり、こうして何人もの従業員が行き交うフロアには隠しておらず、このビルの中でも人があまり立ち入らないフロアに証拠がある可能性が高い、という事だろう。)  オフィスの廊下を歩けば様々な部署で働く従業員達が、美智流を含めすれ違う人全員に挨拶をしてくる。それだけ人の行き交うフロアなら、来客者や他の業者が歩く可能性も高く、万が一にも悪事の証拠を保管した部屋にでも入られればこの企業はその瞬間に崩壊する。ならば他者どころか、同じ社内の人間ですら滅多に入らないフロアの方が、単純に見つかるリスクを減らせる。それこそ、社長室があるフロアやその他重役しか歩かないようなフロアがあれば、不審者の存在にもいち早く気付ける。それは即ち、この企業の裏側の人間からすれば機密事項を隠すのに最も都合の良い場所と言える。 美智流 (まずはそのフロアの捜索ね。)  狙いを定めた美智流は、階段で1つ上のフロアに上がる度に廊下を歩き、白と判断すればまた1つ上の階へと向かう。それを繰り返していると、ついに最上階である15階まで上がってきてしまった。だが、案の定そのフロアには社長室があった。 美智流 (ここが社長室、悪事の証拠があるとしたらこのフロアかしら……?でも、このフロアもそれなりに従業員が歩いている。単純に社長室に隠しているのかしら。)  社長室を調べたいが、一般職の従業員が入れる場所でない事は誰にでも想像できる。中に社長を含め誰もいなければ潜入する事も出来るが、中に誰かがいるかどうかも分からない為、入るに入れない。どうしたものかと考えていた美智流だったが、1つの違和感に気が付いた。 美智流 (あれ……?このビル、20階は越えそうな大きなビルだったわよね?各フロアも天井の高さは普通だったし、それならこのフロアよりも上の階がいくつかなければビルの高さと辻褄が合わない。)  都心に建てられた大きなビル。周りのビルも中のフロアは15階前後だが、このビルはその他のビルよりも高い。本来ならば20階を越えて良いほどなのだが、エレベーターや階段でもここより上の階へ行く手段は無く、ここが最上階とされている。それこそが美智流の違和感であり、そこから1つの仮説を導き出した。 美智流 (まさか、どこかにここより上のフロアへ行く階段かエレベーターがあるんじゃないかしら?もしそうなら、そこが一番怪しいフロアって事になるわよね。)  そこが怪しいのは推測できるが、行く手段が見つからなければどうにもならない。そう思っていると── 『立川社長、1階ロビーにて、お客様がお待ちです。繰り返します──』  社内アナウンスが流れ、社長に来客が訪れた事を告げていた。するとすぐに社長室から、この企業の若い女社長である立川 由羽(タチカワ ユウ)が秘書と共に現れたのだ。 由羽 「この後は外で打ち合わせだったわね?」 秘書 「はい。本日はそのまま直帰となりますので、社長室は閉めておきます。」 由羽 「えぇ、それじゃあ行きましょ。」  秘書が社長室の鍵を閉める様子を影で伺っていた美智流。これは絶好のチャンスだと判断し、社長と秘書がエレベーターに乗った事を確認するや否や、社長室への侵入を試みた。 美智流 「カードキーや指紋認証、顔認証の類だと困ったけど、シンプルな鍵で施錠するタイプで助かったわ。これならピッキングで開けられる。」  外から部屋の鍵を掛けるという事は、中にはもう誰もいないという事。社長室なら何かしらの機密事項があるに違いないと、美智流はすぐに社長室へと侵入した。 美智流 「さてと、まずはやっぱりパソコンね。」  部屋の真ん中にある大きなデスクに置かれたパソコンの電源を入れる。当然、暗証番号の入力を求められたが、美智流を含むこの組織の潜入捜査員は皆、パソコンをすぐにハッキングできる特殊なUSBメモリを所持している。それをパソコンに繋ぐだけであらゆるロックは自動的に解除され、内部のデータもすぐにコピーされるのだ。 美智流 「よし、あとは具体的な物的証拠が見つかれば理想なんだけど……。」  パソコンの中のデータをコピーしても、そこに求めているデータが無ければ意味が無い。だからといってパソコン内を物色するにはあまりにも時間が掛かる。だから部屋に怪しい物が無いかを探す美智流。 美智流 「何も見つからない……。この企業は本当に白って事……?」  どれだけ資料を漁っても、悪事を働いている証拠など何も見つからなかった。これだけ探しても何も出ないのならば、そもそもそんな悪事の証拠など存在しないのでは、と思ってしまう。だが実際、この企業は逮捕された男が経営していた会社と関わっていただけ。タチカワという企業がファッションブランドだけに、ただ逮捕された男の服やバッグをこの企業から買っていただけの繋がりかも知れない。そう思えば思う程、この企業に裏があるとは思えなくなってしまったのだ。 美智流 「やっぱりパソコンの中のデータを確認するしかないわね。仕方ない、一度組織に戻って──」  美智流が漁った資料を棚に戻していると、たまたまその指が棚の奥の何かに触れる。 美智流 (ん……?)  何となくその不思議な物が気になり、しっかりと確認しようと手を掛けた瞬間── 美智流 「えっ!?……これ、隠し扉……!?」  棚の奥に仕掛けられていたスイッチ。そこに美智流が触れた事で、社長室の壁の一部がスライドしたのだ。 美智流 「もしかして、エレベーター?しかも、このフロアより更に上に行ける……!」  隠し扉の先は何も無い小部屋。そこにはエレベーターだけが設置されており、それは美智流がビルの高さに抱いた違和感を証明するかのように、上の階へと移動できるものだったのだ。 美智流 「わざわざ棚の奥の見えない所に隠された起動スイッチ、しかもそこからしか行けないフロア。間違いない、この上に何かある……!」  そう確信した美智流がエレベーターのボタンを押す。すると扉が開き、すぐさま乗り込んだ美智流だったが── 美智流 「なっ、何……!?」  一気に白く濁ったガスがエレベーター内に充満し、美智流は何も出来ずすぐに意識を失ってしまい、その場に倒れ込んでしまった。 「──────────………っちも忙しくなるでしょうから。」 美智流 「……ん。………………んんっ……。」  誰かの話し声が聞こえ、美智流はふと意識を取り戻した。だがまだその意識は朦朧としており、自分が今まで何をしていて、今どういう状況なのか、誰が何を話しているのかもよく理解出来ていなかった。 ??? 「あぁ、ちょうど目を覚ましたみたいだから、後はお願いするわね?」 美智流 「…………私、一体何を……?」  少しずつ意識が戻った美智流は、ふと顔を上げた。するとそこに立っていた人間に気付き、一気に自分がそれまで何をしていたのかを思い出した。 美智流 (タチカワの女社長、立川 由羽(たちかわ ゆう)……!?そうだ、私はこの企業に潜入して──)  隠し扉とエレベーターの存在でこの企業には裏があると確信し、エレベーターに乗り込んだ直後に自分が眠らされたのだと気付いた美智流は、慌てて女社長から距離を取るため動こうとした時── 美智流 「…………!?」  ガシャリと金属の音が聞こえると同時に、自分の手が動かない事に気が付いた美智流。それに驚きようやく自身が絶対絶命の状況にあるのだと理解したのだ。  両腕を頭上にピンと伸ばされた状態で立たされたまま、その両手首に金属の枷が嵌められ、それに繋がれた鎖によって美智流は身動き出来ないように拘束されていたのである。  足の方は何も拘束されてはいないが、腕をピンと伸ばされた状態立たされていては思うように身動きは取れず、枷が無くとも不自由さは変わらなかった。 由羽 「おはよう、侵入者さん。今のご気分はいかがかしら?」 美智流 「こんな拘束をされて気分の良い人間なんている訳ないじゃない。」 由羽 「あらそう?コソコソと私の会社に入り込んだ侵入者さんを歓迎してあげたのに、残念ねぇ。」 美智流 「やっぱりあなたが主犯格だったのね?」 由羽 「主犯格?一体何の話しをしているのかしら?」 美智流 「とぼけても無駄よ。あなたの悪事は必ず公に晒し、その罪を償わせるわ。」 由羽 「へぇ〜?身動きも出来ない癖に、随分強気な事を言うのねぇ。」 美智流 「私が行方不明となれば、必ずこの企業に捜査が入るわよ。そうなればあなたの罪が見つかり、それであなたはこの企業もろとも終わりよ。」 由羽 「そうかしら?少なくとも、偽装の入館証なんて物を作ってまで侵入している時点で、あなたの存在も公にはし辛い筈よぉ?例え、あなたが警察と繋がっていたとしても、ね?」 美智流 「くっ……!」 (この女、やっぱり頭はキレるようね……。)  少なくとも美智流が警察の人間ではない事は立川 由羽にバレていた。そして、いくら美智流が警察と繋がる組織に所属していようが、偽装の入館証を作り企業に侵入したなどと世に広まれば、それが捜査の為だったとしても警察の信用が失われてしまうだろう。だから警察も美智流が行方不明になった事を理由に大胆な捜査をする訳にはいかないのだ。  ましてや相手は超大手ファッションブランドである。世間的には期待と信頼、人気のあるブランド企業だ。もし警察の捜査が入った挙句、何も悪事の証拠が見つからなければ、警察の信用は地に落ちたも同然である。それに、立川 由羽がこれを機に証拠を隠滅してしまえば捜査の対策もでき、警察は何も悪事の証拠を掴めない。  つまりこの状況は、タチカワの方が圧倒的に有利な状況であり、それを立花 由羽は理解した上で美智流を捕らえたのだ。 由羽 「とは言え、あなたを何日もここに拘束しておくのはこちらも良くない状況よね。だからまずは、あなたから組織のトップの情報を吐かせて、今度はそのトップから弱みを握れば、あなた達をここから解放しても私達の企業には手出し出来なくなるわよね?」 美智流 「私が組織の上司を売るとでも?」 由羽 「まあそう簡単には教えてくれないわよねぇ?だから、こうして拘束しているのよぉ?」 美智流 「くっ……!拷問しようって訳ね……。」 由羽 「そういう事❤」 美智流 「な、何をする気……?」  拷問などという非人道的な事をされると思うと、どうしても恐怖心というものが芽生えてしまうものだ。それに美智流は拷問の訓練を受けたスパイなどではなく、ただの女性に過ぎないのだ。  どれ程 痛めつけられるのだろう。どんな苦痛を強いられるのだろう。死ぬより怖くて恐ろしい事をされたらどうしよう。そんな感情を抱いてしまい、内心震えが止まらない。気丈に振る舞っていても、その言葉には恐怖が表れてしまう。 由羽 「うっふふ……、と〜っても楽しい事よ❤」 美智流 「何が楽しい事よ……!人を痛めつけて、苦痛を与える事が楽しいだなんて、随分卑劣な人間ね……!」 由羽 「痛めつけるなんてとんでもないわぁ。本当に楽しい事をするのよ〜?何せ、私の拷問であなたも楽しそうに“笑顔”になるんだから❤」 美智流 「何が楽しそうになるよ。私が苦しんでいる姿をあんたが楽しむだけじゃない……!」 由羽 「いいえ?本当にあなたが“笑顔”になるのよぉ?」 美智流 「な……、何を言ってるの……?」 由羽 「そのままの意味よぉ?私の拷問によって、あなたが“笑う”と言ってるの❤」 美智流 「……はぁ?私があなたの拷問を受けて笑うって……?」 由羽 「そうよ?まあ……、正確には“笑わされる”、が正解かしらね❤」 美智流 「笑わされる……?私が?」 由羽 「えぇ。私の拷問によって、無理矢理……ね❤」 美智流 「無理矢理……!?わ、私に何をしようって言うのよ……!」 由羽 「だから〜、誰でも笑顔になれる楽しい拷問だって言ってるじゃな〜い❤」 美智流 「くっ……!」 (駄目だ……。この女の意図が分からない……。笑顔になる拷問なんてある筈ないし、おそらくこの女が楽しみたいだけでしょうね……。)  立川 由羽の言う笑顔になる拷問の得体が知れないため、美智流は立川 由羽の言葉を考えない事にした。だが、彼女の言葉を無視しようが、自分が拷問を受ける事に変わりはない。つまり、どちらにしろ拷問を受ける美智流の恐怖心が消える事など無いのだ。 由羽 「それにしても、私を興奮させてくれる良い格好ねぇ❤」 美智流 「なっ、何よ……。やっぱり悪趣味で卑劣な女ね……!拘束されてる私を眺めて興奮するなんて……!」 由羽 「別に拘束されて身動き出来ない女性に興奮している訳じゃないわよ?まあ、私が興奮する為に“その拘束”を施したんだけどね?」 美智流 「それって、結局 私が拘束されているから興奮してるんじゃない……!」 由羽 「いいえ?拘束されているという状況そのものではなくて、そんな風に腕を上げてる態勢が私を興奮させるのよ❤」 美智流 「腕を上げてる態勢?どういう意味……?」 由羽 「ほら、私がこの会社で着用を義務付けているそのスーツのインナー。日頃から私が興奮したくて、丈が短いデザインにしたのよねぇ❤」 美智流 「……!」  立川 由羽のその発言で、ようやく彼女の言葉の意味を美智流は理解した。そして、彼女が興奮する要因を自身のその目で確かめる為に顔を下に向けた。  丈の短いインナーを着ている状態で腕を真上にピンと伸ばせばどうなるか。そのインナーは、上げられた肩や伸びた身体に引っ張られる事となり、その裾から美智流のお腹やへそが露わになっていたのだ。 美智流 「くぅ……!」  ただでさえチラりとお腹が見えただけでも羞恥心を抱いていた美智流が、へそが大胆に露出する程 素肌を晒すこの状況が恥ずかしくない訳がない。しかもそれを見て堪能している人間が目の前にいると思うと、顔から火が出る程の恥ずかしさが込み上げ、顔が真っ赤に紅潮してしまう。 由羽 「うっふふ……❤恥ずかしそうなその仕草と顔も堪らないわねぇ❤お腹、隠したいわよねぇ❤」 美智流 「う、うるさいわよ……!」  その羞恥心に加え、未だ拷問への恐怖心もある。そんな状況に耐えられなくなった美智流は、どうにか拘束を解けないかと腕に力を込め枷か鎖を壊せないかと試みる。しかし、金属の枷が1人の女性の力で壊せる訳はなく、ジャラジャラと鎖が音を立てるだけで身体をいくら捩ろうともその拘束が外れる事など無かった。 由羽 「ほらぁ、そんなに身体を捩っちゃって、お腹がチラチラ見えちゃってるわよぉ?」 美智流 「くっ……、わざわざ言わなくたって分かってるわよ……!」 由羽 「ふふふ……❤そうやってあなたが誘うから、私も我慢出来なくなってきちゃったわ❤」  そう言うと立川 由羽はスーツのポケットに入れていた小さなリモコンを取り出すと、そこにある複数のボタンの1つを押す。すると、美智流の腕を吊るす鎖が取り付けられた天井から、何やら機械が起動したような音が鳴り始める。 美智流 「うっ、な……、何……?」  リモコンのボタンによって何かの機械が起動したのは間違いない。その音で、美智流はいよいよ拷問が始まるのだと悟り、その緊張感から冷や汗がたらりと頬を伝う。  そして、美智流を拘束する1本の鎖の両サイド、その天井が大きな音を立てながらスライドすると、これから美智流に拷問を行うであろう装置が天井から姿を見せた。 美智流 「えっ……、な、何……?」  てっきり、人を痛めつける為の悍ましく残酷な機械を想像していたが、あまりにも想像していなかったビジュアルに、美智流は驚きを隠せなかったのだ。  それは、太くて黒いケーブルに繋がれた、“人の手”のような物だったのだから。

潜入捜査員、月城 美智流【前編】

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