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蛇の目の傘 ベランダ篇 異変①

レズバトルシーンが増えそうなので、どうするか考え中です。

あと、環境を変えるのでもう少し間が空きそうです。


①受け入れる


「分かったよ。分かりましたよ、じゃあお礼の電話にするよ」

私の言葉を聞いて納得したのか夫の手が肩から離れる。いつも優しい彼だが、この時だけはやけに厳しい口調だった。

プルルルル、プルルルル。

「はい、もしもし。伊里地ですが」

しゃがれながらも女性の声であることが分かる。

夫の母親だ。

「あ、お義母さん。わたし、美紀です」

「あぁー美紀ちゃんか~。どうしたんだ~?」

「いやいや、どうしたって。お義母さんの傘が届いたからお礼の電話しなくちゃって思ってね」

「そっかぁ届いたのか。こんな所に越してこなけりゃ別に要らんもんなんだけどな」

「こんな立派なの本当に貰っても良いんですか?」

旦那にはさっき受け入れると言ったが、お義母さんの物を貰うと言うのは何となく気が引ける思いがあり遠回しだが断りの言葉が口から出る。

「美紀ちゃんにこそ必要なもんだ。これがねぇと、おかしくなってしまうぞ」

おかしくなる?

どういう事だろうか。義母は夫と同じで絵に描いたような真面目な人で冗談やふざけた事など殆ど言わない。


「どういう事ですか?」

「いやね、この地域は男日照りが酷い場所だったんや。生まれてくるのも男ではなくて女ばかり。次第に女同士で[[rb:諍い > いさかい]]が起きるようになったんじゃ」

「諍いってどんな事ですか?」

「土地から追い出したり、人知れず殺めてしまうといった血みどろの行いじゃよ。そんな争いが続いてしまうと農作業もままならいという事で、ある日偉い神主さんが巫女を連れてやってきたそうな」

「神主と巫女ですか?警察とかじゃなくて」

「辺鄙なところじゃ、当時の田舎の揉め事はお坊さんや神主さんが仲裁をしていたらしい。それに美紀ちゃんも分かると思うけれど、中々外の人が馴染むには時間が掛かる地域じゃしね」

私自身も浩紀を産んでからコッチに越してきたが、もともと住んでいた夫ですら馴染むのに苦労していて、住んでいた事ない私も未だに受け入れてくれていない人も居る。お義母さんも元々よそ者だったらしく、私の事をとても気遣ってくれた人の一人だった。

「まぁ、その皆さん仲が良くなればいい人なんですけれどね」

「仲良くなったらそりゃいい人になるだろうに。んで、話の続きじゃが神主と巫女が言う所じゃとどうも気が良くないらしい。邪の気があるらしくて、それを払うために二つの事を教えてくれたそうな」

「二つですか。それがこの傘に関係あるんですね?」

ずっしりと重く赤い和傘。

それがその呪いなのか邪の気なのか分からないが、どんな関係があるのだろうか。

「一つは魔除けじゃ。邪の気を払うために、蛇の目の傘がこの地には良いと教えてくれた。美紀ちゃんに届けた奴じゃ」

「傘が魔除けなんですか?」

「傘も模様もどちらもじゃね。蛇の目は悪い意味としてもつかわれることもあるが、災いから身を守るという意味もある。和傘自体にも魔を払うという力があると信じられているんじゃ。神主さんの話だと雨の日に特に邪の気が多いと言われていたらしい」

「それじゃ、もう一つは?」

「邪の気は人を暴力的に支配するらしく、定期的にこの気を払う方法を巫女さんが教えてくれたらしい。完他人言うとまぐわいじゃな」

まぐわい?

野球選手の名前かな。

「マグワイってなんですか?あのホームランをよく打ってた人ですか」

「違うよ。交わう、人と人のまじわいの事じゃね。契りともいうし、セックスという方が分かりやすいじゃね」

「セックスですか。えっと、全然話が見えないんですけれど……」

急な話で理解が追い付かない。

蛇の目の傘に魔除けの力があると言うのはなんとなくだが、想像は出来る。カラス避けとして目玉の風船があるくらいだから、蛇の目でも魔物や災いとかを退ける力がると昔の人が考えてもおかしくはない。

ただ、セックスがなぜここで出てくるのが要領を得なかった。

「わたしも嫁入りした時に聞かされて驚いたから無理もねぇ。巫女さんが言うには魔除けをしていても、邪の気と言うのは体の中に溜まっていくらしい。次第に邪の気に支配されていくのじゃ、わたしもなった事がある。そういう時にセックスをして邪の気を払っていくのじゃ」

いやいや、無理があるだろう。

全然理解が追い付かない。

「蛇の目の説明は何となく理解は出来ますが、そのエッチというかセックスが魔除けになるんですか?」

「魔除けというより、暴力的な欲望を発散させるんじゃな。わたしが聞いた話では実際に巫女が魔に取りつかれている女との交わいを見せたらしい」

「ええと、巫女さんが女の人とセックスをしたっていう事ですか。その、巫女さんって女性ですよね。女性同士でしたという事ですか?」

「おお、美紀ちゃんは察しがイイね。私は直ぐには理解が出来んかったんやが、やっぱり最近の若い子は頭の回転が早いね」


これは褒められているのだろうか。

それにしても女性同士でセックスをするなんて、私には無理だ。魔除けと全く繋がりが見えない。なんで暴力的になるのかも理解が追い付かない。

それを見越したのかお義母さんは言葉を続ける。


「言葉で言われても分からんよね。私も最初はそうじゃった。大丈夫、子供が生まれたらスグに分かる」


お義母さんは意味深に言うと電話を切った。

その後は特に何事もなく日常が過ぎていった。

そう、浩紀が生まれるまでは。


子供が生まれてからは夫婦の営みは減っていった。性欲が無くなったという訳ではなく、子供の世話に掛かりきりになり中々夫婦の時間を作ることが出来なくなっていった。

夫の方も土地に慣れたのか、周りから受け入れられたのか仕事量も増えていき夜遅くに帰ってくる事が多くなってきた。だんだんと私たち夫婦の距離は離れていき、ある雨の日に私の中で何かが爆発した。


「もう!なんなのよ!わたしが浩紀の事を見ながら家事もしているのに、アナタはなに!仕事の付き合いでお酒を飲んでこんな時間に帰ってきて、仕事してお金を稼いでいるからって偉いの!?」

ここ数年燻ぶっていた感情が口からとめどなく溢れていく。出ていく度に言葉のとげが唇をチクチクと刺激して、吐き出せば吐き出すほど頭の中にイライラが渦を巻いてき、怒りの感情に頭が支配されそうになる。

「別に俺が偉そうにした事なんてないだろ!浩紀の世話も俺だって時間を作ってやってるよ。まるで自分一人で全部やっているみたいに言うなよ」


「アナタは子育てのほんの少しの部分しか見ていない!そんなので分かったような口を利かないで!」

いつもなら絶対に手なんて出さないのにこの日は雨の音が耳障りだったし、夫の声も不快な音にしか思えなくなっていた。


パァァッン!


気付いたら夫の頬を平手打ちをしていた。

驚いたような顔を浮かべた夫の頬をもう一度叩く。

家中に嫌な空気が立ち込めていく。浩紀は私たち夫婦の喧嘩に気付き泣きじゃくる。

普段なら傍に行ってあやすのだが、この日だけは我が子でさえも受け付けることが出来なかった。自分のお腹を痛めて産んだ子なのにこの時ばかりはうざったいと思ってしまった。


これ以上は自分が何をするのか分からない。

一刻も早くこの場を離れたいという気持ちから、気づいたら私はお義母さんから頂いたあの傘を持って外に出ていた。

傘を開いた瞬間にいつものとは違うと思ったが、とにかくその場から離れたかった。傘を開くと蛇の目がこちらを見ているような気分になる。それと目が合うと、不思議と気分が落ち着いた。

傘をカラカラと回していると、こんなド田舎で雨が降っているのに私と同じように大きめの傘を指している人が歩いてきた。傘布には大きな一つ目が描かれていて、その目は遠くから見ても蛇の目だと分かった。


自分と同じ傘を持っている人が居ると分かると脳裏にあの言葉が浮かぶ。

「邪の気は女同士でセックスをすると払うことが出来る」

あの傘を持っている人は魔除けの為に差しているのか、それともただ単に雨をしのぐ為に差しているのか。普通に考えれば雨から守るためだが、今は思考が普通ではないのかいつもと違う考えが頭の中を支配する。


もう一つの蛇の目傘との距離が近づくたびに胸の鼓動が早くなっていく。心なしか相手も私に向かって歩いているようで、傘と傘の視線が合う。ザーザーと鳴る雨の音に足音はかき消されても、心臓の音はそれよりも大きくなっているのか五月蠅いと感じるほどに高鳴っていく。

気が付くとお互いの顔が分かる位の距離まで近づいていた。やはり男ではなくて女だった。浩紀が通っている保育園でたまに見る顔だが、名前は知らない。

彼女は息を荒くしながら私に近づいてくる。

「ねぇ、アナタもなのね?」


この問いに対しては私は考えるよりも早く口が動いていた。

「ええ、そうなのよ」


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