雷竜の力を手に入れて以来、クリムゾンブレイズは新たな力を求めていた。
「ンで、毎度のことながら廃墟探索ってワケだ。お仲間サンはここにいンのかい?」
「間違イナイ。ココカラ竜気ヲ感ジル……」
「へへ、いいじゃねェか。サンダーオーブの次はアイスオーブがいいな、今年の夏も暑そうだしよ」
「氷竜ハ好マヌ。会エバ必ズ諍イトナル」
「…ちったぁ仲良くしろよ。これから手ェ借りるかもしれねェんだろ?」
軽口を叩きながら探索を続けるクリムゾンブレイズ。崩落した瓦礫を掻き分け、わずかな手がかりを探す。少しずつ、しかし確実に探索範囲を絞っていく。トレジャーハンターの面目躍如である。
「小僧、近イゾ…濃密ナ竜気が漂ッテ来ル……」
「ついにご対面ってか。今回はシグムンド機関のヤツもいなかったしラクな仕事だったな」
「シカシコノ気配……マサカ…」
闇の中で妖しく光を放つ宝珠。それこそはまさに竜の秘宝、人智を超えた超常の兵器。
「お、見っけ見っけ。おいブレイズオーブ、あれで間違いねェんだろ?」
「アレハ……」
絶大な力を持つ財宝にも拘わらず無造作に転がるオーブ。手に取りその艶やかな感触を確かめる。
「新しいオーブくんゲットだぜ!ってか。コイツはなンてヤツなんだ?」
「コイツ…コイツハ!小僧!投ゲ捨テロ!今スグニダ!!!」
「あ?ッ!!?な、あ゛ァあああ゛!!!なンだ、これは!!?」
ほとばしる闇のオーラが脳内に流れ込む。荒れ狂う奔流が神経回路を圧し潰し精神を暗黒に塗り替えていく。
「があああああ!!!や、やめろォおおお゛!!!俺の、俺の中に、入ってくるんじゃねェえええ!!!」
「小僧!取リ乱スナ!!!魂ヲ奪ワレルゾ!!!」
「ンなこと、言っ、た、、って、、、!ッぐ、ァ、あ、あ゛!!!」
頭蓋を砕くような痛みに震え膝を落とす。昏く輝くオーブが掌から零れ落ちるが脳を苛む波動は衰えることなく、クリムゾンブレイズの精神をすり潰していく。
【―せろ】
「!?あァ゛!?」
空虚自身よりも深く、渇いた声。
【見せろ。汚らわしき貴様の欲を。竜の宝を奪う小人よ】
「な、なにを!!!???」
魂の奥底を強引に覗き込まれ心の断片を片っ端から引きずり出される。脳裏に浮かんでは消えるあまたの映像。あらわにされた記憶を手当たり次第にしゃぶりつかれ、最も深いところを凌辱されていく。
「だ、ダメだ!!!お゛、オ、、俺の、俺が、汚されていく!!!」
【これが貴様の欲か。もらい受けるぞ】
「な、なん、、、!ぐあああああ!!!!」
脳髄を灼き切る閃光を最後に、クリムゾンブレイズへの凌辱は終息した。地に臥せ汗にまみれながら、激しい精神汚染の傷跡に喘ぐ。
「ッ、は、はぁッ、はぁッ、な、なんだってンだ、、、コレ、、、」
「奪ワレタノダ、魂ノカケラヲ!」
「その通り。久しぶりだな、炎竜」
這いつくばるクリムゾンブレイズに立ちはだかる影。竜の秘宝を手に取り拾い上げるその姿はまるで-
「オ、俺が……もう一人!?」
クリムゾンブレイズを写し取ったかのような姿。しかし闇夜を映し込んだ深紫の鎧と立ち昇る闘気は似ても似つかぬ禍々しさだった。
「会いたかったぞ炎竜。俺の光。俺のすべて」
「な、なんだコイツ…グッ!?」
首を締め上げられ無理やり立たされる。
「気ヲツケロ小僧!コイツハ誇リ高キ竜族ノナカデモ最悪ノ部類!影竜ダ!」
「か、影竜?!」
振り解こうともがくが黒の戦士の握力はあまりに強靭で消耗した肉体では振り解けない。
「竜族ハ人ノ精神ニ感応シ現界スル!我ラ炎竜ハ情熱ト野心ニ、雷竜ハ闘争心ニ!影竜ガ食ラウノハ人ノ持ツ最モ醜ク忌マワシイ心-」
「憎悪と破壊衝動だ」
首をつかんだままクリムゾンブレイズの身体を振り回し階下に放り投げる。満足な受け身も撮れないまま背から墜落する。
「が、、、は、、、!」
「フン。炎竜の宿主の割に情けないことだな」
「クソッ、、、ってことは、アイツも機関のヤツが変身してンのか!?」
「違ウ。影竜ハ虚空ニ巣食ウ影法師。実体ヲ持タズ他者ノ写シ身トシテシカ存在デキナイ。我ラハ人ノ魂ニ呼応スルガ、ヤツハ人ノ魂ヲ盗ミ取ル。今ノ彼奴ハ、小僧!貴様自身ノ分身ナノダ!」
「クックック、その通り。さしずめシャドウブレイズ、とでも呼んでもらおう」
無様に伸びるクリムゾンブレイズと対照的に颯爽と舞い降りる。影の戦士、英雄の天敵。暗紫の鎧に身を包んだ狂気が、真紅の英雄へと近づいて行った。
「く、、、ッそ、シャドウ…ブレイズ?ンな猿真似ヤロウに負けてたまっかよ!」
「フン…猿真似だと?」
「ぐあッ!?」
起き上がりざまにケリを見舞われバランスを崩される。
「ンのやろ、、ッ、が、あッ!」
「後方に飛びのく。右突き。」
「ごふッ!ぐ、あッ!!」
「左でガード。…再度バックステップ」
「なん、がッ!あァッ!?」
体勢を整える暇すらなく追撃を喰らわせるシャドウブレイズ。クリムゾンブレイズの反撃は完封され、まったく歯が立たない。
「ンで、俺の、、全部読まれ、、て…?」
「何を驚く、俺は貴様の写し身。戦闘の技術もクセも知り尽くしている。猿真似にやられる気分はどうだ?」
腰を深く落とし必殺の気を溜めるシャドウブレイズ。思惑を察したクリムゾンブレイズだがダメージの深い身体では満足に身構えることもかなわない。
「ち、ちくしょ……」
「遅い!!!」
裂帛の気合いを纏い飛翔する影。流星の速さで墜ちる拳が防御を紙クズのように貫き、クリムゾンブレイズを大地に叩き伏せる。
「!!!!ッ、ァ!!!」
全身打ちつけられる痛みに声もなく悶える。起き上がろうにも呼吸すらままならず、眼前に暗い霞が下りる。
「おっと、一人で絶頂するとはツレないではないか」
「ぎゃあっ!!!」
鋭い痛みが意識を現実に引き戻す。打ち捨てられたオモチャのようにグリグリと踏みにじられ、文字通りプライドを蹂躙される。
「こ、こんな…手も足も出ねェなんて……」
「炎竜が言っていただろう、俺の力の源は憎悪と破壊衝動。現界の際に貴様の魂を啜らせてもらった。今の貴様はただの出涸らし。破壊の欲が抜けた戦士など相手にもならん」
「く、、それで…さっきから力がロクに出せねェのか…」
無力に横たわるクリムゾンブレイズを見下ろすシャドウブレイズ。その瞳の奥に暗く歪んだ感情を滲ませながら重々しく囁く。
「ようやく貴様の肉を手に入れたぞ、炎竜。これから…これからだ。貴様の全てを手に入れる。この程度の光では足りぬ。もっと、もっと魂の炎を―」
その言葉の末が届くことはなかった。全身を貫く痛みに意識を飲み込まれ気絶するクリムゾンブレイズ。
「……フッ」
トドメを刺す絶好の機会にも拘わらず、一瞥をくれただけでシャドウブレイズはひっそりと戦場を後にした。
初めて味わった完全なる敗北。完膚なきまでに叩きのめされ、真紅の英雄は翼を捥がれた鳥のごとく、無様に地に伏せていた。
「宿敵登場!?戦慄の竜の影!」fin…