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鷹取リュウゴ
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デュアルVRインキュバス 5

5闇チップ  『MFW』からログアウトした俺の手の中には『闇チップ』があった。 「!? マジで?」 驚きの余り目をこすった。 「いや、いやいや、あり得ないだろ?」 ヴァーチャル(仮想)の世界でもらったモノがそのままリアルに持ち帰れるなんて……。 アプリはちゃんと閉じている。時刻は遅いけど眠って夢を見ている訳ではない。 どんなに『MFW』でかっこいい淫魔になっていても、どんだけ巨根の絶倫インキュバスになれていたとしても、それはあくまで「仮想」の空間の中だけのハナシで、ログアウトすれば普段と変わりない平凡な「人間」の俺だし、チンポも普段通りのサイズのまま一ミリたりともデカくなっちゃいない。 ヴァーチャルはヴァーチャル。 非現実の仮想空間。実像では無く「虚像」 現実とは絶対に交わらない。 草一本、葉っぱ一枚『MFW』から持ち帰ることはできない。 「夢」の中で億万長者になったとしても現実にはびた一文増えちゃいない。 それと同じコト――それが常識でそれが普通。 なのに、だ。 手の中の『闇チップ』はそんな俺の常識や普通をせせら笑うかのように実際に存在していた。 「俺が『MFW』にダイブしている間に誰かがそっと握らせていたとか?」 部屋の中を見渡しても俺以外に誰もいない。 誰かが出入りした気配も感じない。 そもそも、『MFW』の中で俺が『闇チップ』をもらっていたかどうかなんて、一緒にゲームをプレイしていなければ一切知ることなどできないのだ。 「まさか、ここもヴァーチャルの世界なのか?」 手でカラダのあちこちを触れて確かめた。顔も、カラダもいつもの俺だ。 目の前の空間をつついてもメニューウィンドウは出ない。ここは現実世界だ。ちゃんとリアルに戻っているんだ。 とすると、『闇チップ』がここに在るなんてあり得ない、あり得ない事だけど――。 額に触れると「裏チップ」が貼りついたままだった。 そいつを剥がして『闇チップ』と並べると、ともに1cm四方の正方形でほぼ一緒の大きさだったが色はかなり違っていた。 「裏」は銀灰色、『闇』は艶やかな黒い色。 『闇チップ』は、まるでクライムが首から下げていたオニキスのような漆黒に輝いている。  『使う使わないは、オーファルの自由だ』 クライムのルームでたっぷりセックスを愉しんだ後、余りの快感に魂ごと持って行かれ腑抜けて横たわる俺を振り返りながら野性的で悪ガキくささもあるクライムのニヤッと微笑む顔が『闇チップ』に重なった。 「クライムのチンポ、想像以上に凄かった……。マジ気持ち良過ぎて何回もイかされちまった……。シグレスともナギーとも違う、俺が俺でなくなってしまうような凄いセックスだった……」 翻弄される、とはこう言う事なんだな、と思い返しているとチンポだけじゃなくケツの奥までジンジンし始める。 ―― これで『闇チップ』でクライムとセックスしたらどれほど凄いんだろう? ――  思ってしまった。 裏チップでも凄すぎて言葉もなかったのに、感覚リンクがより大きいと言う『闇チップ』でログインしてセックスをしたら、一体どれほどの快感を感じられるのか。感じてしまうのか。 ――ブルルッ 身震いした。想像できない快感。 限界を超えた快感。怖い。 考えてはいけない。恐い。 知ってはいけない。知ればもう戻れない。 今でももう十分『MFW』を知る前の俺とは違うけれど、これ以上強烈な快感を味わって、体が心を置き去りにするような体験をしてしまったら、俺はもう、根本的に別の存在になってしまうような気がするのだ。 一線を越えない様、俺の脳内リミッターが精一杯のブレーキを踏んでくれる。 その先はダメだ。行ってはいけない、と。 「……でもさ、どれくらいキモチイイ?」 囁く声が聞こえた。もう一人の俺だった。 『安全性は問題無いのだろう? だったら試してみりゃいいじゃん!』 『ビビってんじゃねぇよ。死にゃしないんだからトライするっきゃないだろ?』 黒い『闇チップ』を摘まんで裏を見た。 特に変わった点は見当たらない。裏チップとも変わりない普通の接着面だ。 「別の存在になるとか、さすがに俺の考え過ぎだよな……。ちょっと俺、疲れてんのかも。体力は有り余ってるけど精神的にへばってんのかなぁ」 『闇チップ』から目をそらし、そのまま机の中に押し込んだ。 じっと見ていると吸い込まれてしまいそうになる。肉欲の渦に手繰り寄せられ「限界の向こう側」はどれ程なのかと、湧き上がる恐怖を押し退け「軽率に」額に貼り付けてしまいたくなる。 「今は止めておこう。今はダメだ。取りあえず覚悟ができるまで『闇チップ』は使わない」 ◇  翌朝、奈義先輩からメッセージが入った。 『ヒマしてんなら今から『MFW』でヤらねぇ? ここんとこバタバタしてたせいでしばらくログインできなかったから俺、 超ヤリてぇんだ。大輔にも声かけてるから、陽一も来いよ』 「こんな朝っぱらから? 奈義先輩、元気だな――ふぁ、ああ~」  時刻は朝6時。朝と言うか早朝。欠伸が出るのも当然だ。 とっくに日は出ている筈だけどまだ梅雨明けしていないため窓の外はかなり薄暗い。 トイレに行くため部屋を出て下りるとリビングのソファに人が座っている事に気付いた。 カーテンを閉めたまま照明も点けないで暗かったから思わずビビった。 「うぉ!? ビックリしたぁ~。なぁんだ兄貴かよ~。おはよう、兄貴。昨夜からこっちへ帰ってたんだ?」 外出着のスラックスを穿いたままソファに座ってじーっと一点を見つめていた。 考え事でもしていたのか、俺が声をかけると肩を思いっきりビクッとさせていた。 「ん? あ、あぁ、陽一か。……おはよ」 「一人暮らしは順調? ちゃんと飯とか食ってんの?」 冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぎながら聞いてみた。が、うんともすんとも返ってこない。 「なぁ、兄貴ってば? ぅおっとと」 危く溢れそうになる寸前に注ぐのをストップしたものの、コップになみなみの牛乳はその場ですすって減らさないといけなくなった。 危険水位を下げてテーブルにコップを置こうとするとソファの兄貴がじぃっと俺を、俺の股間を凝視していた。 「どしたの? 兄貴、まだ寝ぼけてる?」 「……陽一、ずいぶん勃起してるんだな」 「うん? ぅおっと! あ、兄貴! 恥ずかしいからそんなに見るなよぉ!」 少年の朝は朝勃ちから始まる、と言っても過言ではない。 特に、『MFW』でヴァーチャルながら気持ちいい行為をするようになって以来、余計に勃起しやすくなっていた。 「男なんだし恥ずかしくはないだろ? 俺だってもうこんなに――」 ソファから立ち上がった兄貴は雄の興奮そのままを見せつける「盛り上がり」を俺に示してニヤッと笑う。 「兄貴?」 4歳年上のクソが付く様な真面目一辺倒の兄貴。 運動はてんでダメだけど好きな学問をもっと学び、もっと研究したいとコツコツ努力して、超難関で知られる国立大学の 情報工学部に一発で合格した。 大学入学以来ずっと家から2時間かけて通学していたけれど、1年目が終わって春休みに入ると、誰にも相談無く突然一人暮らしを始めた。 俺が中学に入るまではよく遊んでいたけれど、中学以降はだんだん遊ぶこともなくなり会話も挨拶程度しかしなくなっていた。 それでも勉強家で努力を惜しまない姿勢は口にこそしないけれど内心尊敬していた。 「いや、あの、男だから勃起は当たり前かも知んないけど、身内であんまこう言うのって言わないような……」 「……ぁ。い、今のはその、俺も、どうかしていた……」 「やっぱ眠いんでしょ? 少し寝直して来た方が良くない?」 「そう、だな……。ああ、うん……。驚かせて、悪かった……」 「別に気にしてないけど。俺も軽く朝飯食ったら二度寝しに部屋へ戻るから」 本当は奈義先輩のお誘いに応じて『MFW』にダイブするつもりなんだが。 「……陽一」 「ん?」 「陽一は、『闇チップ』を手に入れたのか?」 「――っ!!」 思わず牛乳を噴き出してしまう所だった。 「え? はい? や、闇?」 「…………」 どうして兄貴の口から『闇チップ』が出てくるのか。 混乱して狼狽える俺の「答え」を待たず、兄貴はリビングを出て行ってしまった。 「兄貴……、なんで兄貴が『闇チップ』を知っているんだ……?」 スマホに再びメッセージが入った。 『陽一~、奈義先輩が待ちくたびれてるぞ~? 俺も早くオーファルに会いたいんだが』 こんどは大輔からの催促だった。  兄貴の件はひとまず脇に置いて、俺は「裏チップ」を額に貼り、ゲームアプリ『MFW』を起動した。

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