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鷹取リュウゴ
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生皮鬼 6

6勇士の末裔  「さてと、ここまで来れば誰もいないだろう。それに、お前たちもこっちの方が話しやすいだろう?」 生駒先生は旧校舎にある図書室に俺たちを連れて来た。 昨日も来た学園祭で使う予定の調理器具や道具類が雑多に置かれたあの部屋だ。 「ええと、先生? 話とは何でしょうか?」 恐る恐る聞いてみた。 「前置きは無しで行こう。人目を避けるためとは言え長居はできないからな」 先生はがら空きの本棚のある一点を指した。 「あそこにさ、こんぐらいの古い箱があったろ? 中に入っていたモノはどうした?」 「先生、どうしてそれを?」 「どうして、って? そりゃ、あの箱をここに置いたのは俺だからだ」 「先生が!?」 「ちゃんと説明してやるが、その前に――」 生駒先生の目が俺たち三人を順に射ぬいた。誤魔化しや嘘偽りを許さないと言わんばかりの鋭い目つきだ。 「箱の中身、あれは鬼の皮なんだがお前らすでに身に付けちまったか?」 俺も壮平も龍騎も、互いに目配せを交わしてから先生の質問にイエスと答えた。 「はい。着ちゃいました、ってか、触ったら皮の方から俺たちに覆いかぶさってきたんですが」 「そうか。まぁ、その生命力はさすが鬼だな、としか言いようがない。お前らにとっても災難だったな」 「驚きました。皮を着たら鬼になるなんて思ってもみませんでしたし、そもそも『鬼』なんておとぎ話の空想上の存在だと思っていましたし」 「だよなぁ? 普通そう思うよなぁ? 俺だって昔からの言い伝えを聞いた時はそんな感じだったさ」 「先生っていったい……?」 「俺のご先祖さま、つっても千年くらい前なんだが、そのご先祖さまってのがお前らが封印を解いた箱の中身、つまり鬼を皮だけにした人、なんだそうだ」 「マジですか!?」 またまた驚く俺らに先生は重ねて置いてあった丸イスを引っ張り出して「まぁ座れよ」と勧めてくれた。 「隣町に良性寺(りょうしょうじ)って寺がある。知っているか?」 俺も壮平も龍騎もうなずいた。 とても大きなお寺で子供の頃に遠足なんかで訪れる事も多い。俺も初めて行ったのは小学校の遠足だった。 「その良性寺の隣に『三剣(みつるぎ)神社』ってな小さな神社がある。そこが俺の実家だ」 その神社は知らなかった。龍騎も壮平も首を横に振っている。 「やっぱ知らねぇよな? 良性寺より規模が大きい時代もあったらしいんだが衰えて行く一方でな。明治維新での神仏分離で 土地のほとんどを良性寺に明け渡す羽目になってしまったし」 生駒先生は「ふぅぅ」と深いため息を吐いた。 実家の神社が衰微した事を嘆いているのか、それとも時の政府の威光には逆らえなかった曾祖父? あたりを慮ってか。 「ま、時代の趨勢ってやつだ。盛者必衰って程じゃぁ無いが神様を奉ってたってダメになる時はダメになっちまう。 つうか、話のポイントはそこじゃない」 生駒先生はここで言葉を区切るように一息入れた。 「俺の実家、さっきも言ったが『三剣神社』は、鬼を皮に変えて封じた時に用いられた三振りの剣をご神体としている」 「「「ええっ!?」」」 俺ら三人ともイスから腰を浮かせてしまった。 「と、俺は神社を継ぐ長男として、神社に伝わっている言い伝えを何度も聞かされて来た。親父もそうだし祖父もそうだったんだろう」 「と言う事は、あの鬼の皮も元は先生の実家の三剣神社にあったんですか?」 「そうだ、と言いたい所なんだがちょっと事情が込み入っててな。どっから話せばいいのか思案していたが、やはり頭から順番に話さなければダメな気がして来た」 少し長くなるけど我慢してくれ、と前置きした生駒先生は、皮の鬼とその鬼を封じた経緯から話し始めた。 ◇  時はおよそ千年の昔。 都から人を攫い慰み者にする三匹の鬼が居た。 最初は恐れおののいていた都の人たちも、鬼と睦み合う事で得られる極上の快楽や、はたまた鬼の精を得る事で体が頑強になり 無病息災・疾病除去などの効果があると知って三匹の鬼に攫われるのを待ち望むようになっていった。 そのようにして鬼でありながら善なる者として受け入れられ、評判を上げていった一方で、この三匹の鬼の人気を妬む者も現われた。 「そいつが天邪鬼って言うんだ。名前くらいは知っているだろう?」 「はい。性格の曲がったひねくれ者の事ですよね?」 「そう言う意味もあるが、ここでは単に意地悪な鬼、とだけ押さえていてくれ」 俺らは「はい」とうなずいた。 三匹の鬼を嫉妬する天邪鬼は、遠征から帰って来たばかりで都の事情を知らない将軍に三匹の鬼たちが都で暴れ回っているのだと嘘を吹きこみ、討伐してくれと頼んだ。 まさかそれが天邪鬼の嘘だと思わなかった将軍は、配下で最も武勇に優れ、誰よりも信頼の置ける三人の勇士を選び、鬼を封じると言われている三振りの神剣を与え、三匹の鬼の討伐に向かわせた。 「そうして、三人の勇士は三匹の鬼を皮に変えて封じ、あの桐箱の中に収めた。さらに中身が世に出ないよう特別な力の籠った お札で箱が開かない様、厳重に仕舞った。 そうして鬼を封じた剣は神剣として神社のご神体になり、鬼の皮を納めた箱は人の手に渡らない場所で秘かに保管されていたんだ」 三勇士の一人、生駒先生のご先祖様は神剣を奉る神社の神職になり、もう一人の勇士は鬼の皮の箱を誰にも奪われたりしないようにと遠国に身を隠したそうだ。 「あれ? 三勇士、なんですよね? あと一人はどうしたんですか?」 「引かないで聞いて欲しいんだけど、三人目の勇士は神職になった勇士の伴侶になったんだ」 伴侶、と言う事はその勇士は女性、「女武者」だったのか。別に引くほどの事じゃない。 「一応、全員誤解しているだろうから言っておくけど、勇士は全員男、男性だからね」 「オトコ?」壮平がカタコトっぽい発音で呟く。 「伴侶が男?」龍騎が首を傾げた。 つまり、それって―― 「先生のご先祖様って、男同士で結婚したんすか!?」 「はい正解。俺のご先祖様は男同士で結ばれたんだよ」 「じゃぁどうやって子孫を? あ、養子とか妾とかっすね? 昔は珍しくないみたいですし」 「引かないでくれ、って言ったのはそれじゃない。そのご先祖様も俺も、男ながらに子を孕める、いわゆる女性器を持った『ふたなり』と言う存在なんだ」 「ふた…、なり?」 「ああ。平たく言うとチンポもあるし子宮やマンコもあるって奴だ」 「「ええええーーーーー!?」」 今度は完全に椅子から立ちあがってしまった。それほど驚いてしまったんだ。 「はは、そ、そんなに見つめられたら照れるじゃないか。ま、そう言う訳でね、ウチの家系の男どもは代々『ふたなり』なんだ。 このカラダの事は学園長にも教頭にも誰にも教えていない。俺とお前たちだけの秘密って事で内緒で頼むな」 「は、はい。分かりました……」 「でも、今まで良くバレずに――」 「生きてこられたな、って?」壮平の疑問を途中で先生は引き取った。 「答えは簡単。セックスする時以外マンコは出現しないんだ。それも相当興奮した状態でないとな」 「じゃぁ、健康診断とかも?」 「バレた事も疑われた事も無い。見た目上は普通に男のままだしな。ハァハァしながら健康診断や身体検査を受ける事なんて無いし」 性的興奮状態でないと『ふたなり』マンコが現れないのであれば、周囲に悟られる事が無いのは当然かも知れない。 「俺のカラダについてはこれぐらいにして、鬼の皮を持って遠国に隠れた勇士はその後、どこに行ったのかどうしているのかなんてずっと分からなくなっていた。 勇士である事も隠し、名前も変えていたのだろう、と思う。何せ文献も証拠も無いのだから。 だけど俺は出会っていたんだ。その勇士の子孫に。お互いがそうなんだと知ったのはもっと後に、最近の事になるけど」 「と言う事は千年ぶりの再会? いや、再会じゃないな、巡り合い? っすか?」 「凄いっすね! ドラマチックだなぁ~!」 「ともかく、俺は隠れていた三人目の勇士の子孫と出会い、その人から大昔にご先祖様が封じた鬼の皮を預かって欲しいと頼まれた」 離れ離れになっていた一族の子孫が奇跡的に出会うこと自体は感動的だし神秘的な感銘を受けるけれど、それでも長きに渡って 隠れ住んでまで護り続けていた貴重な品を、相手も勇士の子孫だからと言う理由だけで預けたりするものなのだろうか? 生駒先生がもしも悪堕ちしていたりしたらどうするつもりだったのか。 「それで先生はこの旧校舎の図書室なら安全だと考えて隠していたんすか?」 龍騎が他意の無い顔で先生に聞く。 「いや、そうじゃないんだ。言い訳にしかならないけどここよりもっと安全な自宅で保管するつもりだったさ。 なので、自宅に移すまでの間、しばらくここを借りてただけなんだ」 「俺に見つけられる前に家に持って帰っていれば良かったですね」 「まったくだ。自宅が土砂崩れに遭ってなきゃそうできたんだけどなぁ」 それも初耳だ。 先生の家が土砂崩れに? なら、神社のご神体だと言われている剣も土砂に埋もれてしまったと言う事なのか? て言うか、最近大雨なんて降っただろうか? 「神社そのものは無傷だったけど隣に建っている俺の自宅はかなりダメージを受けちまって、とても住める状態じゃ無くなってんだよ」 「先生がそんな被害に遭われてたなんて、ちっとも知りませんでした」 「それは、被災したのが夏休み期間の最中だったからだ。そんな訳で、自宅の再建工事が終わるまでの3か月ほどならここでも大丈夫だろうと考えて置いていたが――」 何で鬼の「皮」なんてものがここに在ったのか理由は分かったけど、生駒先生は結局俺ら3人に何を言いたいのか? 「皮」の由来や歴史を語りたいだけなら自分のカラダの秘密まで打ち明ける必要なんて無いだろうし。 今すぐ「皮」を返せ? それとも……。 「済んだこと悔やんでても仕方がない。覆水盆に返らず、だ」 不意に生駒先生が口を閉じ、俺たちの背後、図書室の奥をじっと睨んだ。 「……まぁ、さすがに結界も張らずにこんだけ気配を出しっぱなしにしてれば、来るよなぁ?」 背筋がぞくりとした。 窓はもちろんドアもぴったり閉じていて風なんて入って来る訳ないのに、首筋を生ぬるい風が舐めたように撫でて行く。 「うわ!?」 俺だけじゃない。壮平も龍騎も椅子を蹴って立ちあがった。嫌な気配がじわじわと近づいている。 振り向いて本棚の奥に目を凝らしじっと見ていると、ゆらり、ぬらりとこっちへ歩いて来る奴が居るではないか。 「ホームルームでは悪魔とか幽霊なんて言葉で誤魔化していたが、3年の先輩たちが倒れちまった本当の理由を言おうとしたタイミングでご登場とは、いやはや、恐れ入るねぇ」


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