生皮鬼 14
Added 2021-08-09 04:20:06 +0000 UTC14決意と結成 『――こうやって学園祭開催の目途が立たないままでは名門・賀名生学園の名は地に落ちますが? そうなってからでは遅い。遅すぎでしょう。 ただでさえ少子化で受験生の数は減少傾向。何もせず手を拱いていては安定した学校経営にも重大な影が落ちる事は必至。 そうなる前に移転して立て直すべきだ、と私は申し上げているのです』 学園長や理事たちが集まって行われた理事会の内容が伝わって来たのは生駒先生や御隠先生とのセックスを愉しんだ次の日だった。 「いよいよ本性を現した、って所だな」 「議案を理事会に諮る事がまず最初の一手、になるんだよねぇ~。アチラさんたちの立場に立ってみれば」 昼休みの時間に尼辻先生の居る保健室に集まった俺たち4人。 御隠先生は次の体育の準備があるから来ていない。生駒先生と俺と、壮平に龍騎だ。 「でも、ここって盗聴器とか隠しカメラとか無いんですか?」 素朴な不安を尼辻先生にぶつけてみた。 「ははは。心配無用だよ。ここは一応女子生徒も入る場所だからね。僕の立場を危くするようないかがわしい機材は一切設置されていない事は自信をもって保証しよう」 胸を張った尼辻先生。 悪くはないけど自己保身が先に立つ発言が玉に疵、って感じがした。 「理事長は前に言った通り副理事長のいいなり。他の理事たちもおおむね副理事長の意見に賛同していた。後は学園長の決断待ち、ってな状態」 「もうそこまで移転の話が進んでいるのか?」 生駒先生も驚きを隠さない。 「副理事長の思惑とは関係なく以前から移転の話だけはくすぶっていたからね。新校舎を建設したものの旧校舎の解体が進んでいないのは財政的に厳しいから、らしいし。 だからこそ土地を売却、郊外に移転してしまう事で一気に財政問題を解決しようと言う意見があったんだ」 尼辻先生はそう言うと「そもそも新校舎を建てる前にちゃんと道筋を作っておくなくちゃいけないと思うんだけどねぇ」と皮肉な笑みを浮かべた。 「だけど、それって歴代学園長の拒否で阻止できていたんですよね?」 「良く知ってるね? あ、生駒先生から聞いたのかい?」 俺はその通りだとうなずいた。 「歴史と伝統を頑なに守る事よりも生徒を最優先に考えている今の学園長にとって、今回の副理事長の提案は相当効いただろうな。 学園祭が開催できない原因についてひどく悩んでいるし……」 「邪気が集まったり生徒が邪鬼化するのはこの土地に原因がある、と副理事長は言ったんですか?」 壮平が尼辻先生に尋ねた。 「そこまで直接的な表現ではないにせよ、それとなくほのめかす、くらいはあったんじゃないかな? 同じ土地に長く居続けることこそが邪気の蓄積を促したかもしれないとか、ね」 副理事長自身、万が一計画が失敗しても自身の発言の責を問われないように慎重に行動しているのだ、と改めて思った。 「次の理事会は一か月後にあるみたいだね。それまでに何らかの明るい進展がないと学園長も副理事長の提案に乗るかも知れない。 ともあれ、学園祭は延期になるみたいだけど」 「え!? 学園祭が延期に!?」 「マジで!?」 生駒先生だけではなく、俺も壮平も龍騎も驚きの声を上げた。 「理事会で正式に決まったみたいだよ? あと数日で邪鬼騒動が終息するとは思えないから2週間延期する、と」 「俺もそれは聞いていない」 生駒先生も尼辻先生を見つめた。 「先生方や全校生徒には間もなく発表されるだろうね。僕はほら、独自の情報ルートがあるんでひと足早く知っただけ」 「マジかよ……」 「それと、さすがに再延期は無理だろうね。んで、学園祭が中止に追い込まれたら後はもう、副理事長の思うがまま。 今年は仕方がないとしても来年も生徒の楽しみを奪いたくはないって、学園長も移転に賛成するだろうねぇ」 壮平も龍騎も言葉が無いようで黙り込んだ。 俺だって特に解決に結びつくような名案がある訳じゃない。 ここで昼休み終了のチャイムが鳴って俺たちは教室へ戻る事となった。 生駒先生は次の授業の準備のため職員室に帰って行った。 「……どうする?」 「どうするっても、なぁ?」 「俺らでどうこうできる問題か?」 邪気や邪鬼には対処できても学校経営に対応できる訳がない。俺も壮平も龍騎もただ単なる「生徒」の一人に過ぎないんだ。 鬼の皮で「鬼」になる事ができたとしても。 「邪気を祓っていればいずれ副理事長の狙いを阻止できる、なんてのんびりした状況じゃぁ無くなっていたんだな」 龍騎の言う通りだ。 事はもっと急速に、そして確実に賀名生学園を潰そうと動いていたのだ。 「郊外に移転なんかしたら、それこそ受験する生徒がもっと減るんじゃないか? アクセスの良さもこの学園の大きな『売り』だってのに」 壮平が悔しそうに言った。 「透哉が、俺の弟が来年、ここを受験するつもりなんだ。もし移転になると知ったら、どうするんだろう。 通学が不便になるなら止めるかも知れないな」 いくら兄貴と同じ高校で学びたいと希望していたとしてもきっと迷うだろうな。 晴れない気分のまま午後の授業をこなし終礼の時間になった。 そこで生駒先生から正式に学園祭が延期になった事を知らされたのだが、聞かされたクラスメートの反応は驚きよりも「やっぱりか」 と言う諦めと納得が入り混じったものだった。 終礼が終わると生駒先生は学園祭延期についての会議が再びあると言ってすぐに教室から去って行った。 濃い邪気の気配も無いし全員部活が休止状態のままなので壮平や龍騎と一緒に途中まで一緒に帰る事になった。 学園の門を出てしばらく、駅へ向かう道を歩いていると待ち構えていた3人の生徒に呼び止められた。 「待っていましたよ先輩がた」 呼び止めた一人は一年の細見。いや、邪鬼「サメガイ(鮫鎧)」と呼んだほうが分かりやすいか。 「なぁ、この後時間あるか? あるよな?」 もう一人は同じ二年の浜中。そう、邪鬼「カイナギ(腕戯)」だった。 そして最後の一人は、 「なんだなんだ? 揃いも揃って浮かない顔してるじゃん」 三年生の藤本先輩。邪鬼・「ドロヅミ(泥詰)」だ。 「誰かと思ったら邪鬼三人衆か」 龍騎の発言を藤本先輩が否定した。 「元・邪鬼だ。悪い鬼みたく言うなよな。今はただの鬼、かな?」 自分を人間と呼ばず鬼と言うあたり、変身していなくても意識は鬼に近いのかも知れない。 「敢えて名付けるとしたら松塚たちと同じく生きている皮で鬼になれるんで、『生皮(なまがわ)鬼』なんていいんじゃないですか?」 浜中の言葉に俺も龍騎も壮平もハッとして顔を見合わせた。 カギロイたち三体の求性鬼が皮に変えられ封じられていた箱にも書いてあった言葉と同じじゃないか、と。 偶然なのか、それとも必然なのか。 「いいっすね!『生皮鬼(なまがわき)』って。浜中先輩ってセンスありますね!」 細身が無邪気に浜中を褒めている。 「それで? 『生皮鬼』の皆さんが俺らに何の用事なんですか?」 龍騎が改めて問い質した。 「今日はあんまりセックスしてぇって気分じゃないんだけどな」 壮平が先に釘を刺した。 「俺らの賀名生学園がピンチって時にのんびり気持ち良くサカるなんて、なんか嫌だよな……」 俺もつい本音が口から漏れてしまう。 皮で鬼になってしまえば性欲は爆上りするけれど、頭のどこかに重いモノを詰め込んだままセックスしたって満足できるとは思えない。 「え? 嘘でしょ? この前はあんなにノリノリで俺らとヤりまくってたのに」 浜中が驚いて目を見開く。 「マジっすか? 先輩がた、マジで溜まってないんすか?」 細身も俺たちの先手を図りかねている。 「……なぁ松塚。その、賀名生学園のピンチってのがお前らを悩ませているのか? セックスする気持ちが萎えてしまうほどヤバイもんなのか?」 藤本先輩は俺のつぶやきをスルーせず反応を見せた。 壮平と龍騎に視線を飛ばすと二人ともうなずいてくれた。これは「話しても良い」って反応だ。 人目を避け近くにある公園に藤本先輩たちを連れて行き、そこで今、賀名生学園に起きている状況やピンチの内容をかいつまんで説明した。 生駒先生と御隠先生が付き合っている事や保健医の尼辻先生の正体については伏せて、ではあるけど。 「俺らが邪鬼になっちまって暴れていた裏でそんな事態が進んでいたなんて……。でも、酷い話っすね」 「にしても、副理事長ってやつ、自分の私腹を肥やすことしか考えてないのかよ? 邪鬼より悪い鬼みてぇじゃん」 細見も浜中も副理事長への怒りを露わにしてくれた。 「――だけどなぁ、俺らにどうこうできるレベルの話じゃないよな? それと、副理事長を糾弾できるハッキリとした証拠も無いんだろう? そもそも、この中で副理事長を知ってる奴は居んのかよ?」 藤本先輩の言葉に俺はハッとした。 生駒先生や尼辻先生から何度も聞いていながら俺は副理事長の顔すら知らないままだ。 壮平も龍騎も首を横に振っている。 「俺なんかぶっちゃけ副理事長の名前すら知らないぜ? 俺だけじゃない。普段、学校に来ないヤツなんて皆その程度の認識だろ? だったらまずは相手を知らなくちゃダメなんじゃないか? 『敵を知り己を知れば――』なんとやら、だ」 延期された学園祭が中止に追い込まれるまで、と言う期限はあるものの、藤本先輩の言う通りじゃなかろうか。 生駒先生たちとは違って俺たちは相手がどんな顔でどんな姿をしているのかすら知らずに悩んでいた。 けど、それじゃぁダメだよな。 「藤本先輩のお陰で取りあえずやるべきことが見えてきた気がします。確かに俺たち、相手の事を知らなさ過ぎでした。 なので、まずはこの目で副理事長を確かめることから始めてみようと思います」 龍騎と壮平も目に力が宿っている。 「だったら俺も協力するっす。俺を正気に戻してくれた恩返しもしたいですし」 細見が俺たちの前に手を出した。 「わっ! ずるぃぜ細見! 俺だって松塚たちを手伝うって言いかけてたのに」 浜中もすっと手を出し細見の上に重ねた。 「じゃぁ、言い出しっぺである俺も付き合わなきゃな。鬼になれる者同士、みんなで力を合わせようぜ!」 藤本先輩が浜中の上に手を乗せ笑顔を向ける。 龍騎と壮平、二人の手も積み重なり最後に俺が力強く手を置いた。 「俺らの賀名生学園を守るため、皆の力を貸してくれ! 俺たち『生皮鬼』が邪悪なオニを学園から追い祓うんだ!」