奇妙な隣人 11
Added 2021-10-06 11:49:51 +0000 UTC11新・「奇妙な」隣人 岩崎と付き合い始めて2か月が経った。 岩崎の中の別人格について、俺は念のため岩崎の保護者的立場である『Ignition』の二ノ宮には詳細を知らせておいた。 何か異変が起きた時に頼れる相手は二ノ宮しかいない、と考えたからだ。 「教えてくれてありがとう。……しかし、『岩崎』に別の人格があり、なおかつ1年以上私に知られない様に隠していたなんて全く、驚きでしかないよ。 まぁ、無理に削除しようとして基礎人格である『岩崎』まで壊れてしまっては意味がないし、当分は様子見が妥当なところだろうね」 と、ひとまず静観の構えを見せた。 「けれどさ。藤原君と付き合う事で『岩崎』のメンタルがより一層安定し、別人格たちも解消されゆく可能性の方が高いのではないかな? 君もそう思うだろう? で? 藤原君はあの子のどこが気に入ったんだい? 見た目? それともカラダ? もしかしてココかな?」 股間を手で覆ってニヒヒと笑う二ノ宮。 それを見て隠者みたいなこのオッサンも普通にスケベな心を持っているんだな、と妙な安堵を覚えたものだ。 ◇ バイト先である京土産「三条巴屋」はこの日、土曜日と言う事もあってとても繁盛した。 そのせいもあって俺の帰りを待っていた岩崎には「ごめん。すんげぇ疲れたから今夜はナシで」と、セックスはせず晩飯だけを一緒に食べて自分の部屋へお帰り頂いた。 そばにいるとなんだかんだでセックスになだれ込む気がしたからだ。 ヤる気はあるけどさすがに疲れちまって、絶対途中でダメになる。 岩崎の絶倫エキス(と俺が勝手に名付けた)をもってすればいつも通りセックスできるだろうけど、気分が追いついていないまま体だけ機械的に重ねてたんじゃオナホで抜くみたいで、そっちのほうが岩崎に悪いだろ? 軽くシャワーで汗を流して後は寝るだけ。時刻はもう12時を過ぎていた。 「さぁて。明日も午後からバイトの予定だし。今日はスパッと寝ちまいますよっと」 ベッドに横たわり照明を落とそうとした時だった。 誰かの来訪を告げるインターホンが鳴った。 「岩崎? こんな時間に忘れ物でもしたのか?」 やっぱりセックスしないと眠れない、と駄々をこねに来たのかも知れない。今までだって「もう少し、もう一回」、とおねだりして結局朝までぶっ通しってのが何度もあった。 「ごめん。マジで悪いけどセックスは明日にし――って、はい?」 ドアの向こう側に居たのは岩崎じゃない。誰? 「大変夜分遅くに失礼いたします。本日、隣に引っ越して参りましたブルームと申します。どうぞよろしくお願いします」 「は、はぁ……。どうも、藤原です」 立っていたのは俺や岩崎より年上の雰囲気のある男だった。 年齢は30歳半ばだろう。髪はふんわりとウェーブがかかったセミロング。ブランド品のとても高そうなスリーピースのスーツ をカチッと着こなし微笑を浮かべる。 長い足と甘いマスクがスーツ似合っていてファッションブランドのメンズモデルか高級クラブのホストっぽい感じだ。 汗だくになても「爽やか」系とも言える。 「つまらない物ですが、よろしければお受け取りください」 ブルームは『伊勢旦』とロゴが入った紙袋ごと手土産を俺に渡した。 「あ、これはご丁寧に。じゃあ遠慮なく」 もう寝ようとしてた間際だけに躊躇無く素直に受け取った。 「念のためお聞きしますけれど、明日でしたら私とセックスして頂けるのでしょうか?」 「は? …………はぁあ!?」 真面目な顔して何を言い出すんだこの男。もしかして酔っぱらってんのかよ? 「ふふっ。冗談ですよ。でも、ビックリされたお顔もなかなか素敵で実にそそりますねぇ。いやぁ~、これから楽しみです」 ブルームはそう言い捨てると意味深な笑みを俺に寄越し、岩崎の部屋とは逆の隣にある自分の部屋へと戻ってしまった。 「な、……なんだぁ? 今のは? 妙な奴が引っ越して来たもんだ」 できるだけ関わり合わないようにしておこう。そう心に留めて今度こそ俺はベッドの中に潜り込んだ。 ――ところが、である。 翌、日曜日。 いつもより少しゆっくり起きたので時刻はもう9時。 今日は早めに三条巴屋に入り、忙しいだろうけど定時でバイトをはけようと考えていた。 岩崎だって今夜はセックスしたいだろうし。俺も今日は岩崎と気持ち良くなりたい。 そんな事を考えていると股間のイチモツがギィン! と元気よく朝勃ちしてくれた。 「今はダメだ。サクッと抜いておきたいけど夜のお楽しみに取っておかないとな」 せっつく我が愚息をなんとか宥め、しょぼいながら朝飯を食べておこうとキッチンに立った時だった。 冷蔵庫の前に置きっぱなしにしていた紙袋が目に止まった。昨夜、ブルームと名乗る男からもらった引越し挨拶の手土産だ。 「そういや、何をくれたんだ? もしもナマモノとかだったら腐らないように冷蔵庫に仕舞わないとな」 紙袋の中を覗き込む。焼き菓子とか洗剤であれば冷やす必要はないけれど。 袋の中に収まっていた箱を取り出し包装紙を剥いで中身を取り出す――「ぶわはっ!?」 牛乳やコーヒーを口に含んでいたら大惨事になるところだ。 「おいおいおい? 何でこんなモノを手土産にしてんだぁ? いったいどんな神経してんだよ?」 箱の中身はハッキリ言うとアダルトグッズ、だったのだ。 ラージサイズのコンドーム3箱、ケツワレ(ジョックストラップ)2枚、アナルパールとアナルプラグがそれぞれ1本ずつ。 そして、ザーメンの香り付き白濁ローションがひと瓶。 「ま、まさかこう言うのを扱っているお店のヒトだったり?」 アダルトグッズ店のスタッフだとしても引越し挨拶としてこんなエログッズを渡したりするだろうか? 「ないない。それは無いって。相手によっちゃ通報案件になるじゃねーか」 あんなにパリッとしたイケメン紳士に見えて頭のネジが緩んでいるのなら勿体ないことだ、と少し哀れを感じつつ劣情を誘うアイテムたちには箱ごと紙袋の中にお戻り頂いた。 「もしかして渡す相手を間違えてんじゃないか? 或いは自分が楽しむために買った物と取り違えているとか?」 間違って手渡した可能性なら十分に考えられる。となると、自分用に買ったのかもしれない。 あんなクールなイケメンでもケツ穴にアナルパールをブッ込んでゴリゴリとアナルオナニーに耽っているのか、とイメージしたらせっかく下を向いた俺のチンポがまたもや上を向き始める。 「こら、ダメだ、っての」 頭を振ってイメージを払いのける。 深くは考えるまい、と気持ちを切り替えトーストを齧りつつコーヒーを飲む。 と、ここでスマホに岩崎からのメッセージが届いた。 意外な事に岩崎の奴ってば最近までスマホを持っていなかったんだよな。 「必要性を感じなかったから欲しいと思った事は無かったけど、これからはシュンちゃんと連絡を取り合いたいから――」と言う訳で、 俺と付き合う事になってから初めてスマホを購入したのだ。 『ごめん! シュンちゃん! 平瀬から急いで大学の実験室まで来て欲しいって連絡が入っちゃった! 何だか分からないけど随分慌ててたみたいなんでちょっと行ってきます!』 そうだ。岩崎は生物学科だから文系の俺と違って2年生からでも実験研究の基礎演習が入ってんだよな。 どうせ聞いても分からない分野だから何をやっているのかなんて全然聞いていなかったけど。 それにしたって「謎の新生物」本人が生物学を専攻するだなんて、変な、いや、面白い組み合わせだ。 さて、バイトに向かう時刻まで岩崎にも会えず、さりとて別段出かけるほどの用事も無い俺は、学生らしく提出すべき課題作成や次の講義に使用するテキスト類などを読んで予習を行っていた。 ま、そうでもして気持ちを紛らわせていないとせっかく我慢すると決意したのに、うっかりオナニーしちまいそうになるからでもある。 耐えるんだ俺! 岩崎のために取っておく、って決めただろ! ってね。 そうやって机に向かって真面目に勉強をしていると、玄関のインターホンが鳴った。 「はいはいはーい。どちら様っすかー?」 連絡直後に実験室の案件が片付いて大学から戻って来た岩崎だろうか? それでも少々早すぎる気がする。 「おはようございます。それとも、こんにちは、でしょうか?」 「え? あ、アンタは……」 引越しの挨拶でエロアイテムを寄越したイケメン変態紳士の――「ブルームです。おはようございます。俊太さんは本日も素敵ですね」 「は?」 昨夜と同じ高そうなスーツをピシッと着こなし、微笑を湛えてそんな事を口にする……。キザ野郎って言うよりもやっぱりオツムが残念なのかも知れない。 「ええと、それで? ブルームさん、俺に何か?」 「よくぞ聞いて下さいました」 しまった。関わらないようにしようと思っていたのに、どうして質問形式の言葉を使ったんだよ俺は! 「失礼します。室内に入らせて頂きます。この世界の無関係な方々に聞かれると困りますので」 ん? この世界、とな? 「いやあの、部屋の掃除とか全然できてないし強引に入って来てもらっちゃ困るって言うか――」 「どうぞお気になさらず。その程度の些事など特に意識しませんから」 いやいや! 意識してくれよ! 部屋の中には夜のオカズ用のゲイ雑誌なんかも置きっぱなんだしさぁ! 俺の困惑をよそにブルームさんは革靴を脱ぎズカズカ部屋の中に上がり込む。 「んん~! 良いニオイだなぁ~! これが俊太さんの匂いなんですねぇ!」 男臭い部屋の匂いにうっとりしたブルームさんの頬がほんのりと赤みを帯びると途端に雄のエロスが半端無く滲み出る。 ただでさえ男盛りな30代の色気を漂わせているのだから俺まで変な気分になっちまうじゃないか。 「さて、このままずっと俊太さんの芳しい香りを堪能させていただきたい所ではありますが、少々打ち明けたい事がございまして」 ガラリと表情を切り替えクールなイケメンフェイスを俺に向けたブルーム氏。意味が分からん。 「俺に、ですか?」打ち明けるって言ったって、まだ会って二日目の他人なのに? いびきがうるさいとか、物音を立てるな、とかだろうか? 集合住宅なんだから多少の物音は仕方ないと割り切ってもらわないと。 「そうなんです。実は私、俊太さん以外の男性の精液では妊娠できないんです」 「……は? はぁあああ?!」 「先ほど届いた通知を見て私も驚きました。こちらで再度マッチングを行った結果『世界』広しと言えども伴侶になれる存在がお隣に住んでいらっしゃる俊太さんしかいない、との通知内容でしたので。 これは何と言う偶然。そして何たるラッキー。お渡しした手土産が早速役立てられるのも天の采配でしょうか? いえいえ、違いますね。そも、私の先見の明のなせる技。知らず知らずの内に最悪な未来を免れるよう本能的に先手を打っていたのでしょう。我ながら自分の才能に鳥肌が立ちますね。 で、そのような訳でして俊太さんには早速私の体内に精液をたっぷり注入して頂きたく――」 「た、タンマ、タンマ! ちょっと待ってブルームさん! 何がどうして『そのような訳』なのかさっぱり分からないですって!」 あんなにまくし立てていたブルームがじっと俺を見た。 黙ってりゃすこぶるカッコイイのに、オツムは本格的にイカレてんのかよ! 残念としか言いようがない。 「はて? 訳、ですか? ご説明しておりませんでしたか?」 俺は首を縦に振った。 「…………! ああ! そう言えば!」 ブルームは手をポンと打って、ふふっと微笑んだ。 「私とした事が。昨夜は何もお伝えしていませんでしたね。申し訳ありません。眠気と疲労が大きかったものですからついうっかり」 俺の目をじっと見つめたブルームさんがふふっと微笑んだ。思わず俺まで顔が赤くなるような凄い良い笑顔だ。 「い、いやいや、見た目に惑わされてる場合じゃない。さっきから妊娠するのに俺の精液がいるだとか、伴侶だとか、まるっきしり意味不明なんだけど?」 「現地言語への順応処理は済ませておりますけど念のため伺いますが、私の言葉は通じておりますよね?」 「わ、分かるけど……」 「ご理解頂けて良かったです。でしたらお聞きいただいた通り。嘘や冗談なのではありません。ですので、まずは精液を頂けませんか? 一度で受精できるとも限りませんし。詳しいご説明はそれからでも構いませんよね?」 「え? まずは、って? いや、ちょっとぉ!? そんなの困るんですけどぉ! わっ! わわっ!」 俺の返事など聞こえていないかのようにブルームはネクタイを緩め、スーツを脱ぎ始めた。 「脱がないでブルームさんっ! 困りますって! これからバイトが! 仕事があるから俺、セックスしてる場合じゃないんですって!」 最後の一枚、大きなイチモツのカタチを斜めに収める派手なヒョウ柄ビキニ一丁だけになったブルームさんがその手を止めた。 「仕事……、そうですか、お仕事でしたら仕方ありませんね。でしたら私もご一緒に働かせて頂きます。伝えそびれていたご説明も聞いて頂きたいので」 「へ?」 いやいや、何言ってんだ? 普通に考えたら急にブルームさんが店に来たって、「得体の知れ無い奴を連れてくるな!」と追い出されちゃうと思うんだが?