5肉欲パンプアップ 牧野の仕事ぶりはさらに磨きがかかった。 顧客の真意を素早く汲み取り的確に対応していく。それによって業績はおのずと向上し坂井を押さえて社内一位に輝いた。 坂井はそんな牧野の有能ぶりなど意に介さず以前と同じくマイペースで業務をこなす。 それでも坂井の業績は高い水準を誇っていた。 一つだけ微妙な変化があった。 坂井の方から牧野に声をかけ一緒に食事や飲みに行く場面が増えたのだ。 この日は会社近くの定食屋で軽く夕飯を食べてから、二人して同じバスに乗り込んだ。 「俺が『慰昆堂』に行くのはこれで3度目になる。コックリングをもらったのは前回、二度目の時だ」 「またタダでもらっちまったのかぁ? 悪いヤツだなぁ」 おぼろげになっていた坂井の記憶だったが、『モアド』によって筋肉勃起を繰り返していると徐々に戻って来ていた。 「酷い言いぐさだな。ちゃんとコックリングの方は代金を払っているぞ。たぶん格安だと思うけど。――おっと、次のバス停で降りないと」 走り出したバスが目的地のバス停を告げた。 坂井はすぐに停車ボタンを押した。 ◇ 時刻は日が落ちて間もない、西の空には少しばかり明るさが残っている宵闇の頃だった。 塾に向かおうとする子供や帰宅しようとする人影も見られる人通りの多い時刻とも言える。 「いらっしゃいませ。そろそろお見えになるんじゃないかと思っていました」 『慰昆堂』の青年オーナーがにこやかに迎え入れた。 「ここが坂井の言っていた『慰昆堂』かぁ。お? こいつは品薄だって話題のプライステーション5!? おおお! こっちには俺がガキの頃に超人気だった雄戯王カードのコンプリートボックスじゃん!」 牧野がおもちゃ箱のような店内を興奮しながらチェックし始めた。 そんな牧野を優しい苦笑いで見守りつつ坂井はオーナーの待つカウンター席に座った。 「あちらの方が?」 湯気の昇るコーヒーカップを置きつつ青年オーナーが微笑んだ。 「まぁ、そうです。一応俺の……」 オーナーが顔を上げ不思議そうに坂井を見た。 「一応、とは?」 「付き合う事にはなったんですけど、アイツが俺に本気かどうかまでは確かめてないんですよ」 「ふむ。そう言う事でしたか」 店の奥では牧野が「これホンモノ? だったらスゲェ! 値段は……おお! 値段も凄いな!」と子供のようにはしゃいでいる。 「よろしければ私が確かめて差し上げましょうか?」 坂井は首を横に振った。 「いえ。俺は今の、この状況で満足です。すでに望みは叶っています。それもすべてオーナー、あなたのお陰で」 「分かりました。これ以上お節介を焼くのは野暮、と。それにしても、あなたに差し上げた『モアド』はちゃんと定着したようですね」 「今、ハッキリ思い出した。俺はあの時、無理矢理『モアド』をオーナーから飲まされてませんでした?」 「そうでしたかねぇ?」 「この店から出ると何故か『モアド』って言葉や飲まされてた部分だけが特にぼんやりしてしまって思い出せなくなってたんですけど、あれは、絶対俺の勘違いなんかじゃありません」 「ご迷惑でしたか?」 「いえ、迷惑だと思ったのならこうして再訪などしません。先ほど言った通りオーナーのお陰で俺は欲しいモノが手に入りましたから」 ちらりと視線を牧野の居る方向に向けてからコーヒーをひと口飲めば、初めて店に来た時と同じ至福の味わいが坂井の口いっぱいに拡がった。 「……失礼ですがオーナーは、人間ではない、ですよね?」 カップをソーサーに置いた坂井がオーナーの顎にある切り傷を見つめた。 「ははは、バレてましたか」 「最初に来た時もそうですが2度目にこちらを訪れて帰る時も店の窓から6つの目が俺を見つめてたんです。あれ、オーナーでしょう?」 「人間ではない私が怖いですか?」 「いいえ、ちっとも。前にも言われてましたが、俺に何かするんならとっくにやってますよね? 逃げようとしたら不思議な力で動けなくできますし。 なので、怒らせたら怖いかもしれませんが、そうでない時は優しいんだろうな、と」 口許に手を当ててふふふと笑ったオーナーが坂井をじっと見た。 「――お気づきの通り私は人間ではありません。私の正体は蜘蛛、いわゆる蜘蛛の怪人です。この顔は人間ぽく見せるためのマスクです。裂け目からちらっと見えちゃってるのが私の本当の表皮です」 マスクを外しましょうか? と顎に手をかけるオーナーの動きを坂井慌ててが止めた。 「さすがにアイツにはそこまで語ってないのでマスクは外さずに居て下さい。それにしても、う~ん、オーナーって蜘蛛の怪人さん、だったのかぁ。紳士な雰囲気と獰猛さのギャップがカッコイイな……」 「お褒め頂き恐縮ですね。それに、怪人ごときに『さん』付け、面白い表現です」 「何々? 怪人がどうかしたって?」 牧野がカウンターの前までやって来た。 「欲しい物はあったのか?」 坂井が牧野に聞いた。 「いっぱいあった。だけどなぁ、マジで買っちゃおうかなって考えて手に取ったら不思議とまた今度でいいや、って思えてくるんだが、何故なんだろうな?」 「それは、商品があなたを求めていないからでしょう」 「商品が俺を? う~ん?」 青年オーナーが戸惑う牧野にコーヒーを勧めた。 「よろしければ、冷めないうちにどうぞ」 「うわ! お気遣いありがとうございます! めっちゃ美味しそうな匂い!」 「うるさくしてすみません」 坂井が頭を下げた。 「いえいえ。賑やかなのも好きですから」 坂井はお詫びも兼ねて牧野との馴れ初めや仕事上で何度もぶつかったりした事をオーナーに語った。 「……は? すると何? 坂井って初めから俺狙いだったの?」 横で聞いていた牧野が呆れたと言わんばかりにツッコミを入れる。 「そうだ。悪いかよ」 「いや悪くはないけど。だったらもっと前に言ってくれりゃぁ良かったじゃん」 「言えるか。ついこの前までお前は彼女にゾッコンなノンケだったしな」 それでも隙あらばレイプしちまおうかとずっと思っていた、と言いかけて坂井は思いとどまった。 「そっか。アイツが居たから言えなかった、か。ま、そりゃ仕方ない。俺だったら我慢できんくなってレイプしちまうかもな」 坂井が言わずにいた部分を牧野自身が口に出した。 「さぁ、もう帰ろうぜ? 随分と長居しちまった」 「おや? もうお帰りになるんです?」 「ええ。結構な時間になっていますし『モアド』と俺が一つになって以来、一日に一度は思い切り筋肉を勃起させてぶっ放さないとダメになってますから」 「そう言えばそうでしたねぇ。あの寄生生物の繁殖欲は無限ですしねぇ。精液なんて出したら出しただけ、いえ、むしろ射精すればする程精液の生産能力が上がっていく生物ですし」 「お陰で、インフィニットスーツを着ていなければチンポもタマも誤魔化せないサイズにまで成長しちまいましたがね」 坂井は首元の皮膚を引っ張った。異様に伸びるのは皮膚ではなく「インフィニットスーツ」だからだ。 「前回、勃起制御用のコックリングをお渡しした時にインフィニットスーツの作り方もお教えできて良かったです。牧野さんが今着ておられるのは坂井さんがお作りしたもの、そうなんでしょう?」 牧野が照れ臭そうに顔を赤らめた。 「これは、実は坂井から俺も作り方を教わって自作したものです。しかし、面白いですよね。自分の精液に一昼夜漬け込んだらどんな衣服もインフィニットスーツみたいになるなんて!」 「なるほど。牧野さんがご自分で。もしかして、今、牧野さんも筋肉勃起しておられます?」 「あれ? インフィニットスーツ越しでも見破られることってあるんだ?」 牧野が坂井を「どうなんだ?」と問う。 「そんな筈は……」と少し狼狽える坂井がオーナーに説明を求める。 「失礼しました。実は牧野さんや坂井さんの体臭の変化で今も勃起していらっしゃるのが分かるのです」 「体臭? んで坂井も?」 オーナーの青年が深くうなずいた。 「牧野さんも坂井さんも、かなり私に興味がお有りなんですね? 隙あらば私に精液を飲ませて仲間にしてしまうのも悪くない、そんな気持ちがひしひしと伝わってきます」 「っ!?」 「うわ!?」 オーナーの青年がカウンターから静かに出て店舗のドアをロックした。 そして、窓のカーテンを閉めると二人にこう告げた。 「こう見えて私、かなり年季の入った蜘蛛怪人ですので、外宇宙の寄生生物程度じゃ微塵も変えられたりしないんです。 それより、お二人が肉体的にもどのような変貌を遂げたのか、身をもって示して頂けませんか?」 オーナーが身に付けていた品の良いシャツを脱いだ。 すると、厳つく盛り上がった大胸筋やバキバキに割れている腹筋が中から現われた。 「うっわぁ! 凄いですね! もしかしてオーナーの着ていたそのシャツもインフィニットスーツですか?」 尋ねた牧野にオーナーは「違いますよ」と答えた。 「私はとても着痩せするタイプなのです。ただ、それだけです」 視線を下にやればスラックス越しにオーナーの巨大な肉棒がこんもりと浮かび上がっている。 そんなオーナーの雄々しくも卑猥なカラダを目にした牧野と坂井はインフィニットスーツの内側で激しく筋肉を勃起させていた。 「さぁ、お二人の素晴らしく発達した肉体を、大きく成長したペニスから放たれる生命力を凝縮した精液を、たっぷりと私に味わわせて下さい。もちろんお代など不要ですからね」 ◇ 「むむ、俺が出張で居ない間に、雲居さんてばそんな風に愉しんでたんですか」 牧野や坂井と三人で朝までたっぷりとセックスの快感を味わった翌日、『慰昆堂』には一人の来客があった。 「ダメ……、でしたか?」 雲居さんと呼ばれた『慰昆堂』の青年オーナーが悪びれずに答えた。 「そりゃぁ、そうでしょう。俺は雲居さんにゾッコンなんです。こうして出張から帰ってきたら毎回真っ先に会いに来るほどに」 「それはとても光栄なんですが、遼平さんだって出張先で随分と遊んでおられたようで。『糸』を出して何人のチンポとリンクして味わったんです?」 「知ってたんですか」 「たった今知りました。遼平さんのカラダから他の男の美味しそうな精液の匂いがぷんぷんしていますから」 『慰昆堂』のオーナーは人間ではなく雑貨店を営む蜘蛛怪人だ。 そんな蜘蛛怪人の雲居から親し気に「遼平」と呼ばれた男は、指摘を受けて思わず腋の下や腕を鼻に近づけクンクンと嗅いだ。 「っかしいな。ちゃんと風呂に入って念入りに洗ったのになぁ」 「……でも、私はそうやって他の男ともセックスをする淫乱な遼平さんも大好きなんですけど」 「雲居さん……。そんな言い方されたら俺だって雲居さんと他の奴とがエッチしてた事をなじれなくなるじゃないですか。 ずるいなぁ」 「本心なんですがね」 「分かってます。だからずるいんです。俺だって実は、雲居さんが俺の留守中に他の奴と遊んでたって怒ったりしてません。 俺も混ぜて欲しかったな、って羨ましく思っただけです」 遼平が雲居の顎に手をかけクイと上に引き起こす。 雲居が目を閉じると遼平と雲居の唇がふわりと重なった。 「……ただいま。俺の愛しい蜘蛛怪人さん」 「……おかえりなさい。あ、そう言えば遼平さんも私の事を『蜘蛛怪人さん』などとさん付けで呼んでましたね」 「うん?」 意味が分からず遼平はポカンとする。 「あ~、いえ、とある方も私を『怪人さん』と呼んでくれたのを思い出しまして」 「昨日セックスしたヤツ?」 「さぁ、どうでしょう?」 「うわ。そんな見え透いたはぐらかし方ってないでしょう。そうか、昨日の男も雲居さんをそんな風に……」 「気になります?」 「ちょっとはね」 「ちょっと、でしたら引き合わせる程では無いですね」 「悪かった。正直、凄く気になった。どんな奴か会ってみたい」 「どんなチンポでどんなセックスをするのか味見してみたい、って顔に書いてますけど?」 遼平が悪びれずに両手を上げてから悪戯を思いついた子供のように微笑んだ。 「雲居さん。それ、もしかしてやきもちを妬いてるんですか?」 「そうですよ? 良く分かりましたね」 「怒らないでよ雲居さん。俺が悪かった。恋人が目の前に居るのに他の男を想像した俺が悪い、この通り」 頭を下げた遼平に雲居は優しい眼差しを贈る。 「ちゃんと悪いと思っているんでしたら今日は私が満足するまでたっぷりとキモチ良い思いを味わわせて下さい」 「了解した。俺の全部で雲居さんを悦ばせてあげる」 互いの視線が交差して股間に向かった。 「早く雲居さんにぶち込みたくて勃起しちまった。『糸』まで出ちゃったよ」 「ふふっ。私も。さっきからアナルが疼いて仕方なくなってます」 「じゃぁ今から俺と。いかがです?」 「そうですね。今日はやっぱり臨時休業と致しましょう。とことん遼平さんのチンポで狂いたくなりましたから」 終 牧野 要 27歳 前向きで真面目な性格 容姿も悪くなく社内・社外問わず他人に好かれる人気者。 交際して2年になる彼女との結婚が視界にちらついていたが……。 坂井 浩平 27歳 すぼらで面倒臭がりな性格 と、言うのは表向きで、実は人見知りが激しく口下手なだけの男。 信頼した相手には普通に話せる。 入社以来同期採用の牧野に惹かれていたが伝えることができずに5年が経っていた。 雲居 アラン 年齢不詳 雑貨店・慰昆堂のオーナー。正体は蜘蛛怪人。人面マスクで人間に擬態している。 怪人とは言え人畜無害だったが、ある男との出会いにより人間に対し更にフレンドリーになった。 売っている物はオーナーが買い集めた物だけでは無く人づてに流れて来たモノも多い。 趣味は人間観察。 須崎 遼平 32歳 特別出演 「雲居 アラン」のパートナー。慰昆堂の隣にあるマンションに住んでいる。 かつては慰昆堂の客の一人だったが、とある出来事によって巨大なペニスとマッチョなボディを手に入れた。 (詳しくはPIXIVに投稿済みの小説『糸』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8869045 をご参照ください)