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鷹取リュウゴ
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パラドキシカル・パラサイト 6

6ソフトランディング  街外れは一足早く宵の暗さと静けさが覆っていた。 緑濃い大学の広々とした構内を飛び越え、住宅がまばらになる田園エリアにその寄生体は飛来した。 まるで己が縄張りに来たと言わんばかりに高い鉄塔の先端に足の鉤爪をしっかり噛ませて立つと、青田が広がる地上を見下ろした。 「この辺りはホントにありがたいよ。他の人間に見つかるリスクが低い割に美味しそうな精液を持った男子学生がよく来てくれるからね」 寄生体はすでに3度、このエリアで「狩り」を行っていた。 思い出して舌なめずりをしていると近づいて来る男性フェロモンの甘い香りに触角がヒクヒク動いた。 「うんうん、これは良い! 良い精液のニオイだ~。チンポも一級品に間違いないね! よぉし、そんじゃぁサクっといっただきまーす!」 ニオイを辿って飛んで行くと『大学体操部』と書かれたエナメルバッグを担いで自転車を漕いでいる男子学生を発見した。 寄生体は自転車の前に降下した。 「やぁ、こんにちは! じゃなくて、こんばんわ! かな? 早速で悪いけど君の精液を味わわせてもらうね! もうすっごく腹ペコなんだ!」 「っ!?」 ブレーキをかけた男子学生が驚いて悲鳴を上げるよりも前に寄生体は学生の目から脳へ精神をリンクさせ、速やかに催眠状態へ移らせた。 「うぅぅ……」 半眼でふわふわとした足取りになった男子学生をひょいっと抱きかかえた寄生体は、再び翅を震わせ前にも使った事のある無人の農作業小屋へと運び込んだ。 「よし。そんじゃぁ始めるとしようか。――さぁ、君は僕のアナルにチンポを入れたくて仕方が無くなるよ~。 僕を犯したくて堪らなくなってくるよ~。僕に精液をたっぷりぶち込みたくて仕方なくなるよ~」 複眼に力を込め男子学生の脳内に寄生体に都合の良い「欲望」を書き加えていく。 そうして、男子学生の記憶や個性が書きこまれている脳内の長いログの最後に『僕と出会った事やセックスした事は、終わったら夢だと思うようになる』と追加して男子学生から自分の体に精神を戻す。 「よし。これで完璧! さぁ、もう起きて~! これは君の夢の世界だよ~! 僕とセックスして気持ち良くなろう? え? さっき大学のトイレで2発ヌいてきたから無理? いやいや、無理じゃないよぉ? 僕の唾液を飲んだらすぐに復活してビンビンになっちゃうから!」 寄生体は男子学生の頭を掴んで口移しで唾液を飲ませた。 すると、ジャージの前がグググと盛り上がり男子学生の息遣いも荒くなった。 「さぁ、これで元気回復! 僕をオナホだと思ってめちゃくちゃに犯してくれて構わないよ!」 男子学生が無邪気で卑猥な笑みを浮かべると、寄生体を荒々しく押し倒し股間に股間をぐぐいと密着させた。 「って! ちょっと! 待って待って! 着たまんまじゃ無理だよ! 先に脱がないと! も、もしかしてこう言う事、初めてなの?」 酔ったみたいに上気したまま男子学生が大きくうなずいた。 「それじゃぁ仕方ないね。寄生体のお兄さんが教えてあげるから、順に頑張っていこ? ちゃんと気持ち良くなろ? ね?」 こうしてしばらく、農作業小屋の中では寄生体による「男同士のセックス」講座が開かれたのであった。 「そう! その調子! うん! 良いね! 君のチンポをそのまま、少しずつ馴染ませるように僕のアナルの中へ…… んぁぁ、良いよぉ! き、君も気持ちいいかい? そう? そうかぁ、んふぅぅ」   ◇  バイトが終わってコンビニから帰る途中、晃は円と合流した。 「ここまで迎えに来てくれたんだな。ありがとう」 「いや、なに、自主トレでジョギングしておこうと走ってたからついでに一緒に帰ろうかな、って」 「また嘘ついてる」 「敢えて、な」 「それ、必要あるのか?」 「無い。無いけど、ストレートに晃と早く会いたかった、なんて恥ずかしくて言いたくねぇ」 「なにそれ? 超矛盾してるし、結局正直に言ってんじゃん。素直じゃないなぁ」 「ほんとうにな。矛盾しててウソつきで、ダメダメな男だよ俺は……」 「こら、自虐すんなし。円は凄くイケてる。セックスも上手いし精液も美味いし、ちゃんとカッコイイから」 「おい、ここは『また嘘ついてる』ってツッコむ流れだぞ? そう、それなのに、うん、まっすぐ褒められると、ああ、くそ、余計に恥ずかしい、恥ずかしいけど、嬉しくなっちまうだろうが」 耳まで紅くなっている円。 「むしろ逆じゃん。円よりも俺のほうが矛盾してるしダメ男だから……」 「晃……」 いつしか風景は晃が近道でよく通る公園の中になっていた。 そう、 急な尿意で公衆トイレに駆け込み、トイレを済ませて出た直後の不穏な気配にビビって家に戻るとそこには巨大寄生蟲・グロセクトが浮かんでいて―― 「――そして俺は寄生体・グロセクターに生まれ変わった。後悔なんかしてないしこのカラダも今の生活も気に入っている。 何より、円との関係も深まった事だし万々歳だ」 「俺も晃と同じ寄生体になれて、こうやって一緒に帰れるようになれて、心底良かったと思っている」 どこからか甘いニオイが漂って来た。 お互いのフェロモンか? と思いきや街灯に白く浮かんだ花を見て二人して小さく笑った。 「クチナシの花の匂いだったか」 「似てたから驚いたな」 早咲きのクチナシを通り過ぎ、さらに進むと「例の」公衆トイレの近くになった。 またもや弱いながら甘い香りが流れて来た。 ここにもクチナシが? とニオイの元を目で追うと―― 「あれ? あの人……」 「カフェのイケメンオーナーさんだな。こんな所で何やってんだ?」 ギャルソンの服装ではなくワイシャツにスラックス姿のオーナーは、じっと公衆トイレを睨んでいて晃や円の存在にはまだ気付いていないようだ。 しかも、ただ単にトイレを見ているのではなく、ライラックの影に隠れるようにして見つめている。 「……どうする? このまま行くとオーナーの前を通る事になるけど」 円が晃に聞いた。 「見ちゃったモノは仕方がない。何でそんなトコに居るのかオーナーに聞いてみようぜ」 「聞く!?」 「ああ。ヤバくなきゃ話してくれるだろう?」 「それは、そうかも知れないけど……。まったく、晃ってさ――」 「俺って、何だよ?」少しむくれてしまう晃。円の言葉の続きは否定的なモノが続くと予測したからだ。 「晃って、行動力が半端無いな。俺は晃のそう言う所、好きだし尊敬してるし、凄くかっけーと思う」 今度は晃の顔が赤く染まる番だった。 ◇  「はぁ!? オーナーがストーカー?」 「マジっすかぁ!?」 「こ、声が大きいって君たち!」 公衆トイレから離れた場所までやって来た。 そこでオーナーは開口一番、「俺はストーカーだよ。だからこんな時間にトイレに来るかも知れないそいつを待ち伏せしてるのさ」と二人に告げたのだ。 「でも、おかしいでしょう? ストーカーは普通、自分をストーカーとは言わないですよ」 円の問いにオーナーは苦笑いを重ねた。 「それはそうなんだけど、ねぇ? 他に言いようが無いというか、ふさわしい言葉が無い、というか」 晃が円の袖を引っ張ってオーナーと距離を取った。 「なぁ円。今気が付いたんだけどさ、オーナーから寄生体のニオイがほんの少しだけど感じるんだ。これって何だろう? もしかして円、オーナーとヤった事があったりする?」 ひそひそと、しかしハッキリと晃は円に確認した。声色からして詰る気はさらさら無いようだ。 「嘘じゃなくてマジで正直に言うが、俺とオーナーは何も無い。信じるか信じないかは晃次第だがな」 「信じる。信じた上で聞くけど、オーナーから感じる寄生体のニオイってさ、すんごく微弱だからオーナー自身が寄生体って訳じゃないと思う。 俺たちいかに人間に擬態しててもニオイまでは誤魔化せねぇもん」 体臭と言うよりもこの場合はフェロモンと呼ぶ方が分かりやすいのだろうが、晃は敢えて「ニオイ」と表現した。 「まぁな。となると、考えられるのはオーナーの周囲に居る誰かが寄生体って可能性だ」 「やっぱそうなるよなぁ……」 「なぁ、君たち! そろそろストーカー行為を再開してもいいかな? ここからじゃトイレ付近がちっとも見えないしさ」 オーナーの声に弾かれた二人は内緒話をストップしてオーナーの前に戻った。 「お待たせしてすみません」 円に続いて晃も軽く頭を下げた。 「いや、良いけど。もしかして俺を警察に突き出す相談かい? だったら俺、抵抗しないといけないなぁ」 オーナーは指をボキボキ鳴らして両脚を肩幅よりも大きく開く。 カラダから発するオーラが武人の色に切り替わった。 明らかにスキが無く武術の達人のソレである。 とは言え、寄生体に戻ってしまえば人間の戦闘能力など比べても意味がないほど寄生体が全てにおいて上回っているので、構えられても二人に動揺は走らない。 「違います。気になる事があったのでオーナーに確認してみようか、って話をしてたんです」 「気になる事?」 オーナーの全身から力みが消えた。 「最近、オーナーの周りで変わった事って起きて無いですか?」 晃がまっすぐにオーナーの目を見て尋ねた。 すると、オーナーから力みどころか肩までがくんと落ちてしまうのだった。 「あるよ。いっぱいある。だから俺はみっともないと承知の上でストーカー行為をやっているんだ」 「力になれるかどうか分からないっすけど、俺らで良かったら、話を聞かせてもらえませんか?」 円の声にオーナーはハッとし、次いで晃の顔を見つめた。 「吐き出したい事があるなら聞かせて下さい。まだこれで会って二回目ですが、これも何かの縁だと思うんですよ」 「……そうだな。縁、なのかも知れない。それにしても君たち凄いなぁ。俺が構えた時、瞬時に気配を消しただろう? そんなの普通できないよ? いやぁ~、手を出さなくて良かった。確実に俺が秒で土を舐めるだろうしね。 それなりに心得はあるけど君たちの『強さ』って俺の師匠よりも遥かに上だと分かる。う~ん、世の中はやはり広いんだなぁ」

パラドキシカル・パラサイト 6

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