8矛盾 晃と円の二人と入れ替わるように「聖 桐吾」と同棲中の恋人「愛染 賢哉」が戻って来た。 相談を終えじっと考え込んでいた桐吾が天井の照明を落として足元だけを照らす小さいルームランプに切り替えソファから腰を上げた、その時だった。 賢哉が「窓から」リビングに入って来た。 「……ぁ、い、居たんだね。もしかして起こしちゃった、かな? ご、ごめん。僕もすぐに寝るから……」 すぐに桐吾から質問攻めが来るだろうと身構えていた賢哉は、何も言わず黙りこんでいる桐吾を不思議に思った。 怒りの色もなく冷たく突き放そうとしている雰囲気も無い。 ただひたすらまっすぐ賢哉を見つめている。 「あれ? このニオイって……」 リビングには自分のものではなく異なる寄生体・グロセクターのニオイが残っていた。 フェロモンとも言い換えられる人間には感知できない特別なニオイ。寄生体しか作りだせない芳香物質――。 「僕の居ない間にお客さんが来てた、っぽい?」 寄生体が来ていたのか? と聞く訳には行かず賢哉は遠巻きに質問した。 「…………」 「桐吾? さっきから僕の事無視してる? ねぇ、何で何も言わないの?」 返事もせず見つめるだけの桐吾の目から逃れるように背を向け、賢哉はひとまず手を洗おうと洗面コーナーに足を向けた。 壁掛け時計の時を刻む音がいやに大きく聞こえていた。 一秒、そして次の一秒が賢哉には酷く長い時間に感じられた。 「――『そんなに食事が必要になっていたのか?』」 桐吾は努めて平静に、穏やかに、感情に引きずられないように、晃たちから聞かされた通りの言葉「そのまま」を賢哉にぶつけた。 「っ!? 知ってたの? 僕の――」 振り向いた賢哉の顔は絶望に沈んだ嘆きと、わずかだが解放された安堵が入り混じったような表情を浮かべていた。 「…………」 桐吾はそれを見ても敢えて何も言わずにいた。 内心は聞きたい事が山程ある。なのに言いかけた言葉は咽喉の途中で引っかかって唇まで昇って来ない。 殺到する激しい思いが濁流になって互いに押し合いぶつかり合い、狭い出口から出られずに破裂してしまうのだ。 「……そっか。何も言わないって事は、やっぱりもう僕らはおしまい……」 「待った。賢哉。あのな、考えてみたけど分からなかった。どうしてお前にそのように言えと言われたのか」 「?」 「食事ってなんだ?」 「え?」 「さっきまで俺は賢哉について悩んでいる事を、来てもらったお客さんに相談していた。その中で、賢哉が帰ってきたら 『そんなに食事が必要になっていたのか?』と聞くように、ってな」 「ここに? やっぱりそれって、僕と同じ……」 「それと、もうこれ以上賢哉を疑って色々と調べるような行為は控えるように、と釘を刺された」 「そ、そうなんだね……」 「この質問をしてもお前の態度が変わらないようなら、もう一度呼んでほしいと、二人には告げられたよ」 「二人!? 二人も居たの?」 賢哉は思わずクンクンと鼻を利かせてリビングのニオイを嗅ぎ取った。 「……本当だ。二人分のニオイだ……」 「俺はずっと、お前が浮気しているのだろうと疑って、ここ最近はお前の行動をこっそり調べるような真似をしていた」 「……それは知ってるよ。桐吾が僕を疑っている事も、僕を尾行してた事も」 「だが、相談に乗ってくれた二人はお前が浮気をしているのではない、食事をしているのだ、と言った。俺には訳が分からなかった。 だが、賢哉。お前は『知ってたの?』と答えた。つまり本当に食事のために俺に隠れてあちこち出歩いていたんだ。 ――間違いないな?」 「…………え、えと、それは……っ!?」 桐吾は言い淀む賢哉を強く抱きしめた。 「浮気じゃないんだな? 俺を捨てようとしてるんじゃないんだな! 俺を嫌いになった訳じゃないんだな!」 「僕が桐吾を嫌いに? そんな! 嫌いになったりする訳無いじゃない! むしろ僕の方こそ、いつ桐吾に嫌われて、 ううん、嫌われるだけじゃなくて怖がられるかと思って、このところ毎日ビクビクしてた。でも、乾きも飢えも普通の 食事じゃ満たされなくて、自分のモノをいくら飲んでも満足できなくて、それで……」 目じりに浮かんだ涙をそっと拭いながら桐吾は聞いた。 「なぁ、賢哉。改めて聞くが俺に隠れてまでする『食事』って何なんだ? そもそも何を食ってんだよ? 教えてくれ!」 「……精液……」 「――は?」 「精液を、その、……食べに、と言うか精液に詰まっているエネルギーを吸収していたんだ」 「はああああああああ?」 桐吾は驚きすぎて顎が外れるのでは? と思う程あんぐりと口を開けていた。 ◇ 「今度はびっくりして大声出したりしないでね」 賢哉は着ていた服を皮膚に溶かし込んで同化させ全裸になると、表皮を黒く変色させながらボコボコと筋肉を隆起させ、 逞しくマッチョになったカラダ全体を黒い外殻、昆虫のようにつややかな外骨格で覆った。 次いで、後頭部からヘルメットを被るように頭全体を黒い兜にすっぽりと飲み込ませ、両脚の間を背後からくぐらせた尻尾をたぐらせ股間に引き寄せチンポと一つにした。 最後にギュギュン! と全身をいからせパンプアップした賢哉は、額の上部に触角を備え黒光りする外殻をまとう昆虫型怪人、 寄生体・グロセクターの姿を桐吾に見せつけた。 「け、賢哉……お前……」 「ご、ごめんね。僕、つまりその、えと、人間じゃなくなって、本物のモンスターになっちゃって……」 桐吾は唖然としたまま目の前に立っている賢哉の、「寄生体・グロセクター」に変身した姿を穴が開くほど見つめている。 「と、桐吾ぉ~! 僕、こんなモンスターになっちゃったけど嫌いにならないで! 僕は桐吾と離れたくない! この姿が怖いんなら人間の姿で居るようにするから! だから! だからさぁ! 僕は桐吾が好きだからぁ! 今も! これからも! ずっとずっと好きでいたい! そばに居たい! だから! どこにも行かないで! お願いだよぉ~!」 賢哉の頭部にある複眼から涙がこぼれ、そして、顔面の中央部からも体液が流れ出した。 「な、泣く奴があるかよ、ほら、これで拭け。ったく鼻水まで出しやがって……、うん? つうかそれって鼻水……、だよな?」 桐吾はティッシュを箱ごと賢哉に渡した。 賢哉は小さく「ありがとう」と呟きティッシュを数枚引き抜いて思いっきり鼻、の付近をかんだ。 「……少し前から俺に隠れてコソコソするようになったり、不意にどっかへ行っちまったりしてたのは、自分の正体を俺に悟られないようにするためだったんだな」 人間の時とは違い身の丈2mを超える寄生体の頭がコクリと肯いた。 「さっきも言ったが、俺の方こそ、その、なんだ、お前が浮気してるんじゃないか、って、俺を捨てて他の男の元へ行くんじゃないか、って怪しんで疑って、同棲相手にストーカーみたいなつまらない行動をやっちまって……。 正直言って今のお前をこの目で見ているのにまだ飲み込めてなくて、理解が追い付いて無くて、分かってない事もいっぱいなんだが、 それでも、それだからこそ、俺はもっと知りたい。 賢哉がモンスターになっても、何になっても、俺こそ賢哉のそばに居たい。もっともっとお前を、賢哉を笑顔にしたい」 桐吾が顔を上げ唇を寄せた。 人間の時とは背丈が逆転した恋人のために。 賢哉は下顎の外殻をバクンと開放し、灰色になっている内皮と唇を露出させた。 やがて二人の唇が触れあい、そして、互いの舌を絡めて確かめ合あった。 長いディープキスを終えると賢哉が「あ! やっちゃった!」と狼狽えた。 「どうかしたのか? ……って、ぅおおおおおおお!? な、なんだぁ!? すっげぇムラムラして来ちまったんだが! ち、チンポが勃起しまくって、や、ヤベェェエエエーーーッ!」 「あ~、うん、ごめんね桐吾。僕の体液、唾液もなんだけど、人間が取りこむと超強力な媚薬、って言うか催淫剤と同じ効果があって、強制的に発情モードに入っちゃうんだ。 でもでも! 僕が責任もって桐吾が射精し尽すまで受け止めるから! いーっぱい僕の中に精液を出しちゃっていいから!」 寄生体・賢哉が四つん這いになっておずおずと尻を桐吾に向けた。 「むしろ僕、桐吾の精液が一番欲しかった! 本当はずっと前から……、こんなカラダになっちゃって諦めてたけど、やっぱり欲しかった! だから凄く、凄く嬉しいよぉ! ああ! そうだ! これで僕、これからは桐吾とまたセックスできるんだよね? 毎日桐吾の精液を取り込めるって事だよね! ゆ、夢のようだよ! ほんとうに、ほんとうに、夢みたいだ!」 外殻の奥に窄まっているアナルをヒクつかせるだけでなく、股間のフロントを覆う外殻を「そのまま」ぐにょぐにょと軟化させペニスへと変質、変形してしまうとグムグムと大きく成長させては巨大なペニスを露出させた。 そうしてギギン、と屹立する賢哉のペニスは弄らずとも歓喜のあまりビュビュルと精液を発射してしまっていた。 「あっ! やだ! 嘘ぉ! も、漏れちゃうよぉ! 僕の精液がぁ! ひぁぁ! ダ、ダメぇっ! まだなんにもしてないってのにぃ~! 恥ずかしいよぉぉぉ!」 チンポをギンギンに勃起させ興奮がMAX状態になっていた桐吾も、頓珍漢な早漏モンスターを見れば笑わずにはいられなかった。 ひとしきり笑ってから桐吾はこう言った。 「賢哉が前よりもスケベになったのは理解できた。見た目がこんな風にいかつくなるって事も。だけど、それ以外は賢哉のままなんだな。うん、とても安心した」 桐吾のチンポが賢哉のアナルにズブズブとのめり込んでいった。 それからリビングには喘ぎよがる二人の雄叫びが延々と響き続けていた。