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鷹取リュウゴ
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パラドキシカル・パラサイト 12

12野営  クラウドから落とした動画データを取り込み、偽装用のレイヤーを乗せて実写を合成風に仕上げる。 あとは、撮影地や時刻が特定されかねない箇所を丹念に切り取って、完成。 「こんな感じでどうかな? 本物みたいに見える偽物っぽい感じ、出てると思うんだけど」 賢哉のハイスペックPCで15分近い動画があっさりと虚実曖昧な作品に仕上がった。 「うわ! やっぱ早っ! 俺のマシンじゃこの3倍は時間がかかりそう、てか、そんなプロ仕様のソフト自体が入ってなかったりするし」 賢哉の後ろからモニターを覗き込んで感心しているのは七五三鬼(しめき)だ。 そして、七五三鬼の後ろで顎周りの外殻を開放して桐吾の淹れた美味いコーヒーを啜っているのは晃と円である。 賢哉も七五三鬼も寄生体姿で動画の仕上がりをチェックしているので、この場の全員が寄生体・グロセクター姿に戻っている。 ココンとノックの音がした。 「どうだい賢哉。依頼通りの動画は完成したのかな?」 コーヒーに合いそうなパンケーキを皿の上に高く積み重ねて部屋に入って来たのは賢哉と同棲中の恋人、『聖 桐吾(ひじり とうご)』だ。 「うん。丁度完成した~! そんなに大した作業じゃないからパパッと済ませられたよ」 「そいつは良かった。お疲れ、賢哉」 「へへへ、お安い御用ってやつですよ」 賢哉のそばから離れて晃たちに顔を寄せた七五三鬼がひそひそと声をひそめた。 「聞いてはいたっすけどマジで桐吾さんて俺らを見ても平気なんすね? ちっとも精神のほう弄ってないんでしょう? スゲェなぁ」 「確かに凄いよな。アナルだけは賢哉さんのチンポを咥えられるようにプチ改造してあるけど、頭も心も元のままだもんな」 「晃もレンも、他の人間の中にも桐吾さんみたいに理解ある人がいるんじゃないか、って期待するなよ? 賢哉さんへの愛ゆえに種族の壁をぶち壊した稀有な例だからな?」 「おーい、円くーん? さっきから聞こえちゃってるぞ~。ぶち壊すとか、俺をゴリラか象みたいに言うのは勘弁して欲しいかも」 「あっ! すみません! えと、じゃぁ、なぎ倒す? 圧し潰す、ですかね?」 円の天然ボケに他の3体と一人が笑い声を上げた。 ◇  光陰矢の如しという言葉通り、晃と円が七五三鬼と初めて会った日から2週間が経過していた。 晃は変わらず講義が終わればコンビニでバイトに励み、帰宅途中で一人二人の人間から精液を取り込み、自宅に戻れば待っていてくれる円とセックス、そして短時間の就寝。 円も講義の後はラグビー部の部活に励み、部活の仕上げには伊吹から濃縮された精液を回収。そして晃の部屋に行き晃の帰りを待つ。 桐吾はカフェの経営に忙しく賢哉は桐吾をサポートしながらも自身の次の仕事へ向けて情報収集とスキルアップに励んでいる。 そして寄生体『グロセクター・レン』でもある「七五三鬼 蓮太郎(しめき れんたろう)」は、晃が自由に動けるわずかな時間を貰ってヴィラン動画を一緒に撮影し、じっくりと丁寧に編集してから最終チェックと加工とを賢哉に依頼して動画投稿サイトにアップしていた。  初回の挨拶動画をいったん取り下げ、改めて第一作目となる動画を投稿したのは10日前。 その時の動画は七五三鬼の動画データをリモートで賢哉にチェックしてもらっていたので実際に対面したのはこの日が初めて、であった。 ◇  「聞いて下さいよ。この前投稿した『新・第一回レンの特撮チャンネル』動画、チャンネル登録者が1000人を突破したんすよ! いやもう、超嬉しくって! やっぱりグロセクターが2体も揃うと見応えがありますし、何より掛け合いが出来ると面白みが爆上りするっすね!」 新・第一回動画では一人で自己紹介をしているレンの前に突如もう一体レンにそっくりなグロセクター(晃)が現われ、 『俺はお前の影……、もう一体のグロセクター・レンなのだ』と言う設定にて短い戦闘シーンを挟み、そしてレンが影を打ち破り1体に戻ってから自己紹介の続きを行う、という物語風になっていた。 「一回目の動画、面白かったよ~! あのストーリーは誰が考えたの?」 「まぁ、一応俺です」七五三鬼が照れながら手を挙げた。 「さすが特撮マニア、と言った所かな? 晃くんもよく手伝って上げたよね。偉いなぁ~」 桐吾が重なっているパンケーキを小皿に取り分け香りの良いメープルシュガーをサッと振ってから皆に渡していく。 「コイツ、特撮に関してだけはクソ真面目に熱くなる奴なんで、俺もその熱意に中てられた、って感じですよ」 晃の答えを聞いていた円はパンケーキを齧りながらニヤリと微笑んでいた。 確かに動画撮影の主体は七五三鬼ではあるしキャラクターの設定もストーリーも七五三鬼によるものなのだが、効果音やBGMについては晃の音楽知識がふんだんに盛り込まれていた、――と言う事実を円は知っている。 やはり、晃は音楽活動への夢を捨てていない、いや、諦め切れていないのだろう、と言う秘めた思いも。  たくさんあったパンケーキが綺麗に平らげられ各々の話題も一旦途切れた時だった。 賢哉がまたしても気になる情報を晃たちに告げた。 「僕の杞憂かも知れないんだけど、七五三鬼くんの投稿動画のコメントでこんな書き込みを見つけちゃったんだよ~」 『グロセクター・レン、かっけーっす! チャンネル登録させて頂きました! つか、一昨日、精臨山に行った時にお見かけしたような気が……。もしかしてこっそり撮影している秘密の場所だったのかな? ま、時間も夕方で薄暗かったので俺の見間違いかも知れないですが、とにかく次の動画を超期待して待ってます!』 「あれ? こんなコメント付いてたんだ?」 七五三鬼が驚いている。 「投稿日時をよく見て? 3時間前になっているよね?」 賢哉がコメント欄の片隅を指した。 そんな直近のコメントなら見れてなくても当然だろう。 「『精臨山』ってのはもしかしたらあの精臨山ですか? この街のシンボルですし」 「断言はできないけどその可能性は限りなく高いよね。それと、こっちも見てくれるかな……」 円に慎重な意見を返した賢哉は声をトーンを落としてモニターに別のサイトを表示させた。 「うわ……、これ、そうだ、ここだ、俺も見た事がある……。寝落ち寸前の状態で特撮マニアのサイトを検索してたら変なダウンロードサイトを開いちゃって、 その一個しかないフォルダーを開いちゃったらグロセクトが画面から飛び出て来て、って、そのサイトっすよね?」 七五三鬼が思い出してすぐに反応した。 「そうだよ。僕や七五三鬼くんを寄生体にした『実体化するデータ』を落とせた奇妙なサイトさ。一回ダウンロードしたら繰り返しはできないから、いつまでもブックマークする必要はないんだけど、ちょっと気になっちゃってまだ入れたままにしてあるんだ」 賢哉はカブトムシのイラストが入っているダウンロード用アイコンの下へ爪をニュウと長くのばして皆の視線を先端に集めた。 「……うわ、数字が増えてる?」 七五三鬼以外がハッと顔を見合わせた。 アイコンの下に付記されている小さな数が前回見た時よりも増えて[2]から[3]になっているのだ。 「僕がここを最後にチェックしたのは七五三鬼くんの『新・初めまして動画』データをチェックさせてもらった時なんだ。 その時はまだ確かに[2]だったと覚えている」 「じゃぁ、早ければ10日前には誰かがグロセクトを呼び出して新たな寄生体になっている、かも知れないんですね?」 賢哉は大きくうなずいた。 「加えて、3時間前のあの書き込み。七五三鬼くんが動画を撮影した場所って――」 「前回も今回も桐吾さんのカフェの二階をお借りしたっす。営業時間が終わった後に我がまま言って」 「だよねぇ。となると野外ロケもしてないのにグロセクターらしき存在をそうそう見間違えるとも思えない。 あ、誰か山の方で『食事』をした者が居たならその者の可能性もあるけど」 賢哉に全員が顔を横に振った。 「それでね、七五三鬼くんの前で言うのは申し訳ないんだけど、新たなグロセクターがどんな寄生体か確かめられるのなら確かめた方がいい、と僕は思うんだ」 七五三鬼は率先して賢哉に賛同した。 「賛成~! 俺みたいな考え無しのグロセクターだったら後々騒ぎになっちゃうかも知れないっすよ!」 円も晃も七五三鬼の発言に同意した。 「俺はその調査にはほぼ関われないと思うが、くれぐれも気を付けて欲しい。賢哉はもちろんだが、晃も、円も、七五三鬼くんも、もう俺の大事な友人だからな」 「そうそう! 大事な大事なセックスフレンドでもあるしね!」 賢哉のこの一言で場の空気がドロリと淫靡に変化した。 座っていた寄生体がぬらりと立ち上がり、股間の外殻をゴパァと開放した。 「うわ! ちょ、ちょっと待った! 賢哉の部屋じゃ狭いからリビング! リビングでヤろう! な?」 4体の寄生体と人間一人が交尾し合うには余計な物が無いとは言えさすがに狭い。 桐吾を先頭にして廊下を進む寄生体たちは、早くもチンポの先から雄の臭いを濃厚に放つ透明な体液を零していた。 ◇  「こいつぁ驚いたな。俺以外にもこんなに寄生体がいたのか」 バイトが終わった晃を待っていた円と七五三鬼が大学の裏から精臨山へ翔んだ。 そして、調査対象となっていた新たな寄生体を捜索した。 けれどそれは実にあっさりと、大した時間をかける事無く見つける事ができてしまった。  キャンピングチェアに座って焚き火にあたりながらカップ酒をぐびリと飲む無精髭の中年だった。 いかにもキャンプ中という身なりに、伸び放題の前髪が目元をすっかり隠し、後ろ髪は無造作に輪ゴムで束ねている。 酒臭いニオイに混じって寄生体特有のフェロモンが放たれている。そのフェロモンは精臨山に入ってすぐに晃たちには感じ取れていた。 「寄生体って言葉を口にした、と言う事はあなたも、なんですよね?」 「おう。そうとも。もうニオイで分かってるんだろ? まどろっこしい前置きはナシでいこうや」 円にぶっきらぼうに答えた男は顎髭を撫でつけてからカップ酒の残りをひと息に飲み干した。 「げっふぅぅ……。精液の次に美味ぇのはやっぱ酒だな――、っと、今のが最後の一本か。くそ、また降りて買いに行かねぇと」 惜しみながら空になったカップ酒のガラス容器を「背後に」放り投げた。 ガラス容器は焚き火の炎を反射させながら置いてあったゴミバケツに「ガゴン!」と音を立てて着地した。 「――さてさて、寄生体とは言えこんなむさいおっさんに何の用だ? 無職のホームレスを冷かしにでも来たのか?」 「無職?」 「ホームレス?」 「でも、その割に、貧乏臭くないなぁ」 晃と円に続いて呟いた七五三鬼の言葉に男は大きく口を開けて笑った。 「だーっはっは! 言うねぇ、そこの兄ちゃんよぉ。自分で言うのもなんだが、確かに身なりは貧乏臭くなってないんだろう。 だけどな、家ナシ職ナシの浮浪者ってのは本当だ。寄生体になる前から俺は仕事を失っていた負け組の一人だからな」 自虐的に唇を歪め鼻から乾いた笑いを漏らした男は、つい、と顔を上げた。 「ま、こんな小汚ねぇオッサンだがこうして寄生体同士で会ったのも何かの縁だ。用が無いならボランティアの一つだと思って俺とセックスしてやってくんねぇか?」 自身をホームレスだと言い放った中年の男はキャンピングチェアから立ち上がり、身に付けていたベストもカーゴパンツも皮膚に融かし込み同化させて全裸になった。 そのまま筋肉をベキベキ隆起させながら皮膚を黒く外骨格化すると、あっという間に寄生体・グロセクターの姿に戻った。 「う゛ぅん゛、ふぅぅ、やぁっぱ人間よかコッチじゃねぇとしっくりこねぇな」 「うわー! カッコイイ~! バイザー付きの寄生体なんて超カッケー!」 欣喜雀躍する七五三鬼の言うようにその寄生体は顔面の上半分をセラミックかカーボンのような黒いプレートですっぽり覆っていたからだ。 そのプレートによって複眼は隠れ昆虫型怪人からサイバネティックなダークヒーローになったかのようである。 「ん? バイザーってコイツか? こんなもんお前らだって創れるだろう?」 指でクイッと押し上げると晃や円たちと同じ大きな複眼が現われた。 「寄生体のまま薪を燃やす時なんかにゃこいつが便利なのさ。無けりゃ煙や火の粉が直に目に当たりやがって鬱陶しいのなんの」 「どうする円。アイツから敵意は感じないが」 「そうだな。確かに悪い奴では無さそうだけど……」 「俺はアリだと思うっす。まぁ、最終判断は先輩にお任せするっす」 七五三鬼にならって円も判断を晃に託した。 「相談のケリはついたかい? んじゃぁそろそろおっぱじめようぜぇ?」 晃は寄生体の姿に戻りながら近づいて行った。 「アンタとセックスするのは構わないんだけど、俺、アンタの事なんも知らなくってさ。無職だとかホームレスだとか、 そんなのぶっちゃけ俺ら寄生体には重要じゃないだろう?  俺たちはアンタのエサとしてここまで来た訳じゃない。アンタがどんな寄生体なのか見極めに来たのさ」 「見極めて、どうすんだ? 敵だったり、役に立たない存在だったりしたら、俺はお前らに処分されちまうのか?」 晃は首を横に振った。 「分からない……。けど、アンタは敵なんかじゃないだろ? アンタのフェロモンはさっきから俺たちに対して エロい求愛フェロモンしか放出してねぇし。役に立つかどうかなんて俺たちが決める事じゃない。信じられないなら信じなくてもいいけどな」 晃と対峙する寄生体は大仰に手を開いてからため息を吐いた。 「――あ~あ~、フェロモンてってのは、ったく正直だよなぁ。嘘もつけねぇなんてな。どうせなら無職になる前にこんなカラダになれてりゃよかったのによぉ……」 寄生体はそう言うとカラダを人間形態に変化させ、先ほどと同じ中年男になるとニィっと口角を上げた。 「お前は『分からない』と答えた。俺を敵じゃないと感じ取りながら、それでも断言せず『分からない』にとどめた。 なので俺はひとまずお前らを信用する事に決めた。 そんな不思議そうな顔をするなよ。今までの経験上『信じてくれ』とか『絶対』なんて言う奴らほど信用できねぇってのを俺は学ばされちまっただけだ」 中年男は前髪をかき上げ二つの瞳で晃たちを順に見据えた。 「俺を見極める、つったか? だったら俺の身の上話を聞いてもらおうか。惨めで憐れで、情けない俺のこれまでをよ」 むさ苦しさとは真逆の澄んだ切れ長の瞳が踊る炎を映して輝いている。 中年男の意外な端正さに一瞬息を飲んだ晃たちも寄生体の姿から人間へと変身した。 「あ、ああ……。俺と、俺たちで良ければ聞かせてくれ。アンタが何者なのかを」

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