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鷹取リュウゴ
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パラドキシカル・パラサイト 19 終章

19終章・時は流れて  「神籬(ひもろぎ)が今日から大学生とはな~! ま、何はともあれおめでとう!」 「まったく、時間が経つのはあっと言う間だな。俺からも進学おめでとう、だ」 「えっへへ、ありがとう、晃さん、円さん。俺も二人が通っていた大学に進学できてマジ嬉しい」 「アイツは? 真名井はどうしたんだ?」 『真名井』とは神籬の友達であり神籬と同時に寄生体になったグロセクトアンチドートのもう一体の事である。 「入学式が終わったらeスポーツ部の先輩たちに速攻拉致られて行っちゃいました」 「あ~」 真名井は高校時代に有名なゲーム大会で入賞した経歴を持っていた事を思い出し、円と晃はなるほどと納得した。 「て、言うか、晃さんも円さんもすっかり社会人って感じですねぇ」 「そうかぁ? 俺はともかく円はスーツが板についてきたけどよぉ」 教師になった円は自身の後輩となった神籬の入学を祝うためパリッとしたスーツを身に付けていた。 肩幅のある円が着ると「それなり」のモノでもサマになってしまう。 対して晃はラフなパーカーに淡いピンクのスラックス。サングラスも掛けている為、知らぬ者が見れば不審者に間違えられそうだ。 「晃はすっかり有名人になっちまったからな。来週からまた単独ライブツアーなんだろう?」 諦めかけていた音楽の道に進むことを後押ししたのは円や他の寄生体の仲間だった。 七五三鬼(しめき)の動画投稿に刺激され晃もチャンネルを開設し、自作の曲をぽつぽつと披露していたのだが、大学4年の時に大きく注目を浴び、いわゆる曲の一つが「バズって」チャンネル登録者が激増。 高校時代からずっと音楽活動を行っていた元バンドメンバーを呼び集めてバンドを再結成。 昨年、メジャーデビューを記念した五大ドームツアーを全て満員で締めくくって大成功を収めていた。 「この後どうする? まだ時間はあるんだろ?」 円が晃に聞いた。 「ああ。今日明日はオフをもぎ取ってるからたっぷりみんなと遊べるな」 「マジ楽しみっすね~」 「おい、神籬、股間! 股間っ!」 「うわわ、いっけね!」 円に指摘されて神籬が慌てて股間を隠す。この後、久々に寄生体の仲間たちが集まってたっぷりとセックスを楽しむ予定になっているのだ。 真名井からも新入部員歓迎オリエンテーリングが済んだら向かいます、とのメッセージが届いている。 大学の講堂の前には淡い春風の香りに桜の花びらがほどけて舞っている。 式典が終わると大半の新入生は真名井のように部員勧誘を受けてすぐに見えなくなるか、残っていても部活に興味の無い者や誰かと待ち合わせている者がほとんどである。 「晃も忙しくしてるが、桐吾さんと賢哉さんも大変そうだよな」 円は樹々の向こうに見えるカフェのオレンジ色の屋根を眺めた。つられて晃と神籬も顔を向けた。 「あれから支店が3つも増えたからなぁ。その都度賢哉さんがマネージメントでバックアップして、結局は賢哉さんが桐吾さんをもっとサポートするため副社長格で参加したんだよな」 「経理システムや勤怠管理のベースも賢哉さんが構築したんですよね? お陰で働きやすくて利益率の高いカフェとしてビジネス誌にも取り上げられるほど話題になってるとか」 神籬が感心するのも無理からぬこと。 銀行から受けた融資を完済しただけではなく苦境にあえぐカフェを救済する形で支店を増やし、その店舗のいずれもが収益を倍以上に伸ばしていた。 「賢哉さんや桐吾さんに会うのは一年ぶりになるな。相変わらずな二人なんだろ?」 晃が円や神籬に顔を向けた。 「ああ。相変わらずラブラブで暑苦しいぞ。そのせいで賢哉さんはあまり店にくるな、なんてスタッフたちに言われちまってるようだ」 「あはは! 賢哉さんらしいな!」 「そんなに好きなのに賢哉さんはまだ桐吾さんを寄生体にしちゃわないんですよ。不思議っすよねぇ~」 晃と円は互いの顔を見つめてから神籬にこう言った。 「いずれ神籬にも分かる時が来るさ。お前にも心から好きな相手が、愛したい人ができたならな」 「それにな、俺と晃だってこう見えてもラブラブなんだぜ? 毎晩晃から『会いたい』ってエロい画像付きでメッセージが来るしな」 「あっ! てめ! それ言うなって! このやろう!」 顔を真っ赤にさせた晃が逃げる円を追いかけ回した。 「本当に晃さんと円さんも仲が良いな。羨ましいっす。あ、そうそう、羨ましいと言えば白鳥さんと七五三鬼さんなんですが――」 立ち止まって神籬(ひもろぎ)の元へ戻って来た晃と円が「――ですが?」と首を傾げた。 「白鳥さんと七五三鬼さん、この春から朝の特撮番組に出演が決定しましたよ。地上波とネット配信とで期待の新作として」 「嘘だろ!?」 「マジか!?」 「ええ。本当です。ネタバレ防止で最近まで秘密にされてたみたいですけど、一昨日だったかな? 情報が解禁になったんです。 僕も真名井もビックリして思わず直電したくらいです」 「電話して情報が本当だった、と?」 「そうなんです。とは言え僕も知っているのは公開された情報だけなので特別詳しいって訳じゃないですが」 スマホを操作した神籬が特撮番組の公式サイトを表示させた。  『ナイトヒーロー・ダブルバイオス』 夜を跳べ! 悪を蹴散らせ! 正義のWダークヒーロー! ブラックバイオス=「七五三鬼 蓮太郎」 シャドウバイオス=「白鳥 百木」 主張の激しいテキストの背後には髪を逆立ててヒーローらしくなった七五三鬼と、陰のあるダンディな魅力を湛えて佇む白鳥の横顔が三日月を背景にして大きく映っている。 「うわ、あんなにヴィラン、ヴィランって言ってた七五三鬼がヴィランじゃなくて正義のヒーローしてる」 流れ行く流星を掴もうと夜空に手を伸ばす画像の七五三鬼を晃が指すと、円も白鳥を見つつ「随分と変わったよなぁ、この人」と、呟いた。 白鳥は七五三鬼の夢を応援したいと言い出し、万馬券で手に入れた大金の残りを費やしてプロダクションを設立したのだ。 もちろん、プロデュースする対象は七五三鬼である。 交渉事や人付き合いが大の苦手であった白鳥は、それでも七五三鬼のためにと奮起し、新参のプロダクションながらなんとか業界の端に加わる事ができた。 そして、七五三鬼の大学卒業に合わせて事業を本格的に展開させようとしていた。 「ほんと、白鳥さん、あんなに人嫌いだったってのに、よくぞここまで、って感じだよな」 晃もしみじみと呟いた。 「確か、プロダクションには幼馴染だった人が大いに役立ったって言ってましたよ?」 「「マジか!?」」 晃と円の反応がハモった。 「白鳥さん、そうか、許したんだな……。そうだったのか……」 「色々と思う所はあっただろうに、どうして受け入れられたんだろう?」 円の素朴な疑問に神籬が「決まってるじゃないですか」とツッコむ。 「七五三鬼さんが白鳥さんに『裏切られてもいいじゃん。俺とまたやり直そうよ』って言ったんです」 「……七五三鬼らしいな」 「まったくだ」 柔らかい風を受けていた三体の「人間の姿をした」寄生体が声を上げて笑った。 ここで講堂付近に屯していた学生の中から晃を見て「え? もしかして、そうじゃない!?」と気付き始める者が現われた。 「……気付かれたっぽい。そろそろ場所を変えようぜ。俺がここに来てるのは内緒にしておきたいから」 「そうだな。集合場所はどっちだ? カフェか、それとも桐吾さんのマンションか?」 歩き始めた晃を追いながら背後の神籬に確認する円。 「桐吾さんのマンションです。あの頃は毎晩『食事』の帰りに立ち寄って、皆さんとセックスしてたなぁ。『食事』の機会が減ったら自然と足が遠のいちゃいましたけど」 あれから寄生体の存在は神籬や真名井の他にも確認できたものの、地域や役割の違いからほとんど交流を持つ事は無く「遠くの親戚」レベルの存在にしかならなかった。 また、賢哉がブックマークに入れていたグロセクトをダウンロードするウェブサイトもいつの間にか削除されていた。 そして、晃たちが「グロセクターファゴサイト―シス」として人間に感染した『意志のある細菌』を片っ端から貪食していたのは、賢哉が初めてA氏を治療してから半年ほどの間だった。 つまり、その年の冬が来る前に感染者は一人も見つからなくなり役割を果たすべき対象はゼロになっていた。 同じ時期にグロセクターアンチドートの神籬も『意志ある毒』を受けた人間が見当たらなくなったとして活動を鈍化させた。 大学の門を出たところで神籬を呼び止める者が居た。 「えっ!? 五百蔵(いおろい)!? アイツなんでここにいるんだよ? 来なくて良いって言ったのに」 「うん?」 「あっ、すみません。アイツは『五百蔵 楓(いおろい かえで)』って言う高校時代のダチなんですが……。 俺に何の用だろう? ちょっと待っててもらってもいいすか? すぐ戻りますから」 神籬は晃と円にそう告げると離れた場所に立っていた五百蔵の側へ向かった。 「――ふむ、あのウキウキ顔を見るに、神籬は五百蔵ってやつに気があると見た。観音寺(円)先生の見解は如何かな?」 「俺もそう思う。さすが名ギタリストにして名ボーカリスト、『明神 晃』さんの指摘は鋭いな」 風に乗って聞こえてくるのは小さな声は神籬に決断を促す声だった。 「――俺は、ずっと神籬が好きだった。今もだ!」 「…………」 返す神籬の声は小さくて聞き取れない。まだ何かを躊躇って、一歩踏み出せない雰囲気の返事を繰り返している。 「――お前が、人間じゃないってのもとっくに知っていた、けど、それでも俺は――」 晃も円も驚いて五百蔵を注目した。が、神籬の影になっていて顔は良く見えない。 気に掛けながら神籬がどう出るかを窺っていると、不意に振り向いて晃たちの方に駆け戻って来た。 「お待たせしちゃってすみません! あの、急で申し訳ないんですが、この後の集まりに一人追加しても構わないですか?」 「アイツだろ? 俺は良いぜ」 「俺も晃に同じく」 破顔した神籬からハチミツよりも甘い香りが拡がった。 ◇  黒一色のウェブサイトに一つだけアイコンが表示されていた。 そのアイコンをクリックするとデータがダウンロードされ、画面から寄生生物となって踊り出る。 「俺は寄生体! グロセクターアンセルミンティック! って……? 寄生生物の俺が人間に付いた寄生虫を駆除? なんだか随分と矛盾した生き物になっちまったな……。 ま、それはそれとして、腹ぺこだし『意志ある寄生虫』に寄生された人間の美味い精液を食べにいくとするか!」 長い二本の触角と発達した太ももがバッタを思わせる昆虫怪人は、大地を強く蹴ってジャンプすると桜の花びらのように夜風に乗っていずこかに消え去った。   終

パラドキシカル・パラサイト 19 終章

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