17パラドキシカル・クリーチャーズ 「初めまして! あ、こちらのお兄さんは二度目ですね!」 リビングルームにやって来た少年はぺこっと頭を下げた。 「…………」 「そんな警戒フェロモン出しまくられちゃうと僕も弱っちゃうなぁ、たはは……」 縮こまる少年を無言で見つめ返す中、晃だけが「あっ」と小さく声を上げた。 「まさか、お前が?」 少年はパッと背を伸ばして笑顔を晃に向けた。 「はい! 昨夜は挨拶もなく飛び去ってしまって失礼しました! 『食事』を誰かに見られるなんて思ってもみなかったものですから」 今度は視線が晃に集中した。 「ああ、実はな――」 晃は昨夜、バイト帰りに公園で出会った寄生体らしき「シルエット」について説明した。 「――と、まぁ、雨で見通しも悪い中だったし、俺に気付いてすぐに飛び立っちまったもんだから詮索は控えておこうと思ったんだ」 「そのシルエットの正体が君だったんだ?」 賢哉が少年に聞いた。 「そうなんです。初めての事だったんで僕も驚いちゃって、それでエサの人間ごとその場を離れてしまって」 「俺らの存在ってか立場を考えりゃ、誰かに見られんのは得策じゃねぇ。お前の行動は正しかったと思うぜ」 白鳥が少年をフォローした。 「ありがとうございます。しかし、凄いですね。この場に5体もの寄生体が集まってるなんて」 「君を含めると6体になるね。だけど、微妙に君のニオイって……」 「はい。寄生体ですけど皆さんとはタイプが違うんです。だからニオイも微妙に異なってて」 今からお見せしますね、と言った少年のカラダから寄生体には「甘いはちみつのような香り」と感じられるフェロモンが流れ出す。 少年が身に付けていた黒い学ランが皮膚に融けて全裸になると、未発達な少年らしい肉体がギシギシ音を立てて膨張、 メキメキと著しい筋肥大を見せつけながら頭部は黄色く、胴体は黒地に黄色い縞模様を帯びた「蜂」と人間とがミックスしたような怪人へと変身した。 次いで腰の辺りから蜂の腹部に似た巨大なドングリ型の組織が尻尾のようにモコモコと膨れ上がり、脇腹からは蜂の中脚と後脚にあたる腕が左右に2本ずつズシュ! ドチュゥッ! と勢いよく噴き出して伸びる。 最後に背中から2対4枚の薄い翅がビュルと拡がり、股間で小さくなっていたペニスが勃起しメキメキ巨大化。 「はぁ、はぁ、ふぅぅ、そう言えばまだ名乗って無かったですね。僕は寄生体・グロセクターアンチドート。人間の時の名前は『神籬 蜜加(ひもろぎ みつか)』って言います」 「ハチか」 「ハチっすね」 白鳥と七五三鬼が見たまんまの感想を同時に口にする。 「そうか。他にもタイプの異なる寄生体がいるって事か~。全部で何種類くらいいるんだろう?」 賢哉の問いは誰かに聞くと言うよりも自問自答に近かった。 「他にも居ると思いますけど、正直言って分かりません。何せ、もう一体のアンチドート以外の寄生体に会うのは、これが初めてですから」 「もう一体?」 「いるんだ?」 晃と円が神籬の頭部を見た。 「はい。僕と同時に寄生体になった友達がそうです。一緒にオンラインでゲームをやってる時に不思議なサイトが表示されて、その中のデータをダウンロードしたらそれがアンチドートタイプの寄生体・グロセクトだったので」 桐吾が全員分のコーヒーを淹れて皆に手渡した。 「少し蒸し暑くなってきたからアイスコーヒーにしてみた。神籬くんも苦手じゃないならどうぞ」 「いただきます! 僕、コーヒーは好きです! ミルクとシロップも頂きますね!」 神籬(ひもろぎ)は頭部外殻をベコンと開けると緑色を見せる口許を解放してストローからグラスのコーヒーを吸い込んだ。 「あ! うめぇ! じゃなくて、美味しい! こんな美味しいアイスコーヒー飲んだの初めて!」 「はは、それはそれは。コーヒーを商売にしている者冥利に尽きる褒め言葉だ。お代わりもあるから良かったらどうぞ」 「ところで、神籬は中学生なんだろ? 学校は大丈夫なのか?」 のんびりしていたら遅刻するんじゃないか、と晃は心配した。 「ありがとうございます。でも、大丈夫です。もう一体のダチに俺が出席しているよう処理してくれ、って頼んでますから」 教師の目には居ない神籬が居るように見える細工を施すよう頼んだ、と言っている。 「なので皆さんとはゆっくり情報共有ができるんです」 「なるほどな。じゃぁ、まずは個体名称の情報を交換していかないとな。俺は『明神 晃(みょうじん あきら)』 二十歳で大学2年。 グロセクターになったのはひと月と少し前ってトコだ」 そう言うと晃もまた人間から寄生体・グロセクターに戻った。 続けて円、賢哉、七五三鬼も自己紹介を行って寄生体に、最後に白鳥が雑に名前を告げてから寄生体に戻った。 「わ、皆さんめちゃくちゃカッケー! じゃなくて、カッコいいですね!」 「なぁ、神籬(ひもろぎ)。無理に丁寧な言葉遣いをしなくてもいいんだぜ? そろそろ普通の話し方でどうだ?」 カブトムシ型昆虫と人間が混ざり合った姿となっている晃が神籬に堅苦しくならないでいい、と話した。 「ありがとうございます。じゃぁ、少し普段づかいにします」 そう言うと神籬は頭を下げた。 基本的に礼儀正しい真面目な中学生なのだ。 ◇ 「――と言う訳で、僕とダチのグロセクトアンチドートは人間に入り込んだ『意志ある毒』を解毒する働き、役目を持っているようなんです。結果的に、ですけど」 神籬(ひもろぎ)の語った内容を受けて晃たちは自分たちの存在意義を考えていた。 「『意志ある毒』ってのも初耳だけど、賢哉さんがあの人から吸収した『細菌』だって意志を持っていた。なんだ? この頃は毒や細菌に意志を持たせるのが流行なのか?」 晃の言葉に正しく応えられるものはいない。 「……なぁ晃。流行かどうかは知らんが、未知の脅威が俺たちの社会を脅かそうとしているのは事実みたいだ。 俺は今まで、俺たち寄生体こそが社会の脅威、悪、だと思っていたんだがどうやら違うようだな」 円の発言に賢哉も意外な面持ちで同意した。 「だよね~。神籬くんのお話を聞く限りじゃ、僕たち寄生体って、人間を逆に護ってる存在って事になるもんねぇ~」 七五三鬼がスッと手を挙げた。 「俺の知り合いにSF研究会の鈴木って奴がいるんすけど、そいつが前にこんな話を俺に聞かせたんです。 『地球は一つの巨大な生物であり、調和を保つために地球そのものが生物を通してバランスを取ろうとする』って。 ガイア理論って言うらしいんすけどね。 なんか、今のやり取りを聞いてたら、ふとその話を思い出しちまってました」 「となるとあれか? 俺らはワクチン、いや、免疫みたいな存在だってか? 寄生体になって人間に寄生してるつもりが、 逆に『人間社会』ってやつに寄生される生物になっていたのか? 俺は護るつもりなんざまったく無ぇけどな」 白鳥が苦笑いを噛み殺した。 個別に憎い人間も居る上、社会そのものに対しても白鳥は良く思っていない。 ただ、そんな社会のゴミっぷりを寄生体とは言えまだ中学生の少年の心にぶつけるのは「お門違い」とも分かっているので皮肉のトーンはそれほど鋭くならない。 「白鳥さんの意見を聞いて、僕、なんであの人の精液にあんなに惹かれたのか分かっちゃった。 僕たちってきっと、神籬くんたちアンチドートと違って『細菌』感染者に特化した免疫なんだよ。ええと、白血球みたいな?」 「となると、さしずめ白血球の貪食能力を持つグロセクター、『グロセクターファゴサイト―シス(貪食)』って名がふさわしいですね!」 複腕で器用にスマホを操っていた神籬が、白血球のウィキを見ながらそう告げた。 「グロセクターファゴサイト―シス……、長い、けど案外いいかも」 賢哉も他の寄生体も満更でも無い感じで受け止めた。 「俺たちグロセクターに人間的な意志や記憶が保たれているのは、何故なんだろうか、って俺は考えていたんだ。 本当に悪の怪人になったんならそんなの不要、てか弱点そのものだろ? 善悪の判断が出来るのだって人間寄りだし。 見た目の昆虫っぽい点に合わせて見ても100%本能だけって訳でも無い。性欲みたいに強くなったり大きくなったりした本能もあるにせよ、だ。 それにしても神籬はどうやって寄生体の存在意義を知ったんだ? 俺たち5体も居たのに誰も分からないままだったんだけどな」 「僕も、自分で思いついた訳じゃないんです。寄生体になる少し前に授業で環境問題とか習ってて、皆さん『SDGs』って聞いた事あると思うけど、 その中で、『持続可能な社会づくりにには、人間一人一人が役割を持っているんだとの意識を持って取り組む必要がある』って言葉があって、 その言葉を思い出して、だったら僕と言う寄生体は何の役割があるのかな? ってなって……」 「それで、『意志ある毒』を人間から消す役割、アンチドート(解毒剤)としての存在意義があると見出したんだな? 自分で思いついた訳じゃないって言ってたが、そこまで考えを至らせる事も十分凄いと俺は思う。 今どきの中学生ってのはみんな神籬みたいに賢いのか? それとも神籬が天才なだけか?」 円が神籬を手放しで讃えた。 照れた神籬は6つの手を合わせてもじもじしている。 「だったら毒を受けた者や感染しちまったモンの精液だけを狙って『食事』してりゃ完璧にヒーローと言えるんだろうが、 普段の『食事』を踏まえりゃそうとも言い切れねぇ。 傍から見りゃやっぱり俺らは人間を襲って精液を奪う怪人でもある訳だ。 神籬の言う通り立派な役割があるとしても、どうしてこんな矛盾した性質を俺らに与えたんだろうな?」 白鳥の発言に桐吾がグラスを置いて反応した。 「白鳥さんの意見に反論する訳じゃありませんが、寄生体じゃなくて普通の人間のほうがもっと矛盾していませんか? 俺の場合で言えば賢哉が大好きなのに傷つけるような行動をしてしまってましたし、白鳥さんだって――」 「俺が矛盾してる?」 「ええ、酷い上司の罠に落ちて会社をクビになった、とおっしゃってましたが、それ以前に他の上司や同僚たちからも 肉体関係を迫られすこぶる居づらくなった、と。では何故さっさと愛想を尽かして退職してしまわなかったのか。 20年も警備員として勤務する程の魅力がその会社にはあったのでしょうか? また、幼馴染に裏切られて借金を背負ってしまった経緯も矛盾してます。 今でもその幼馴染を本当に恨んでいるなら復讐に燃えてもおかしくないのにそんな気配もなく、そもそも、連帯保証人になるのって口約束だけじゃダメな筈です。 ちゃんとした書類に署名と捺印をした筈なんです。その時、白鳥さんは幼馴染に踏み倒されてしまうリスクを微塵も考えなかったんですか? そうじゃないと思います。 リスクを承知で借金の保証人になる事を引き受けたと思うんです。だから……あ、あれ? 何で俺――」 白鳥がスッと立ち上がって桐吾をぐっと抱きしめた。 「何であんたが泣いてるんだ? カッコイイ顔が台無しじゃねぇか。ま、俺の代わりに嘆いて悲しんでくれてるのはニオイなんか出てなくたって分かる。 蓮太郎と言いアンタと言い……、クソ、もっと早くにお前らと知り合いたかったぜ。 ……あぁ、そうだ。俺は矛盾している。認めたくなかっただけで本当に矛盾した存在だ。そんな事に気付くまでこの歳までかかっちまった」 「百木……」 七五三鬼がそっと白鳥の手を握った。 「なぁ円……」 「晃、俺たちもそうだ。多かれ少なかれ矛盾してる」 「だよなぁ……」 強制的に円の心に干渉し寄生体になる事を賛同させた事、しかし、寄生体になってからは「それでも」晃に感謝している事。 「今でも矛盾はいっぱいある。あるけど、だからと言って不幸じゃぁない、よな? 円も」 「その通りだ。伊吹先輩を見てみろ。あの人、搾精奴隷の洗脳を全部解除して元通りにしたってのに、いまだに俺らの奴隷のフリして精液を集めてるだろ? 自由になれたってのに奴隷のままでいたいなんて矛盾も甚だしい。けど、前より伊吹先輩って生き生きしてるし、晴れやかだし、そんな伊吹先輩が好ましく見える」 「逆に矛盾が人を幸せにしている、……か」 「その通りだろうぜ晃。ま、堅いハナシの最中なのに矛盾して勃起しちまったチンポをそろそろ収めたいんだが、どうだ?」 肯いた晃が神籬(ひもろぎ)にニヤリと微笑んだ。 「なぁ、時間があるなら神籬の歓迎セックスをシたいんだが、どうだ? お前もそのチンポを大人しくさせてやりたいだろう?」 「もちろん! やろやろ! さっきから兄貴たちのチンポと精液を味わいたくってウズウズしてたんだ!」 そう言った神籬は腰の後ろにドンと繋がって生えていたドングリ型の尻尾状組織をズズズと腰の内部に引き戻した。 すると神籬の肉体は筋肉がますますパンプアップして晃たちよりもいかつい『メガ』バルクマッチョに成長した。 「ふぅ、『食事』じゃない時は邪魔になるからこうやって他の部位に移してるんだ。チンポに集めても良いんだけど、 そうしたらチンポが抱えきれないほど太くなっちゃって兄貴たちのアナルを犯せなくなるでしょ? それは絶対嫌なんで、ちょびっとだけにしておいたよ!」 先ほどまで30cm程度だった神籬のチンポが、50cm程の長さの太ももサイズになっていた。 「ちょびっと? どこがだよ!」 「ええ~? これでもダメなの~?」 戸惑う蜂型寄生体を見て晃も、他の寄生体たちも、桐吾も声を上げて笑った。