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鷹取リュウゴ
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継の糸 4 最終話

4紡ぎ糸  日没を迎えると雨が降り始めた。 雨音の中から微かに足音が聞こえたかと思うと、ドアのそばで傘の雫を払う音が二つ。 「――いらっしゃいませ。ああ、お待ちしておりました」 「来たか、内田。それにクルス君も」 「慰魂堂」改め「慰昆堂」のドアを押し開けて入って来た二人に俺と雲居さんが声を掛けた。 「どもども~。今日は営業してるんだ?」 「こんにちわ? こんばんわ? お兄さんたち!」 内田がすかさず「今の時間はこんばんわで良いんだよ」とクルスに教えていた。 ◇  ホムンクルスの体内から脱出してひと息ついてから、内田にも雲居さんの正体、それから俺の「糸」の事、それからホムンクルスや慰昆堂について、内田にも理解ができるよう言葉を選びつつ説明した。 「……分かった。いや、分かったっぽいだけで実感はないが……、目の間で須崎やオーナーさんがコイツのチンポから飛び出したのを見ちまったら信じるしかない」 そう言いつつ横で正座しているホムンクルスの大胸筋をトンと叩くと、そのままズブブと内田かホムンクルスの中にのめり込んでいく。 「おわ!?」 「大丈夫ですよ遼平さん。内田さんがホムンクルスに『食われる』事はありません。合体しようとしているだけです」 「合体!?」 「ええ。まぁ、見ててください。問題はありませんから」 内田の腕がどんどんホムンクルスに沈んで、次は上半身、そして下半身もホムンクルスの中に取り込まれた。 「ほえ~? マジで合体しちまったぜ。しかも超気持ちイイな、これ」 姿はホムンクルスながら意識は内田が表に現れている。 全身をまさぐりながら最後にチンポを軽く扱いてオナるホムンクルス(イン内田)。 一発ぶっ放すと今度は背中からメリメリと内田が生えて分離した。 「ふぅ。合体ってなんかクセになりそうな気持ち良さだな。ま、ここまで不思議なモノを味わっちまうと嫌でも理解するってもんだ」 ホムンクルスは「もう一回! もう一回僕の中に入って、オナニーして欲しい! お願い!」とねだっている。 「カラダは立派な成人男性ですけど精神はまだ子供なんです。内田さん、よろしければこの子を引き取って教育してあげてくれませんか?」 雲居さんが内田に頭を下げた。 「え? お、俺が?」 「はい。この子は、このホムンクルスは、私の店の商品として入荷したんですが残念ながら無害化調整する前に起動されてしまって、私ばかりか遼平さんまで危険な目に遭わせてしまいました。 ただ、それを理由に廃棄処分とするには忍びなく、また内田さんをかなり気に入った様子ですのでいっそ内田さんに引き取って頂いて教育してもらえるとありがたいな、と」 伸び放題のホムンクルスの前髪を内田がそっとかき上げた。 すると、澄んだ瞳が露わになり内田の目と視線が合った。 「僕、アナタと一緒に、居たい……」 「……だったらまずは、この髪と髭をちゃんと整えなくちゃな」 「うん!」 二人の様子を見て「ふふ」、と微笑んでいた雲居さんがふっと俺の方を見た。 「このホムンクルスはですね、起動させずに無事入荷できたとしてもきっと内田さんが入手されているように思います。 当店で扱う商品って希少品になればなるほどお客様が商品を選ぶんじゃなくて、商品の方からお客様を選びますし」 「となると、俺が『糸』を手に入れた時と同じなんですか」 「そうなります」 バッと頭を下げたホムンクルスが内田の股間に吸いついた。 「お腹空いた! アナタの精液欲しい!」 「うわっ!? ちょ! せ、精液ぃ?」 「ホムンクルスは基本、人間と同じモノを口にできますが精液を最も好みます。特にこの子は錬金術師の精液を素材にして作られていますから」 目を白黒させていた内田に雲居さんが淡々と解説を加えた。 「うわ! ヤベ! もうイク! ううっ!」 あっけなく内田が果てると今度は俺にもねだって来た。 「次はこっちのオニイサンの番! 僕に精液をいーっぱい頂戴!」 「ぬふぅぉおお!」 ◇  一週間後。 無断欠勤になりかけたものの内田の口添えもあってなんとか「有給休暇」扱いに切り替えてもらって俺は事無きを得た。 ホムンクルスは「内田 クルス」と言う名を与えられ、戸籍上は内田の弟となった。 どうして人造生命体が戸籍を取れたのか、って? それはもちろん雲居さんの持つ謎の人脈を使用し裏の手を使ったからだ。詳しくは聞かなかったがお役所のお偉いさんの中にも慰昆堂をこっそり利用している客がそれなりにいるらしい。 「海外生活が長かったから日本の常識を色々と教えている最中」 との設定を元に、突然会社に顔を出したクルスを横にして他の社員に対して内田がぎこちない説明をしているのを俺は見ていた。 「僕、弟のクルス! お兄ちゃんをよろしくね!」 髪を短く切りそろえ伸び放題だった髭を全て剃ったホムンクルスは目を見張るような美少年だった。 ただし頭の下に付属している肉体は兄になった内田を凌駕する雄臭いマッスルボディ。荒ぶる神の如き筋肉が衣服の上からでもハッキリと肉体美を見せつける。 そんなクルスのアンバランスとも言える美少年ぶりに女性社員は元より男どもまでもが顔を紅くしていた事も俺は見ていた。 「クルスくん! 好きな食べ物は何? お姉さん、お菓子あげようか?」 「クルスくんてかわいいね~! 中学生? 高校生? どこの学校に通っているの?」 「クルスってすげぇ筋肉だなぁ! こんなマッチョで顔も良いと来たらモテモテだろ? 色々とさ!」 色々と、だと?  質問していた若手男性社員の股間が膨らんでいる。おいおい、自分が勃起してるって自覚してないのか? 弟と同じく質問攻めに遭っている内田の耳元に俺は囁いた。 「兄貴だけじゃなく弟までイケメンだと大変だな? と、仕事が終わったら慰昆堂に来るだろ?」 内田の返事を待たずに俺はさっとその場を離れた。 ◇  濡れた傘を置いて慰昆堂の中に入ったクルスがまるでそうする事が当たり前かのように服を脱いだ。 「これ窮屈。僕、服、嫌い」 「おいおい。いきなり人前で脱いじゃダメだろ? ちゃんと教えたのになぁ」 全裸になったクルスの体にボディペイントの白さは無く、ごく普通に人肌の色合いだった。 雲居さんが俺に教えてくれた。 「学習したんですよ。人間について色々と。ホムンクルスの学習能力は人間の比じゃありません」 だから口調もカタコトじゃなくなっていたのか。それでも所々に幼さが見える。 俺の横のカウンター席に腰を下ろした内田が雲居さんのお手製ブレンドコーヒーを口にした。 「ああ、美味いな。オーナーのコーヒーを飲むと頭がリフレッシュできるよ」 「それはそれは、ありがとうございます。あの子を大事にして頂いているようで、そちらも嬉しいですね」 雲居さんの視線を追って背後のクルスを見る。 店内に置かれていた書籍を開いて熱心に読み耽っている。その本の題名に『至福の快感! HOW TO SM』、 とあったのに気付いたが敢えて指摘しないでおいた。 きっと家に戻ったら内田を相手に実践するのだろう。学習した事を行動に移したくなるのはホムンクルスであれ人であれ同じだろうし。 「うわ! やべぇ! 俺、アイツに調教されちまう!」 黙っていたら内田が気づいた。 慌てて内田が駆け寄りクルスの手から本を取り上げた。 「やだやだ! 僕! 兄ちゃんを性奴隷の淫乱肉便器にしてあげたい! 女王様になってみたいよぉ!」 「ダーメーだ! 俺はもうとっくにお前の肉便器だろうが! これ以上ヤバいプレイは覚えなくて良いっての! 昨夜だって何発俺のケツにぶち込んだか分かってるのか?」 「……じゃぁ、縛るのは?」 「ダメ」 「ムチ?」 「嫌だ!」 「猿ぐつわ?」 「無理ったら無理!」 「言葉責め?」 「む、そ、それは、アリだ……」 「やったぁ!」 あの感じではなし崩し的に内田がアブノーマルな快感に目覚めるのもそう遠くは無いだろう。 M奴隷になっている内田をクルス君が「僕のケツ穴を豚みたいに舐めるんだ! ははは! イイ面だぜ! 変態お兄ちゃん!」 と罵る姿をイメージして俺までほんのり勃起しちまった。 「……遼平さんもやってみたいなら私、SM対応もしますけれど?」 俺の内心を見透かして雲居さんが頬を染めた。 「いえ。俺は雲居さんを虐めるなんてできませんから」と言うと、「私じゃなくて遼平さんが奴隷でもいいと思いますが? 責めるのはこう見えて得意ですし」と瞳をぎらつかせて俺に言う。 そう言う時だけマジで怪人ぶりを滲ませなくてもいいじゃない、と内心ビビりながらも俺はどこかで期待もしていた。 なんだ、結局俺って雲居さんと気持ち良くなれるのなら何だって良いんじゃないか。 「他にも色々と、もっと雲居さんを知ってからでお願いします。俺にとって雲居さんは相変わらず謎な存在ですし」 「残念ですね。のたうつ遼平さんを想像したら私、涎と我慢汁がドバドバ溢れ出て来てましたのに」 「ヤ、ヤだなぁもう」 後ろでじゃれていた内田とクルスがカウンターに戻って来た。 「僕、そろそろみんなとセックスしたい!」 クルスのあまりにもあっけらかんとした「要望」に俺も雲居さんも、内田も笑った。 つられてポカンとしていたクルスも笑った。 笑いを収めた雲居さんがポツリとつぶやいた。 「そう言えば、クルスを運んで来た運び屋さんなんですが、前にこんな事を言ってたんですよ。『ずっと天涯孤独な俺も心から笑い合える相手が欲しいと、このごろは強く思う。 家族、友人、恋人、どれも手に入らないままこれからもまた何百年も生きて行くのかと思うと虚しくなる。一体俺は何のために生きてんだろうな』、と」 「そうだったんですか。運び屋さん、随分と辛かったんだな」 「ええ。だけどホムンクルスを使って死を選んだ、とも思えないんですよね。何故なら――」 「何故なら?」 「何故なら、クルスは運び屋さんの彼にそっくりの顔なんです。ホムンクルスとして産み出された時に与えられた本来の『顔』を持っている筈なのに、ずっとクルスは運び屋さんの顔を変えようとしていない……」 「もしかして運び屋さんがクルスを創った錬金術師その人?」 「どうでしょうか? 昔から運び屋さん自身については踏み込んで聞きませんから。品物の出所や由来はちゃんとお伺いしておりますが」 『なぁ、それ以上の詮索は無しで頼むぜ。せっかく俺はクルスになれたんだからさ』 そんな声が聞こえた気がして俺はクルスをじっと見つめた。 するとクルスは俺に向かってウィンクを一つ寄越して口許に人差し指を立てた。 「あっ! アイツ……」 クルス、お前、やっぱり運び屋としての意識がホムンクルスに吸収されてもちゃんとあるじゃないか。 なのになんで「クルス」を演じて……。 俺は頭をブルブル振って「余計な」思考を振り払った。 いや、クルスはクルスだ。それ以上でもそれ以下でも無い。肉体は大人でも精神はまだ未熟な少年なのだ。 「……雲居さん。そろそろ店を閉めてクルスたちと一緒にセックス始めようよ」 「ですね。今夜はトコトン感じ合いましょうか。遼平さんはクルス君のチンポに糸を繋げてみてはどうですか? ホムンクルスのペニスって感度がもの凄かったでしょう?」 俺は雲居さんの提案にイエスともノーとも答えずカウンター席から下りて店のドアを開け、外のノブに『CLOSED』の札を掛けた。 ふと顔を上げると街灯に照らされた細い雨が銀の糸のように見えた。 一つ一つは短くあっけなく地面に落ちる。けれども次々と後を追うように降り注ぐ。 切れても継いで、また繋げられる紡ぎ糸のように。 背後から雲居さんが俺を抱きしめていた。 「遼平さんは、急にいなくなったりしないで下さいね。約束です。私も急に消えるような事はしない、と約束しますから」 「もちろんです。約束します」 俺は振り向きながらドアの鍵を閉じ、不安そうな目を向ける恋人の額にそっとキスをした。  終        人物紹介   須崎 遼平(すざき りょうへい) 32歳  総合電子機器メーカーに勤務するサラリーマン 「雲居 アラン」のパートナー。移転した慰昆堂の隣のマンションに住んでいる。 かつては慰昆堂の客の一人だったが、とある出来事によって巨大なペニスとマッチョなボディを手に入れた。 (詳しくはPIXIVに投稿済みの小説『糸』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8869045 をご参照ください) 雲居 アラン 年齢不詳 雑貨店・慰昆堂のオーナー。正体は蜘蛛怪人。人面マスクで普段は人間に擬態している。 怪人とは言え人畜無害だったが、須崎との出会いにより人間に対し更にフレンドリーになった。 売っている物はオーナーが買い集めた物だけでは無く、人づてに流れて来たモノも多い。 趣味は人間観察。 内田 大也(うちだ だいや)32歳 須崎と同じ会社の同期。営業部に所属している体育会系イケメン。 40cmの陰茎には三重連のコックリング、亀頭にはシリコンボールを仕込んだ改造巨根の持ち主。 元は女好きのノンケだったが須崎の「糸」によってアナルの快感に目覚め男もセックス対象となった。 内田クルス 年齢は一か月未満 ある錬金術師によって錬成されたホムンクルス(人造人間) 商品として休眠した嬰児の状態で慰昆堂に仕入れられる予定だったが何故か起動していて運び人を捕食。 そして、運び人に擬態した状態で雲居の元に現れた。 その後、紆余曲折を経て内田の弟として養育される事となった。 運び屋 1000歳以上? 古代遺跡や人跡未踏の奥地へも単身で赴き様々な遺物を雲居に届ける男たちの一人。 16~18歳くらいの外見のまま千年以上を生き続けている不老不死の存在だったがホムンクルスに捕食吸収され、魂まで同化したため人間としての生はその時点で終了した。


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