冒涜巨根アウェイクニング1 (新・背徳巨根テイスティング)
Added 2022-08-20 08:37:50 +0000 UTC1店長の悩み 「……はぁ~あ、どうすりゃいいんだろうなぁ~」 「どうしたんです? そんな深いため息をされて」 「あ、っと、これはすみません……」 落ち着いたショパンの曲が流れるダイニングバーにて会話が切れた瞬間、このところの悩みが思い起こされ長い溜息をついてしまった。 「山西さん、随分とお辛いようですが、私も実は困った案件を抱えてましてね」 「真木さんも? 全然そんな風には見えないですが」 向かいの席に座るスタイル抜群のダンディな人物は『真木 仁(まき ひとし)』さんだ。俺が店長を任されている紳士服店のお得意様として今後も末永く利用してもらいたいお客様の一人だ。 今夜は店舗の営業終了後に食事のお誘いを受けこうして相伴にあずかっている。 「まぁ、表情にはあまり出ませんが私も悩ましい問題を抱えているんです。例えば新人教育など」 「し、新人、ですか……」 俺は新人と聞いてギクリとしてしまった。まさしく俺の抱えている悩みと一緒じゃないか、と。 「前にもお話ししたと思いますが、私が加わっている秘密組織での事で、です」 「ああ、あの話。あれ、冗談じゃなかったんですね」 「山西さんは冗談だと思ってたんですか?」 「そりゃぁ、そうでしょう。聞いた時には随分とリアリティを感じましたけど真木さんがそんな組織に入ってるようには見えませんから」 空になったメインディッシュやパンの皿がさげられ、代わりにディナーの締めとなるデザートが温かいカプチーノと一緒にテーブルに置かれた。 緑が美しいピスタチオのアイスケーキだ。 「ふむ、と言う事は私の擬装の完成度が高いと言う事ですね? ありがとうございます」 「擬装って、そんな大げさな」 溶ける前にとアイスケーキを口に運ぶ。甘さを押さえたピスタチオアイスと刻んだナッツの風味が実に美味い。 悩みはともかくとして真木さんに連れて来てもらったこの店は大当たりだな。 真木さんが初めて、俺が店長として働いている紳士服店に来たのは半年ほど前だった。 以来、毎月のように俺を指名してスーツを購入して頂いているありがたいお得意様だ。 そんな真木さんと初めて食事をご一緒したのは3か月前。社長の叱責を受け暗い顔になってた俺を案じて食事に誘ってくれたのだ。 俺は、お得意様を繋ぎ止める下心もあってそのお誘いに応じ、真木さんに案内されたレストランに入った。 その時は俺でも知っているどちらかと言うとファミレスに近いカジュアルなレストランだった。きっと俺を緊張させまいとする真木さんの心遣いだろう。 明るいポップな雰囲気のあるレストランで食事を摂りながら俺も真木さんの仕事について聞いた。 その中で、副業として秘密組織にて幹部クラスの構成員をやっている、などと聞かされたのだが俺を笑わせるためのネタや冗談だと思い「秘密なのに俺にバラしたら秘密じゃなくなりませんか?」とツッコミを入れていた。 今夜の食事は前のレストランよりも高級感のあるシックで大人向けのダイニングバーだ。 コースディナーの前にワインで乾杯し、俺も真木さんも口が滑らかになっている。 なのに、時折俺の脳裏をよぎるのは「どうすりゃいいんだ?」と反駁したくなるような難問だ。 『山西! お前、自分の店舗の売り上げを把握できてんのか! 社内の、他の支店含めた中で半年もの間ダントツのビリを更新してるってのはどういうつもりだ! 店長になってもう2年になるってのに本気で頑張っているのか? 次の四半期、いや今月一か月だけでもいい、必死に取り組んで売り上げを伸ばせ! 最低でも全店の平均額は達成してみせろ! それができなきゃどうなるかは、……もう分かってるよな?』 社長から「クビ」の二文字をちらつかされ戸惑う俺を助ける仲間はいない。 店長に抜擢された時から周囲はライバルしかいないのだ。 さほど報酬は変わりないのに「店長」になった途端誰も寄り付かなくなった。 「接客業は大変でしょう。色んなお客さまが居て対応をそれぞれに合わせないといけませんから」 「ええ、まあ。接客自体は好きで苦じゃないんですけどスタッフの気持ちをまとめるのが難しくて……」 そう。 俺が店長になって2年。 特にこの半年は部下のモチベーションを上げられず売り上げががくんと落ち込んだまま経過してしまった。 理由は色々とあると思うのだが一番の原因はやはり俺の「店長」としての能力が不足しているからだと思っている。 何せ新規で入って来た新人販売員でさえ俺を軽く見ているくらいなのだ。 例を挙げるとすればシフト変更を頼んだのに拒否され、遅刻しても頭を下げない。俺の指示には気のない返事や聞こえないふりを決め込むのに俺じゃなく先輩からの指示には素直に応じている、等々。 こんな風に一から十まで態度も言葉遣いも俺を軽んじ見下しているのが手に取るように分かる。 先日― 『あの店長じゃやる気がでないっしょ? なんせ見た目からしてスーツが似合ってねぇし。社長はどこを見てあんなヤツを店長に据えたんだろう?』 と、休憩コーナーで話す声が聞こえた時には怒りを通り越して心が冷え冷えとしてしまった。 そして昨日、各地の店長を集めた会議の席で俺に突き付けられた最後通告。他の店長の居る前で赤っ恥を掻かせたのも見せしめのためなんだろう。 落ち込む俺を見兼ねてか今回も真木さんがディナーに誘ってくれた。 ただ、食事の席でお客様相手に悩みの相談などする訳にもいかず、始めは自然体を装っていたのだがそれも上手くはいかなかったようだ。 今月だけでも全支店の平均売り上げ額を叩き出さねば俺はお役御免でクビになるのだから、刑場に引き出されて断頭台に立たされているような気分に嫌でもなってしまう。 そんな俺の内面が今回またもやお客様である真木さんにまで見ぬかれてしまうなんて、俺は自分が思う以上に顔に出やすい男だっただろうか? 俺は観念してため息をついた訳を真木さんに明かした。 「――と、言う訳なんです。クビになったら俺、真木さんが入っている秘密組織に転職させてもらおうかなぁ」 「おや? ウチに来られますか? でもほとんどボランティアみたいなもので収入はほぼありませんよ? それでも、とおっしゃるなら歓迎します」 「あ~、さすがに給料が出ない組織は無理ですねぇ。今でも歩合給は最低レベルでかつかつですし」 だから真木さんの奢りでなければ一番安いコース料理でも一万円以上なダイニングバーで食事などは出来ない。 「それは残念です。しかし、そうですか。一か月以内に売り上げを大幅に上げないと降格どころか解雇されるピンチとは……」 「そうなんです。でも、どうすりゃいいんでしょうね? 部下のモチベーションを上げる以前にコミュケーションも上手く取れてない状況なのに……。せめてもう少し店長らしい貫禄でもあればいいんでしょうけど……」 俺は食べても太らない痩せ型で。実年齢よりもかなり若く見られる。新人の販売スタッフと並べば俺の方こそ新人に見える程に。 「なるほど、貫禄ですか。しかし、山西さんは食べても太らない体質だそうですし、筋トレをされてもさらに痩せるばかりなんしょう?」 「えぇ。筋トレをやって筋肉をつけようとしたら逆にもっと痩せちゃってガリガリになるんです」 一部の人からは羨ましがられるカラダ事情だろうが今の俺には逆に足を引っ張っている。 デザートに次いでカプチーノも飲み終え仕上げとばかりに再びワインを飲む。 食前の分と相まってしっかりとしたアルコールの「酔い」を感じ顔が温かくなる。 「私も山西さんほどではないんですが、悩んでいる事がありましてね」 「さっき口にされていた新人教育について、ですか?」 酔いのせいか何だかもう真木さんが秘密組織に属しているとかどうでもよくなっていた。俺にとっては優しくて気前の良いお得意様で、そして かっこいい兄貴のような俺の理想の人、なのだから。 採寸のたびに良いカラダしてるよな、と羨ましく思ってしまう。俺もスーツがバッチリ似合う真木さんのような体格で、渋い顔立ちであればどれだけ良かっただろうか、と痛切に思う程だ。 「ええ、そうです。新人育成の一環で新しく開発した肉体強化剤なんですが最終段階の実用テストをしたいのに立候補する者がいないんです。 この薬剤は服用する者のメンタルの影響を大きく受けるタイプですので迂闊に命令もできず本当に困ってるんですよ」 「肉体を強化する、と言う事は、俺みたいなガリガリで貧相なやつでも変われるんですか?」 「それはもちろん。どんなに痩せておられても強制的に肉体を改造してマッチョになれます。ただ、テスト用なので持続性は無いんですがね。 効果が切れたらすぐ元通りになります」 「凄いじゃないですか! 飲むだけでマッチョになれるなんて!」 「でしょう? なのに誰もテストに手を挙げなくてまだ完成に到れていないんですよ。良かったら山西さん、協力してもらえませんか?」 「良いんですか? 俺でも」 「もちろんです。テストに協力して頂けるのでしたら願ってもない事です」 俺は思った。 真木さんが言う「肉体強化剤」を飲んで体格をマッチョにさせられれば、貫禄が付いて部下との関係改善に繋がるのではないだろうか? 「マッチョになって貫禄が出たら俺を軽く見るムードを変えられるかも知れない。そうすれば販売員たちも指示通りに動いて販売額も上がる筈……」 ここで真っ先に思い浮かぶのは支店で一番の新人、半年前に採用されて俺の店にきた「那岐 士隈(なぎ しぐま)」だ。 先輩から何を聞いたかは知らないが、販売員の中で最も俺の事を軽んじ、最も嫌っている存在が那岐なのだ。 少し前に休憩コーナーで俺をこっぴどくディスっていた声の主も那岐だ。咄嗟に隠れたから那岐は俺が聞いていた事など気付いていないだろうが。 まぁ、百歩譲って嫌うのは構わないとしても、上辺だけでも協調して指示通りに動いてくれればいいのに那岐だけは一々反抗して来やがる。 敢えて言うとすれば那岐のせいで売り上げが伸び悩んでいるといっても過言ではない。那岐のふてぶてしい態度が販売スタッフ全体に伝わり、全員のモチベーション低下を招いているのだ。 『あの店長じゃやる気でないっしょ? なんせ見た目からしてスーツが似合ってねぇし。社長はどこを見てあんなヤツを店長に据えたんだろう?』 ヒョロガリから逞しいマッチョボディになれたら絶対にスーツが似合う。 マッチョになってスーツをカッコ良く着こなした姿を見せれば那岐も、ひいては他の販売スタッフも俺を見直してくれる筈だ。 おまけに真木さんの希望をかなえる事にもなるのだからデメリットは無いと見た。 顔を上げたら真木さんがワイングラスを傾けながらニンマリと微笑み返す。ダンディな悪役っぽく見えて俺はドキリとしてしまった。 ――もしかして俺、真木さんにまんまと乗せられているのだろうか? 「これが今お話ししたテスト用の『肉体強化剤』です。人によって効果が強く出る場合がありますけどカラダに害はありませんから安心して下さい」 真木さんが鞄から取り出したのはジッパー付きのパックに入った紫色のキャンディだった。一つ一つがローマ字の「T」の形をしている。 手にして外から軽く押せば堅いながらも弾力を感じる。 「グミキャンディ?」 「ええ。服用しやすくするためグミタイプになっています。よく噛んでから飲み込んで下さい」 チャックを開封して中身を嗅いだら甘いブドウの香りがした。 「味もブドウ味にしてあります。それなりに美味しいですよ?」 グミがT字なのはブドウを模したからだろうか? だが、正直ブドウよりも胡瓜に見える。先っぽが膨らんだ紫色の胡瓜に。 グラスに残っていたワインを飲み干した。 真木さんに騙されてたとしてもいいじゃないか、と思った。 俺の気持ちを軽くする為のおふざけ、だとしても効果など何も無いただのグミキャンディだとしても。 「ありがとうございます。早速試してみます」 「一つだけ注意を。こちらを口にしたら飲み込むまでは山西さんが望む姿、なりたい肉体をしっかりとイメージして下さい。 そうしないと効果が現われてくれません」 俺は「分かりました」と答えてブドウ色の美味しそうな肉体強化剤を自分の鞄にしまった。 「もし問題があるようでしたら遠慮なく連絡して下さい。いつでも構いませんからね」