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鷹取リュウゴ
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淫体海月は斑に倣う 4   《続・淫水海月は朧に浮かぶ》

第4幕    あれから五日経った。 奇妙な雑貨屋に行った件は結局まだ千尋には言っていない。 ――『ピグマリオンの精巣』は用いても消えてなくなりはしません。創出した像からひとりでに外れますので。それから言うまでもないですが、対価を頂いてお譲りしたのですから返却は不要です。よろしければずっとお客様のお手元にてお役立てください―― 店の場所は思い出せないのに銀仮面のオーナーの、一挙手一投足はありありと思い描ける。 ――ご自身のスペアとなる像を創られましたらそこから先のお時間はあまりかからない筈です。生命を宿し得るに必要な量の精液を充填して行く過程で魂や記憶も移せますので。 元のカラダ、ですか? それはもちろんもぬけの殻になります。かなり昔に聞いた話ですが、何故か肉や骨が失われて皮だけになるそうですよ―― 「コイツを使えば新しいカラダに乗り換えられる、が、元のカラダには戻れない、か。となると、新しいカラダがもしダメだった場合、今より状況が悪くなるだけで引き返せないって事だろ?」 ――そうですねぇ。この世で一番難しいのは『元通り』にする事、かも知れません。カラダにせよ心にせよ、他者との関係にせよ―― 頭の中でひと際鮮明に銀仮面を付けたオーナ―の声が響いた。 「まさにそうだ。ダチだと思っていた八木が俺だけじゃなく千尋にまで手を出すなんて。あの野郎、純朴そうに見えてとんだ悪党じゃねぇか」 余命半年と宣告され絶望していた俺を救いたいんだ、と八木は言った。 事実として俺は八木のお陰で末期癌の病魔を退けこうして命を繋いでいられたが、元の「長月 海里」と言う人間のままだったか、と問われたら「ノー」と言う他ない。 また、俺を救いたい気持ちの全てが嘘ではないにせよ多分に「新たな実験材料が手に入った」との下心もあったからだと今は理解できる。 癌どころか健康そのものの千尋にまでクラゲ細胞を埋めこみクラゲ人間に変えてしまったと知った瞬間、八木が俺に向けた優しい顔も興奮を抑え切れない表情も、何もかもが貴重な実験中の生物がどのような変化を見せるのか、と、モルモットを見守る目と変わりがないのだと悟った。 カラダの点検と称して俺をホテルに呼んではセックスもした。 疑いもせず能天気に触手を伸ばしていく俺を、八木は子供みたいに喜んではしゃいでいた。 「すごいよ海里! 素晴らしい定着具合、いや、素晴らしい進化だね! それで、もっと触手をふやせるかい? もっともっと透明になれるかい? ふむ、射精能力は? 筋力は? 他にも新たに出来るようになった事はあるのかい?」 ◇  毎晩、千尋から大量の精液を飲んでいる。 口から、アナルから、そして生えた触手から。 俺だってもちろん千尋にたっぷりと精液を渡してはいるが、千尋から受け取るほうが遥かに多い お陰で精液の渇きを覚えて誰か他の男を襲ってまで精液を奪い取ろうと気持ちにすらならない。 「っへへ、兄貴がそんなに美味しそうに飲んでくれたらさ、俺、クラゲ人間になって良かったって心底思うよ」 千尋の笑顔が健気過ぎる。 そして、この笑顔がもしもこの時だけの一時的なものだとしたら? クラゲ組織の浸食が止まらなくなり脳まで完全にクラゲと化したら? 「まぁ、俺だっていつ脳みそまでクラゲに置き換わっちまうかは分からないが、クラゲを植え付けられてからの変化のスピードを見りゃ千尋のほうが断然早い。八木が日本に帰国するまでに手を打っとかないとヤバいに違いない」 『ピグマリオンの精巣』 ダメもとで使ってみるか? ……いや、ダメもとで使ってダメだった場合どうすんだ? どうすんだ? じゃねぇよな。本来の俺は末期癌によってとうに死んでいる人間なのだ。千尋のためなら今さら惜しむ事は無いだろう?  カラダは八木に救ってもらったが心は、魂は、千尋のお陰で救われたのだから。 「とは言え、だ。挑戦する前に減らせるリスクは減らしておかないとな。ダメもとでダメだった場合でも千尋が無事でいられるような置き土産は用意しておきたい」 置き土産とはもちろん有益な情報だ。となると―― 「危険を冒してでもあそこに潜入して入手するしかない、か。 ……こんな無茶はやったこと無かったが、今回はそうもいかない」 俺が初めて八木の先端医療技術研究センターに入ったのはクラゲ組織を体に注入される時だった。 抗がん剤と痛み止めの薬の影響で頭はぼんやりとしていたが、オモチャを見せびらかす子供のように八木が研究所を自慢気に案内してくれた時の事を思い出す。 「この受付の横がさ、そうは見えないけど警備室になっていてね、24時間体制で警備員が常駐してるんだ。 地下1階までならIDカードだけで誰でも行き来できるけど、僕専用にしてある地下2階は認証が必要でね、入れるのは僕と警備員だけ。 ん? なんで警備員も入れるようにしてあるのか、って? そりゃぁできれば僕だけにしておきたいんだけど、まさかの事故が起きた時には外部から突入して助けてもらわなくちゃダメだろう?」 「とは言え、秘密が漏れてもマズいから警備員でも入れない区画はあるんだ。まぁ、そこは海里にも見せられないけどね」 俺は八木によって地下2階に連れてこられた。 表面上は先端医療の被験者として。実際は違法な未認可処置を受ける訳だが。 硬い寝台の上に横たわると八木がクラゲの入った水槽を持って来て俺に見せた。 「海里に投与する素材にしたのはこのクラゲ。こいつを海里に使うんだ。もちろん安心していいからね。必ず君の癌を消して生き延びられるようにしてくれる。 ただ、定着して馴染むまで少し時間がかかる。ああ、そうだ。もし良かったら協力してくれないか? 海洋調査員ならクラゲについても詳しいんだろう? 実はある新種のクラゲを探していてね、そいつならもっと早く、もっと強く、僕の思い描いた通りに――」 白く濁った液体が注射針の先から俺の腕へと注入された。血管がボコボコと浮き上がり、肩まで這い上がって来る。 と、ここで俺の意識は一旦途切れた。 再び目が覚めると俺はすでにクラゲ組織を植え付けられた後だった。 針を刺された場所を起点にして左腕の血管が異様に浮かび、ドクンドクンと脈打っている。この皮膚の下でクラゲの細胞、クラゲの遺伝子が俺に根付こうとしているのだ。 気が付いて顔を上げて見れば、半透明の少年が二人、向かい合って八木のチンポを舐め合っていた。 「先生~、早く精液飲ませてくれよぉ~」 「そうそう。このお兄さん、いつ目覚めるか分からないんだし~」 「ははは。新田も石田も相変わらず精液が欲しいだなんてエッチだなぁ。そこまでちんぽが大好きになっちゃうなんて先生、悲しいな~」 「やだなぁ。こんなカラダにしたのは先生でしょう?」 「そうそう。クラゲ細胞で性欲が爆上りするの、知ってたくせにぃ~」 少年は明滅する蛍のように透明に近づいたり半透明に戻ったりを繰り返している。 「おや? ちょっと二人ともストップ。海里が気が付いたようだ」 「じゃぁ、もうイイ?」 「俺らでこのお兄さんの精液貰ってもイイ?」 「ああ。構わないよ。海里も君たちの仲間になったんだ。しっかり仲間同士で『交流』を深めなさい」 ニュル、ジュル、と生暖かい触手が絡みついてきた。 まだ思うように動かせない四肢に巻き付き、やがては股間をにゅぶにゅぶと扱き始める。 嫌でも沸き上がる興奮、性的なエネルギーが燃え上がり俺のチンポが怒張する。 そのチンポもまた触手が絡みつき、触手の先端部で亀頭を飲み込み、粘着質な音を激しく立てながら更なる快感をドクドクと呼び起こす。 「ううっ! イ、イグッ! うううっ! ま、また!? ぅあ゛ぃ、イグゥッ!」 抑えられず何度も精液を迸らせた。なんだ? なぜこんなにも大量に出せる? もうクラゲが定着したってのか? 「んま! 味が濃くて超美味いじゃん!」 「うわ、マジですげぇ。もしかしたら先生の精液よりも?」 「ちょっと~? 酷いんじゃない? 君たち~。君たちを助けたのは僕なんだけど~?」 むくれた八木が少年の触手の一本を掴んでグイッと引っ張る。 「ぁ痛てて! ちょ、先生~! 引っ張っちゃダメだって~!」 「わ、悪かったよ! 先生の精液の方がもっと美味しい! もっと欲しいって!」 それから俺は、再び少年たちに射精出来なくなるまで精液を奪われてから解放された。 翌日には退院させられ自宅療養に切り替わった。 八木が他の医療スタッフに何と言ったのかは分からない。が、「患者本人の強い希望で」とでも言ったのだろう。 ◇    当時の事を思い出しながら俺は、先端医療技術研究センターへとやって来た。 時刻は午前0時。真夜中。 有益な情報を一日でも早く手に入れる為、俺は研究所内に忍び込むことにした。 「千尋が知ったら無茶しないでって止めるだろうな。だから黙って出て来ちまったが、やむを得ないよな」 日中に比べて気温がぐっと下がって冷え込んでいる。静かに息を吐けば白く曇る。 関係者以外立ち入り禁止、と書かれた看板を無視して研究センターエリアに入って行く。 周囲は公園のように樹々が植えられており昼間であれば気持ち良く散策できるに違いない。 そんな八木総合病院の広大な敷地の一画、病院本館とは林を隔てて建っている先端医療技術研究センターの建物の一部だけが明るい。 明るいのはそこが恐らく警備室だからだ。 俺は木立に隠れてジーンズのチャックを下げ、チンポを引っ張り出しグチュグチュと扱く。 緊張で勃起しないかと思ったがそれは杞憂だった。競り上がる射精衝動をそのまま止めず一気に頂点へと昇り詰める。 「ううっ! イグゥッ!」 ビュル! ドビュ! と噴き出る精液を手で受けベロリ、ゴクリと飲み込んだ。 「っふ、あ、あ゛……ぁ……ぅ、ぅぐ、うぅ……」 精液が浸みわたって行く。 カラダが透明になっていく。 透けた手の平の向こうに草や地面が見える。 着ていたシャツやジャケットを脱ぎ捨てた。 むずむずする腋から触手がビュル、と伸び、チンポの両サイドからも触手が生える。 このまま触手を使ってオナニーしたい欲求を振り払い、なんとか抑え込んで研究センターへと近づく。 さぁ、行動開始だ。


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