淫体海月は斑に倣う 5 《続・淫水海月は朧に浮かぶ》
Added 2022-11-05 03:19:37 +0000 UTC第5幕 先端医療技術研究センターの受付には誰もいなかった。 照明を最小限に落とした暗いフロントには監視カメラが隅々まで目を見張っているものの、全身が透明になっている俺を捉える事はできない。 体温まで感知する赤外線センサーなんかがあったら即警報が鳴るか警備員が現われるだろうが、どちらも無いと言う事はそこまでの設備は無いことの証明とも言える。 地下に向かう扉は固く閉じられていてまったく開きそうにない。 解錠するにはIDカードをかざす必要があるのだが、当然ながら俺はカードを持っていない。 では、どうやってIDカードを入手するか。 「やはり、警備員から頂くしかないな……」 俺は自分のカラダを見つめた。 透明になっているとは言えカラダの感覚があるため何となくだがほのかに見える気がする。 力を抜けば骨なしクラゲのようにグニャグニャと柔らかくなる。 「……出来るかどうかじゃない。やるしかないんだ……」 もう一度全身に力を込め触手をうねらせる。その触手の一本に麻痺毒を充填させた。 受付の背後の壁を回り込む。 警備員は二人。 一人は立ったまま館内を監視するモニターを見ている、……ようでいて手元のスマホを見ては二ヤニヤしている。 股間に手をやりしきりにチンポジを直しているのは要するにエロい画像か動画をスマホでチェックしているからだろう。 さて、もう一人の警備員は椅子に座って腕組みをしたままウトウトと居眠りをしている。 二人とも仕事をサボって、いや、集中して警戒されていないのは好都合だ。 気配を悟られる前に麻痺毒の触手をスマホを見ていた警備員のうなじに伸ばした。 ――ップ! 「うひ!?」 警備員は膝から崩れ落ち床に横たわる。瞼を閉じれば麻痺していてもう開ける事もできない。 全く動くことができなくなったのを確かめてから俺はもう一人の居眠り警備員に近づく。 俺と同じ年代の30代半ばくらいだろう。 警備員の制服を着ていなければ任侠映画で兄貴とでも呼ばれていそうな風貌の持ち主だ。 「なかなか強面でカッコイイ野郎だな」 グチュ、ズチュと濡れた触手を巡らせ強面警備員の口に滑り込ませる。こじ開けた歯の間に追加した触手を押し込む。 さすがに気付いて目を覚ます警備員。 だが、警備員の腕も足も他の触手でがっちりホールドして動きは取れない。もう一人の警備員を呼ぼうにも俺の触手が咽喉奥まで潜り込んでいて声は出せない。 しかも、何とか顔を動かして視界に入ったのは床に突っ伏して動かなくなったもう一人の警備員の姿。 強面だった顔が恐怖に歪む。ヤベェ、俺の中で新しい扉が開いちまいそうだ。今からお前は俺に支配されるんだぞ? ほぅら、俺の触手がお前を拘束して――って、何ふざけてるんだよ俺は。 改めて―― 本格的に抵抗される前に俺は少しだけ麻痺毒を食らわせる。 ビクンと撥ねた警備員のカラダから力みが消えた。その隙を逃さず俺は警備員の口にさらに触手をおくり、触手ばかりか俺本体をも警備員に飲み込ませる。 ズル、ズズ、と透明な俺が頭から警備員に入って行く。 辛うじて警備員が声を振り絞る。 「……あ、ぐぅ、ぁ……、や、め……ろ゛ぉぉ……」 無論、俺はその声を無視してさらに警備員の中に潜り込み、とうとう俺の全部を警備員の体内に収めた。 再び目を開けると、俺は透明ではなく警備員になっていた。 「よしよし、成功したようだな」 今まで試した事は無かったが出来そうな予感はあった。 クラゲ組織が俺の中で広まるにつれ、カラダから触手が生えるようになるにつれ、透明なクラゲ人間状態なら別の人間に寄生して支配する事ができるのでは、と。 指を動かし首をゴキゴキと鳴らす。 よし、完璧に俺は警備員のカラダを乗っ取れたようだ。 咽喉にクッと力を込めると奥からジュルルと触手が顔を出す。 「興奮しちまうな。こうも他人のカラダを自由にできるなんて。しかもこの警備員、相当いいブツ持ってやがるし」 氏名札を見てコイツの名を把握。 「松原か。悪いな。しばらくあんたのカラダを使わせてもらう」 制帽をかぶり直して床を這う警備員を見下ろす。 「念のためもう少し精液を補充しよう」 万が一途中でクラゲ状態が解けたらさすがに侵入した事がバレる。 バレて騒ぎたてられでもすれば目的を果たせなくなる。 けれどこれは、理由としてはほんの一部。大半は麻痺して寝転がる警備員の股間の膨らみが実に美味そうだったからだ。 スマホでどんなオカズを眺めてたかは知らないが、ここまでスラックス越しに勃起させているのだから射精に到るまでもそう時間はかからないだろう。 名札を見ると麻痺させたこっちの警備員は後藤と言うらしい。 俺は後藤のスラックスを膝まで下げた。現われたのは真っ赤なマイクロビキニ。勃起したチンポがビキニを突き上げ高々とテントを張っている。 ビキニをさっと外すと腹を打ったチンポが「バチン!」と音を立てた。 俺が借りた松原と言いこの後藤と言い、二人ともなかなかお目にかかれないクラスのデカマラだ。まさか八木の奴、チンポのサイズで警備担当を選別してる? いやいや、んなのは俺の考え過ぎだよな。 口から「早く!」とせっつくように触手が漏れる。 そんな俺の口で警備員・後藤のイチモツをジュルンと咥える。 堪らず後藤が腰をビクンと撥ねる。が、目は開いていない。意識はあるものの麻痺していて「見る」ことは叶わない。 グチュグチュ、ギュップジュップ、としゃぶってやれば、あっさりと後藤は精液を俺に明け渡す。 「おほ、いいねぇ。特濃ミルクってやつだ。実に風味が雄臭くて良い」 欲が出た俺はもう一発、後藤から頂くことにした。 後藤のケツ穴に指を突っ込みニュッ、グニュッ、と屈伸させてやる。動きに合わせて後藤のカラダも撥ねる。 「この反応……、こいつ、ケツを弄られんのは初めてじゃないってことか……」 時間はかけられない。「おかわり」も速やかに頂こう。 指に触手を巻きつけズジュジュジュと後藤のアナルを責めてやった。すると、イッたばっかで萎え始めていたチンポがムクムクと息を吹き返す。 しまいには先走りまで漏らしている。 「スケベなからだしてんじゃん。この調子なら……」 アナルを弄りながら再度フル勃起した後藤のイチモツを咥えると、しゃぶる前にゴビュツと精液をぶっ放した。 「んふぅぅ、良い味だ。ごっそーさん」 一度目に負けない量と濃さにひとまず満足した俺は、「続き」を我慢してここへ来た目的に向けた行動を再開。 警備員として抜きたいところではあるが、そこは我慢、辛抱するしかない。 受付を抜け地下に降りるドアを前にする。 警備員の氏名札をセンサーにかざせばロックが外れ解錠できた。 地下一階からさらに地下二階へ。 かつて俺が八木によってクラゲ組織を植え付けられた処置室に辿り着いた。 初めて来た時は抗がん剤と鎮痛剤の影響で詳しく周囲を見る余裕なんて無かったがこんなにも狭かっただろうか? 室内はやけに暗くて見えづらい。が、機械類が放つ頼りない光でも何とかなりそうだ。 「ここまでは問題無く入って来られたな。さて、千尋を守れる情報があると良いんだが……」 コンピューターがいくつも並ぶ壁面の下には注射器やメス等の医療器具が並べられている。 軽くキーボードを叩いてコンピューターに触れてみたものの千尋に役立ちそうな情報は得られそうに無かった。 モニター画面が表示するのはモニタリング中のクラゲの飼育データや、これまで扱ったクラゲの記録ばかりだ。 「と、なると、肝心な情報は警備員でも入れない隠し部屋にあると言う事か……」 ここまで潜り込んでおきながら何の成果も情報も手に入らないまま帰る事になるのか? 無念さに肩が震えてくる。 ――その時だ。 『――あっ! 先生? 八木先生? しばらく無理って言ってたけど今日は会いに来てくれたの?』 『今日は先生の精液が飲める? やった! この頃ちっとも飲んでないからマジ嬉しい!』 いきなり声が聞こえた。 どこだ? どこからだ? ただの黒い壁面かと思っていたがそれは光を通さない暗幕カーテンの間仕切りだった。 サッとカーテンを引いてやれば向こう側はこちらと同じ程度の空間が拡がっており、大人が余裕で入れる円筒型の大きな水槽が何基も並んでいる。 居並ぶそれぞれの水槽の液体の中、ほのかな青い光に照らされ浮かんでいたのはクラゲ、クラゲ、どれもクラゲの培養タンクだ。 『何日ぶりかな? 久しぶりじゃない? 先生の精液も欲しいけどやっぱり外で自由に動きたいな』 『先生、どうしてまた僕たちを閉じ込めるの? 何かマズいコトしちゃったのかな?』 聞こえる声は最も手前にあった二基の培養タンクからだった。もしかして、この中の巨大なクラゲは……。 「……新田? それと石田か?」 『あ! やっぱり先生だ! 俺、先生の精液欲しい! いっぱい気持ち良くしてあげるからいっぱい飲ませて欲しいんだ!』 『この中って窮屈で嫌なんだ! だから出してよぉ~! お願いだよ先生~』 傘のように見えるゼラチン質のクラゲの頭部がゆらりと揺れて俺の方に向いた。 向き直って警備員になっている俺を見ている筈なのにどうして八木と間違えるんだ? それに、それにだ。今の二人はどう見てもただの「クラゲ」そのものじゃないか。 人間らしい部分が一つも残っていない! 「お、お前ら、まさか、カラダ全てが、ク、クラゲ化しちまったのか?」 『え? 何でびっくりしてるの? 先生、忘れちゃった?』 『前に先生が、僕たちはいずれこう言う風になる、って言ってたじゃん』 「前に言っていた……?」 『うん。もうすぐ完全にクラゲ化するけど、僕がちゃんと人間に戻してあげるから心配いらないよ、って』 『今すぐはまだ問題があって難しいみたいだけど、いずれクラゲ組織無しでも前みたいに元気に暮らせるようにしてあげる、って』 「…………」 八木の奴、本当に人間へ戻せるのか? 可能だとすると千尋からだってクラゲ組織を抜き取って元の人間に戻せるじゃないか。 『ねぇねぇ! それよりも早く先生の精液飲ませてくれよぉ~』 『俺も! 思いっきり手足を伸ばして先生のチンポを味わいたいな~!』 培養タンクの中でそれぞれのクラゲが触手を大きく広げ頭部の傘をブルンと揺れ動かす。 なるほど、そうか。 俺の姿も声も二人には八木か、そうでないのかが分からないほどに目も耳も使い物にならなくなっているのだ。 まさしく本物のクラゲと同じように。 「となると、他の培養タンクのクラゲも元人間、なのか?」 新田、石田のタンクに並んでいる別のタンクのクラゲに声を掛ける――無反応。 タンクの透明なガラスをこんこんとノックしてみた――また無反応。 色や特徴が異なる巨大クラゲが水中にゆらゆらと揺れているだけで身じろぎ一つ返って来ない。 俺はすぐに暗幕カーテンの手前に引き返しコンピューターがモニターに映し出していたクラゲの飼育データを読み始めた。 『先生ってばぁ~! 早く~! 早く精液欲しいんだけどなぁ~!』 『やっぱ今日はナシ、なんて言わないでしょう~? 今日はいーっぱいサービスするからさ~』 催促の声を無視してデータを読み漁る。 【001~004、投与して一週間を待たず完全クラゲ化。失敗】 【005、006投与して一か月で完全クラゲ化。意識戻らず。失敗】 【007、投与して三か月にて完全クラゲ化。肉体が完全にクラゲ化した後も低レベルながら呼びかけに反応を示していたが、6日目に反応が消失。失敗】 「そうか。思った通り奥の培養タンクのクラゲも元は人間だったんだな……」 【008、009、投与してから一年、意識も肉体も維持できていたものの、10日前より急速に全身のクラゲ化が進行。パリから戻って来る半年後どころかひと月も待たず意識までクラゲに変化すると予測】 飛ばし飛ばし読み進めていたページを少し戻す。 【――となると、現時点でヒト型を保持できる個体は010、011の二例のみ。特に011については健康状態の良い宿主をベースに用いたためかこれまでで最も早くクラゲ組織が定着した点は特筆に値する。 さらに言えば010がもたらした新種クラゲの細胞構造が人間に近かった事も大いに助けとなったようだ。 だが、惜しいことにこの二例もいずれは完全にクラゲ化すると思われる。もちろんそうなる前に二例とも研究センターにて再検査を行い、培養槽の中に封じておかねばならない。 新たなる医療技術の開発、進化のためならば多少の犠牲はやむを得ない――】 「この記事の日付は……、パリに行く前の日か……。やはりあの野郎、俺らを使い捨てにする気だったんだな」 【010】が俺、【011】は千尋に間違いなさそうだ。 俺も千尋も八木の記録通りなら近い未来、カラダだけでなく脳までもがクラゲと化し物言わぬ「水中生物」へと変貌してしまうのだろう。 記録を読む限り完全クラゲ化を防ぐ手立ては無さそうだ。 己の身で漠然と感じていた不安がハッキリと示された事によってさらに苦悩は深まった。 遅かれ早かれ俺も千尋も完全クラゲ化は止まらない。むしろあっという間に定着した千尋の方がより早く進んでしまうかも知れない。 最終的には先に被験体となった先人たちのように俺も千尋も培養タンクの檻に閉じ込められる、そんな日が来るのはそう遠くないのだ。 「ダメだ……、これじゃ千尋を人間に戻すどころか時間切れになって見殺しにするしかない事実を確かめに来ただけじゃないか。何とかならないのか?」 絶望に目の前が真っ暗になった。 きっかけから全て、俺が千尋を道連れにしちまったようなもの。 新田も石田も話ぶりから察するに八木から真実は告げられていないようだ。 肉体の全ての形状がクラゲと化してもちゃんと人間に、しかも健康な体に戻れるのだと憐れなほどすっかり信じてやがる。 他の培養タンクに物言わぬ「先輩たち」が浮かんでいるにも関わらず……。 「手は無いのか? 何とか、せめて千尋だけは、千尋だけでも俺は――」 この時、俺の脳裏に蜘蛛男こと銀仮面のオーナーが営む雑貨屋で買った『ピグマリオンの精巣』のイメージが雷の如く轟いた。 「もう、あれを使うしかないのか? 雑貨屋で手に入れた得体の知れないピグマリオンの精巣とやらに頼るしか……」 『先生~? ねぇ、先生~? マジで早く飲ませてくれよぉ~! 待ちくたびれちゃったよ~!』 『焦らさないでよ先生~! 実験でもなんでもしてくれて構わないから、早くタンクから出してってばぁ~』 実験? 新田? いや、石田で? ハッと顔を上げた。 今の発言がどっちかは分からないが雑貨屋の例のアイテムが本当に役に立つかどうかこの二人で実験してみればいいんじゃないか? そして、銀仮面のオーナーは使ったからと言って消える様なモノじゃないと。そのまま俺の手元で役立ててくれと言っていたではないか。 脳内でもう一人の俺が囁く。 「他人のカラダで実験だなんて、それじゃ八木と変わらんぞ?」 その囁きに負けじともう一人の俺が反論する。 「とは言え、こいつらだって早晩脳までクラゲになっちまうんだろ? じゃぁ実験でもいいから助けられるなら助けてやりたい」 そうだ。このままこいつらを見過ごして見殺しにするより、実験であれ助けられるかもしれない手があるなら、使ってやるべきじゃないか。 何もしないで後悔するよりはずっといい。 「よ、よし。それじゃ先に実験させてもらうぞ! お前たち、タンクから出ても大丈夫だよな?」 『もっちろん! 空気中でも全然平気!』 『タンクの中も居心地はいいんだけどやっぱり自由に動きたい~!』 円筒形の強化ガラスの中でウキウキとクラゲのカラダを揺らしている二つのタンクから培養液を排水し、タンクのハッチを開ける。 二体のクラゲはプルプルと震えながら、しかし、何本もの触手を器用に操り外界に踊り出た。 「んふ~~~! やっぱいいな! タンクの外の方が!」 「だな! それにしても俺らすっかりクラゲ、ってか昔のSF映画に出て来た火星人みたいじゃね?」 屈託のない笑い声を放った二体のクラゲが正面とおぼしき面を俺に向けた。 「それで先生、実験を先にしたいって?」 「少し前に能力のテストをやったけど、あれとは別かな?」 俺を八木だと信じ切っている二体を俺は今から言葉巧みに「騙す」 二体のクラゲを実験素材にする。 それが彼らを結果として救う事になるとしても、これから俺がやる事は八木と本質的には変わりがない。決して褒められるべきものではない。 みぞおちに生じた重い石をグッと飲み込み俺は二体に「八木」を倣って語りかけた。 「ああ、別ものだ。新しい医療技術の一つで、うまく行けばお前たち二人とも培養タンクに入らなくて済むようになる」 そもそも培養タンクに入れられていたのは肉体の状態が不安定になったから、らしい。 先ほど読み取った「飼育データ」によれば、ヒトのカラダに定着はしたもののクラゲ組織への拒絶反応が出やすい状態が今になって出始めたため培養タンクでクラゲ組織を保持しつつ人間部分を必死になだめている、ってのが理由だった。 俺や千尋に自由行動が許されているのは拒絶反応が完全に認められなかったからなのだろう。 「そんな実験だったら何でもスル! 早くやって!」 「先生ってば超優秀~! この分なら俺ら以外の患者もバンバン救えちゃうんじゃない?」 「まぁ待て。実験はここでは出来ないんだ。場所を移す必要があってな」 『ピグマリオンの精巣』は自宅に置いてきてしまった。