SamSuka
鷹取リュウゴ
鷹取リュウゴ

fanbox


淫体海月は斑に倣う 9 《続・淫水海月は朧に浮かぶ》

第9幕  「修理依頼のご連絡ありがとうございます。今回はいつもの担当者が別件でお伺いするのが難しかったので私が代わりに対応させて頂きます」 八木総合病院の総合受付にやって来て名刺を差し出す男はスーツを着こなす逞しい男だった。 その場に受付の女性のみならずカウンター奥の男の事務スタッフまでもが見惚れてしまう程に男の色気が漂っている。 「あ、え、えと、見て頂きたいのはこちらではなくて、同じ敷地内にあります先端医療技術研究センターの方、なんです」 ややしどろもどろになりながら女性スタッフが依頼についてのあらましをスーツの男に説明する。 「研究センターの警備員の報告では、どうもセキュリティ機器に不具合が発生しているようなのです。取りあえず警備会社にも依頼したんですが電子機器については専門外だからメーカーである御社に依頼した方が早い、と」 「かしこまりました。では早速あちらで拝見させて頂きますね」 スーツの男はひらりと踵を返し颯爽と事務室を後にした。 その背中が見えなくなるまでスタッフ全員がじっと男を見つめていた。  「……ふむふむ。なるほど。実際に侵入者が入った形跡があるのにモニターには一切映像が残っていなかった、と。 部外者立ち入り禁止区画まで何者かが入ったのは確実なんですね?」 視線を向けると警備員の二人はそろってスーツの男から目を逸らす。 「あ、ああ。ただ、入り込まれた形跡はあるものの何かが盗まれたとか、壊された訳ではない。元より、この研究所の所長ではないから何かが無くなっていても我々には分からないが」 「では、所長にこの状況を報告されてますか?」 「そんな事できませんよぉ! あの人、今はパリに出張しておられるし何回掛けても携帯につながらないんですから!」 「まぁ、それとだな、報告したいのは山々なんだが、できるだけ大事にはしたくない」 何者かの侵入を許したのは明らかに自分たちの失態だとの自覚はあるのだろう。 それ故に隠せるのであれば隠しておきたい、或いは「警備装置のせい」にしておきたいのだ。 「了解しました。お任せください。機器のチェック及び動作不良の原因について確かめさせて頂きます。さて、その際に、なんですが部外者立ち入り禁止の区画に設置されているセキュリティ機器とも連動してる筈ですので立ち入らせて頂きたいんですが、……別に構いませんよね?」 「いや、あそこは悪いが入ってもらう訳には――」 「ダメっす! それこそ所長の許可も無いまま無断で部外者を入れたりしたら、俺たち最悪クビになっちゃいますって!」 「それは困りましたね」 困りましたと言う言葉とは裏腹に余裕の笑みを浮かべたスーツの男は、二人に向かって股間をグイと突き出す。 スラックス越しに亀頭のカリの段差までもがくっきり浮かんでいるのだが、そもそも亀頭の位置がおかしい。膝に並んでいるではないか。 ゴクリと唾を飲み込む音が「二つ」した。 「で、デケェ、……うう、そ、それはマズい……マズいが、アンタのこいつは美味そうだ……って、俺は何を口走ってるんだ!」 「こんなデカいの見ちまったらそりゃ味わってみたくもなりますよ……ん? うえぇ? 俺も何で? どうして本音が出ちゃうんだろ?」 スーツの男は一歩前に出て二人の手を掴んだ。 掴んだ二人の手を自身のイチモツに触れさせた。 「お気持ち、確かに受け止めました。では実際に私のチンポを味わって頂けるよう手配いたします。その代わり、立ち入り禁止区画に入っても、構いませんね?」 「い、いや、それはやはり……」 「構いません、よね?」 「ダ、ダメっす。ダメです、けど、そうだ、俺は鈍いから誰かが後ろにいても分からないかも!」 若い警備員の「ガード」が崩れた。 「ありがとうございます。では、こちらの、『後藤様』にはたっぷり私のチンポを味わって頂きます。ええと、『松原様』には、残念ながらご同意頂けなかったので今回は――」 「ま、待った! 待ってくれ! 俺も後藤と同じくらい背後の注意は足りない事が多いんだ。なので俺の後に続いて誰かが入っても分からない! 知らない!」 スーツ男は焦る年長の警備員に笑顔を向けた。 「良かったです。私もあなたを除け者にはしたくなかったんです。では恐縮ですが先にこちらの案件を片付けさせて頂いても? その後でお二人には私のチンポを堪能して頂こうかと」 「ああ、構わない。こうなりゃヤケだ。あんたと、その、イイ感じにスケベできるんだったら俺は! もう!」 「へへへ、楽しみっすねぇ。けど、これってチンポの良さを侵入者に教えてもらったから、みたいなモノですよね?」 「ば、バカヤロウ! 何を言ってやがんだ後藤!」 「ええ~? 何を、って先輩も俺も侵入者にがっつりケツを犯されて女じゃ勃たなくなった、ってなハナシん、ぶぶっ――」 ここで松原と言う警備員が後藤の口を手で塞いだ。 「ふむ、お二人は無断で侵入した外部の者と……、なるほど」 「聞かなかったことにしてくれ。俺はまだクビにされる訳にはいかないんだ」 松原の額に汗がにじんでいる。 「もちろんです。私は何も聞いておりません。聞いてはいませんとも」 ◇  「そうなんですか、非道な人体実験の証拠が……。すでに意識までもがクラゲ化している方はもう難しいでしょうね……。 かしこまりました。この後は私の方で『調整』致しますから須崎さんはそちらの方たちのケアをしてあげて下さい。 もちろん帰ってきたら私が改めて須崎さんのお相手をしますので」   スマホの通話を終えた銀仮面のオーナー・雲居は小さくため息を吐いた。 「……医学の進歩に犠牲はつきもの、かも知れませんけど弱みに付け込んで餌食にするのは良くありませんね。 余命宣告された命の瀬戸際の患者さんならどんな違法な処置でも細い藁でもきっと縋りたくなりますし」 雲居は再びスマホを持ちどこかに電話を掛けた。 電話番号を見るに相手はどうやら外国に居る者のようだ。 「もしもし? 急にお呼びしてすみません。うん? 私の呼び出しは100年前もそのまた100年前も急だったから慣れてる、ですか? あ~、それはそうでしたね。ええ。本当にすみません。 で、早速ですが、今回のお願いはサン=ルアン生物科学研究院に居る『八木 実』と言う人物をですね――」 ◇ 三度目の『慰昆堂』訪問は、海洋研究所に退職願いを提出しに行った帰りになった。 今度も店の場所が違うのだが、店内に入ったら以前入った時と内装も商品の配置も目に見える光景はまったく同じ。 つまり、慰昆堂の店舗自体がその都度場所を変えている、と言う事だろう。 不思議極まりない。だけど、蜘蛛怪人が経営しているのだから有り得ない訳ではない、と、どうにか自分を納得させた。 「なるほど。石田さんと新田さんのお二人はひとまず通信制の高校へ編入する事にされたんですね。そして高卒資格を得て来年からは大学に進学される予定、と」 「先の事を考えたらこれがベストじゃないか、って二人に提案したら反対しなかったんだ。ついでに戸籍も俺と一緒にしました。石田も新田も今や俺の弟になりました」 「良かったですね。4人兄弟ですか。千尋さんも弟が出来て嬉しいんじゃないですか?」 「ええ。嬉しいようでホッとしました。もしかしたらライバル視して嫉妬するかも、と心配したんですが新田も石田もパートナーはお互いだと強く認識しているようなので」 「なら、4人兄弟ではなく夫婦二組、と言った方が正確かも知れませんね」 「ま、そんな感じです」 今回はコーヒーではなくハーブティが置かれていた。 カモミールの甘い香りが俺を陶然とさせる。口に含むと少しだけ蜂蜜の甘味が感じ取れる。咽喉にやさしくホッとする味だ。 「あの、……つかぬことを聞きますけど、雲居さん、俺のために役所に何か便宜を……、いや、やっぱり聞くのは止めておきます」 「そうですか? 気になさらなくてもよろしいですよ?」 銀仮面のオーナーは洗った食器の水気を布で拭き取りながらほんのりと微笑んだ。 新田と石田の件で役所にて相談したら思いの外スピーディに「希望通り」になってしまったのには正直言って驚いた。 もっとこう、法律上の問題点や未成年に対する後見人やら言われるかと思ったが、実にすんなりと煩わしい申請も無いまま二人は俺の戸籍に加わったのだ。 気になったのは対応してくれた役所の担当官が「雲居」と呟いたような気がする点だ。 呟いた直後、慌てて「眼鏡は曇ってしまうので困りますね」なんて言い繕っていた。 深くツッコむと申請が却下されそうなので黙っておいたが。 「千尋さんはお元気ですか?」 「ええ。俺も千尋も問題ありません。マッチョな見た目通り超が付くほど元気にやってます」 「それは何よりです。人間、何事も元気が一番ですからねぇ」 「元気ついでに千尋も今度転職する事になりました」 「ほほぅ。どんなお仕事かお聞きしても?」 「今の会社を退職して翻訳業をフリーランスで起業することにしたようです」 「なるほど。依頼を受け外国語の文書を有償で日本語に翻訳するんですね?」 「ええ。その逆のパターンも引き受けるみたいです。俺は外国語もその他も勉強は不得手だもんで、カラダを動かせる海洋調査員なんて仕事に就きましたけど、千尋は俺と違って頭が良いですから」  そう。 前に千尋は優秀な俺に憧れている、みたいな事を口走っていたけど実際は逆。 何とか後れを取らないように必死に齧りついてただけなのが俺。 千尋の方こそ「やれば何でもできる」タイプなのだ。何故か今までやろうとしなかっただけで本当に頭が良いの俺じゃなくては千尋の方。 だから、千尋自身が翻訳業をやりたいと決意を俺に伝えた時、俺は凄く嬉しかった。 いつもどこかやる気が無くて、何ごとにも本気を見せた事の無かった千尋が自分のやりたい事を見つけてくれたのだから。 「さすがにすぐメシを食っていけるほど仕事の依頼が来るなんて甘い考えは持ってないよ。当面は語学力に磨きをかけて 来年のTOIECで絶対に860点以上を取れるように頑張る。だから、兄貴。しばらく俺に協力して欲しいんだ」 決意を聞いた俺は千尋をもっとサポートするため長期間の調査が伴う海洋研究所の職を辞する事にした。 「となると、海里さん、次のお仕事はもう決まっておられるんですか?」 俺は首を左右に振った。 「いえ。それはまだ。しばらくは貯金で食いつなぎますがそいつも底が尽きそうならバイトでも何でもしてやりますよ」 「でしたら、私の知り合いがスタッフを求めておりますので検討されてみてはいかがでしょう?」 「どちらですか? 俺みたいな者でも使ってくれるんですかね?」 「もちろん面接など一通りの試験は受けて頂くことになると思いますが、恐らく海里さんでしたら採用されると思います」 「何と言う方、いえ、何と言う会社でしょう?」 「◯◯大学・地球科学研究所の海洋研究室です。そちらの室長がイキの良い若手を探しておられました。海里さんにぴったりでしょう」 ◯◯大学・地球科学研究所と言うと我が国を代表する自然環境研究所の中心的研究所じゃないか! 「どうでしょう? そちらでもフィールドワークはありますが、大学生向けに講義を受け持つ研究員として採用されれば長期間に渡って千尋さんと離れる事は少ないと思うんですが」 「そのような仕事に……、今までの経験も活かせる職にありつけるなら願っても無いですけど……」 「分かりました。海里さんにその気があるようなので室長の西室さんには近い内に研究室に伺うとお伝えしておきますね」 西室? って、海洋生物と環境問題で著名な「西室 健三郎」先生? 俺が海洋調査員を志望するきっかけとなったのは高校時代に西室先生の著作を読んだ影響が一番大きい――あの西室先生だと!? 「願ってもない、つうか、そこまでオーナーに世話してもらっていいのか、と恐縮しちまうんですが」 「おや? ご迷惑でしたか? だったら――」 「ち、違います! 恐縮するってのはありがた過ぎて恐れ多いって意味ですから! 迷惑じゃないです! 仕事できるんなら仕事したいです!」 「んふふ、分かってますよ。少しからかってみただけです。慌てる海里さん、とてもそそりますねぇ。普段の海里さんも素敵ですけどより一層からかいたくなっちゃいます」 「い、いやだなぁ。オーナーも人が悪い」 「私、ヒトじゃなくて蜘蛛の怪人なんですけど?」 「仮面やマスクをしてたら分かりませんよ、そんなの」 むしろそんじょそこらの奴らよりヒトとしてだってレベルが高いくらいじゃないか。 「それはともかく、この後、お時間があるのでしたら私とセックスしませんか? もし千尋さんや他の弟さんたちも呼びたいのでしたらどうぞ遠慮なくお招き下さい」 「オーナーと!?」 「無理ですか? こう見えて私もカラダや性器にはそれなりに自信があるんです」 話ながらオーナーはワイシャツのボタンを外し上半身を裸にして見せた。 そこには高々と張り出した大胸筋や割れて掴めそうなほど隆起した腹筋群だ。 スリムかと思いきやそんな事は無かった。「着痩せ」と言う言葉が陳腐に聞こえる。 仮面を付けても柔和なマスクとは真逆の、触れれば斬れてしまいそうなほど鋭利で野性味溢れる野性の獣のような肉体美。 そそられない訳がない。 となると、オーナーのチンポも相当なデカブツ、なのだろうか?  ケツは? アナルの具合は? 触れればどんな風に悶え、責めればどんな風に喘ぐのだろう? 卑猥な想像が止まらない。ムクムクと俺の股間が堅くなっていく。やべぇ、先走りまでにじんで来ちまった。 「そんなに見つめられたら私まで興奮してしまいますよ。ほら」 カウンターから出てきたオーナーが股間を指さした。そこに見えたのはモコッと盛り上がったスラックスの膨らみ。 「で、デケェ……」 スラックス越しでもデカい、そう判断できるのは膨らみの先端が膝と同じ位置に在るからだ。 「どうされます? まずは二人だけで気持ち良くなりましょうか? それとも皆さんが到着するまで待ってます?」 オーナーがスラックスの上から亀頭を指先でぬるぬる撫でては俺を見つめる。畜生、イヤラシすぎるぞ、そんなの! 「ま、待てないな、はは、待てないよ、もう……」 俺のチンポもフル勃起してしまった。 さっさと窮屈なズボンの中から「解放しろ! セックスしろ!」と、俺をせっつく。 「では、今日はこの辺でお店の営業を終わりにしましょう。ああ、そう言えば、忘れていましたが後ほど遼平さん、いえ、須崎さんもここへ来ます。 彼のチンポはもっと凄いんですよ? 何せ、『蜘蛛怪人譲りの糸吐き巨大ペニス』ですから」 「は? 蜘蛛怪人譲り?」 「まぁ、実物を見ればきっと欲しくなると思います。でも、須崎さんのハートは私のモノですからね?」 そうか。あの常連客とオーナーは付き合っているのか。 それでいて須崎が他の男と寝ても取り立てて問題視しない。この大らかさ。いや、自分の元からは決して離れないとの固い信頼。通い合う愛情。 「……オーナーって、凄ぇ良い人だね」 「私は良いヒトじゃありませんよ。改めて言いますけど、ただの蜘蛛の怪人ですから」 店のドアに掛けていた「OPEN」の札を「CLOSED」に返したオーナーが立ち上がった俺の尻に股間をグッと押しつけた。 「では、奥の部屋に参りましょうか。『ピグマリオンの精巣』で創造された海里さんの新しいチンポを味わわせて下さい」


More Creators