淫体海月は斑に倣う 8 《続・淫水海月は朧に浮かぶ》
Added 2022-11-23 01:45:00 +0000 UTC第8幕 新田と石田は結局俺たちと一緒に暮らす事になった。 実家には戻れない。家族とは縁を切られたと言う。 穏やかじゃない。何故なのか事情を聞いた。 「死亡診断書を書いてもらえたら保険金が山ほど手に入るし、今までの莫大な治療費の請求もゼロにしてくれる、って八木に言われてさ。 元から助かる見込みも無い命だから値の付くうちに俺らを売ってくれよって頼んだんだ。だから……」 「今はもうどこに住んでいるのかも知らないんだ。八木からそれとなく聞いちゃったんだけど、保険金が手に入ったらさっさと新居に引っ越した、って」 じめっとした感じではなくあっけらかんと言い放つ。 そこに一抹の寂しさを感じたのは俺だけじゃない。千尋も同じだったようだ。 「だったらさ、君たちが自活できるようになるまでここで暮らしなよ? 部屋ならまだあるし」 千尋が勧める通り荷物を片付ければ一部屋空けられる程度の余裕はある。 「それにお前らもさ、俺たちとのセックスをまだまだ楽しみたいだろう?」 石田も新田もニヤリと微笑んだ。 「っへへ、そりゃぁまぁね~。二人とも結構タイプでもあるし~」 「千尋さんもスケベだけど海里さんはもっとスケベだよね!」 ◇ 排泄にせよ生殖にせよ「出す」しかできない男性の象徴に『ピグマリオンの精巣』を密着させた。 すると、その白い玉石は意志があるかの如く俺の尿道口をグイグイ押し開きズプリと侵入していくのだ。 恐ろしいのは侵入に伴って感じられるものが「痛み」では無く「快感」である事。 切れて出血してもおかしくないほど拡張されるにも関わらず、亀頭の先の小さな穴はグッポリと口を開け不意の珍客を受け入れている。 有り得ないと思う間もなくゴクリと飲み込まれた白い玉石は、卵子を目指す精子のように尿道をずんずん遡上する。 チンポから、股間の内奥から、感じた事の無い刺激、快感、狂おしいほどの喜悦がチンポからドクドクと全身に拡がって行く。 抗えない。 雷のような衝撃とマグマのような熱気が脳天を焦がし、二つ目の精巣をも容易に飲み込む。 「っ゛! あ゛! ん゛ぐ! か、らだ、が! お゛! ぅお゛! おおおお゛!」 俺は元のカラダを明確にイメージしようとした。 だがダメだ。 溢れ出す獰猛な快感が脳の働きを邪魔しやがる。 卑猥なイメージしか浮かんでこない。 犯したい、犯されたい、セックスしたい、キモチヨクなりたい。 もっと感じたい。チンポもアナルも、乳首もうなじも、ありとあらゆる部位で性感を味わいたい。 ぐちゃぐちゃに蕩けるような快感に溺れたい。男同士で雄交尾がしたい。セックスしたい、頭が真っ白になるほどセックスを――。 「ク、クソッ! このままじゃ、だ、ダメだ!」 欲情の渦に飲み込まれてしまいそうになる中、なんとか、かろうじて肉体を、採るべき元の姿をイメージしようと試みる。 エロくてマッチョなカラダ。腕のようにデカいチンポ。精力がパンパンに充溢した雄の肢体。どデカイチンポに負けない体積を持つ二つのキンタマ。 血管が浮き出ている太い首、広い肩幅、太い腕。見ろ、あの背筋の分厚さ。最高に美味そうな肉体美だ。目にしただけで激しい興奮と恍惚を得る。 ああ、やべぇ。ヤバいほど張り出している大胸筋の凄まじさ。乳首なんか下向きになっているじゃないか。 その下の腹筋も負けていない。シックスパック? いや、エイトパックに割れてボッコボコに盛り上がってやがる。 ちょっと待て。どうしてこんなイメージしか出てこない? それなりに筋肉質だとは言えここまで俺はメガマッチョじゃなかっただろう? チンポだってそうだ。腕並みなんかじゃないだろうに。 これは本当に「元の」俺のイメージか? 俺が思い描いているのか? 何故ちゃんと思い出せないんだ? 快感と疑惑の脳内にドロリと何かが流れ込んだ。 何だ? 今のはなんだ? 俺の頭の中に何が入り込んだんだ? 疑問を打ち消すように次はより詳細なチンポのイメージが次々と展開される。 むっくりと膨らむ巨大亀頭。エラの張ったカリ。エグイ段差の下を覆う包皮には樹根のような血管がうねうねと浮き上がっていてまるで別の生き物のようでさえある。 これは俺のチンポか? 違う! そもそものサイズが全然違うじゃないか! なのにどうしてここまでリアルに、ありありとイメージできる? むしろ俺がイメージしているのではなく「誰かのイメージ」を後追いしているような、男の肉体カタログを見せつけられているような気がするのだ。 勃起した少し上反りの、ヒトの腕ほどある巨大チンポとその巨大さにふさわしいどデカイ睾丸。 こんなチンポ、どう考えても俺のチンポじゃない。竿もタマも遥かに大き過ぎる! 俺のじゃねぇって! ――コレがふさわしい。オマエの、オレの、ワガハイの、与えし器には、コレがふさわしい―― 「だ、誰だよっ!? お前は誰だ!? んが! あ゛あ゛あ゛っ! ギボヂィィィーーーーーッ!」 ゴポゴポ溢れ出す快感の濁流が俺の意識を押し流す。見えない手でカラダを、脳の中を犯される。その猛烈な快感が俺を、俺を―― 「っが!? あぐぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ぐぎひ! んひい゛い゛い゛い゛ぃぃぅーーーーーーーっ!」 うなじから腰に向けツツーと切れ込みが走る。 本能的に背を丸くかがめぐっと力を込めてしまう。 皮膚の裂け目がグパァと拡がり中から新しい「俺」が生えてズルゥと頭を出す。 透明なクラゲの俺の中から「不透明な俺」が羽化する。 だが、羽化した「俺」は俺から這い出ても立像のようにじっと立ったままで動きはしない。 精液を与えねば。魂や記憶を移してやらねば。人形に命を吹き込まねば。 チンポを「俺」の像の尻にぶち込み俺が「俺」を犯す。 「うぐぅ!? なんだ? このケツは! チンポが融けちまう!」 名器だ。 繋いだ瞬間イキそうになる。いや、一発イッたよな? 挿入しただけでこの気持ち良さ! 腰を動かすとより快感が高まる。やべぇ、こんなケツマン初めてだ。 初めて男のケツを犯した時よりも、初めて我慢し切れず千尋を襲った時も、これ程だっただろうか? 二発目、三発目、立て続けに俺は射精した。 やべぇ、このアナル、このケツマンコ、凄すぎだろ? このカラダに移れたら、俺がこのケツマンコでチンポを味わえるのか? こんな超絶名器が「俺」から俺のモノになるのか? ――欲しいのか?―― 欲しいっ! このケツマンコで、このカラダでセックスしてぇ! このカラダが欲しい! このカラダで絶頂を! カラダの全てが震えるような快感を味わいてえ! ――ならば、お前のモノにするが良い―― この時、不意に俺の視界が真っ白になった。 かと思うと、とてつもなく激しい射精が始まった! ビュビュル! ゴビュ! ドビュ! ビュグググ! ドッビュゥゥゥーーーーッ! ブビュ! ブピュルル! ズビュ! ドブシュ! ジュププ! ドビュドビュドビュッ! ギュプ! グビュ! ゴビュビュル! ビュビュビュゥゥーーーーッ! 「っふぅぅぅ、うう、い、今の、は?」 射精する寸前、脳内に響いた声は一体誰なんだ……。 「ああ良かった! 兄貴も無事に新しいカラダで目が覚めたんだね!」 見れば目の前には涙ぐむ千尋が微笑み、足元には精液にまみれた白い『ピグマリオンの精巣』が二つ、静かに転がっている。 顔を上げれば千尋の後ろで石田と新田も「よっしゃぁ!」「マジ良かったね~!」と手を叩いている。 俺は笑顔の三人に向かって中指を立ててやった。「おう! これからもいっぱいセックスできるな!」 尻穴から元・俺だったクラゲ人間の皮がズルリと外れた。 何気なく持ち上げてみるとその透明な「皮」はそれなりに厚みがある。 石田や新田の時はマジでペラッペラだったのに。 そういや千尋の「皮」もしっかりとした厚さがあった事を思い出した。 普通にゴミとして捨てていいのかどうか分からないからまだ取って置いてあるはずだ。 「皮」を見つめていると背筋がゾワリと泡立った。 まるで俺を誘っているようだ。だが、誘うとは? 何に? 何を? 「それで兄貴。兄貴の新しいカラダとチンポを見てたら凄くヤりたくなっちゃったんだけど、どうかな?」 千尋が勃起したチンポを俺の手に押しつける。 ドクン、ドクンと脈打ち堅くなったチンポが千尋の欲望の大きさを「まんま」表している。 「そうだな。これでひとまずは一件落着、っぽいしな。俺もとことん千尋とセックスしたいぜ」 新田と石田が「お、俺らも混ぜて欲しい!」とせがむ。 俺も千尋も「もちろん!」と手招いた。 ◇ 一週間後。 『ピグマリオンの精巣』によって新しいカラダになった俺たち4人、この日の夕飯は外で食おうと言う事になり飲食店が多く並ぶバイパス通りに足を運んだ。 さて、ステーキか中華か、或いは回転寿司か。 どれにしようか、などと話しながら歩いているとバイパス沿いには不似合いな店を見つけた。 「慰昆堂? まじか? なんでこんな所に建ってるんだ?」 ファミレスそのものの外観の、入り口に立っている木札に書かれた店名は確かに『慰昆堂』と書いてある。 『ピグマリオンの精巣』を買った店じゃないか。だが、こんな場所に在るなんておかしい。 前に俺がこの店に入った時は、ええと、どこの駅だったか? もっと違う場所だったはずなのだが……。 「? 兄貴、どうしたの?」 「あ、ああ、いや、前からこんな店あったかな、って」 「店? う~ん、俺は覚えがないなぁ。飲食店じゃなくてただの倉庫みたいだから目に入ってなかっただけかも知れないけど」 石田や新田は元からこの辺りの人間じゃないこともあって、聞いたら速攻で「知らない」、と首を左右に振った。 と言うか、俺以外の者にはファミレスではなく倉庫に見えているようだ。 「……ちょっと確かめていいか?」 「いいよ? 何か気になる事があるの?」 「まぁな」 木でできた扉を押し開く。 入ってみると以前と光景だ、と思い出す。 静かな店内に所狭しと並べられた古今東西の珍品奇物。 古そうな骨董品から最新のデジタル機器まで。まるで統一性が無い。が、乱雑なのに法則性すら感じるのは何故か。 「おお! 見ろよ新田! このシューズ、俺が前に言ってたレオMAXエアの最新版じゃん! どこも売り切れで手に入らなかったのに!」 石田は入院するまでは陸上部で短距離走の選手だったからかスポーツシューズに目が無い。 「わぁ! ねぇ石田! 石田! こっち来て! ほら! このエレキギター! フェンダーのストラトキャスター・ビンテージモデルだ! 嘘だろ!? 何でここに置いてあるの!? マジで億単位の値段がつく幻のエレキなのに!」 新田もまた軽音楽部でバンドをやっていた頃のようにエレキギターで目を輝かせている。 「へぇ~、なんだか色々と凄い品物があるんだなぁ。兄貴も欲しいものがあったりしたの?」 千尋も物珍しそうに棚のビスクドールやからくり時計などを眺めている。 「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。皆さん、コーヒーでもいかがですか?」 コーヒーの良い香りと共に前にも聞いた軽やかな声が店舗の奥のカウンターから届いた。 「えっ? コーヒー? 俺らももらっちゃっていいの?」 「すいませーん、ミルクや砂糖ってあるんすか? 俺、ブラックは苦手なんで」 早くも石田と新田はカウンター席に座って銀仮面のオーナーを前にしている。 「長月さんも、若宮さんもさぁどうぞ。お代わりもありますよ」 うん? 前に俺の悩みをぶちまけた時に千尋の苗字を言っただろうか? 「兄貴。せっかくだから頂こうよ。コーヒー代くらい俺が払うし」 「いえいえ。お代は頂いてません。無料のサービスですから」 オーナーから聞いて安心した千尋もカウンターに座り琥珀色に揺らめくコーヒーを口に含む。 「うわぁ~! なにこれ!? 凄く美味しい!」 砂糖とミルクを足した石田と新田もコーヒーの味を絶賛している。 ひと足遅れて座った俺の前にもカップが置かれなみなみとコーヒーが注がれる。 「あぁ、良い香りだ。じゃぁ今回も遠慮なくいただきます」 「あれ? 今回も、て事はやっぱ兄貴って前もここに来たんだ?」 「まぁな。ただ、同じ店だったかどうか分からなかったんでちょいと不安になってたんだ」 「あるある。度忘れするのってあるよね」 忘れたのだろうか? むしろ無理矢理忘れさせられたような感じだったんだが。 「須崎って奴は居ないんだ?」 打ち解けた話しぶりにオーナーとの親密さを物語っている人物が今は見当たらない。 「ええ。彼は私のたっての依頼で雑務をこなして下さってます」 依頼を受けての雑務? やけにセクシーで切れ者っぽい雰囲気はあったけど一体何の仕事をしているのだろうか? 「さて、お約束通り再び当店を訪ねて下さってありがとうございます。お買い上げ頂いたアイテムはこちらの皆さんでお使いになられたのですね?」 「ああ。まるで夢のようだ」 新しいカラダを自分で創造して乗り換えるなんて、「夢」そのものじゃないか。今じゃクラゲ人間だった事の方こそ夢のように思い始めている。 「ふふ、そうお思いになるのも良く分かります。ところでそのカラダになられてみて、いかがです? 不具合はございませんか?」 「不具合どころか、具合が良過ぎるくらいだ。 このカラダ、絶対普通の人間じゃないだろ?」 クラゲ人間じゃないのにクラゲ人間と同等の性欲と精力があるのは普通とは言えない。 「いえ。普通の人間ですよ? ただ、ピグマリオン王は無類の好色家だったとも伝わっていて自身のありあまる性欲をぶつけるにふさわしい相手を求めた結果が彫像のガラテアとも言われております。 夜毎、石像とのセックスがあまりに激しいので家臣がみかねて女神になんとかしてくれと訴えた、なんて説もございますし」 ほらな。やっぱ普通つっても神話の神様や古代の王様レベルでの「普通」じゃないか。 「では、『ピグマリオンの精巣』をお買い上げ頂いてからこれまでの出来事をお話ししていただけますか?」 いつの間にかコーヒーを先に飲み終えていた千尋や石田、新田たちがカウンターの席を離れて店内の商品を面白そうに見て回っている。 「うかつに触るなよ?」 「触んねーよ。壊しちまったら弁償できねぇし」 「あ~、このラバーマスク、海里兄貴に似合いそう~。俺、こういうフェチもあるんだなぁ」 「二人とも見て? このランプ、くらげみたいで可愛いくない? エミール・ガレの作品で見た気がするけど、もしも本物だったら凄い値段だよね?」 思い思いに楽しんでいるようなのでそっとしておこう。 「実は――」 俺は『ピグマリオンの精巣』を手に入れてからこれまでの事をオーナーに語った。