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鷹取リュウゴ
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うさぎ男の新年奉迎祭 2

2ようこそ南の島へ  [12月29日 11:30] 東京からフェリーに乗って24時間、はるばる丸一日かけて目的地「雄兎成島」に到着した。 聞いた事の無い島だったからごくごく小さな集落だけだとばかりイメージしていた。 だけどフェリーから下りて見ればこじんまりとしてはいるもののちゃんとした「街」がそこには在った。 「うわ~、やっぱ南の島はあったけぇ~! それと意外に都会なんすね!」 「意外だとかバカにしやがって。だがまぁ、都会しか知らない奴らからするとそんな反応になるか」 港の桟橋から見渡すと真冬とは思えない陽光の下、南国らしい照葉樹や蘇鉄が生い茂る丘があり、その麓にはこじんまりとしたスーパーにこじんまりとした銀行、そしてこじんまりとした病院なんかが並んでいる。 もっと何も無い寂びれた離島だと思っていたから正直言ってホッとした。生活に必要な施設が港の近辺に揃っているので滞在中の不便は無さそう。 東京へ戻るまでの6日間、ただただ何もできずにボーっとしなくちゃダメとかだったら地獄だろうなとばかり想像していたから余計に。 「それで俺は先輩の実家で厄介になるんですか?」 一緒に船から下りた咬牙先輩に確かめてみる。数日前にフェリーのチケットをもらったは良いけど旅の具体的な事は現地で話すとしか言ってくれてない。 「『ご神体』になるお前に実家なんて行かせられねぇよ」 「すると、こっからどこに向かうんすか? 旅館かホテルっすかね?」 「んな訳ねぇだろ? お前が寝泊まりすんのは大祭参加者だけが入れる『斎館』ってトコだ」 「さいかん、すか?」 「ああ。もうじき迎えがくるから少し待ってようぜ」 フェリー乗り場の待合室で送迎の車を待っていた。 開け放たれた窓から春めいた風がそよそよと入り、うららかな日差しがうなじをぽかぽかと温める。 やば、このままじっとしてたらすぐに寝落ちしちまいそうだ。 「お? 迎えが来たようだな」 10分ほどで咬牙先輩が席から立ち上がった。 釣られて俺も立って先輩の視線の先を追うと、そこには制服と制帽を身に付けた警官がこっちにまっすぐ向かって来るじゃないか。 えっ!? 迎えって「そう言う意味」なの? 俺、島に着いた途端、ブタ箱へしょっ引かれちまうんすか? 何か悪い事しでかしてましたっけ? 「よぉ! 一年ぶりだな咬牙! 元気してたか~?」 朗らかに手を振る警官が先輩の名を上げた。 「ああ! 創平(そうへい)も変わりないな! 安心したぜ!」 「変わりはないけどまた一年老けちまった。もうアラサーだとさ、実感ないけど」 「ははは! そいつは俺も一緒だっつの」 盛り上がってるトコ悪いけど敢えて二人のトークに水を差す。 「先輩、ええと、そちらの警察官の方は……」 咬牙先輩に劣らぬ体格の良さ。身長は高いし肩幅もデカいから何を着ても似合いそうな八頭身イケメンだな。 「こいつは俺のダチの創平(そうへい)って奴だ。仲良くしてやってくれ」 紹介された創平さんの視線が俺に刺さる。 つか、グサグサ刺さっている。足の先から頭の先まで舐るようにじっくりねっとり……。いくらなんでもじろじろ見過ぎじゃね? って思う程に。 「う~ん、そうかぁ、なるほど。君が助っ人の『ご神体』になってくれる――」 「ああ。俺の職場の後輩で『卯波 開(うなみ かい)』だ。素材としちゃなかなかのもんだろ?」 「島外の者に務まるかと初めに聞いた時は不安だったけど、この目で見て納得した。咬牙の後輩君は『ご神体』として立派な依り代になってくれそうだ」 「良かったな、開。褒められてるぞ?」 「そ、そうなんすか? 立派な依り代とか『ご神体』とか言われても今だにピンと来ないっすよ」 『ご神体』になってくれ! と頼まれてから色々な説明を聞いたけれど、神事、祭祀っぽい行事だから男の巫女さん役をやるのか、みたいな感覚で理解していた。 だけど……。 「斎館にはもう集まってんのか?」 「もちろん。咬牙たちで最後になる。長老組や若衆組も今頃はそれぞれの館に集まって顔合わせしてる頃だろう」 この会話も理解できる。 50歳以上の男たちだけが集まる「長老組」 11歳から17歳未満の少年たちだけが集まる「童子組」 そして17歳以上50歳未満の男たちで構成された「青年組」 咬牙先輩曰く「青年組」の男の中から特に選ばれた12人だけがご神体の「近侍」として、神様をお祀りする祭祀場そばの『斎館』にて年末年始の数日を共にするのだと言う。 『簡単に言うと新年の神様をお迎えするメインの役割をこの12人が担うのさ。だもんで、身を清めたり気を整えたり、全員で精進潔斎をして高め合うって訳だ。まぁ、平たく言やぁ部活の合宿みたいなもんだな』 「開君、長時間の船旅で疲れただろ? まずは休憩して欲しいしこのまま『斎館』へ案内するよ」 にっこりと優しく微笑む創平さん。やっぱ田舎に置いておくには勿体無いほどのイケメンだよな。 「休憩、ねぇ……。ま、腹も減っただろうし日のあるうちはしっかり休んでもらわないとな。本番は日が沈んでからになるしな。ニシシシ」 うわぁ~、なんか怪しい……。咬牙先輩が俺を見て意味深に笑っているよぉ~。 ◇  パトカーをタクシー代わりにしていいのだろうか?  そんな引け目を感じながらも咬牙先輩と一緒に『斎館』の前まで運んでもらった。 俺たちを送ったら創平さんはまた勤務に戻るのかと思いきや――「さて、俺も一休みしておこう。昼メシもまだ食べてないし」なんて言いながら俺たちと一緒に『斎館』と言う建物の中に入って行く。 解せぬ表情をしてたのがバレたみたいで咬牙先輩が説明をしてくれた。 「ああ、創平も、だ。『ご神体』になるお前の近くで奉仕する近侍の一人だ。アイツは優しそうな顔だがヤるときゃ激しくヤる奴だから覚悟しておいた方が良い。 多少は加減してやってくれと言うつもりではあるが、本番になるとどこまで抑えられるか分からないしな」 激しくヤるって言うのは祭事の指導が厳しいって意味だよな? 「わ、分かったっす……。できれば優しくしてほしいっすけど……」 「マジでアイツってば頭では分かっていてもカラダが言う事を聞かなくなるタイプだからなぁ。俺が本番中にあれこれ口を挟む訳にもいかねぇし。 やっぱお前が丸ごと受け止めるしかないんだろうな」 「ちゃんとできるっすかねぇ? 俺、なんか自信がなくなってきた……」 「ははは! まぁ成るようには成るもんだ! 変に控え目にぶつかって来られるよりかはマシだと思ってガツンと当たって砕けろ!」 気軽に砕けろって、そんな満面の笑みで言われてもなぁ。  到着した建物は『斎館』と言う名前だから神社のような純和風の木造建築を想像していたのだけど、実際はコンクリート造りの現代的な建物だった。 地理的に台風が多いらしく20年ほど前に木造からコンクリートへと新しく建て替えたらしい。 そんな今風な『斎館』は小高く目立つ岩山のすぐ手前にある。他の山や丘は緑が生い茂っているのにこの岩山だけつるっとした白い岩盤が剥き出ていて遠くからでも良い目印になっていた。 観音開きのドアを咬牙先輩と創平さんが開けて俺を中にエスコートしてくれる。 「失礼しまーす。……アレ?」 斎館に一歩入った途端、ねっとりとした甘い香りが俺の鼻をくすぐった。 花の蜜のようなニオイだ。そんなお香でも焚いているのだろうか? 「おい? どうした? キョロキョロして。変なモノでもあったか?」 「い、いえ、何でもないっす」 慌てて先輩たちに続いて靴を脱ぎ専用のシューズロッカーへと仕舞う。 そして、案内された俺専用の部屋に荷物を置いたら先輩や創平さんについて大浴場に共同のトイレ、キッチンなど順に案内され最後に大広間へと入った。 「お待たせみんな~! 『ご神体』様のお越しだぞ~!」 創平さんに押し出されるようにして大広間へ足を踏み入れたら一斉の拍手で迎えられてしまった。 「おお~! ちゃんと来てくれて良かった~!」 「トラ! やっぱお前に頼んで正解だったぜ!」 「これはまた上玉! いや、逸材をお迎えしたもんだなぁ!」 トラ、と言うのは咬牙先輩の苗字が「寅浜」だからだろう。それ以外の言葉は俺をやけに褒めるものが多く、面映ゆいったらなかった。 「まぁまぁ、皆の衆、落ち付いてくれ。こちらの方が今度の新年奉迎祭において『ご神体』になって頂く『卯波 開(うなみ かい)』くんだ。 怪我をして出れなくなった卯佐野の弟に代わって急きょお招きした経緯はすでに周知の通り。 なので、卯波くんは俺たちと違って奉迎祭についての知識が全く無い、――と言って良いんだよな? 咬牙」 喜びに沸く大広間の面々を鎮めた創平さんが俺を紹介してから咬牙先輩に確かめた。 「まぁな。それなりにざっくり説明はしたが、実際に島へ来てもらう前に話せる内容には限界があるだろ? だもんで肝心な部分についてはほとんど話せてない」 「だ、そうだ。なので卯波くんは今回初参加となる俊太や一光(いっこう)よりも祭りの内容を知らないまま参加して頂く事となる。 経験のある者はその辺を含んだ上で卯波くんに接して欲しい。特に今夜は、……な?」 最後の微妙な「間」は何なんですか? 創平さん。 気にはなったものの一旦は落ち着いた皆さんから立て続けに「逆・自己紹介攻め」を受けてしまい尋ねるタイミングを逃してしまった。 「それにしても来てもらえて助かった! 今度の奉迎祭は十二年ぶりの大祭だってのに危く神様をお迎えできなくなるトコだったよなぁ~! 磁場(じば)が怪我したと聞いた時はお先真っ暗になってたもんなぁ~」 申尾(さるお)と名乗った坊主頭の中年の男がしみじみとつぶやいた。 「おい、クソ坊主。今さら言っても詮無い事を言うんじゃない。仏の道を歩む者が慈悲心を忘れたのか? 地獄へ落ちるぞ地獄へ」 中々に口悪く言い返しているのが申尾さんと同じくらいの年齢の人は酉原(とりはら)さん。 申尾さんがお坊さんで酉原さんが神主さん、だそうだ。服装が二人とも同じようなワイシャツにスラックス姿だから紹介されなければ仕事が僧侶や神職なんて気付かないだろうな。 「本当に! 申し訳ねぇ! この通りだ!」 いきなりガバ! と土下座をして咬牙先輩に謝罪し始めたのは「卯佐野 電場(うさの でんば)」さんだ。 グレーの作業服を着ていていかにも電気工事士らしい出で立ちだ。 「電場、もう詫びなくていいから。こうして代役も連れてこられたんだしよ。ともあれ磁場が大怪我じゃなくて幸いだったぜ」 咬牙先輩に続いて俺も卯佐野さんをなだめた。 「そうっすよ。弟さんが無事で何よりっす。俺が弟さんの代わりに精一杯頑張りますからそんなに気落ちしないで欲しいっす」 「うおお! 卯波くんてめっちゃ良い人だぁ~! ありがとうなぁ! 磁場の奴にもよくよく感謝するよう伝えておくよ~!」 咬牙先輩から聞いた話しでは卯佐野さんは三人兄弟の長男で、下に「磁場(じば)」と「力場(りきば)」と言う二人の弟が居るそう。 今回の新年奉迎祭、本来は俺ではなく卯佐野さんの次男の「磁場」くんが務める予定だったらしいけど、作業中に高所から落下した際に足を骨折してしまい、別の島の病院で一か月は入院が必要だそうだ。 そのため俺に白羽の矢が立ったと言う訳なのだが。 ちなみに末の弟の「力場」くんはまだ16歳なので新年奉迎祭の近侍になれる資格がない、とも聞かされた。 「ともあれ卯波くんには長い船旅で疲れただろう? 大したものじゃないけど食事を用意してあるから好きなだけ食べて欲しい。 特に刺身や寿司は地元の魚を使っていてオススメだよ」 大広間に並んだ長い座卓の上にはご馳走が並んでいる。 笑顔で勧めてくれたのは村役場職員の未江(ひつじえ)さんだ。いかにも真面目そうな丁寧な物腰が好印象。 あっさり塩顔の優しそうな印象の持ち主ながら肩幅やカラダの厚みは創平さんに負けない逞しさ。スーツを脱いだら凄そうなギャップの持ち主だ。 「その自慢の魚を捕って来たのはこの俺だがな! 鮮度はもちろん味も抜群だぞ?」 胸を張ってドヤっているのは漁師の子河(ねがわ)さん。白く輝く歯とタンクトップから突き出る筋肉質な胸や腕が浅黒く日に焼けた肌をまとうワイルドな海の兄貴って感じ。 野性味溢れる雄臭さが堪んない層には絶大な支持を受ける事間違いなしだ。 「その魚を食べられるように調理して寿司や刺身に仕上げたのは俺なんですけどね~」 俺の後ろに居た亥坂(いさか)くんが子河さんに対抗するかのように調理の腕を自慢すると、「ねぇねぇ! 卯波さん! 饅頭やどら焼きは俺が頑張ったんすよ? 親父ほどじゃぁ無いかも知れませんが甘さ控え目に仕上げてますんでいくらでも食べられると思います!」 と、和菓子職人の戌桃(いぬもも)くんが頬をピンクに染めて俺に笑顔を向けてくれる。 尻尾を振る柴犬みたいでかわいい。亥坂くんも負けん気の強そうな少年みが残っていてかわいいな。 「卯波くん、こいつらの用意した食べ物は遠慮なく食べてくれて構わないが、くれぐれも食後や寝る前には歯磨きをしておいてくれ。 島でただ一人の歯医者からのお願いだ」 こんな離島じゃ大がかりな治療はできないからね、と歯科医の丑満(うしみつ)さんが忠告してくれた。 短髪ながら知的イケメンのお兄さんっていいよな。こんな歯医者さんに見つめられたら治療中の痛みなんて感じなくなりそう。 「もしも食べ過ぎてお腹がいたくなったりしたら俺が薬を用意するからさ、気軽に声をかけてくれよ?」 薬剤師で島唯一の薬局を経営されているのは巳園(みその)さん。 島にお医者さんはいないのか聞いてみると「もちろん居るんだけど万が一に備えて医師だけは新年奉迎祭に参加しないで診療所にて待機するしきたりになってるんだよね」とも付け加える。 それもそうか。病気や怪我は時を選んじゃくれないし。 ともかく、巳園さんも丑満さんと同じ知的イケメンに違いない。丑満さんが「剛」とすると巳園さんは「柔」。 髪が少し長いせいかソフトな顔立ちをしているけど巳園さんも体格はすこぶる逞しい。 「一光(亥坂)は自分一人で食事を用意したみたいに言ってるけど、並んでる酒や料理のほとんどは午枝(うまえだ)さんが持ってきてくれたんでしょ?」 未江さんが寡黙に佇むひと際大柄な兄貴、午枝(うまえだ)さんに水を向けると、はにかんだ笑みを浮かべてコクリと肯いた。 「午枝の兄貴は相変わらず控え目だな。夜になったら創平とはある意味似た者同士だけどよ」 咬牙先輩のつぶやきを耳ざとく聞き付けた創平さんが「ん~? それってどう言う意味なのかなぁ~?」と肘で突いている。 「どうもなにも、まんまじゃねぇか」と咬牙先輩が負けじと肘を繰り出していた。 そんな仲の良い者同士の遠慮や憚りの無いやりとりを目にしながら、確かに空腹だった俺は並べられていたご馳走を頂くことにした。 朝起きてから船内自販機の缶コーヒーしか口にしていなかったからしっかり頂くとしよう。 「お~! マジで美味いっすね! マグロもアジの刺身も脂がのっていて全然生臭みが無いしイカやタイのお寿司もバッチリ、ネタとシャリとが合ってるっす! んで、こっちの煮物や天ぷらも絶品! 美味しくて箸が止まんねぇっす! おお~! マツタケの天ぷらもあるんだ! 香りや歯ごたえが最高っすねぇ!」 ビールや日本酒なんかも用意されていたけど明るい時間帯だったので酒は控えて食後のデザートとして戌桃くん自慢の饅頭をパクリ。 中の餡子の甘さは控え目で、しかもレモンの皮や果汁が加わっているから全く重たくなく爽やかな餡子だった。 「おお~! このお饅頭も凄く美味しい! レモン入りの餡子なんて初めてだけどすんげぇ合うんだなぁ!」 製作者の戌桃くんがすかさず「レモンはもちろん島名産の『雄兎(おと)レモン』を使ってるんです! 吾郎兄さんが丹精込めた無農薬レモンで、果汁ばかりか皮ごと安心して仕える優れものなんですよ!」 「吾郎兄さん」とはデカい体を小さく丸めて寡黙に座っている午枝さんの事を指していた。 「吾郎の兄貴は居酒屋のほかに果樹園もやっていて、レモン以外にも『雄兎ミカン』も作ってるし、ハウスじゃイチゴも手掛けてるんですよ」と戌桃くんは午枝さんについての追加情報を俺にくれた。 俺の食いっぷりを見て咬牙先輩も創平さんも、そのほかの近侍の皆さんも思い思いに箸を取り食べ物を口にし始める。 何回も言うのは気が引けちゃうけど船で24時間もかかる離島だからひどく過疎ってる田舎なんだろうな、なんて思っていたのだけど冬でも温かいし食事は美味いし、出会った人たちは皆良い人ばかりでとてもいい所じゃないか、と安堵していた。 ――この時までは、ね。


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