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鷹取リュウゴ
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うさぎ男の新年奉迎祭 1

1俺と先輩 [12月23日 20:00]  「せいっ! ふんっ! せいっ! ふんっ! せいっ! ふぬぅんっ!」 クリスマスイブの前の夜、イルミネーションの輝きが通りを煌びやかに彩る都心から離れること30分。 急な呼び出しだったので手土産も何もないまま訪問先のドアを開ければ咬牙(コウガ)先輩がフンドシ一丁で腰を上下にスクワットをしていた。 「先輩~、卯波です~、失礼しまー……、って、ええっ!?」 クリスマス寒波が襲来している真冬なのにドアの内側は汗と熱気がこもった非常に暑苦しい光景だった。 さて、こんな時、俺は先輩に何と声を掛ければ正解だろうか。 一、「先輩! ナイスガッツ! ナイススクワット!」 二、「先輩! フンドシがお似合いですね!」 三、「先輩! 筋肉に滴(したた)る汗が輝いてますね!」  多分どれも正解じゃない。正解であってなるものか。思わず俺の股間が反応しそうになるのをグッと堪えて気を散らす。 「せいっ! ふんん゛っ! せいっ! ――おっ! やっと来たか! つうか、玄関でぼーっと突っ立ってないで入って来いよ」 「……いえ、その前にツッコミどころが多すぎてどれからツッコもうかと考えてたんです」 「考える? ん~、意味が分からん。ま、そんな事はいいからこっちに来いよ」 先輩は汗をタオルで拭いながら俺を手招く。 「ところで咬牙先輩、なんでそんな恰好でスクワットしてんすか? ボディビルのコンテストにでも出場するつもりなんすか?」 ガタイがすこぶるマッチョでいかついから少し揶揄する感じで聞いてやった。 いきなり電話でさ、ろくすっぽ説明もないまま「取りあえず待ってるから今すぐ来い」はあんまりだったし。 「ふむ、ボディビルのコンテスト、か……。それも悪くはないが今はそれどころじゃない。お前に相談、いや開(カイ)に頼みたい事があって来てもらったんだが――ん? どうした? 鼻なんか摘まんで」 「汗臭いんすよ。マジで。この距離なら猶更っす」 ムワァと漂う発酵した汗のニオイ。 ずっと嗅いでいたい雄臭いニオイではあるけど、すでにじわっと勃起しそうになっている俺のムスコをこれ以上起き上がらせてはならない。 「おお、すまねぇ。サクッとシャワー浴びてくるぜ」 持っていたタオルを首に下げバスルームへと入っていった先輩を見送った俺は、速やかに窓を開け室内の空気を入れ替える。 開けると冬らしい冷たい風が顔を包み、吹き込んだ風がベッド脇の棚から何枚かのペーパーを宙に舞わせた。 「いけね。部屋を散らかしちまった」 すぐに開けた窓を閉じ、飛ばされたペーパーを拾って集めていく。 しかし、最後に拾ったペーパーを目にした俺の手が止まった。 『新年奉迎祭を執り行うので貴兄も参集すること。猶、今回は十二年ぶりの卯年にあたるため雄兎神様をお迎えする大祭となる。よって心身ともに準備万端相整え、全精力を尽くして祭事に臨むように』 どこかのお祭りの案内、てか招待状のようだ。 ニュータウンで生まれ育った俺からすれば一番縁遠い世界と言えるだろう。 正月には初詣くらい行くけど近所に神社が無いので行くとなると大抵は明治神宮とか川崎大師とかになる。 「そうだ、先輩ってば地方から来た人だったっけ。訛りが無いと分からなくなるよな」 「なんだぁ? その言い方だと訛ってなきゃ地方出身者として認められねぇってか?」 バスルームから出ていた先輩に俺の独り言を聞かれてしまった。 「い、いやだなぁ先輩。そう言う意味じゃないっすよ。すっかり東京に馴染んでるから意識して聞いていないと 訛っているかどうか区別がつかないな、って」 「ま、俺が訛っているかいないかはさておいて、お前を呼んだのは他でもない。持っている招待状に関して、のハナシなんだ」 「は、はい?」 俺は手に持っていたペーパーをもう一度見つめた。 年明け、新年を祝うどこかの祭事に俺がどう関係すると言うのだろう? 「この『新年奉迎祭』って先輩宛の招待状っすよね……おわぁ!? せ、先輩ぃぃーーっ! いくら何でもパンツくらい穿いて下さい! なんでフルチンで出てくるんすかぁ!」 振り向いて見れば今度はフンドシすら穿いていない! 逞しい肉体と股間からぶら下がるふてぶてしいイチモツを惜しげもなく晒しているなんて! いくらなんでもそれはちょっとダメでしょ! 親しき仲にも礼儀あり、でしょ! て言うか、先輩のチンポめっちゃ美味そう! いや、そうじゃなくて! これ以上見せつけられたら俺、俺は、もう! 隠し通せなくなって―― 「おっと、いつもの調子で風呂場から出て来ちまったぜ。でもまぁ、男同士だし別に構わんだろう? それともあれか? 俺の裸に興奮しちまって落ち着いてられなくなっちまうか?」 もっと目に焼き付けたいけど体ごとそっぽを向いて先輩のイチモツを見ないようにする。そして、興味の無い女のカラダを脳内に無理矢理映して頭や耳の疼きをなんとか抑え込む。 それでも、やばい、マジで今のはヤバかった……。危く俺の秘密がバレちまう所だった……。 「んな訳ないでしょ! と、ともかく、早くその股間をしまって下さい! そう言うモノは彼女さんにでも見せつけてやって下さい!」 「くそぅ……、俺のチンポを目にしておきながら靡くどころか興奮すらしねぇとは。さすがに傷つくっつぅか自信が揺らいじまうっつぅか……」 いきなり凹んで気落ちモードになる先輩。 先輩こそノンケなのになんで俺を煽るような真似をするんですか! 我慢できなくなった俺が先輩を襲う、なんて想像すらしてないんだろうけど無防備にも程がある! 「まぁ、もうじきお前もコイツの良さに気付くだろうけどな」 「はぁ?」 「っと、その前に――」 先輩は洗濯物の山からトランクスを引っ張り出して穿くと俺の手から招待状を奪って俺の隣に座った。 いや、ちょっと先輩? もう汗臭くはないですけど何でそんなに密着するんすか? やっぱ、彼女と俺をごっちゃにしてませんか? ◇  都内の某データセンターに勤務する俺の名前は「卯波 開(うなみ かい)」 勤続3年目の25歳・独身。 とある「事情」によってこの歳でもセックスは未経験。 そして、同じデータセンター勤務で俺にくっついて座っているのは先輩の「寅浜 咬牙(とらはま こうが)」さんだ。 右も左も分からない入社したての俺に親身になって仕事のイロハを教えてくれた、とっても頼れる先輩なんだが 最近どうも俺への接し方が濃い。初めて会った時もなにげに近い気がしたけど、近頃ますます馴れ馴れしくなって来たように感じる。 仲良くしてくれてありがたいんだけど、俺、先輩の彼女じゃないんだけどなぁ。まさか、俺の気持ちに気付いている、とか? そう、俺は咬牙先輩に惹かれてはいるけどカラダのとある「事情」によって打ち明ける事ができない。 気味悪がられて避けられたくはないからね。仲の良い先輩・後輩関係で満足してなくちゃダメなんだ。 「……んでな、『新年奉迎祭』には俺も参加する訳なんだが、おい、スマホなんかチェックしてねぇで話をちゃんと聞けよ」 「あ、ああ、すみません。なんか通知が入ったもんですから。で、マジで悪いんすけどもっかい頭から話して貰えるとありがたいんですが」 「仕方ねぇなぁ。今度はちゃんと聞いておけよ? まずな、俺の故郷、『雄兎成島(おとなるしま)』には大晦日の前から元旦にかけて新年を祝う伝統の儀式、っつか祭りがある。そいつを『新年奉迎祭』って言うんだが、 その祭りには大きく分けて例祭と大祭ってのがあって、今度の祭りは12年に一度の大祭が行われるのさ」 「大祭ってのは12年周期なんすね」 「そうだ。前の大祭は俺が17の時だった。初めて大祭に参加した俺は、そりゃぁもう驚きの連続だった。 何せ、同じ島に住んでいながら大祭の儀式ってのは参加者以外にゃ秘中の秘、だったからな」 「なんだか神秘的なお祭りなんすねぇ」 「神秘的っつうか子供にゃ見せらんねぇシロモノだから秘密にされているっつうか。まぁ、それはともかくとして、だ。 今年もこうやって島外に出ている島出身の男たちに招待状と言う名の招集令状が届く訳なんだが、この招待状とは別に、島に残っているダチから急ぎの連絡があってよ」 「幼馴染ってやつっすか?」 「まぁな。その幼馴染のダチが言うには大祭に一番大事な『ご神体』が用意できなくなったので俺に手を貸してくれ、ってな内容のモノだった」 「はぁ、察するに『ご神体』って大祭の時にだけ用意するものなんすか」 「察しが良いな。正解だ。新年初っ端から神様にお古のカラダなんか提供したらバチが当たるってもんよ。 んでな、今度の大祭にはダチが新しい『ご神体』を用意する手筈だったんだが、候補の奴が事故って怪我をしたらしくてダメになっちまったのさ」 「よく分かんないっすけど、メンツが揃わなくなったんすね?」 「そう言う訳で卯波、島に来て祭りに参加して欲しい。お前には一番大事な『ご神体』になって欲しいんだ」 「ほえ? お、俺が、っすか!?」 「ああ。もう島の中じゃ条件に合う候補者が見つからねぇんだ。儀式の段取りやら所作やらは俺が全部教えてやるから! 頼む! この通りだ! 俺を、いや、島を助けてくれ!」


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