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鷹取リュウゴ
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変新性活 インモラルグローブ 6

6その手袋の持ち主は…… 入学式は予想以上の規模だった。 大ホールに集まった人数もさることながら、登壇し、挨拶を述べた人物がそうそうたるメンバーだったのだ。 学長、理事長の挨拶から始まり在校生の代表から祝辞を述べると、次にマイク前に立ったのはなんと元総理大臣や、オリンピック金メダリスト、 そして人気のお笑い芸人に有名なユーチューバー(はネット配信ではあったけど)が次々と顔を見せ、新一年生となる俺たちに向けて祝福のメッセージを贈ってくれた。 式典終了後、俺は健一と落ち合うためスーツを着たまま構内にあるカフェにやって来た。 「さて、健一は待ち構えてた部員勧誘の嵐を抜けてこられるかな?」 汗ばむ陽気にアイスコーヒーが心地よい。 敢えて店内ではなく外のテラスに出て木陰の風で涼んでいると見知った顔が近づいてきた。 「よぉ! 睦月! 今日から大学生だな! 入学おめでとう!」 声の主は俺にアパートの部屋を譲って学生寮に入った二つ上の先輩の『元鬼 創一郎』さん。 「あっ! 元鬼(もとき)先輩じゃないっすか~! その節はありがとうございました!」  「へ~ぇ? スーツがさまになって、すっかり大人って感じだ」 俺のぎこちないスーツ姿を舐めるようにじっくり見るのでさすがに照れ臭くなる。相手が尊敬する先輩なら猶の事。 「いや~、どうもっす。褒めてもらえて嬉しいんすけど、やっぱ堅苦しいんで早く脱ぎたいっす」 「だったら脱いでも構わないぞ? パンイチであろうが水着だと言い張っちまえば問題は無いしな」 「やだなぁ。いつも真面目なのにふざけ過ぎっすよ? 先輩ってば世間に慣れ過ぎちゃったんじゃないっすかぁ?」 「ははは、願望がつい出ちまった。ま、そんなのは置いておいて、これからどうすんだ? 予定が無いんだったら学食の案内ついでにメシでも食いに行くか?」 願望? 俺がパンイチになるのが?  微妙に気になったもののジョークで場を和ませようとしているのだろう。 イケメンで学業もスポーツも優秀な先輩だけど、一方では堅苦しい人物だと思われていたから今まで色恋含めて浮いた話など一度も聞いたことが無い。 そんな先輩に俺は随分と可愛がってもらって一人暮らしをするための部屋まで譲ってくれた大恩人なのだ。 本当は真面目なだけじゃなくこんな柔らかな一面もある人なのに、そうとは知らずに悪く言うヤツは先輩の見た目や優秀さに嫉妬してるだけなのだろう。 「先輩こそ大丈夫なんすか? 彼女と待ち合わせてたりしません?」 「ん? 彼女が居るなんて言ったか?」 「いえ、そんな気がしただけっす」 「バカヤロウ。彼女がいるなら学生寮に入ったりするかよ。門限だの消灯時間だの全部縛られちまうんだぞ?」 「あ、それもそうっすね。じゃぁ今もフリーなんすか。こんな高級物件を放置するなんて世の中どうかしてるっすね」 「んな調子の良いこと言っておだてても奢ってやれんのは定食までだからな」 「あざーっす! そのお気持ちだけで十分っす」 先輩と話していると周りに居た女子たちがざわつき始めていた。服装からみて同じ入学生とその母親あたりか。 やっぱり先輩は背が高く逞しいだけじゃなく清潔感のあるイケメンだから女受けが抜群に良いんだよな。なのにずっと彼女の気配すら無いなんて。 「むむ、なんだか周りが落ち着かなくなって来たな。そろそろ移動するか」 「もうちょっとだけ待ってもらっていいすか? 健一、いや、横山ってやつと待ち合わせてるんすよ」 「なんだ。予定があるんじゃないか」 「大した予定じゃないっす。入学式が済んだらここで一旦落ち合おうって言ってただけなんで」 「ふうん? そうなのか」 先輩が首を傾げているとその後ろから健一の声が聞こえた。 「お待たせっ! いや~、マジヤバかった! 無理矢理入部させられるかと思ったぜ~!」 小走りでやって来た健一を見た元鬼先輩が小さく「あっ」と声を上げた。 「どの横山かと思ったらお前、陸上部の横山か!」 「おお~! どうもお久しぶりです! 元鬼先輩に覚えててもらえて恐縮っす!」 同じ体育会系でもインドア競技の元鬼先輩とアウトドアな健一とでは接する機会は多くなかっただろう。 先輩は有名人だったから部に関係なく知ってる奴は多そうだけど。 だもんで挨拶の後は続けようがない。 俺はすかさず間に入って「これから先輩と学食で昼メシを食べようって話しになってんだけどお前はどうする?」と場を繋ぐ。 「うーん……、残ってたらまたしつこく勧誘されそうだから遠慮しておこうかな」 「そっか。分かった」 「部屋に戻って着替えたらお前んちにいくから」 俺が答える前に先輩が反応した。 「ん? 横山が? 睦月の部屋に?」 声色がキツかったので思わず先輩の顔を見た。先輩はハッとして「あ、いや、なんでもねぇ。気にしないでくれ」と今のを打ち消すように顔の前で手を振った。 ここまでのやり取りに何か先輩にとって気に障る部分があったのだろうか? 「おっと悪ぃ! 野暮用を思い出した。メシはまた今度にしようぜ! 横山もまたな!」 「そうっすか? それは残念。絶対今度行きましょうね!」 朗らかな笑みを残し去ろうとする先輩に俺は小さく囁いた。 「すんません、あの……、部屋に置き忘れている段ボール箱があるんすけど、取りに来られます? それとも俺が寮へ運びましょうか?」 「忘れている段ボール箱? んなのあったかな?」 俺はさらに声を小さくした。 「ほら、バイブとかオナホがいっぱい詰まった箱っすよ」 「バイブ? オナホ? いや、さっぱり分からんが……」 とぼけている雰囲気でも無く本気で分からない様子だ。 「えっ? じゃぁアレは先輩のじゃないんすか?」 「いまいちよく分からんが、もし俺が忘れていたモノなら処分してくれて構わないぞ」 続けて、忘れちまう程度であれば引き取る価値も無いだろうしな、と言葉を残して去ってしまった。 先輩の後姿を見送った俺は考え込んでしまった。 じゃあ、あのエログッズは誰のモノだったのか。 『コピーグローブ』なんてトンでもアイテムまで置き忘れてしまうなんて考えられるか? 「おーい? 睦月~? 大丈夫か~?」 健一の呼び声で我に返った。 「ああ、悪い。ちょっと考えこんじまった」 「そう? 問題無いんならいいけど。そんじゃぁ俺は先に帰るとするわ。後でそっちに行くから今夜も――」 続きは言わなくたって分かる。 手袋を外して効果が消えても健一は俺のチンポにメロメロになっちまったのだから。 空になった紙コップを近くのダストボックスに投げ入れ俺も大学を後にした。 ◇  大学から自宅アパートに戻る道の桜並木は早くも散り始めていた。 今年は例年にない早咲きだったから散るのも必然的に早まっている。 ハラハラと風に舞う花びらが午後の光を受けて美しい瞬間の美を創り出していた。 「この時だけの光景なの永遠を感じさせる凄みがあるな。美意識に響くっつうかなんつうか」 見る人がいなくとも花は惜しげも無く散って行く。 「億劫相別れて、須臾も離れず。尽日相対して、刹那も対せず、か」 (おくこうあいわかれて、しゅゆもはなれず。じんじつあいたいして、せつなもたいせず) 高校の図書室でたまたま読んだ名言・格言集の本に乗っていた一文。 厨二っぽい単語が印象に残って意味までしらべたものだった。 「――誰かの名言か? どんな意味か気になるなぁ」 「えっ!?」 不意に耳元で知らない男の声が聞こえて驚いた。 すれ違いざまに俺に向け囁いたようだ。 振り向けば赤い髪をツンツンに立て青いスカジャンにブルーのダメージジーンズを着た「後ろワイルドイケメン」が去ってゆく。 足を前に出すたびにクッと引き締まったケツにジーンズが食い込んでいやになまめかしい。 「だ、誰だったんだアイツは……」 追いかけて顔を確認しても良かったが、それで誰だか思い出せなかったりしたら余計に失礼になりはしないか? 躊躇してる間に赤髪スカジャン男は人に紛れて見えなくなった。 「……まぁ、いいか。春は浮かれてる奴も多いって言うしな」 気持ちを切り替えた俺はネクタイを緩ませてから桜吹雪の道を抜け表の大通りへと進んだ。 ◇ 「よっ! また会ったな!」 「お、お前は!」 2時間後、コンビニやスーパーに寄り道してから自宅アパートに戻ってみれば通りすがりの赤髪スカジャン男が隣の部屋のドアから現われた。 「ははは、なーんだ! お隣さんだったか! これからよろしくな! 俺はダグラス。お前は?」 「俺は睦月、『中原 睦月』」 「ムツキか! 良い名前だな! ムツキはあの大学の生徒か? 俺もだ」 「となると先輩っすか?」 「いや? 今日からだから先輩じゃないな。お前もこれから、だろ?」 スーツを着てれば誰でも新入生って分かるよな。 「今日から? 同じ新入生なのに入学式には出てなかったのか?」 「ああ。寝てたら遅れちまった。まぁ、出なくたって問題無いだろ? 手続き的なのはさっき済ませて来たしな」 それでさっきすれ違ったのか、と納得はするが入学早々大遅刻って、大丈夫かよ……。名前からして海外から来たっぽいが。 「俺はまだこの世界……、じゃなくて日本には慣れちゃいないんだ。スペインから来日してさほど経ってないからさ。いろいろ教えてくれたらありがたい。 ムツキも俺にして欲しい事があったら遠慮なく言ってくれ。セックスでも構わないぞ」 「せ、セックス……」 初対面の相手にこの距離の詰めよう。確かに海外由来っぽい親しみの表現とも思えるけど、冗談でも言うか? セックスなんて。 ノンケかも知れない相手にさ。 「ムツキも今からセーナか?」 手に下げていたビニール袋に目をやってから問いかけてきた。 「セーナ?」 「おっと、セーナってのは夕飯って意味だ」 「まぁそうだけど……」 「なら一緒に食おう。もうすぐパエージャが出来上がりそうなんだ」 パエリアってのと同じ料理だよな。 それくらいならまぁいいか。無下に断ったら気まずくなりそうだし。 「さぁ入ってくれ。狭いけどお前の部屋と同じ広さだから気にはならないだろ? ムツキとの出会いを祝おうぜ!」 俺の腰にすっと腕を回してエスコートする。 その仕草が自然でスマートでさすが海外仕込みだと言わざるを得ない。 ちゃんと見ればツンツンした赤い髪も顔もカッコイイしワイルドな雄臭さにも嫌味がない。体つきもイイ感じに筋肉質っぽいし、オマケに―― アソコがやけにもっこりモリモリなんだけど!? 嫌でも気になる見たくなる! これで平常ってんなら勃起したブツを確かめたくなる! 相当長くじっくりとダグラスの股間を見つめていたようで頭上から「ふふっ」と笑われてしまった。 いかん……、これはいかんですよ、はい。これじゃぁ俺がチンポ好き精液好き変態野郎だとバレちまう。 自重だ。自重しろ俺。 「そうだ。なぁムツキ、酒は? あ、まだダメ? じゃぁ仕方ないな。俺も今日は止めておく」 「ダグラスはもう二十歳を越えてるのか?」 「人間の年齢じゃ20になったばかりだ」 なんか、またも微妙な言い回しだな。 来日して間もないからか? 日本語はとても流暢なのに。  ダグラスが作ったパエリアは貝やエビが鮮やかなサフランライスの上にふんだんに散りばめられていてとても美味しかった。   俺の料理の腕なんてレンチンするか湯煎するかって程度なのに。 「うっは~! 超美味かった~! ダグラスって料理が上手いのな! パエリアもこっちのオムレツも大満足だ!」 美味しい料理は人の距離を縮める。俺はすっかりダグラスの馴れ馴れしさに抵抗が無くなっていた。 「ふふん。だろう? ちゃんと人間が食べるものを研究してたからな! 気に入ったのならまた作ってやるぞ!」 そう言いつつ俺の頬にキスをする。 「ふぁっ!?」 驚いておもわず顔を引いてしまった。 「む? ……ああ、そうだそうだ。日本の人間にゃ挨拶にキスをする習慣は無いんだったな。驚かせて悪かった」 「そ、そうだな。日本ではキス文化はないから」 「人間は国によって文化や習慣が異なるから覚えるのは大変だ。言語くらいならすんなり吸収できるんだがなぁ」 「なんかダグラスって変だな。まるで自分が人間じゃないみたいな言い方しちゃってさ」 ダグラスの顔がいきなり青ざめた。いたずらがバレて叱られる寸前みたいな。 「ほ、本当か? 俺、人間じゃないように見えるか?」 「んなビクビクすんなって。まだ日本に慣れてないから表現が微妙なだけなんだろう?」 ホッと息を吐いて胸を撫で下ろすダグラス。 「良かった~。マジで人間じゃないのがバレたかと思ったぜ~」 「何だよそれ。面白いけど分かりにくい冗談だなぁ」 俺が笑うとダグラスも声を出して笑う。 だが、笑顔の上にある瞳が一瞬だけ紅く光ったように見えたのは、あれは気のせいだったんだろうか?

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