1ナンパとビーチと海の家 「……ヤベェな」 「ああ。こいつはマジでヤベェ」 夏と言えばやっぱ海! まぶしい太陽、青い海! 波にキャッキャと戯れる水着の女の子たち! そんなノリと勢いだけでダチと二人で海に来た。 ダチの名前はユウヤ。俺? 俺はコウヘイ。 絶賛彼女募集中の大学2年! 成人式を済ませたピッチピチの二十歳だ! 買ったばっかの水着に着替えてビーチにいざ降臨! って足を踏み入れた訳だがひと目見て「マズい」と「ヤベェ」が口を吐いて出た。 「くっそ~、どこを向いてもカップルばっかじゃん!」 「いや、よく見ろユウヤ。イケメンだけだろ? 女連れてんのはさ」 それにしてもいやにカップル率が高くて男二人だけなど場違いに感じてしまう。 「あかんな、コウヘイ。このままじゃ俺らホモカップルだ」 「せっかくひと夏の思い出を作りに来たってのにお前と遊んでオシマイなんてのはぜってー避けたいもんな」 青い空、青い海には目もくれず、俺とユウヤは男連れではない女の子を探しては片っ端から声を掛けた。 「え~? ちょっとアタシのタイプじゃないんでぇ~、パスかな~」 断られたってあきらめない。次にいくぞ次! 「ごめんね~、私たち彼ピと待ち合わせしてんのよ~」 うーん、嘘っぽくはないな。どちらもプロポーション抜群の美人だから男がいてもおかしくはない。次! 次だ! 「悪いわね。一応旦那がいる身なの。え? 旦那はどこだって? 海の家にドリンク買いに行ってくれてるのよ。まもなく戻って来るはずだわ」 その言葉通り女に手を振りながらイケメンが近づいて来る。 クッ! マジで人妻だったのかよ! 亭主と揉める気は無いから、次! 「う~ん、どっちも見るからにつまらなそうな感じジャン? ごめんね! また今度誘って?」 「はぁ? 変な目で見ないで欲しいんだけど? 連絡先ぃ? そんなの教える訳ないでしょ?」 「なぁに? いきなり声を掛けて来て。失礼ね! 私の彼氏は『神聖騎士・ボードウェイン』様なの! リアルの男に興味なんて無いからあっち行きなさいよ!」 午前中に到着したのに気が付けばもうお昼時をとっくに過ぎていた。 「ダメだ……。ちっとも成功しねぇ……。初ナンパに夏のビーチは最適やと思ったんだが……」 「もう諦めるしかないのか? 俺たちそこまでイケてないのか?」 ユウヤの独白に近い問いを受けてあらためてお互いの「見た目」を確かめた。 ユウヤ曰く俺、コウヘイは― 「お前はさ、顔はまぁまぁ良いのにカラダがスリムと言うよりもあばらが浮くほどのガリガリで、穿いているサーフパンツが腰の細さのせいでミニスカートみたいに見えるのがマイナスだな。 腕にも脚にも筋肉のキの字もないから貧相を超えて病人レベルだ」 俺もユウヤを忖度なく評価した。 「ユウヤはまぁぽっちゃり……、つうかデブ? 腹も出ちまってるし顎もたるんでるし。肌が白いから余計にブヨブヨした感じが出ている。 オシャレを意識してネックレスをしたり臍にピアスなんか付けてるけど、それがむしろ受け狙いが過ぎて鼻に付くよな」 「コウヘイ、ひでぇ……。ダチをそこまで悪く言うのかよ」 「ユウヤもだろ? こう見えて俺は風邪ひとつ引かない健康そのものなのに」 だが、互いを評価してみて改めて理解した。 俺ら全然イケてねぇ。身の程知らずだったんだ。夏のビーチにふさわしくない浮いた存在だったのだ、と。 「そりゃ、あんだけ声を掛けても塩対応しかされない訳だよな」 「だな。……ダメだ。俺、いつになく落ち込んで来た。見込みのないビーチに来ちまった事自体が失敗だったんだ」 雲一つない真っ青な空を見上げて敗北感をため息とともに吐き出す。 戦果の一つも得られないままビーチを後にしなくちゃならないなんて残念過ぎて言葉も出ない。 だが、今更何ができようか? 服を着ていれば誤魔化せる俺のガリガリ具合もビーチでは不可能。勝率を上げられる秘策も無し。万策尽きるとはまさにこの事だ。 「……帰ろうぜ。ここは俺たちが来るべき場所じゃなかったようだ」 「ああ。そうだな……。その前にさ、咽喉が乾いたから飲み物くらい飲ませて欲しいんだが」 ユウヤによって俺も咽喉がカラカラだった事に気付く。3時間も炎天のビーチでナンパしまくってたんだからそりゃカラダも水分を求めて当然だろう。 何なら腹も減っているし。 撤退して帰るにしても駐車場までそこそこ距離はある。車に戻る前にドリンクの一杯くらい飲んでもバチは当たるまい。 あと、ずっと立ちっぱだったから一休みしたい。 「こっからじゃあの海の家が一番近いな」 ユウヤの指す海の家だけが他の海の家と離れてポツンと建っている。 「メインのエリアから離れてる割に賑やかだな」 ビーチの中心部ではないので付近の浜にいる客はそんなに多くはない。多くないどころか中心部に比べたら隙間が多く、ビニールシートを拡げるのもパラソルを差すのもかなり余裕がある。 なのに、その海の家には客がいっぱいで店頭で接客するスタッフは随分と忙しそうにしている。 「人気の店か。バズってる名物でもあるとか?」 「さぁな? とりまゲットしに行こうぜ? 俺、もうマジで干乾びちまいそう」 ダサいルーザー(敗北者)がとぼとぼと、徒労感満載で人気の海の家に向かう。 近くまで来ると店先でドリンクを売る赤いタンクトップの男も、横の鉄板で焼きそばをジュウジュウ焼いている鉢巻きの男も、 日に焼けた肌とマッチョなガタイが見事にマッチしていて、なんなら顔立ちまで男っぽいイケメンだ。 「ああいう奴こそ夏のビーチの主役じゃね?」 「そうだな。あのレベルだとぜってー女いるって」 たかが「海の家」なのに顔面ドレスコードに引っかかりそうで、そこはかとない気後れを覚えつつドリンクを求める列に並んだ。 そして、さほど待つことなく順に客が流れて俺たちの番になった。 「いらっしゃい! ビーチでナンパしてたお兄さんたちっしょ? 結果はどうだった?」 見られてたか! うわ~! 恥ずかしい! 「どうもこうも、全然っすよ。かすりもしなかったんでもう帰ろうかな、と」 ユウヤが店員の男に無残な事実を話す。 「あ~、そいつは残念。 でもでもせっかく来たのに楽しまずに帰るなんてもったいない! そうだ! 俺がおごるから軽くメシでも食べて行きなよ! お兄さんたちをこのまま帰すなんて忍びないしさ」 顔もカラダもイケてるだけじゃなく性格までカッコイイなんて。 案内された席に座って男としてのレベルの差に少し嫉妬してしまって凹んでいたら、キンキンに冷えたサイダーと共に、この海の家自慢の焼きそばや特製シロップの掛かったかき氷が目の前に置かれた。 「え? あの、かき氷まで? 全部タダで食っちゃっていいんすか?」 あとからビックリするような料金を請求されても困る。今更ながらぼったくりじゃないよな? と不安がよぎった。 「ははっ! そう心配すんなって! 食べた後に金を寄越せなんざ言わねぇから!」 店先でドリンクを売りさばく赤いタンクトップのお兄さんからの声が飛んで来た。 だったら遠慮なく俺もいただくとするか。 ユウヤは先に焼きそばを食べ始めていた。 焼きそばやかき氷を運んで来た店員の男にもお礼を述べて箸を取る。 ふと、焼きそばの置かれたテーブルの横、つまり店員の男の股間が視界に入った。 上は白いタンクトップだがボコボコに割れた臍チラ腹筋の下は際どいビキニだった。 そのビキニにはかろうじてチンポを収めているようで斜めに激しくモッコリ盛り上がっている。 勃起してんのか? と思える勢いだもんで俺はついまじまじと凝視してしまった。 「すげぇ……、どんだけチンポ、デカいんだよ……」 「うん? どうかした?」 箸を持ったまま動かない俺を店員の男が訝しんだ。 「うぉっ!? あ、いえ、な、なんでも、ない、っす。それじゃぁ遠慮なくゴチになります!」 慌てて視線を外して香ばしい焼きそばを掻きこむ。 「うわ!? うめェ!」 見ればユウヤはとっくに食い終って「ゲフー」などと息を吐き、スプーンで掬ったかき氷を口に運ぼうとしている。 目が合うと「美味いだろう?」などとドヤ顔だ。いや、お前が焼いた焼きそばじゃないだろ? それにしてもなんてハイレベルな焼きそばだ。 海の家で出てくる食い物なんてどこでも「期待を裏切る」コスパの悪い仕上がりばかりなのに、この焼きそばはマジで美味ぇ。 ダシががほのかに香る麺はコシが有り、要になるソースも甘すぎず辛すぎず絶妙な濃さで絡んでいる。そして、麺と一体になっている豚肉やキャベツなどの具材もまたソースに負けず素材の持ち味が十二分に生きている。 脳内でそんな「食レポ」を繰り広げながらデリシャスな焼きそばをあっという間に平らげた。 お次は練乳がたっぷり掛かったかき氷だ。 ゆうやは定番のイチゴ。俺のはレモンで黄色いシロップが氷全体を彩っている。 「うわ! かき氷も超美味ぇ!」 淡雪の如くふわふわに削られた氷そのものが美味しい。実にピュアな、澄み切った氷を使っている事がひと口で感じ取れた。 また、シロップは甘過ぎぎることなく本物のレモン果汁をたっぷり使ったフレッシュな酸味が爽やかさ満点! そこにトロリと乗っている練乳がさらにいい仕事をしてやがる! あっさりしたレモンシロップに濃厚な甘味の、 いや、ほのかに苦みさえ含む香りの良い濃厚な練乳が口内で一つになって儚く溶ける氷と共にすーっと拡がっていくと、舌が喜びの余り小躍りしてしまう。 コイツはまさに、「お口の中がトロピカルパラダイス」や~! 「お、おい、コウヘイ……。もう止めろよ。さっきから心の声がダダ漏れになってんぞ? いい加減にしろって。超恥ずいだろうが……」 「ハッ! お、俺、もしかして……」 「ああ。ばっちり声になって出てた」 穴があったら埋まりたいほど恥ずかしくってユウヤの顔さえ見れなくなっていると、最初に対応してくれていたドリンク担当の男ではなく、メニューを運んでくれた白いタンクトップの店員が「そんなに俺の作ったかき氷を気に入ってくれたんだ? だったらもう一杯おかわりする?」と、笑顔で話しかけて来た。 「あっ! いえいえ! もうお腹いっぱいなので、もう十分っす! ごちそうさまでした!」 ユウヤと一緒に頭を下げ、「マジで支払わなくていいのかな?」と囁き合っていると、声が聞こえてしまったみたいで「ダイチがおごると言った以上、請求なんてしないから安心しなよ」と言う。 ダイチさんってのは誰かと思えばドリンク販売担当の赤いタンクトップのお兄さんだった。 あらためて無料だと言われホッとして顔を上げると、ドリンク担当のダイチさんと同じようにかき氷を作った店員も筋肉質なガタイに小麦色に日焼けした肌のイケメンだった。 清涼感のあるカッコイイ顔に筋肉ムキムキな肉体。そして裾の短いパツパツの白タンクトップの腰の下はさっきも見た通り超モッコリな際どいビキニ。 なんなんすかもう! セクシー過ぎるじゃないすか! 同じ男ながら目のやり場に困るじゃないっすか! 「それにしても凄く美味しかったです。コウヘイがバカみたいに食レポしちまうのだって分からなくはないくらいです」 「コウヘイくん、って言うんだ? 君は?」 「あ、俺は、ユウヤっす」 「ユウヤくんにコウヘイくん、か。 うちのメニューをそこまで美味そうに平らげてくれて俺としても嬉しいよ。ちなみに俺はカイル。よろしくな!」 「本当にお世辞でも何でもなく美味かったっす。今まで海の家の食べ物で満足したことなんて無かったっすけど、ここのは全然! 段違いのレベルっすね!」 「ははは! そっかそっか~! そいつは何よりだ! ちょうど客足も落ち着いてきたし、是非ゆっくりしてってくれよ。 俺も君たちを気に入ったしね! ドリンクでもなんでも欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ! 特別にサービスするからな!」 「……なんかさ、女運はさっぱりだったけど男運は良いみたいだな」 ユウヤの言い方が面白くて思わず噴き出す。 「男の俺らに男運が良いってどうなの? まぁでも、気に入ってもらえるのは悪くないな。食い物も超美味かったし」 咽喉の渇きが癒えて胃袋まで満たされると落ち込んでいた気持ちはかなり和らいでいた。 そう、夏はまだまだこれからなんだ。ビーチだってココだけじゃない。思い出作りを諦めるにはまだ早い、ってね。 そんな風に自身を鼓舞しているとユウヤが俺の肩をつついた。 「うん? どした?」 「……いや、別にいちゃもんをつけるつもりじゃないんだけど、この海の家って、男がやけに多くね?」 「男が? 多い?」 客足が落ち着いて来たとはいえ席の6割はまだ埋まっている。 さりげなく店内を見渡していると畳が敷かれた小上りも、テーブル席に居る客も全て男、店内で働くのも男、比率で言うと10:0で男だ。 「マジで野郎ばっかだな」 「だろ? ドリンクを買う客だって男しかいねぇし」 店先でポカリや缶ビールを買い求めて並んでいる客も男ばかりだった。 さっき同じように並んだ時にはまったく気付かなかったが。 「……偶然かな?」 「立地も影響してんじゃね?」 そうユウヤに答えてから渚を見やれば女の子だけのグループがそこかしこに。 そして、しばらく見ていると彼女たちは俺たちの居る海の家ではなく、少し離れた隣の海の家にわざわざ行ってドリンクを手に入れている。 むむ、とんだ説得力の無い解答をしちまったもんだ。 ユウヤがまた俺をつついた。 「もう一つ気付いちまった。あのな、この海の家の店員って全員がイケメンだぞ」 「マジ?」 指摘が事実かどうか。店内を見渡してから俺は唸った。店員は皆タンクトップにビキニなので客との区別は一目でついた。 「お前の言う通りだ。マジ、カッコいい男ばっかだな」 声を潜めてもう一度見渡す。 すると俺の視線に気づいたドリンク担当のダイチさんが二カッと俺に微笑み、焼きそば担当の男もヘラを軽く上げて俺に白い歯を見せる。 逞しい腕と肩、盛り上がった胸板を惜しげもなくタンクトップ越しに見せつけ、男のセクシーさと豪快さが素晴らしく魅力的だ。 その上さらに気前が良くてフレンドリーだなんて、俺が女なら「抱いて欲しい」と思うに違いない。 「……凄ぇモテるんだろうな」 嫉妬と言うのは相手が同じ土俵に立っていると思っている時に発言する心理であるとするなら、ここまで段違いにスペックの開きがあるともはや嫉妬ではなくただの羨望でしかない。 「100人斬りとか余裕でヤれそうだもんな」 ユウヤもイケメン店員たちを見ていて俺と同じような心境に至ったようだ。 「だけどさ、全員がイケメンばっかってのも不思議だけど、なんで下はビキニしか穿いてないんだろうな?」 「制服だとか?」 「それにしてもアレじゃぁほぼノーパンじゃん」 ソコばっか見つめてるのは変だと思われそうだけど、ビキニに浮かぶチンポのかたちがくっきり浮かびすぎていて、 亀頭の段差までもが明確になっちゃっているのってどうだろうか。 いやでもソコに目が行くし、チンポの大きさも亀頭のデカさも手に取るように分かってしまうじゃないか。 「……コウヘイ、どうしよう。……勃っちまった」 「……は?」 困惑するユウヤの股間を窺えば、確かに座ってても分かるほどにボキーン! とテントを張っていた。 いやいやいや。どうしたユウヤ! 男ばっかの海の家でなんで息子をおっ勃ててんだ! 確かに店員の男はエロいビキニを穿いててセクシーだけどさ。女じゃないのにムラっとくる要素はどこにあったんだよ! 「良かった、俺だけかと思ったらコウヘイもか」 「はぁ?」 素早く俺は視線を下げた。 「うおっ!?」 マジか!? 俺もユウヤと同じ? サーフパンツの股間がギンギンになってんじゃん! 意味が分かんねぇって! と、とにかくムスコが大人しくなるまでは身動きが取れねぇ。 このまま表に出て変質者扱いされても困るしな。 「何か様子が変だけど、どうした?」 キョドっていたのがバレた。 さっき俺らにかき氷を作って持って来てくれた白タンクトップのカイルさんではなく、青いタンクトップにスケスケメッシュ地のビキニを穿いている別の店員の男がそばに来た。 目が、目の毒が過ぎる……。もう、もはや、中身、見えちゃってますやん……。黒い繁みからズドンと突き出たすげぇ極太のどす黒いデカチンポが、9割がた見えてもうてますやん! 「勃起した? あ~、そいつはビーチあるあるってやつだ。目に入るのは肌露出の多いお客さんばっかだし、ビーチならではの解放感も大きい。 なかなか収まりそうにないんなら店の奥に入ってもらってサクッと抜いちまうか?」 股間を両手で隠して前屈みに座る俺たちの、「男特有」の姿勢に事情を察した店員の男がそう提案してくれた。 だが、いくらなんでもユウヤと一緒にオナるなんて抵抗が大き過ぎる。 「そ、そのうち収まると思うんすけど……」 「遠慮すんなって。俺たちだって不意に勃っちまうことはあるし。そん時ゃ皆、休憩がてら抜いて落ち着かせてるんだ。 いつまでも勃ちっぱなしじゃ困るだろ?」 ズイと店員の男が近づいた。 座ったままの俺の視界いっぱいに男の股間が迫る。要するにすけすけビキニ越しに男のチンポがどーんと目の前にある訳で。 股間の熱気と汗の匂いまで感じられて、ああ、これが雄フェロモンってやつ? なんて余計に興奮を激しくさせてしまった。 いやでも、俺は男には興味なんて無いから、これも夏のビーチの解放感からくる気の迷いに違いない。 或いは、同じ男としてここまで立派なブツが目の前にあったら羨ましさのあまり昂ってしまう、みたいな。 「『マランガ』で抜いてきなよ? 凄ぇ気持ちイイからさ」 「はい? 『マランガ』?」 白タンクトップのカイルさんもそばに来た。 「『マランガ』はこの店の名物でさ。果物の一種なんだけど『マランガ』を目当てに来るお客さんも多いんだ」 果物? 食べ物を使って抜くのか? 食べものを粗末にするなんて罰当たりじゃね? ドリンク担当のダイチさんも俺たちのそばに来た。 「あ~、またお金の心配してるのか? 安心しな。コウヘイとユウヤから金は取らねぇって。だから思う存分『マランガ』で抜いて来いよ。フウガの言う通り凄く気持ちイイからさ」 すけすけビキニに青タンクトップのお兄さんはフウガさんと言うらしい。 「でも、そこまで甘えるのはさすがに……」 「俺は『マランガ』ってのに興味があるので使ってみたいっす」 ユウヤが顔を上げて集まってきた店員たちを仰ぐ。 焼きそば担当の男がヘラをカカンと鳴らして俺に言った。 「ダチに付き合ってやんなよ! 兄ちゃんもさぁ! 何も、互いに向かい合って見せながらヌくわけじゃねぇんだしよ!」 「クロムもああ言ってるんだ。イクは一時の恥、イカぬは一生の恥だぜ?」 ソフトモヒカンの顔を近づけて二カッと笑うフウガさん。笑うと目元がクシャってなってすげぇチャーミングだ。 「じゃ、じゃぁ、俺も……」 「ハナシは決まったな。それじゃぁ店の奥で『マランガ』を渡すから俺に付いて来てくれ」 俺とユウヤはフウガさんの後について海の家の裏手へと入って行った。