4帰宅と果実と消えない欲望 帰路は終始無言だった。 口を開くと意図しない言葉が出て来てしまいそうだった。 何を話せばいいのか分からなかったし、話そうとすると海の家での強烈な「体験」について避けられなくなりそうだったからだ。 口数が減ったままユウヤを自宅まで送り、その後俺も自分のアパートへと戻った。 二日ぶりに見る我が部屋。 片付いているようでそうでもない部屋に入っても頭の中を占めていたのは彼らとの行為についてだ。 『マランガ』の効果は切れてしまった。 あんなにムキムキになっていた筋肉どもは消えてしまい、巨根を誇っていたチンポも再び以前のサイズ、14cm程度しかない仮性包茎に戻っていた。 それ故にか、男に対してどうしてあんなに興奮してたんだろう、と客観的な視点で俺自身を見られるようになっている。 「どうかしてたんだよな」 (だが、気持ち良かったのは事実だ) もう一人の俺がバッサリと切り捨てる。 鏡を覗き込んだ。 鶏の脚みたいな細い首、裾から突き出る貧弱な腕。これが本当の俺。これこそが現実の俺。 海の家で起きたことは全部夢だったんじゃないか? とさえ思えてしまう。 ただ、決して夢じゃないと分からせてくれるモノも俺と一緒にあのビーチから持ち帰っていた。 『餞別に受け取って欲しい。たいした数じゃないけどさ、二人との出会いを祝して』 ダイチさん、カイルさん、フウガさん。 三人のマッチョイケメンたちから渡されたのは『マランガ』の果実。 コイツを使えばまた夢を見られる。 いかついマッチョになり40cmもの巨根をこの身に宿すことができる。 「マジで何なんだろうな? 『マランガ』ってさ」 ググッたが一件もヒットしない。 緑色に光を跳ね返す不思議な果実を見れば嫌でもあの一夜を思い出す。 「フリースペースっつうか海の家の地下だったんだな、あそこ」 部屋を出て階段を上がれば海の家のバックヤードに出て来た。 シート越しに朝日が透けて、早くも暑い一日を予感させた。俺たち、一晩中ダイチさんたちとセックスしていた。 快感を味わい続け、心地よい疲労がカラダを満たしていたけどダルくはなかった。 ザーメンまみれになったカラダを互いに洗い合って、爽やかな笑みを交わした。 エアコンをつけても中々涼しくなってくれないのは室内にこもる熱気が強すぎるからだ。 じわる汗が雫となってうなじを下る。 ダイチさんたちが流していた汗は美味しそうだったのに自分が流す汗はただただ不快でしかない。 効果が切れたからチンポはピクリとも反応しない。 男への欲望は無くなり今まで通り女が性的対象になっていた。 スマホに忍ばせてあるフォルダーを開いて「ブックマーク」した女の痴態動画を見てみる。 色っぽい声となまめかしい肢体が俺を興奮させチンポをグゥンと屹立させる。 「マジで元通りか……」 理屈では分かっている。これでいいんだ、と。 やっぱり海の家での行為は夢であり、夢に惑わされるのはバカなのだ、と。 片隅に置いた『マランガ』が再び目に入った。 口の中に唾液が溢れた。 ゴクリ。 マジか、と思うよりも前にもう一度ゴクリと咽喉が鳴った。 「バカだ俺……、ぜってー今までの俺に戻れなくなんじゃん」 (普通? 何をもって普通だと定義する?) もう一人の俺がまことに客観的な指摘を俺に向けて突き付ける。 「普通ってのはな、バカな事を繰り返さない、ってコトだ」 だが、俺はどっちかと言うとバカだろう。いや、どっちかと言わなくても大バカだ。 なにせまた『マランガ』を手に取りヘタを捻じ切っているのだから。 やばいドラッグみたいな中毒性は無い、と聞いていた。 効果が切れればカラダもココロも元に戻るとも確かに聞いた。 「でも……」 あのキモチヨサを知ったら……。 もう一度味わいたくなった時、そばに『マランガ』があったとしたら、止める事などできるだろうか? 『マランガ』の果汁を鼻先で嗅いだ。 フルーティで爽やかな香りに混ざって男の匂いがあった。 どこまでも続く草原のようなニオイはダイチさんを思い起こさせた。 果てしなく広がる青い海のようなニオイはカイルさんを。 そして、草原と海とを吹き抜ける風のニオイはフウガさんだ。 『また遊びに来いよ。夏のシーズン中は俺たち皆、毎日海の家にいるからさ』 『マランガ』の中にチンポを挿しこんでいく。 ズブズブ、ジュブジュブ、グチュゥと果肉を潰しながら俺の肉棒を咥え込む。果皮は頑丈だから力を加えても破れはしない。 握りしめなくたって甘酸っぱい気持ち良さが上って来てカラダをゾクリと粟立たせる。 「んふ、ん゛っ」 火の点いた欲望をさらに燃え上がらせようと『マランガ』でチンポを扱く。気持ち良くて膝がガクガク震える。 止めずにグチュグチュ扱いてやる。声が出る。吐息が漏れる。饒舌な喘ぎ声が脳内で響く。 もっともっと、さらに激しく扱く。気持ちイイ、キモチイイ! ギボヂィィィッ! チンポが蕩けてしまいそうにきもちいい! 無意識のうちに腰を前後に振る。 女じゃなきゃ勃起しない筈なのに、イメージされたのはマッチョな男たち。そのカラダとデカいチンポと、極上のケツマンコ……。 「ふぐぅぅっ! イクゥゥーーーッ!」 イった。 思いっきりイってしまった。仕上げの「オカズ」はダイチさんたちだった。いや、マッチョになったユウヤも含まれていた。 俺のザーメンをたっぷり受け止めた『マランガ』をチンポから外す。 「ふぅぅ……。そうだ、俺……、ユウヤともヤっちまったんだもんな」 ユウヤのケツも最高だった。 フウガさんに散々犯された後だからか奥の方はトロトロにこなれていてチンポにまとわりつく粘膜の感触は言うに及ばず、肛門の締め付けもヌメり具合も最高だった。 ユウヤだって俺のチンポで面白いようにイキまくっていた。イってもイっても精液の量は衰えなかったし、濃厚さも変わらなかった。 「結局俺は……」 口に『マランガ』を持って来て中身を飲む。やっぱバカだよな? オナニーだけなら変身なんてする必要ないのに。 果汁と精液の混合物をドロリドロリと流し込んで飲み込む。 鏡にはすこぶる美味しそうに飲み干す男が映っている。浅ましい顔をして、飢えた目をして、満たされない何かを満たそうとして堕ちていく愚かな男。つまりは俺の顔……。 沸々と湧き上がる欲望の熱気が全身に拡がっていく。 俺と言う存在が「拡張」され、「強化」され、筋肉も性器もレベルアップした人間に取って換わっていく。 メキぃ、ギシ、ギシギシ、グチィ……。 筋肉が、薄っぺらい俺の全身が、ハリガネのような見すぼらしいカラダが、謎のエネルギーを注入されムクムク膨らんでボリュームを増していく。 「うぐ、うぁ、あっ、んぁああ~……」 気持ちよくてチンポがフルに勃起する。勃起だけでは足らず先走りがタラタラ溢れて垂れていく。 「ふーーっ! ふぅーーーっ! すげぇ~、すっげぇぇぇ……」 バカみたいに同じ単語を繰り返す。理性と常識が片隅に追いやられ本能と性欲がど真ん中を占める。 「んぐ! ぐあぁ、ああ~! イク! イクゥゥーーッ!」 触れてないのにチンポが爆ぜた。ドビュッ! ドビュゥッ! と白濁汁が噴き上がった。 流し込まれる快感によってだらしなく開いた口の端から涎が垂れてしまう。 「はぁっ、はぁっ、はぁ、はぁ、んっ、超、きもち、イイ……、はぁ、はぁ、はぁ……」 顔を上げ鏡をもう一度見れば、そこに居たのはガリガリの俺じゃなくて褐色の肌のメガマッチョな男。 俺には無いモノを、ずっと欲しくてたまらないモノを全て持っている逞しくてカッコイイ男。 貧弱ではなく雄渾な筋肉といかつい巨根を備えた男の中の「男」……。 「バカでも良い、このカラダのままでいたい……。こっちのエロいガタイの方が、遥かに俺は……」 いずれ切れると知っていてもずっと効果が続いてくれたら、と願ってしまう。 マッチョになったら顔立ちまでカッコよくなる。まったくの別人ではなく変身しても顔を構成する要素は「俺」のままなんだけど、目元の野暮ったさが無くなり薄い唇がやや厚くなる。 それだけで段違いにカッコイイ、イケメンになれる。 そしてこの肉体。もりもりの筋肉は体力や精力も含めて雄としてのスペックの高さをそのまま示していて、放出されるオーラまでもが性的な魅力を湛えている。 乳首を摘まんでチンポを弄る。 俺なのに俺じゃない様なマッチョ野郎が鏡の中でイヤラシく喘ぐ。 脳内に拡がるのは男同士のエロい絡み。海の家で経験したこと以上に卑猥なイメージが浮かんでしまうのは何故なのか。 ゲイ向けアダルト動画など見たことはないのに、亀頭同士をくっつけ合ったりシックスナインでしゃぶり合ったり。 或いは二本同時に一つのアナルにぶち込んで犯していたり。 ヤってもいない非現実的な妄想が俺の脳内を熱くして「あの一夜」のように身を焦がす。 「ううっ! もうっ! イクッ!」 ケツマンコじゃなくてさっき使った『マランガ』の中に精液を吐き出す。 チンポがデカくなっても『マランガ』は自動的にジャストフィットサイズになってくれる。 精液を流し込んだら果汁と混ぜてシェイクした混合液を飲む。やっぱ美味ぇ。だけどいくらか精液の味が強くなっている。 間を置かず二発目を促す。 船を漕ぐようにチンポを『マランガ』で扱き、イけばまた飲み干す。 それを延々と繰り返す。ハズレの無い快感がずっと俺の中を満たし、男同士の妄想の中に浸る。 『マランガ』を男のアナルに見立てて扱けばもっと気持ち良く感じた。 鳥肌が立つほどの快感を味わいながら盛大に精液を放出する。 白濁したミックスジュースを何杯もお代わりする。効果が切れるまで精液はいくらでも出せる。 食事など取らなくても大丈夫だった。 『マランガ』果汁には相当な栄養素が詰まっているのだろう。精液と『マランガ』果汁とのミックスジュースは美味いだけじゃなく、カラダをエロマッチョに変えるだけではなく、俺を特別な「男」にしてくれる……。 貰った『マランガ』は一週間も経たない間に残り1本になってしまった。 10本もあったのが5日でほぼ消費し尽していた。 手元に無くなれば残念ながらあの快感はもう味わえない。エロマッチョにもなれないし、美味しい精液も味わえない。 これがラストの一本……。 この『マランガ』を使ったら俺はもう……。 突然、連絡もなくユウヤが俺の部屋にやって来た。 この5日間、俺からは一切連絡していなかったし、ユウヤからのアクションも無かった。 何となく気まずかった。 別れ話の後によりを戻そうとするカップルってこんな気持ちだったりするのかな、なんて思ったりもした。 「……なぁ、まだアレ、残ってるか?」 挨拶もないまま話しだしたユウヤ。 アレとは何か、なんて聞くまでもない。 「いや、もうコイツだけ。ラスト一本になっちまった」 「そっか。俺と一緒だな」 ユウヤもこの5日間、『マランガ』で変身オナニーしまくっていたと言う事か。 考える事もヤル事も俺ら一緒だな、なんてふと笑っちまった。 「んだよ、笑うとこじゃないだろ?」 「いや悪ぃ。俺ら似た者同士なんだな、って、つい」 「まぁ……、カラダの相性だって良かったもんな」 ユウヤの顔が真っ赤になっている。 『マランガ』が残り少なくなった時点で俺との行為がユウヤの中でクローズアップされて来たのだろう。 「また『海の家』に行ったらくれるかな?」 「さぁ。さすがにタダではくれないかもな。基本的に食用じゃないって言ってもレアな果物には間違いないんだし」 「もう俺、こんなだらしないカラダは嫌なんだ」 ユウヤが自分を見渡し唾棄するかのように本音を吐き出した。 「俺だって。こんなガリガリで貧相なカラダは見たくもない」 ユウヤがポケットから最後の『マランガ』を取り出しじっと見つめる。 俺も自分のラストワンを見た。 しばらくの無言の次にユウヤはこう言った。 「俺……、マッチョなお前とはセックスしてぇ」 「やっぱ似た者同士だ。俺も、同じことを考えてた」 「これっきりになるかも知れねぇけど、俺のイヤラシイとこ、全部見て欲しい」 以前の俺なら「そんな変態っぽいことダチに言うんじゃねぇ」とたしなめていたんだろう。 「俺も。俺のエロさをじっくり味わって欲しい。でもって、最後にお前とセックスできて嬉しいぜ」 たぶん『マランガ』無しでは俺もユウヤもセックスなんてしない。 あくまで求めているのはマッチョでカッコイイ「俺」であり「ユウヤ」なのだ。 最後と言ったのは大袈裟でも何でもなくて、もしかしたら友情もこれで消え去るかも知れないな、との予感があったからだ。 セックスまでしたダチを見るたびガッカリされるなんて、耐えられる訳がないもんな。 だから俺は、『マランガ』で変身したらユウヤを思いっきり犯した。 何度も何度も種汁をユウヤの中にぶち込んでは本物の恋人同士みたいに愛撫し、キスを交わし、またアナルにチンポを埋めこんではユウヤに絶頂の汁を噴き上げさせた。 ユウヤもまた俺を求めた。絶頂を迎えても次をねだり、自分で腰を振ってはケツ奥を締めて俺のチンポを扱いたりもした。 ケツの中にたっぷり精液を吐き出したら口でも味わいたいと俺のチンポを咥えた。 デカ過ぎて含みきれない亀頭をなんとか押しこみ、頬を膨らませてグチュグチュと舐る。 必死なのに嬉しそうだ。キツいのに幸せそうだ。そんなに俺のチンポが好きなのかと聞けば頭を上下に動かして肯定した。 仰ぎ見るユウヤと目が合った。 バルクマッチョで雄臭くなったユウヤの顔はカッコイイんだ。そんなユウヤが俺のチンポに夢中で嬉しくなった。 俺だってたっぷり幸福感を感じていた。 『マランガ』の効果が完全に消えるまで俺とユウヤは一睡もせず互いを貪った。 夜が明けて、見たくもないカラダに戻ったユウヤは俺にこう言った。 「なぁ、やっぱもう一回海の家、行こうぜ。 値段くらい聞いておきたいじゃん」 願いはかなわず元に戻ってしまった体に不快しか感じない俺はユウヤに賛成した。 「そうやな。買える値段だったら手に入れたいもんな。今、思い出したが『マランガ』目当てに来る客も多いんだ、ってダイチさん言っていなかったか?」 「そう言えば、言ってたな。て、ことはメチャクチャ高いって訳でもないんだな」 「いや、社会人にとっては、って話かもよ? 俺らみてえな学生には十分に高いかも。確かめる前にハードルを低く見積もるのはやめとこうぜ?」 「……コウヘイって、案外セックス上手いんだな……」 「んだよそれ、皮肉か?」 「いいや? 俺の素直な感想。シンプルに好きだって言ってるだけ」 「やめろって。まだ『マランガ』の効果が残ってんのか?」 「……そうかもな」 俺は横に寝転ぶユウヤの手を取り指を絡めて握りしめた。 ユウヤもまた俺の手を握り返した。 顔は見えないし視線も合わせていない。 だけど、コイツとの縁は切れなかったな、と強く感じていた。