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鷹取リュウゴ
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真夏のビーチと魔性の果実 5

5不満と期待と二度目のビーチ ビーチでナンパではなく、海で泳ぐためでもなく、「海の家」に行く事をメインとして来るなんて先週の俺なら想像すらできなかっただろう。   でも、俺とユウヤはこうして再びやって来た。 「お~! また来てくれたのか! 超うれしいぜ~!」 ダイチさんのマジで裏表のない笑顔によって一瞬で気持ちがほぐれてくれた。 気が付いたカイルさんもフウガさんも俺たちのそばに集まってくれた。 「すんません。また来ちゃいました」 「なんで謝るんだよこんちくしょう~! 俺たちゃもう仲間だろう?」 フウガさん、良い事言うな。仲間って響きにグッと来る。 「それで、どうしたんだい? またナンパしにビーチに来たの?」 カイルさんがニヤッとしている。そんな訳無い事を見越して聞いてるって顔だ。 「あ~、いえ、ちょっと確かめたい事があったんで忙しいのに押しかけちゃったんです」 「確かめたい事?」 「大した事じゃないんすけど……。って、やっぱこの時間はめっちゃ忙しそうっすね! 手が空くころにまた――」 「コウヘイ、何なら俺らも海の家を手伝わせてもらおうぜ?」 「おう、手を貸してくれるってか? そいつぁ有難ぇ! 猫の手も借りたいくらいだったしな! 出来上がったメニューを運ぶだけでも大助かりだ!」 フウガさんにそう言われればユウヤの提案を共に実行するしかない。 せめてピークの時間が終わるまでは、と俺とユウヤは必死に焼きそばやかき氷やドリンクを注文した客に提供しまくった。 ――そして3時間後。 ようやく客足が落ち着きを見せてくれた頃、俺とユウヤは海の家の奥、例のバックヤードに誘われた。 「ありがとうな! 超助かった! バイト代の代わりと言っちゃなんだがなんでも好きなモン食べてってくれ!」 ニコニコ顔のフウガさん。セックスが始まったらあんなにねっとりとしたセクシーさを見せつける人なのに今は別人のように朗らかだ。 「二人とも優秀だな! 一度も間違えずにお客の所へ運んでくれてさ! もうずっとここで働いて欲しいくらいだ!」 カイルさんがハグする勢いで俺らを褒める。このかっこいい人もセックスの時にはあんなにチンポを求めてよがり狂うんだから、人って一見しただけじゃ分からないもんだ。 「でも、さすがに疲れただろ? 目まぐるしくて気分が悪くなってやしないか? 助かったのはマジで助かったけど」 相変わらずやさしいダイチさん。だけど、この人もセックスがいざ始まったら猛獣のようにチンポにがっつき快楽を追い求めるんだから、裏表がないようで一番あるのかも知れないな。 「頂いた『マランガ』なんすけど――」 『マランガ』と口にした途端、場の空気が変わった。 どこが、どう、とは表現しにくいんだけど、明るい日差しの下から急に室内に入った時の、眼が暗さに慣れていなくて一瞬だけど何も見えなくなった時のような。 「実はもう頂いた『マランガ』を全部使ってしまって、それで、その、まだ海の家にあるのなら買わせて欲しいな、なんて」 「俺がコウヘイに頼んだんです。買えるかどうかは分からないけど値段くらい聞いてもいいんじゃないか、って」 言い終えた瞬間、張り詰めていた何かがフッと切れたような気がした。 「なんだ。そう言う事だったか」 「深刻な顔してたから問題でもあったのかと思った」 「その程度の事なら電話で聞いてくれても良かったんだぜ?」 そうだ。ダイチさんたちとはアドレスも電話番号も交換していたんだ。 指摘されるまですっかり忘れてた。それだけ『マランガ』の事で頭がいっぱいいっぱいだったんだな。 「でもまぁ、こうやってわざわざ聞きに来てくれたんだ。質問にはしっかり答えてやるさ」 フウガさんがどこからか一本の『マランガ』を持って来ていた。 緑色の茄子のような、並みのチンポよりも立派なサイズのズッキーニのような不思議な果実を。 「だよな。せっかくだしこの後、俺らとヤる? ヤるよな? 二人とも時間はあるんだろ?」 貪欲なカイルさんらしいストレートなお誘いに俺もユウヤもぷっと噴き出す。 「待て待て。先にコウヘイたちの質問に答えてから、だろ?」 せわしいカイルさんを押し留めるようにダイチさんが待ったをかけた。 それからフウガさんがゆったりと答えを俺たちに伝えた。 「まず『マランガ』は――」 俺もユウヤも固唾を飲んで次の言葉を待った。 「『マランガ』には値段が無い。値付けできないって言うべきか? 要するに非売品なんだ」 「非売品、すか」 「そうだ。売りモノじゃない。タダで譲る事はあっても販売はしていないんだ」 俺もユウヤも斜め上な回答にガッカリしてしまった。 非売品だったとは思ってもみなかった訳で。 「まぁ、そんなに落ち込むなよ。言った通り欲しけりゃ譲る事はできるからさ。金を出して買いたくなるほど『マランガ』が気に入ったんなら今回も持って帰ればいいだろう?」 フウガさんは親切でそう言ってくれてるんだろうけど、どれだけ遠慮なくたくさん持ち帰ったとしてもいつかは使い切って無くなる訳で。 その都度また海の家にねだりにくるなんて図々しいを越えてもはや寄生虫にでもなったみたいな気持ちになる。 そして、今年のシーズンが、暑い夏が終われば海の家は来年の夏まで……。 「ははっ、コウヘイもユウヤも凄ぇ不満みてぇだな。タダより高いものは無し、って感じか? つか、非売品の 『マランガ』をどうして買いたいとまで思ったんだ? そこらへん俺らにも話せるんなら話してくれないか?」 ダイチさんはやっぱりやさしい。 俺やユウヤのプライドに対してもこうして慮って聞こうとしてくれるし。 俺はユウヤを見た。 ユウヤは俺を見てからうなずいた。 よし、ここからは俺やユウヤの本心を聞いてもらおう。『マランガ』そのものも欲しいけど、『マランガ』から得られる効果がこそが欲しいのだと。 一つ、こんなガリガリ(でぶでぶ)のカラダは我慢ならないって事。 一つ、男同士のセックスには抵抗どころかすっかりハマってしまっている事。 一つ、なかでもダイチさんやカイルさん、フウガさんみたいなマッチョな男に興奮を覚える事。 一つ、『マランガ』でのオナニーも最高だけど、アナルセックスの方がより深い満足感を得られる事。 「今のカラダを捨てて新しい自分になりたい、か」 「分かる。その気持ち、痛いほどよく分かる」 「なるほど。コウヘイもユウヤも、よく俺たちに話してくれた」 フウガさん、カイルさん、ダイチさんがうんうんと目語し合っている。 どういう審議なのかは分からないけど、一つの結論が出るまでは俺もユウヤもまな板の鯉。おとなしく待つしかない。 ほどなく最終判断が俺らに伝えられた。 「二人とも『マランガ』そのものよりも、『マランガ』の効果を永続的に得たい、ってことだったな?」 「その通りっす」 ダイチさんが少し次の言葉を言い淀んだ。 「だとすると、俺たちと同じ存在になるしかない。だが、そうなると二度と元には戻れないんだ」 「俺は別に良いと思うがな。望むガタイを手に入れられて今まで以上にキモチ良くなれんだしよ」 フウガさんの意見にカイルさんも賛成した。 「俺は6割はフウガと同じ意見。残り4割は反対ってよりかは懸念? みたいな」 「懸念ってなんすか?」 「俺らの秘密を守ってくれるか、って懸念だね」 マジな顔のカイルさんにドキッとしてしまう。そっか、三人に共通する秘密にかかわる事なのか。 「引き返すなら今だ。俺たちと同じ存在になると言う事は俺たちの秘密を知ると言う事と同じだからな」 ダイチさんが澄んだ目で俺とユウヤを見つめる。 これはどういう感情を示しているのだろうか? 期待のような苦渋のような。いつも裏表のないダイチさんから初めて汲み取れないモノを感じた。 「俺は、みんなと同じになりたい! 秘密は絶対に守ります!」 ユウヤが一歩前に出た。 「そうっすね。どんな秘密なのかは分かりませんが、『マランガ』でマッチョになれたみたいに俺もダイチさん、 カイルさん、そしてフウガさんみたいなカラダでいられるのなら後悔はありません。それと、秘密はもちろん誰にも言いません。 いつまでも皆さんみたいなエロマッチョでいられるんなら、俺もそうなりたい!」 「……コウヘイ、ユウヤ、二人の覚悟、しかと受け止めた。なら善は急げだ。店の営業が終わったら二人を俺たちの仲間に迎え入れる。それで異論はないよな? カイル、ダイチも」 「秘密を守ると言ってくれた以上、俺は大歓迎」カイルさんが破顔した。 「こうもきっぱり断言されたら俺も賛成するほかないな」 ダイチさんが俺とユウヤの肩に手を置いてまっすぐな目でもう一度同じことを聞いた。 「半端な覚悟じゃないのは分かった。だが、マジでこの先は元に戻れない不可逆の領域だ。それでも踏み込むか?」 俺とユウヤもダイチさんの目をまっすぐ見返して「お願いします!」と告げた。

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