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鷹取リュウゴ
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帰国した友達が妖怪「マラ食い」になっていた件について 第一話

1俺と帰って来た親友と噂の話  大学卒業と同時に「海外で人間力を鍛える」なんて言って日本から旅立った親友の一人が3年ぶりに帰国した。 連絡を受けた俺や特に仲の良かったダチが友の帰還を祝おうってんで久しぶりに集まることになった。 予約していた居酒屋に入り店員から半個室の席に案内されるとすでにダチどもが座って雑談に興じていた。 「悪い! 遅れちまった!」 「お! きたきた! 別にリクは謝る必要なんか無いぞ? 俺らが早く来ただけだからな」 「お前らとも一年ぶりだけどツバサとは3年ぶりだろ? だから気合が入っちまったんだよな!」 4人掛けのテーブルを挟んで向かって右の席のジャケットの胸ポケットにグラサンを忍ばせチャラ目に気取ったスリムな奴がユウマ。 そしてユウマの向かい側、向かって左側に座っている体格のごつい柔道家のような短髪男はヒロキ。 学生の時は逆だったのにいつのまにか雰囲気も体型も反対になっている。社会に出て3年も経てば変わるもんなんだな。 と、言いながら俺自身はほとんど学生時代と変わりない。 「んで? ツバサは?」 ヒロキの隣の空いた席に座ってスマホの時計を見れば、丁度約束の集合時間を示していた。 「まだ、みたいだな」 ひと目で分かる事を敢えて聞く愚を犯す。 「アイツにしちゃ珍しいな。遅れるんなら先に連絡の一つも寄越して来そうなのにな」 全員の視線がユウマの横の空席に集まる。 ツバサの帰国を祝うためなのに、当の本人が居ないと何も始まらない。 「……どうする? もうしばらく待っておくか? それとも少しずつ始めるか?」 料理はともかく軽くビールでも頼むか? とのニュアンスで聞いてみた。 「まぁ、そうだなぁ。咽喉も乾いてるしちびちびおっぱじめてもいいが……」 と言うヒロキに対し、 「この前帰国したばっかで何かと手こずってるんだろ? メインのゲストが来るまでは待っててやろうぜ?」 ユウマはまだ来ていないツバサを気遣ってそう言った。 見た目はチャラくなっても中身は変わっていない。思いやりのあるユウマに俺も賛成した。 「でも念のため無事に到着しそうかくらいは確認しておくか」 ポケットに戻したスマホを再び取り出しメッセージを打ち込む。 「ゴメン! 待たせた!」 送信ボタンを押す寸前で飛び込んで来た奴が海外から戻って来た我らが親友・ツバサだった。 ダボッとした黒Tシャツにデニムのオーバーオールと使いこまれたショルダーバッグ。 顔や手首がこんがり小麦色に日焼けしている以外、体格や顔立ちなんかのベースは旅立つ前に見た時と同じ。 なのに「男っぽさ」がぐっと増している。 そう、肌の色以外3年前と変わりないのに何故かドキッとしてしまうくらい「雄臭く、逞しく」なっていた。 ◇  「んじゃぁ! ツバサの凱旋を祝ってカンパイッ!」 「かんぱーい!」 「かんぱい~!」 音頭を取るヒロキのジョッキに照れくさそうなツバサもユウマも、掲げたジョッキを軽く当てていく。 まずは咽喉の渇きを癒すべくたっぷりと冷たいものを流し込む。 ヒロキは一気に飲み干しすぐに追加のビールを注文。ついでに食事の準備も進めてもらう。 季節的には合わないけどテーブルの中央にあるコンロには土鍋がセットされた。 「半袖でも良い季節に鍋料理ってのも乙なもんだ」 皮肉かどうか分かりにくいヒロキのコメントを聞いているとツバサが通りかかった店員にお代わりのビールを頼んでいた。 「ツバサ~? そんなの俺が注文してやるって! 今日はお前の帰国と再会を祝う会でお前がメインなんだから俺たちに遠慮せずばんばん頼ってくれよな!」 「そうだそうだ。企画立案者のリクが率先してツバサをもてなしてやらないとな!」 ユウマの軽口に皆が笑っていると肉や野菜といった鍋の具材が運ばれ、コンロにも火が点けられた。 下がろうとする店員さんにツバサは3杯目のビールを頼んだ。 「え!? ちょ! ツバサ! 飲みのペース早くね?」 思い起こせばこの4人の中では一番酒には弱かったのに、3年かけて強くなったのか? 「あ~、早いか? じゃぁ、少しペースダウンしておこう。しかし、このカラダではいくら飲んでも酔いつぶれる事はないんだが……」 「海外ですっかり酒にお強くなられたようで! さぁ、どこをまわって来たのか色々聞かせてくれよ!」 ユウマが肘を当てて3年間の武者修行についての報告を求めた。 「おお、俺も聞きてぇ。いきなり『海外で鍛えてくる!』みたいな事言って飛び出してったろ? 俺らの中じゃ一番冒険しなさそうなツバサが、だ。 なのに、そんな風に日本を出て行っちまったから、こっちが知らないだけで深ぇ悩みでも抱えてたのか? って、当時はマジで心配してたんだぞ?」 「確かにそうだったな。でも、たまにだけどメッセージが届いて安心したな。ああ、ちゃんと遠い場所に行っちまっても頑張れているんだってのが分かってさ」 「暑い」とか「寒い」、だけでどこに居るのすら書いてないメッセージが3か月か半年に一回、忘れた頃に届いていた。 だが、そんな素っ気ない生存報告であっても大いにホッとしたものだ。 それなのに、直近の一年弱はメッセージも何も無かったので不安に思っていたところだった。 ヒロキと俺の言葉を聞いて照れ臭そうにしていたツバサが少しずつ海外で体験してきたことを語り始めた。 南米のコーヒー農園で一年ほど働いてからニュージーランドの牧場に半年。 次は中東のホテルで半年。大富豪たちの金銭感覚や桁違いの金払いの良さに呆然としながらアフリカの最貧国に渡ってみれば、ここが同じ星、同じ時代なのかと目を疑い愕然としてしまう。 ツバサは自身の無力さを痛感しながら勃発した内戦を避けるため3か月ほどでアフリカを離れ、高い山々に囲まれた中央アジアの国に入った。 「――それで、その国の首都からかなり離れた奥地の村で、ヤギや羊の世話と畑仕事の手伝いをしていた。独特の伝統文化が残っていて仕事はきつかったけど楽しかったな」 言葉の壁もある筈なのに「楽しかった」と笑い飛ばすツバサ。逞しいと感じて当然だな。 「それにしても無事に帰国できて本当に良かった。聞けば治安の悪い地域にも行ってたみたいだから余計に安心したぜ」 「俺だったら鍛えるどころかポッキリ折れて、すぐに逃げ帰ってるだろうな」 ヒロキとユウマの素直な感想にツバサは「意外と行き当たりばったりでもなんとかなる」なんて、穏やかに返している。 「俺ばかりじゃなくてそっちはどうだった?」 水を向けられた俺は「相変わらず職場と家との往復だけ。変わり映えなく頑張っているさ」と答えた。 「ヒロキは実家の家業を継ぐ修行をしてるんだろ?」 ヒロキの実家は街の不動産屋を営んでいる。 「まぁな。地元に密着し過ぎて御用聞きみたいなことばっかやらされてるがな。やれ『棚が外れたから直してくれ』だとか、 やれ『冷蔵庫の下に潜り込んだお金を取ってくれ』とか。 親父曰く『そういう些細な事をこなしてこそ家主からも借主からも信頼されるんだ。だから嫌がらずに引き受けて来い』 って」 「ユウマは? 確か勤め先は有名な物流会社だったよな?」 鍋から引きあげた豆腐を自分の小皿に移していたユウマは手を止めてツバサの方に顔を向けた。 「そうだな、知名度はあるけど本社と現場じゃ大違いだ。本社勤務の連中は貴族みたいにふんぞり返って偉そうにしてるだけ。 現場は相変わらず人手不足でてんやわんや。入社してはみたもののこの先ずっとやっていけるのか、ってばっか考えちまう」 「むむ、なかなか大変そうだ……」 「俺なんかはまだマシな方。ひたすら顧客対応をやっていればいいだけだから。思いつきで余計な仕事を頼んで来る本社の連中と現場のドライバーからの文句を聞かなきゃなんねぇ課長クラスこそ俺ら下っ端から見ても可哀相なもんさ」 「よし、耐えられなくなったらウチの不動産屋を手伝え。ま、俺と同じ御用聞きからのスタートになるが俺と一緒なら楽しいだろう?」 ヒロキの優しい? 救いの手にユウマは苦笑いで返した。 「んだよ、それ。変な冗談はよせよ」  俺らの近況と言う名の愚痴を交えつつ、ツバサの冒険譚を肴にした楽しい時間はあっという間に過ぎ、2次会のために探しておいたバーへ移動。 すでに酒が入っているせいか、よりディープな部分の話題もテーブルに上る。 「で? ツバサは海外で女とエッチしてきたのか?」 ヒロキの質問があまりにストレート過ぎて聞かれた当人でも無いのに口に含んだものを噴きそうになってしまった。 「エッチは、まぁ、ヤったと言えばヤった、……かな?」 「この野郎、俺らに気遣って謙遜しやがって。まぁ、ツバサみたいなイケメンなら女が放っておかないだろうな。 ったく、マジで羨ましいぜ」 「ヒロキは右手が恋人だもんな」 「うっせ! もうちょっとオブラートに包んでから言えよ! つうかお前も一緒だろうが!」 ヒロキにツッコミを入れたら返す刀でユウマも切られている。 「ああ、そうか。ヒロキとユウマ、お互いの右手で、って意味か」 「ち! ちち、違うぞー!」 「全っ然、違うぞー!」 二人からの同時ツッコミにきょとんとしているツバサ。 なんでそんな発想になるのか。 「おい~? 一人だけのほほんとしてやがるがリクこそどうなんだ? こんな時くらいはぶっちゃけて話して欲しいもんだ」 ユウマの視線が俺を射抜く。 「俺? 俺はまぁ、う~ん、今のところ気になる相手もいないし、仕事だけで手いっぱいで余裕なんてないから、何にも考えてなかったな」 「いやいや。考えなくたって溜るもんは溜るだろ? ずっと一人で処理してんのか?」 「そりゃぁ風俗に行って処理してるさ。よほど溜まった時にはな」 「は?」 「ふう、ぞく?」 「えっ? リクが?」 ヒロキもユウマも、そしてツバサまでも目を見開いて固まってやがる。そんな引くほどの発言だったか? 「……い、意外。リクって風俗行くのか」 「そういう店に縁遠いっつうか、なんとなく嫌ってるとばかり思ってたが……」 「んだよ、それ。俺は別に潔癖でも何でもないし、オナニーで我慢できなきゃ風俗くらい利用するっての。 おいツバサも、いつまでもジロジロ見んなよな。浮気してる訳じゃないんだし別に悪くはないだろう?」 ツバサがハッとして目を瞬いた。 「いや……、リクにもちゃんと性欲があったんだな~、って。昔のリクって下ネタ自体そんなに好きじゃなかっただろ? 俺もノリの良い方じゃなかったけど、リクの口から風俗とかオナニーとか、すんげぇ新鮮でビックリした」 「いやいや。下ネタへの耐性とか上手い返しが思いつかなかっただけで嫌いじゃないし。仕事が忙しくたって欠かさずオナニーくらいはやる程度に俺だってエロいから」 どうしてダチ相手に「自分もエロい」と主張しなくてはならないのか。 「はいはい。お前ら、酒の勢いに任せて余計な事まで喋らせようとすんな。ああ、そういやツバサ、住まいはどうしてんだ? 日本に戻ってからそこそこ経ってんだろ?」 帰国したと第一報が届いてから2週間は経っている。 「う~わ、これほどあからさまな話題ずらしなんて初めて見たぜ」 「俺も。このマイペースさ、見習いたいもんだ」 取りあえずヒロキとユウマは放っておいてツバサの答えを待つ。 「あ~、……まぁ、ちゃんとした物件を探してる最中、ってトコだな」 「なら今はホテル住まいか」 「そう。格安のホテルで寝泊まりしてる」 「む、物件探しか? だったら俺の出番だな」 ヒロキが身を乗り出した。 「そうだな。俺の希望に合いそうな物件があったら紹介してくれ」 「引越しで荷物があるんなら俺に声を掛けてくれ。格安でトラックを回してやるから」 ユウマの物流会社って引越し部門もあるもんな。 「ありがとう。でも、荷物自体は多くないから。気持ちだけ受け取っておくな」 「どこのなんて言うホテルで寝泊まりしてんだ?」 もしツバサが酔いつぶれたらその宿までタクシーを手配してやるか、直々に送ってやるつもりで聞いてみた。 何せ二次会のバーに入ってからも相当な量を飲んでいるからだ。 顔はちっとも赤くなっちゃいないが見た目だけでは判断できない。 「沼堀町の沼堀会館って宿だ」 「聞いた事無いな」 場所も宿も頭の中に出てこない。 「まぁ、少々特殊な宿だからなぁ」 「特殊?」 「格安で、素泊まり専用で、知っている者しか利用しない」 聞きながら俺は、建設現場なんかで別のエリアから派遣された作業員が寝るための旅館をイメージしていた。 この前の東京オリンピックの建設特需の時は安い宿から埋まっていってどこも満室になっていた、なんてニュースが流れていた事も思い出していた。 「沼堀町って泥船運河沿いの沼堀町か?」 「そうそう。そこだ」 ヒロキに言われてようやくエリアをイメージできた。泥船運河は港にほど近い場所で純然たる工業地帯だ。 ただ、稼働している工場の数は今やぐっと減ってしまって随分と寂しくなったとも聞いている。 「そうだ、思い出した……。泥船運河や沼堀町って言や最近妙な噂が流れてるんだよな」 「妙な噂?」 ユウマが眉を寄せ手元のグラスをじっと見つめた。 「ああ。ただのデマカセに決まっているんだが、あの辺りに深夜行くとな、大事なイチモツが無くなっちまうってな噂」 「は? 無くなる?」 「イチモツ? チンポが、か?」 「な? バカバカしいだろ? 河童が尻子玉を抜いちまうって民話の亜種でしかない」 「う~ん、確かにそうだなぁ」 俺もヒロキと一緒にうなずいた。 「元ネタがあるのかも知れないけど、マジでチンポが消えるなら恐ろしすぎる。もっと大騒ぎになっていてもおかしくない」 「そう。リクの言う通り大騒ぎにはなっていない。なのでただの噂。ガセネタだと俺も思う。だが、泥船運河沿いはここいらで一番治安が良くない事で有名だろ? だからなツバサ。いくら安宿でフトコロにやさしいとは言え十分気を付けてくれよ? できれば別のエリアのホテルか、ちゃんとした住まいを見つけて欲しいぜ」 「……分かった。気を付ける。まぁ、俺だけは大丈夫だけど……」

帰国した友達が妖怪「マラ食い」になっていた件について 第一話

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