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鷹取リュウゴ
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秘密の男娼サブスクリプション 5

別の場所、別の時間。 都心を走る一台のタクシーの中で客として乗った男は奇妙な感覚を味わっていた。 カラダが中から犯されている。 指先からじわじわ透明になりゼリーのように柔らかくなっていく。 タクシーの運転手は後部座席の客を見て唇をニヤリと歪める。 「私があなたを新たな存在に。私と同じ『ヴァンキッシャー』にしてあげます。 究極の快感を味わえる素晴らしいカラダに」 走るタクシーは融け行く獲物を乗せたまま海沿いへ。 化学工場を隠れ蓑にしている秘密の地下研究所へと降りて行く。 「仕上げはここでボス自ら行ってもらいます。でないとアナタ、本物のモンスターになってしまいますからねぇ」 ****** 5クレイジーナイトタクシー[コーディネーター]・トウヤ  「こんな時間まで残業ですか? お疲れ様です。それで、どちらまで?」 深夜のオフィス街にて一台のタクシーが停車した。 呼び止めた客を後部シートに迎え入れたタクシーは、目的地を告げられると車両の表示を「空車」から「賃走」へと切り替えた。 FMラジオから流行りのJーPOPが流れる車内。 中年のタクシードライバーはルームミラー越しに酷くぐったりとした若い男性客に心配の声を掛けた。 「お客さん大丈夫ですか? ただ疲れたにしちゃなんだか……」 乗客は、最初は言い淀んでいたものの、しばらくすると堰を切ったように身の上を話し始めた。 「……なるほどねぇ。そうですか……。婚約していた女性が実は上司の愛人で、しかも子持ちの既婚者だった、とは」 「俺は、……俺はとんだ馬鹿だ。アイツにとっちゃただの火遊び、それも上司のクソ野郎の『ついで』、オマケでしかなかった」 「ひどいもんです」 「頑張って仕事をしてきたのもアイツと結婚するためだった。ブランドのバッグも服も、可能な限り買ってやった。精一杯、俺、頑張ったんだ……、なのに、なのに畜生っ! 畜生ぉ~!」 魂の咆哮を放った男性客は、直後、意を決したように顔を上げた。 「……運転手さん、悪いが行き先を変えてくれ」 「どちらへ?」 「不帰岬(かえらずみさき)まで」 タクシードライバーは瞬時に察した。 この男性客は岬の断崖から飛び下りて死ぬ気だ、と。 「お待ちなさい」 タクシーを路肩に停めたドライバーはハザードランプを点灯させると料金メーターを止めた。 後部シートの乗客はピクリとも顔を上げなかったがドライバーはそのまま言葉を続けた。 「お客さん、見たところまだお若い。これからが人生の華でしょうに。悪い事は言わない。その手段だけはおやめなさい」 乗客は顔を上げすに「もう、どうだっていいんだよ……」と小さく呻いた。 そして、タクシードライバーの反応を待たず苦いものを吐くように言葉を口から押し出した。 「……やっと残業を終えて、帰るためにオフィスから出ようとしたんだ。そうしたら、普段は使われてない予備室のドアから幽かに光がこぼれてた。 誰かが中途半端に電気を消し忘れて常夜灯がつきっぱなしなんだろうと思って、……だから最後まで残ってた俺はその電気を完全に消しておこう予備室に入った」 男の目に怒りと困惑と、そして恐怖に似た嘆きの色が浮かんだ。 「ドアを開けた俺の目に飛び込んだのは、ア、アイツと、クソ上司とが裸になって、重なって、クソ上司の股の上で腰を振っているアイツの、あの女の、姿だった……」 「なんと……」 「俺はまるで悪人扱いだった。アイツの悲鳴でクソ上司は顔を真っ赤にして俺を怒鳴った。そして、……そして、『お前が結婚を望んだ女の正体を教えてやろうか? ああん?』と、臭い息を俺に吹き掛けた。 アイツは……、『ヤだ、部長。〇〇君怖がってるじゃない。でも、見られちゃったのなら仕方ないわね。今まで色々と貢いでくれて助かったわ。 〇〇君からもらったバッグや洋服はすぐにお金に換えて旦那や子供たちのためにありがたく使わせてもらってたの。 大した金額にはならなかったけど感謝してる。それじゃぁ、バイバイ。私たちの事を訴えようとしても無駄だから。 ね~え? 部長、そうでしょう~?』って言って、部長のチンポを、チンポをしゃぶりやがった」 「醜悪ですな……、ただただ、人として醜い」 「部長は部長で『この女の正体を見抜けなかったお前が阿呆だったんだぜ? 俺はちゃあんと知った上でコイツと愉しんでいる。それもコイツの亭主が承知の上で、だ。 だからお前が余計なコトを言おうもんなら、俺も、コイツの家族も、お前こそコイツをレイプするため狙っていたセクハラ野郎として訴えてやる。 証拠ならいくらでもあるぜ? 俺だけじゃねぇ、この職場の全員が証言してくれるだろう。お前がコイツに一方的に言い寄っていた、とな。 どうだ? それでも歯向かってみるか? ぎゃはははは!』って、勝ち誇ったように俺を見据えてやがった……」 「聞くに堪えないですな。酷過ぎてもはや言葉もありませんが、お客さん、せめて一矢報いたいとは?」 後部座席にて肩を丸める若い男は首を左右に振った。 「無理だ……。クソ上司の言う通りアイツをどうにかしようと思っても、状況証拠は俺に不利なモノばかり。俺はアイツに熱心にアタックしていたからな。バカみたいに猛烈にアピールしていた。 それが全てセクハラだと扱われる。それと、上司もアイツの家族もグルだったのなら、俺はもう、どうにもできねぇ……」 一呼吸置いた若い男は「ははっ、間抜け過ぎて涙も出ねぇ、死ぬしかねぇよ俺なんか」と呟いた。 タクシードライバーはカラダをずらして後ろを振り向いた。 「人はいずれ死にます。放っておいてもどうせ死にます。だから、こうすべきだ、なんて偉そうな事は言いたくありませんが、今すぐ人生を終える前に、もう少し楽しい事、気持ちイイ事を味わってみませんか?」 若い男性客は答えない。 むしろ「何が言いたいのか?」と疑いの目を向けている。 「お客さん、その、女性とのセックスは?」 あまりにも不躾な質問だな、と思った男は無言を貫いた。 「これは失礼。いえ、その方とセックスしていようがいまいが関係は無いのですが、普通のセックスよりも遥かにキモチイイ事を味わってみたいとは思いませんか?」 「……はぁ?」 男の目はさらに疑いの色を濃くした。 「実は私、タクシーの運転手が本業ではありますが別の仕事、つまり副業もさせて頂いているのです」 この会話にいったい何の意味があるのだ? と言わんばかりに男は「それが?」と答えた。 「はい。その副業にて性的なサービスを提供しておりまして、どうせ死ぬ気なのでしたら人間では無くなってしまう程の快楽を味わってからでも遅くはない、と思うのですよ」 「は? アンタ、副業で風俗やってんの? 今からソープ嬢でも紹介しようって肚か? やめてくれよ! 俺はもう女はこりごりだ! 二度と関わりたくねぇ! 見たくもねぇし触りたくもねぇよ!」 「であれば、男同士だけの世界になりますねぇ。いえ、むしろ男同士のほうが良いものです。快楽のツボをお互い心得た状態でとことん気持ち良くなれるのですから」 「何言ってんだよアンタ。男同士? 意味分かんねぇよ。もう、気持ち悪ぃ話は止めてさっさと不帰岬に向かってくれ。 俺はとっとこの世とおさらばしたいんだ。だからいい加減にしろよ!」 苛立った若い男性客は運転席の背もたれをドンッと蹴飛ばした。 「意味が分からない、ですか? そんなに勃起してらっしゃるのに?」 「……え?」 男は自身の股間を見下ろした。 確かにドライバーの言う通り内包する男のシンボルによってスラックスをこれでもか! と押し上げている。 何故だ? どうして勃起なんかしている? 今、俺は何を考えている? さっきからの会話の中にエロく興奮するような要素なんかあったか? ――男は混乱した。 社内の予備室で味わった修羅場と同じくらい混乱した。 「お客様のニオイ、スライム細胞が適合しそうなんですよねぇ。だから、死ぬなんて止めて我々の仲間に、『ヴァンキッシャー』になって快楽をもっと味わってみませんか?  手前味噌な物言いですけど、お客様、実にラッキーです。人間をスライム人間『ヴァンキッシャー』に改造できるマザースライム細胞、 その細胞を体内に宿しているのは私のように特別に選ばれたコーディネーターだけなのですから」 男は背筋がゾクリと粟だった。 直感でタクシードライバーが常人ではないと感じ取っていた。 ヤバイ、タクシーに乗っていてはいけない。すぐに車の外へ逃げるべきだ。早く脱出しなくては。 死を望む男の心に死の恐怖が拡がった。 今しがたこの世に未練など無いと思っていた心に猛烈な生への執着が湧き起こった。 若い男は無我夢中でタクシーのドアを開け車の外に出ようともがいた。しかしロックは外れずドアはまるで動かない。 気付けば男の足や腕に何本ものシートベルトがズルズルと伸びて来たかと思うとカラダに巻き付いて身動きが取れなくなった。 必死にそのシートベルトを外そうとしたものの、男の視界の中でベルトだったもモノは透明になりグニャァと輪郭を滲ませゼリーのような物質に変わってしまった。 「くっそ! な、んだよっ! これぇっ! 離せっ! おいこらっ! この奇妙なモノを外しやがれっ!」 「すみませんねぇ。この車も大事な商売道具だもんで、傷つけられるのは勘弁願いたいのです。それと、お客さんがおっしゃった『奇妙なモノ』とは私のカラダの一部ですので、あまり乱暴に扱わないで下さい」 「か、カラダの? 一部!?」 足や腕だけではなく胴体にも蔓のように細長いゼリーが這いまわり、男をどんどん拘束していく。 見た感じ柔らかそうなのにいくら力を込めてもまったく引き千切れない。 「はい。この車内は私のカラダ、ボディそのものなんです」 ドライバーが座っているシートがドロリと溶けてドライバーの中に吸収された。 「ひぃぃ! どうなってんだよぉぉーーーっ!?」 「そういう言い方も止めて下さい。失礼じゃありませんか? 確かに私は人間では無く『スライム人間』ですが、それでも、精神の在り様は人間だと思っているのですよ?」 ドライバーの「カタチ」が頭からドロリと崩れ、ひと塊の透明なスライムと化した。 「ぎえぇぇ!? バケモン!? い、やだぁぁぁああっ! 死にたかねぇぇーーーっ! 殺さないでくれぇぇっ! た、助けてくれぇえーーーーーっ!」 「先ほどとおっしゃってる事が真逆じゃありませんか。それと、死ぬことはありません、安心なさい。スライム細胞が適合しなければあなたの記憶を消すだけです」 男はドライバーが変化した透明なスライムの中に丸ごと飲み込まれた。 耳からも目からも、鼻からも口からもスライムが男の内部に侵入する。もちろん肛門からも、尿道も、穴と言う穴からドロドロと入り込む。 すると、あれほど恐怖に怯えていた精神の中に心地よさが生まれ、それはたちまち性的快感となって男のカラダを満たしていった。 (はひぃぃ! きもちぃぃぃ! スライムに犯されてるのにっ! ヤベェのに! ダメだぁっ! なんも考えられねぇっ! マジ気持ちィィィーーーーッ!) ドビュル! と男のペニスから絶頂の証が放出された。 スライム塊の中に漂う男のソレはただちに吸収されスライムの滋養と化した。 「ごちそう様です。中々いい味でした。本当は全身を包み込む必要など無いのですが、お客様ったら私のカラダ(車内)に乱暴をされるものですから、敢えてこのようにさせて頂きました。 大人しくしてくださっていれば私が持っているマザースライム細胞を体内のどこかに植え付けるだけでおしまいなのです」 そう告げたスライム塊は男のアナルとペニス奥、そして、脳の中にもマザースライム細胞をズビュルとぶちまけた。 「あ゛が!? ぐぁあっ?」 瞬間、男は意識を失い、全身の力が抜けた。 「はい。これでおしまい。ちゃんと適合して定着すればお客様も我々の仲間、スライム人間『ヴァンキッシャー』です」 ドロドロと蠢くスライム塊が男のカラダを吐き出しそうっと後部シートに横たえた。 そして、運転席に戻って人のカタチ、衣服を身に付けたタクシードライバーの姿になると、料金メーターをゼロにリセットし、「賃走」から「回送」の表示へと切り替えた。 ハザードランプを落とし発進しようとしたドライバーが後部シートをチラリと見れば、髪や手足のつま先が透明なゼリーへと置き換わっていく若い男が目に入った。 「私の目に間違いはなかったようですね。ふふ、あと一時間もすれば君も立派なスライム人間になれます。 さて、お次は君が望むカタチを固定できるようボスからナノマシンを投与してもらわないといけませんね」 ◇  人通りの絶えた午前2時の大通り。 都心から海沿いの埋立地へ向け一台のタクシーが走り抜ける。 行き先は秘密の地下研究所。 「好奇心」と「革新」を謳う先端科学と生物進化の実験場。 ベイブリッジを越えた先のコンビナート。その中の、まるでただの化学工場に擬装した建物から地下へと降りて行く。 カーナビのマップでは海の底にて地点表示が点滅している。 「さ、到着しましたよ。君も降りて下さい」 ドライバーが後部ドアを開けた。だが、誰も降りては来ない。 内部を覗けばヒトの輪郭を失った透明なスライムがシートの上でモゾモゾと蠢き、時折ブブブブ、ビクッ! と震えている。 「新しく生まれ変わったカラダが気持ち良いものですからそうやって自慰行為に耽るのも分かりますけど、ボスにはもう連絡してあるのです。 なので、そろそろ自慰をやめてヒトのカタチになってもらえませんかねぇ?」 「……んなの知るかよ。こんな、こんな気持ちいいカラダにしやがって。オナニーくらい自由にやらせろ」 蠢くスライムがそう言うと、タクシードライバーは「やれやれ」と肩をすくめた。 「仕方ありませんね」 再びタクシードライバーは中年の男からスライムへと変化し、後部シートで駄々をこねる「仕上がったばかり」のもう一体を飲み込んだ。 その後、合体した二体のスライムは金髪ソフトモヒカンの髪に褐色の肌色をしたエロティックボディビルダーの姿になった。 それはタクシードライバーが『ヴァンキッシャー』としてサブスクリプションサービスの提供時に取る「もう一つの」カタチである。 「うだうだ言ってねぇでさっさとボスに会おうぜ? でないと、元のカタチを思い出せなくなっちまうしな」 腹の内側に向けて褐色ボディビルダーは続けてこう言った。 「お前だってもっと気持ち良くなりたいだろう? 男どもととことん快楽を味わい尽くしたいだろう? だったらサクッとナノマシンを注入してもらおうぜ?  アレを一発キメりゃぁ、お前だって俺みたいなエロマッチョにも、デカマラ野郎にも、渋いイケオジにも美少年にだって望み通りの見た目に変身した上で固定できんだしな」 金髪エロマッチョの体内で別の男の声が響いた。 (……もしも、ナノマシンって奴を拒否したらどうなる?) 「人間の意識も記憶もやがて消えちまう。そうなりゃお前はスライム人間じゃなくただのモンスターの『スライム』だ。 だが、そうはさせねぇ。『ヴァンキッシャー』としての快楽を知る事無く消えるなんざ俺がさせねぇから。 だから安心しな。お前はこれからいろんな快楽を味わって幸せに暮らすんだ。俺だって最悪の状況からこんなにも素晴らしい日々を過ごせるようになったんだ」 (アンタも、スライム人間になる前は、酷い生活だったのか……) 「……お前、やさしいな。お人好しレベルかよ。あんなに死ぬ気満々で騒いでやがったくせに、俺がちらっと過去を仄めかしたらもう同情してくれるなんてなぁ」 (う、うるせ……、そんなんじゃねーっての) 「照れるなって。褒めてるんだからよ。ま、とりあえず悪いようにはならねぇから心配はいらねぇ。ナノマシンだって痛かねーし。初っ端ちょいと熱く感じる程度だ。 気付いたらお前は力まずに元の人間のカタチに成れる上に、お前が理想とするイケてる別の姿へも変身できる。 もちろん俺みたくスライムとしての能力もほどよく使える上でだ。マジで損はない。良いこと尽くめだからよ」 (ハナシがうま過ぎて返って怪しいんだけど?) 「て、てめ! こんだけ俺が懇切丁寧に説明してやってるってのに!」 『お~い、トウヤー、それとトウヤに混ざってるもう一体の君~! もう待ちくたびれたから処置させてくんない~?』 声に振り向けば朗らかな笑みを湛えた白衣の青年が立っていた。 トウヤとはもちろんタクシードライバーが変身したスライム人間『ヴァンキッシャー』を指している。 「ボス! すまねぇ! こいつが妙にうだうだしちまって」 「大丈夫さ。トウヤの時だって同じだったし」 「ぐっ!」 (ハハッ! オッサンも言われてんじゃねーか!) 「うぉい! この姿の時はオッサンじゃねぇだろうが! 撤回しろっ! せめてお兄さんと呼べよこの野郎!」 「トウヤもいちいち突っ込まなくていいからさ。ほら、こっちに来て。君もあんまり年上をからかっちゃダメだからね!」

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