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鷹取リュウゴ
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秘密の男娼サブスクリプション 9

親友って言っても互いに社会人になり、住む地域が離れ離れになれば段々と交流は薄れていくものだし、それは自然なことだと納得している。 そんな親友の一人を買い物の帰りに偶然見かけた。 見間違いではなく確実に親友だった。 仕事がらみでもこっちへ来たのならメッセージの一つもくれたらいいのに水臭いじゃないか、ってな感じで聞いてやったらこっちへ来てはいない、と嘘が返ってきた。 何か事情があるのだろうけど俺の中に苦いものが流れた。 もうアイツにとって俺は親友ではなくなったのか、と悲しくなった。 ただ、そんな悲哀を味わう間もなく次の日から俺の周囲が急に騒がしくなった。 「一体、何が起こっているんだ?」 しかも、ちゃんとエロサブスクの正会員になったのにサービスが利用できないなんて! ****** 9親友との再会  トイレ詰まりを解消した日の午後、俺はセクシーでかっこいい下着を買いに都心へと向かった。 「久しぶりだな。ネットじゃなくてショップで直接買うなんて」 このところネットで適当に購入していたので地味なボクブリやダサいトランクスしか状態の良いものがない。 これじゃぁヴァンキッシュのサービススタッフがヤる気を削がれるかも知れない。 容姿がさほどではないんだから下着ぐらいは頑張らないとな! と気合を入れて部屋を飛び出した。 見繕う店はいくつか絞ってある。 二軒の大手デパート、そしてゲイ向けのショップが一軒。 ブルートゥースのイヤホンを耳に挿しながらじっくり検討していたら時間なんかあっという間。 最後に入った店での物色を終えて外に出てみたらもう日が傾いている時刻だった。 「いけね。買い物に夢中になってヴァンキッシュのスタッフを呼んでないじゃないか」 フリートライアル期間は呼ばずとも押しかけ、もとい、積極的に来て頂けたが、正会員になって相手を指定できるようになると申し込まねば来なくなる。 外で選んでもいいけど周囲の目が気になる。 フリートライアルで来てくれた男たちも凄かったけど他の奴も気になるじゃないか。 どんな容姿なのか、どんなガタイなのか、どんなチンポなのか。 正会員専用サイトには登録されているサービススタッフの身体的特徴や性器に至る全てが表示されると言う。 なんだかその画像だけでオナニーできそうだな、と正直思ってしまったが、いやいや、オナニーじゃなくてリアルセックスし放題のサブスクなのだからちゃんと相手を呼ばねば意味がない。もったいないじゃないか。 帰りを急いだ。 地下鉄駅まで近道をしようと普段はあまり通らない裏道を抜けようとした。 その時だった。 くたびれたビルとビルの隙間に入って行く人影が視界に入った。 「あれ? アイツは……」 肩を小さくしてキョロキョロと周囲を窺っている。差し込む夕日の関係でか俺には気付いていないようだ。 しばらく周りの様子を窺っていたそいつは意を決したかのようにビルの隙間の奥へと入っていった。 「直樹……だよな? アイツ、こんな所で何やってんだ?」 直樹とは大学時代に出会った親友の一人だ。 社会人になってからはそれぞれ住む場所が離れたため会う機会はぐっと減ったが、それでも時々連絡を取り合う友達である。 「こっちで取引でもあったのか? にしては、あんなビクビクする必要は無いと思うんだが」 直樹は大学卒業後、実家が経営している町工場の跡を継いだ。 大学在学中に親父殿がカラダを壊してしまいこのままでは工場をたたむしかない、との話しになっていたのだが直樹が継ぐことでそのピンチを回避した――と、聞いていたのだが。 『工場と言っても機械でモノを作るよかパソコン叩いてシステム開発するのがメインにシフトしてんだよ。時代の流れってやつだよな~』 そう言う直樹の表情は決して暗いものではなく、むしろ迎え撃とうとする意気込みを感じていた。 大学を卒業して5年。 少なくとも年に一度は直接顔を合わせて酒を飲みながら日頃の鬱憤も込みの近況を語り合っている。 「前にアイツと飲んでからもう8か月になるんだな」 トップセールスでいくつかの企業や団体に売り込みをかけまくっていたのがようやく芽吹いてきた! と新規開拓に手ごたえを掴んだとの喜ばしい報告が記憶に残っている。 そんな直樹の、少人数とは言え工場のトップに就任した責任を果たそうとしている姿に心からの敬意とエールを送っていた訳だが、さっき見掛けた直樹はまるで別人のようだった。 気にならない訳がない。 俺はすぐにメッセージを送った。 マジで商談だったら邪魔になるから電話は控えておいた。 『久しぶり! 最近調子はどうだ? ところでさ、もしかしてこっちへ遊びに来てたか? もし来てんだったら俺にも声を掛けてくれよな!』 もしかして、なんて文面には曖昧さをもたせているもののアイツは直樹に間違いない。 ――なのにアイツは、俺に嘘を吐いた。 『いや? ずっと関西にいるけど? 他人の空似じゃないか? お前こそたまには関西に来いよ!』 一時間ほど後に返って来たメッセージを見た瞬間、怒りよりも悲しみのほうが先に来た。 せめて、「用事でこっちに来た、日帰りで戻らないといけないから連絡できなくて悪ぃ」、くらいはあるかと思っていたのでショックだった。 俺たちの友情はそのレベルのモノだったのか。 来た事自体が企業秘密なのかも知れないが、真っ向から嘘をつかれるとは……。 俺は新品のTバックを穿く気力が失せ、結局この日はヴァンキッシュのサービススタッフを呼ばなかった。  翌日、気分を仕切り直してヴァンキッシュのサイトを開こうとしたものの何故か表示されなかった。 「へ? 嘘だろ、おい……。なんで繋がらない?」 パソコンでもスマホでも結果は同じ。 まさかまさか……、ぼったくりサブスクだったのか? いや、でもまだ会費は引き落とされてないからぼったくりとは言い切れないが。 サイトが開けないのでサービススタッフは呼べず、この日もオナニーだけで済ませてしまった。 そして、週明けの月曜。 異変はさらに明らかになった。 「――は? 染野や笛吹と連絡が取れない? いえ、俺も今初めて知りました……」 一時的にとは言えネット販売戦略担当に協力していた関係で部署の違う笛吹についても上司から聞かされた。 それにしても二人して無断欠勤なんておかしい。 「はぁ? 他にも複数の社員と連絡がつかなくなっている、ですって?」 昼も過ぎるころ、社内で染野や笛吹以外にも無断欠勤者が居るとの情報が回ってきた。 最悪、突然死してるんじゃないかと心配して当欠者の自宅まで様子を見に行った上司曰く『部屋には誰も居なかった』 と、なると失踪? 集団で? 同時に? 深まる謎。異常事態だ。 ひとまず当欠者が関わっているプロジェクトや関係のある取引先に核心は伏せたまま事情を報告。 もちろん染野や笛吹が協力を仰いでいるインフルエンサーの梅室さんにも。 ところが梅室さんとも連絡が取れない。 電話はもちろんメッセージにだって返信どころか既読すらついてくれない。 しかし、この時点ではまだ失踪に半信半疑くらいで「例の感染症か何かで緊急入院かな?」ってな楽観的な気持ちもほんの少しだけあった。 本当に心の底から異常な事態だと知ったのは夕方。 弊社「ポラリス」だけじゃなく他の企業でも同様の当日欠勤者が現れているとのニュースを見た。 『速報! 謎の大量失踪! 合計500人以上か?』 ネットニュースの見出しにそんな文字が踊っている。 俺は胸騒ぎを大きくした。 これはただ事じゃない、と。 もしかして梅室さんも大量失踪者の一人では? その予測は残念ながら的中した。 マンションのオーナーに頼み込んで隣の部屋を確認させてもらったら、梅室さんの姿はなくパソコンがスリープの状態で光っているだけだった。 「いったい、どうなってんだ?」 訳が分からないまま迎えた次の日。 今度は彗星学園の美術教員である磐城先生まで学校に来ていないようだと知らされた。 『お電話差し上げたのは先日、当学園にお越しいただいたポラリス様なら磐城先生について何かご存知じゃないかと思いまして』 俺に回ってきた電話には「何も存じ上げておりません。弊社でも同じような者が出ていまして混乱している最中でございます」と、伝えるしかなかった。 そんな大混乱の中でもなんとか平常業務をこなすべく奮闘し、心身ともにぐったりと疲労したまま帰宅しようとしたら 今度こそ間違いない――直樹と出会った。 「は? おま、こんな所で何やってんの? やっぱ一昨日もこっちに来てたんじゃないのか?」 疲れもあってか俺の言葉は棘が強くなっていた。 「い、いや……、これはその、み、見なかった事にしてくれ! 頼む!」 強気でイケイケだった直樹の姿ではない。 倒れそうな家業を継いで逆転回復を狙おうと頑張っていた直樹でもない。 何者かに脅迫され、いまにも命を狙われそうなほどの怯えっぷり。 年一の再会でも安心して次の一年を過ごしていられるような直樹はどこへ行った? 逃げ去ろうとする直樹の首根っこを掴んで引き戻す。 その時点で逃走意欲が消滅したのかがくりと肩を落とし深いため息を吐いた。 「俺に嘘を付いてまで相談できない事情があるんだろ? でもな、友人の一人として心配くらいさせてくれよ? 俺たち、ちゃんと友達だろう?」 こんなにも周囲を警戒し、キョドってる直樹を追い詰めるつもりは無い。 だけど、それでも、ちょっとくらい本音を言わせて欲しかった。 「ご、ごめん……、ほんとうに申し訳ないと思ってんだ……。だけど、なんでここに来てるかは決して言えない……」 「……そっか、なら引き留めて悪かったな。くれぐれも体には気を付けて頑張ってくれ。俺こそ今朝からてんてこ舞いでついお前にも荒い言い方をしちまった。すまん……」 「春孝もなのか。お互い大変だな」 「ああ。まぁでも、失踪した本人よりかは何倍もマシな状況には違いないが」 「失踪?」 ここで終始うつむいたままだった直樹の顔が上がった。 ネットでニュースにもなってるし社外秘でもないから話したって問題は無いだろう。 俺は、梅室さんや磐城先生のことは伏せつつ複数の社員が今朝から一斉に失踪しているのだと打ち明けた。 「ネットじゃ500人以上に上るらしいがな」 「そ、そんなに? もしかしたらその人たちってヴァンキッシャーなんじゃ……」 聞き捨てならない言葉に思わず直樹の襟をつかんだ。 「ちょ! ちょっと待て! 何で直樹がヴァンキッシャーって言葉を知ってるんだよ!」 ヴァンキッシュとほぼ同じ単語なのにセイタは否定した『ヴァンキッシャー』 なぜそのような単語が直樹の口から出ているのか。 「しまった……、つい……」 「しまったもクソもあるか! 何か知ってるんだな! 教えてくれ! 頼む!」 自分なんかに何ができるかは分からない。だけど、何も知らないままよりかは知った上で足掻きたい。 正しく知る事は無駄にならない筈だ。 「……うっかり口が滑っちまったけど、春孝も知ってるみたいだな。ヴァンキッシャーを」 俺は強引にでも話を聞こうと喫茶店に引っ張り込もうとした。しかし、人目のある場所では何も話せないと言うので俺の自宅へと連れて来た。 「さぁ、俺の部屋の中なら安心して話せるだろ? 直樹が掴んでる情報を俺にも分けて欲しい。絶対にお前を苦しめる様な真似はしないと誓う!」 こんな芝居じみたセリフをリアルでしゃべる日が来るなど誰が予想しただろう? それでも、直樹を落ち着かせるためには必要なのだと考えた。 冷たいドリンクを一気に煽った直樹は観念したのかゆっくりと話し始めた。 「……『ヴァンキッシャー』ってのは、ヴァンキッシュの仕事を請け負っているサービススタッフの別の呼称だ」 「念のため聞いておくが、ヴァンキッシュってのはあのアダルトサブスクのヴァンキッシュだろ?」 「ああ、そうだ。お前も知ってるのか、て言うか、もしかして利用してる?」 俺はうなずいた。 「なんだ。春孝もゲイだったんだな。なら学生の時に俺もそうだ、って言っておけばよかった」 「その辺は今は脇に置いておこう。失踪してる者たちに悪いだろ?」 ハッと目を上げた直樹と視線が重なった。その視線にはさっきよりも命の熱量があるように思えた。 「そうだよな。うん。今はそんなのは問題じゃない。えと、長くなるけど聞いてくれ」 ◇  『花園さん、当研究所までお越し頂いてありがとうございます』 俺が初めてその研究員に直接会ったのは2か月前だった。 それに先立つ半年ほど前から『キュリオス&イノヴェーション(CAI)』と名乗る研究所の研究員からナノマシン運用についての相談を受けていた。 「ナノマシンって、あのナノマシンか?」 「そう。細胞にも入り込めるごく微小の機械だ」 メッセージや電話だけのやり取りばかりで俺が継いだ会社にメリットなんかなかったが、口コミで評判が広がればいいなってな打算もあって俺はごく普通に応じていた。 ただ、その相談内容が段々と、その、性的な単語が混じるようになったから俺はそろそろ縁を切るべきだな、と感じていた。 精液を増やすとか、勃起したチンポをさらに肥大させるとか、常識的に考えて有り得ない効果を期待しているとか言い出して。 「なのにお前の気持など無視して会いたいと言って来たんだな?」 「ただ精力を強くしたいとか勃起を維持したいとかなら、専門じゃないけど話を聞くくらいはできるんだが、 常識外れな望みをナノマシンに搭載したいとか言い出したから、俺はもう無理だと思った」 「…………」 「もちろん、ナノマシンにプログラムを書き加えたからと言ってそのままカラダに効果が出るなど思っちゃいない。ヒトのカラダってのは意外に抵抗力が強いし」 「だろうな……」 「とりあえずウチみたいな弱小工場の、無名のシステム開発を頼ってくれたのは嬉しかったし立つ鳥跡を濁さずってな意味も込めて最後くらいは会ってもいいかと、俺はその研究所へ向かった」 ◇  直樹は半分笑って半分泣いたような顔を俺に向けた。 研究所の研究員だと名乗って対応したヤツは、実は本物の研究員じゃなかった。 制御不能な状態になっていたヴァンキッシャ―の一人だった、そうだ。 「なるほど、と言いたい所だがヴァンキッシャーと研究所ってどう繋がっているんだ?」 「ああ、そうか。そこからまず話さないとな」 直樹の話をまとめると、キュリオス&イノヴェーション(CAI)は遺伝子や細胞に関する研究を主に扱っている独立系研究所だ。 しかしながらコロナ禍の影響によりスポンサーが減り経営状態が著しく悪化。 そんな窮地を脱するべく始めたのが様々なアダルトコンテンツサービスだった。 アダルトサブスクリプション『ヴァンキッシュ』はその中の一つで、もっとも上がり(収益)の良いサービスだったらしい。 「それで、サービススタッフとヴァンキッシャーの違いって何かあるのか?」 「ヴァンキッシャーってヒト、人間じゃぁないんだ。そいつを悟られないように言葉を変えてサービススタッフなどと言っていたのだろう」 「……人間じゃない?」 「そう。元は人間だったけど、人間じゃない者たちだ」 「あはは、えっと、俺、頭がおかしくなったのかな? まさか直樹の口からそんなSFじみた言葉がポンと出てくるなんて、うーん、弱ったな~」 「話して欲しいって言ったのは春孝じゃないか。なのに俺を疑うのか?」 「いや、今更嘘はない、信じるけど……、信じるからこそ余計にその、受け止め切れていない……」 「なら、コイツを見てくれ」 直樹はやおらシャツを脱いだかと思うと俺の前に右腕を出した。 その右腕がいきなりすーっと透明になりぶよぶよとした質感のゼリーみたいに変化したではないか! 「うわわっ!? ど、どうなってんだ!?」 「……俺もなんだ。俺も片脚、いや、片腕突っ込んじまってるんだ。……人間じゃない存在にな」

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