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鷹取リュウゴ
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触手堕ち小説家の官能メイクラヴ 2

 スランプを脱するため新たなテーマ、今まで使っていなかったネタを元に新作を書いてやろう。 編集が寄越した人物とともに、エロいイラストを見ながら色々とアイデアを出し合う。 しかし、ここで一番の問題にぶち当たった。 扱っていなかったネタにリアリティを持たせる表現、方法が分かっていないって事だった。 どうすれば越えられるか思案していると隣に住んでいる人物と出会って――。 ******* 2触手イラストと触手ネタ   大久保クンの「好き」と興味と興奮がそのまま絵になったようなカッコ良くて逞しい男が描かれたイラストをいくつも鑑賞した。   リアルに有りそうな日常の枠内に収まるシチュエーションのイラストも素晴らしいのだが、ヒーローが悪の組織に捕まって強制的にイかされている「非日常」イラストや、 マッチョ野郎が宇宙人にチンポを巨大に改造されているイラストなど現実にはあり得ないSF妄想イラスト、或いは勇者がスライムに衣服を融かされチンポをしゃぶられているエロファンタジーイラスト達が印象に強く残った。 中でも―― 「このイラスト良いなぁ~、うん、次の作品のネタになりそうな気がした」 大久保クンが横からモニターを覗き込む。そこにはマッチョな男がたくさんのチンポ似の触手に犯されているイラストが表示されている。 「――触手ネタですね。俺は好きですけど先生は今まで扱った事あるんですか?」 「いや、ないな。だけどそろそろファンタジーネタを軸にして書いてみるのも良いなとは考えていたんだ」 「ゲイに限らずノンケ向けのエロイラストでも触手は人気が高いですから。定番のネタと言っても良いくらいです」 「だよね。俺も今まで見た事が無い訳じゃない。でも、今回ピン、と来たのは大久保クンのイラストだからだろうなぁ」 「きょ、恐縮です。ありがとう、ございます」 恥じらいながらも嬉しそうに照れる大久保クンだったが、不意に深呼吸をしたかと思うと照れを鎮めて仕事モードに入った。 「では出釜先生の新作のネタ出しは触手ネタを軸に考えて行きましょうか」 「ブレスト(ブレインストーミング)ってやつ?」 「その通りです。思いついた単語やシチュエーションをどんどん出してメモっていきましょう」 「あ。いいね。一人ではすぐに限界が来るけど二人も居れば相当拡がって行きそうだ」 俺と大久保クンは触手に犯されるマッチョのイラストを見ながら思いついた単語を次々とメモにしてリストアップしていった。 「まずは触手だ」 「はい。となると粘液も、ですね」 「発情物質」 「淫液とも言いますね。じゃぁ、関連して雌堕ち、あっ、ノンケ向けだと快楽堕ちかな」 「触手はどこ由来だ? 宇宙人? 未来? それとも異世界?」 「それ、全部メモしておきます。俺からは古代の遺跡から、と悪の組織が作ったってのを追加します」 「主人公はやっぱり普段は真面目でお堅い性格、かな?」 「ギャップがある方が読んでて楽しいですね。触手の快感になど負けるものか、と踏ん張る場面も美味しいです」 「ああ、いいねぇ。徐々に理性や羞恥心が剥ぎ落され、熱く昂る自身の欲望に抗えなくなって来るんだ?」 「俺はそう言うのが好きですけど、割りとよくある展開なので変化球を含ませるのも良いかもしれません。前向きな快楽堕ち、とか」 「前向きな快楽堕ち……、うーん、難しいな。イメージできるかな?」 「じゃぁ、今のはボツで」 「いや、メモから消さずに置いておいて」 「分かりました」  そんなネタ出しを1時間ほど話し続けて俺は気付いた。 イラストと違って文字で書き起こす場合、どうすれば触手「らしさ」を読者にイメージさせられるだろうか? と。 現実には「無い」モノを「在る」モノとして想起させるには? 熟女も美女も美少女も――各々の好みは別として――現実にいない訳じゃない。フォーマットが出来上がっているから過去に俺自身が風俗に行った時の記憶なんかを呼び興しさえすれば大抵は描写できる。 だけど触手は―― 「すんげぇ今更だけど、小説で触手って難しいな。リアルに見た事も触れた事も無いし」 俺には今まで無かった「引き出し」を求められてしまう。 大久保クンは俺の発言に呆れる事も無くまっすぐに応えてくれた。 「それはそうですね。葛飾北斎の春画にタコの触手責めがありますけど、タコのほかイカやクラゲ、イソギンチャクあたりが触手イメージのベースになると思うんです。 俺のこのイラストのようなペニスに近い形状の触手となるとアニメや漫画でしか出てこない妄想の産物になりますし」 俺は唸った。 「ううむ、俺に書けるかな? エロい触手のエロさを。せっかくいいアイデアをもらったんだ。是が非でも作品として仕上げたくなったけれど」 「相当難しいですか?」 大久保クンがとても心配そうに俺を見る。ここで虚勢を張っても意味は無い。なので素直に「難しい」と告白する。 「実は俺、妄想系? 非現実ファンタジー系? ってもんは初挑戦になるからさ、現実に無いモノの描写をどうやったら書けるか、って悩んでしまいそうだ」 「出釜先生だったらきっと乗り越えられるかと思うんですが……。それに、本物の触手なんてご用意できませんし俺からできるフォローはここらが限界です」 「いやいや、大久保クンが責任を感じる必要はない。これは純粋に俺の筆力の問題だからさ」 妄想にリアリティを、この世にないモノをありありと実感できるような表現を紙上に書きたい。 読み手の心と体に火を点けるためには、現実には存在しないモノでも現実に在る様な存在感を持たせないといけない。 「でないと、おとぎ話か説明文かのどっちかになっちまうもんな。それだけはこれまでの経験上はっきりしてんだよ」 プロになる前から数えればそれなりに長い執筆歴がそう確信させている。  次回も相談に乗って欲しいのでアドレスを交換してから大久保クンには帰ってもらった。 それから、データをコピーしてもらった触手イラストを画面に表示させながら試しに書いてみたけれど、書いて三行、五行ほどで『ゴミ箱』に廃棄、を繰り返してばかりで一向に進まない。 一番軸になる触手セックスシーンがこれでは、いくら人物や設定の枝葉を茂らせたって花が咲くことは絶対に無い。 とても良いネタだと思ったんだがモノにできなきゃ宝の持ち腐れじゃないか。逃がした魚(ネタ)は大きい、と自分の力不足に不貞腐れながら俺は自宅を後にした。 家にこもってたんじゃ気が滅入るのと、散歩にでも出れば意外なひらめきがあるかも知れないとの期待を込めて。 「せっかくだから触手ネタ、新作の中心に据えたいんだけどなぁ……。やっぱ無理かなぁ、どうやったら触手のリアリティを文字化できる? 触手の生態も感触も知らないのに」 触手について考えながらエレベーターから降りると、前から来た人とぶつかりそうになった。 「ぅおっと! すみません!」 「いえ、俺の方こそ」 相手が機敏な動きで避けてくれたお陰で服がかする程度で済んだ。が、下げた頭を上げて相手を見れば凄くガタイのデカい男じゃないか。 着ているスーツの肩幅や厚みが「逞しい」と言うよりも「ゴツイ」って単語がぴったりだ。 顔立ちも男臭いイケメンだし、大久保クンにもらった強制射精ヒーローか触手イラストの男みたいだ。 「あの? どうかされましたか?」 「あ、触手が似合いそうだな、と」 「うん? ショクシュ?」 男は目を白黒させている。 「うわ! またまたすみません! ちょっと考え事をその、色々と仕事上の事でこんがらがってまして……」 「朝霧さんの次の小説ですか?」 朝霧ってのは俺の本名。「出釜 乱人(でかま らんと)」はペンネーム。つか、こんな名前がリアルに居たらやばいでしょ? それはさて置き―― 「俺の仕事の事を知っておられるんですか?」 男は少し困ったな、と言う顔をした後、意を決した感じで話しを始めた。 「かなり前になりますが、朝霧さんがスマホでどなたかとお話ししながら廊下を歩いておられたのを見かけてしまって、 聞くつもりはなかったんですけどお話しの内容が耳に入ったものですから」 そう言えば俺、考えが今みたく煮詰まると編集とスマホで話をしながらコンビニに行ったり近所を散歩してしまうクセがあったな。 「それで気になってしまって口にしていらした単語をネットで調べてみたら朝霧さんがポルノ作家の先生だと知りました」 wikiに俺の本名は載っていないから、きっと作品名から辿ったんだろうな。 「うう、お恥ずかしい限りです。近隣の方に自分の仕事内容が分かるほど大声で編集と話しをしてたなんて……」 「それで、今度はいよいよ触手が出てくる作品ですか? 良いですね~。小説はあまり目にしませんが面白そうで読んでみたくなってきます」 「ますますお恥ずかしい。実は触手ネタにしようと思ったんですが、どうすればいいやらと扱い兼ねているのです。それで今から頭を冷やす意味も込めて散歩にでも行ってこようかと」 ガタイのゴツいスーツ男は眉根を下げとても不安そうな表情を俺に向けた。 「お気持ちは分かりますが、そんな薄着で散歩をされたら頭ではなくお体を冷やしませんか? せめてもう一枚何か着ておられたほうが良いと思うんですが」 言われて改めて周囲を見れば、日はとっぷりと暮れ夜の寒さがしんしんと身に沁みる時間になっているではないか。 日中は春めいて暖かくなって来たけれど日没後は急激に気温が下がって真冬と変わりない寒さになる。まだ真冬の服装で出かける人の方が多いシーズンでもあるのだ。 「――た、確かに。もうこんなに冷え込む時間になっていたとは。我ながら煮詰まるのも程があるなぁ」 「お節介だとは思いますが悩んでおられるのでしたら一つご紹介したいお店があるんです。お時間がよろしければご案内しましょうか?」 ◇  自宅に戻って外出用のコートを羽織る。 そして再び玄関を出れば先ほどぶつかりかけたガタイの良い男、実はお隣にお住いだった「須崎」さんが爽やかに微笑んでいた。「じゃぁ、参りましょうか」 聞けば年齢も俺と同じで「タメ」だったと言う事もあり親近感は否応なく増した。 「――あれ? ウチのマンションの隣にこんな店があったなんて。全然気付かなかった」 お店の入り口には『慰昆堂』との看板が掛けられている。 時刻はもう21時近いけど営業中に間違いない。 デビューと同時にサラリーマン時代に蓄えた貯金をはたいてこの中古マンションへ引越してきたけど、5年も経ってから隣の店舗の存在を初めて知るだなんて、俺の注意力ってどこまで散漫なのかと呆れてしまう。 「ははは、気になさらないで下さい。ここは来ようと思って来られる店じゃありませんから。たとえ隣に住んでいても店舗の前に立っていたとしても条件が整わなければ発見できないんです」 「条件?」 「具体的には私も知らないんです。ただ、こちらのオーナーに認められた者の先導があれば確実に辿り着けます」 「なんだか変わった、不思議な店ですね。で、こちらは喫茶店ですか?」 窓から窺える『小物』は骨董品みたいだが。 「風が寒いのでまずは中に入りましょうか」 「そうですね。コートを着ていても今夜は随分と冷えますしね」 須崎さんがドアを開けると同時に優しく俺の腰に手を当てエスコート。 うはは、この人かなり手慣れてる、てか遊び慣れてる? 俺、女じゃないんだけどその仕草にほんのりときめいちまうじゃん。 あ、そうだ。このシチュエーションも次の新作のネタに採用してしまおう。 俺は素早くスマホのメモアプリに「新規」を一件追加した。

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