SamSuka
鷹取リュウゴ
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マッスル眼鏡の官能視界 1

 コンタクトレンズがしばらく使えなくなったので代用の眼鏡を買いに行った。 けれど、ショップでどれを試着してもまるで似合わない。 違和感ばかりが際立ってしまって「これだ!」ってのに全然出会わないのだ。 「お困りでしたら、こちらなどいかがですか?」 見かねた店員さんが店の奥から持って来たのは、掛けた人を眼鏡が似合う姿に変えてくれると言う。 そんなバカな、と一蹴しようとしたものの、どうせ他の眼鏡だって合わないのだから、こんなオーソドックスな黒縁眼鏡でもいいじゃないかと考えを切り替えその眼鏡を購入した。 それで、俺がどんな風になったか、って?  おお! 見てくれ、この筋肉! マッスルボディを! 信じられるか? 俺だって信じられねぇ。 でも、夢じゃねぇ。 マジでこの眼鏡のお陰でこんなマッチョボディになれたんだ。 おっとぉ? 俺のカラダ見てお前、勃起してんのか?  なら、ヤろうぜ?  ほら、遠慮すんなって! 俺の「雄っぱい」も腹筋も、そんでこのデッケェチンポも触り放題だぞ? ******* 1コンタクトレンズが使えないなんて 「苅羽さん、結論から申しますと『結膜炎』ですね。完治するまでコンタクトレンズのご使用は控えてください」 目に痛みを感じた俺は、会社帰りに寄った眼科で診てもらった所、こんな診断を言い渡された。 大した病気では無く目薬で治療できるレベルなので安心と言えば安心したのだが、一つ困るのは当分の間コンタクトレンズが使用不可になってしまった事だ。 社会人になって以来ずっとコンタクトレンズを使っていて眼鏡はほとんど出番の無い生活を送っていた。 久しぶりに予備として置いていた古い眼鏡を掛けて2~3時間過ごしてみたら、酷い疲れ目だけじゃなく頭痛まで起きる有り様だ。 「やっぱりな。もう視力に合ってないんだ。何年前に買った眼鏡だったっけ?」 日常にも耐えられない眼鏡では仕事どころか生活もできないので、これまた久しぶりに眼鏡ショップへと足を運んで見ることにした。 いつもコンタクトレンズは会社近くの眼科に併設されているコンタクトレンズをメインにしたお店や、ネット通販で購入しているので、眼鏡を買う、となるとどのショップにすべきか少し悩む。 眼鏡だってコンタクトレンズと同じくネットでも手に入れられるけど、見た目の合う合わない、視力にふさわしいか否か、そして、重さや掛け心地なんかは実際に試着してみないと分からない。 だからわざわざ実店舗へ行って買う事にしたのだが、できればしつこく勧めてくる店員のいないショップの方が望ましい。 買う気は満々でも納得のいくまでじっくり吟味したいもんな。 ◇  「いらっしゃいませ! どのようなアイテムをお求めでしょうか?」 「あ~、うん、まだイメージは出来ていないんで、色々と拝見させていただこうかな、と」 眼科で診察を受けた翌日、俺は大型ショッピングモールに入っている眼鏡ショップに来ていた。 土曜と言うだけあってショッピングモールの中の眼鏡ショップも多数の客入りで賑わっている。 声を掛けてきた店員をさりげなく遮断し一人でじっくり検討したいと匂わせる。 すると意外に食い下がる事も無くあっさりと店の奥へと引き下がってくれた。教育か販売術なのかは知らないが、『押せば売れる』と勘違いしていない店でありがたい。 無いよりはマシな古い予備眼鏡を掛けて眼鏡ショップの店内をじっくりと見て回る。 男性向けの眼鏡コーナーには海外ブランドの超が付くような高い眼鏡もあれば、5000円ポッキリの格安商品も並んでいた。 フレームが丸か角ばったものか。或いはフチなしかフチ有りか。色はどうしよう? 定番の黒や銀あたりがベストだろうか。 試しにいくつか手に取って掛けてみたがどれも何となくしっくりこない。 コンタクト時代が続いたせいもあってか眼鏡を掛けると途端にダサさや「これじゃない感」が際立ってくるのだ。 「やっぱ眼鏡なんて似合わない顔してるよなぁ~」 鏡の中に映る顔がしかめっ面でこっちを見返している。 「お客様、ちょっとよろしいでしょうか?」 「へっ!? は、はいっ?」 不意に声を掛けられ少々ビクッとしてしまった。 先ほど俺が遠ざけたショップの店員さんじゃないか。 俺よりもいくつか若い、青みがかったメタルフレームの眼鏡とシンプルな黒いベストが良く似合う清潔感の漂う男だ。 俺もこんなイケメンであれば眼鏡選びに困らないで済んだだろうに。 弘法筆を選ばず、ならぬ「イケメン、眼鏡を選ばず」だな。 名札に書かれた名前は「四万田」とある。読み方は「しまだ」だろう。 「ご検討中にお声がけしてすみません。相当お悩みのご様子でしたので少しご相談させて頂こうかと」 「えーと、あ~、そうっすねぇ。ここ数年コンタクトばっかりで過ごしてたせいもあって、どの眼鏡もなんだかしっくり来ないんですよね」 「えぇ、えぇ、分かります。普段掛けない方が眼鏡を着けられると違和感しか感じない、と」 「そう。まさにそれです。今使っている古い眼鏡だって微妙だな、って思いますし」 「よくお似合いだと思いますが、ご自身でご納得されていないと意味がありませんしね」 「ですよねぇ~」 「イメージはまだ、とおっしゃられていましたが、どうでしょうか? 一通りご覧になられて何か浮かんで参りましたか?」 「それがですねぇ。いくつか候補は出て来たんですけどどれも決め手に欠けると言うか、俺のイメージした眼鏡顔にならないと言うか。いっそ俺の方が眼鏡に合う顔に変わりたいくらいです」 「ふむふむ、なるほど。そういうお悩みでしたら、こちらの眼鏡はいかがでしょう?」 店員さんは展示している眼鏡ではなく店の奥からわざわざ運んで来てくれた。 黒い縁で角ばったフレームの割とよくあるタイプのモノだ。これなら展示してあるモノにも似たようなのは沢山あったんだけど。 「全く新たな新素材、『シンビオティックメタル』をフレームに用いた特別仕様となっております」 おやおやぁ? 聞きなれない単語が出て来たぞ? こう言う時は要警戒だ。気を緩めずに話を聞かなければならない。 「シンビオティックメタルとは文字通り共生する金属、と言う意味です。素材の構造や作り方などは極秘なので私も詳しくは存じておりませんが、 こちらの眼鏡、何が特別かと申しますと、眼鏡そのものがお付け頂くお客様を眼鏡に似合う姿、ふさわしいカタチへと近づけると言う、全く新しいコンセプトに基づいた商品なのです」 「は? はぁ? 眼鏡の方から? 着ける人間の姿を変えるだって? んなアホな!」 「こればっかりは実際に体験して頂かないと信用して頂けないのも無理はありませんが、私自身もこのアイテムによって今の、このような姿を手に入れる事ができたのです」 「いやいや、ちょっと待って下さい。なんぼなんでも話がぶっ飛び過ぎでしょ? 眼鏡が人の姿を変えるなんて、そんな、 魔法じゃあるまいし。冗談にしても少しふざけ過ぎじゃありません?」 「いえ、全くそのようなつもりはございません! お客様に対してそのように失礼な事は……。ですが、お気を悪くされたのでしたら誠に申し訳ありません」 深々と頭を下げ心からの謝罪をしてくれる店員さん。売り上げ目標とかキツイんだろうか。こんな手管を使ってまでお客に商品を勧めなきゃならないなんて。 少々哀れに思った俺は、もう少し話を聞くことにした。最終的にこの眼鏡を選ぶ事は無いだろうと思いつつ。 「百歩譲って冗談じゃないとしても、そんな新素材の、特別な効果のある眼鏡なら相当値が張るんでしょ?」 「そうですね。お安いとは決して言えませんが、それだけの価値はございます。断言できます」 安くは無い、と言い切るあたりは正直で好感が持てる。 「参考までに聞くけどおいくらなんです?」 「一万五千円を頂戴しております」 「あれ? もっと高いのかと思ってた」 海外ブランドだとその五倍以上はするのに。 「本来でしたらこのような価格でのご提供は無理なのですが、現在はモニター価格として販売させて頂いています」 「なるほどね。なら、買うために何かの条件があるんだ?」 購入者レビューとかを書かなくちゃならないのだろうか。俺、そう言う感想文とかオススメとか苦手なんだよなぁ~。 「その通りです。この価格でご購入されたお客様には3か月以内にもう一度ご来店して頂くようお願いしています」 「うん? それだけ?」 「はい。以上です」 「感想とかオススメのコメントは?」 「必要ございません。もしご記入頂けるのでしたらありがたいですが、そちらについてはお客様の任意でお願いします」 「話が上手過ぎやしません?」 「当店はお客様が眼鏡によって充実した生活を過ごして頂くお手伝いをしたいと考えてるだけです」 耳触りの良い標語を鵜呑みにするほど世間知らずじゃぁないんだが。 「それと、……私個人としましても、こちらをお使いいただける『仲間』が増えるのはとても嬉しいのですけど……」 まぁ、考えてみれば姿がどうのこうの、と言う部分は置いておいて、俺としてはこの眼鏡でも他の眼鏡でもイマイチ感はぬぐえないのだ。 再びコンタクト生活に戻るまでの、その場しのぎの「仮」アイテム。 今の視力に合わなくなった予備眼鏡を新しいものに更新するだけなので、こう言った普通テイストの方がまだマシなのかも知れない。 「くどくどとお勧めしてしまって申し訳ありません。これ以上はご迷惑かと思いますのでこれにて――」 「待った。待って下さい。それ、買います。新素材とか姿がどうとかは別にどっちだっていいんです。 ただ、シンプルな黒縁なら少しは似合うかも知れない、と思えて来ました」 眼鏡を持ったまま店の奥に引き返そうとした店員さんがパッと顔を明るくなった。 「ありがとうございますっ! 着け心地など実際に手に取ってお確かめください!」

マッスル眼鏡の官能視界 1

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