4男にこれほど惚れられちまうなんて 「先輩、正直に答えて下さい。実はあなた、苅羽先輩じゃないでしょう?」 会社に到着して俺の顔を見るなり翼はそう言って厳しい目を向けて来やがった。 「良く似てはいますから先輩のご兄弟か、或いは――」 「待て待て。俺は苅羽本人だっつうの。兄弟は姉が一人いるだけだ」 「おかしいです。先輩はもう少し田舎臭くて野暮ったくて、垢ぬけていないダサさが持ち味の人、なんです。 なのに、なのにどうしていきなりモデルみたいなイケメンになっちゃってるんです? 顔だけじゃありません。体型、体格まで男っぽさと気品の両方がばっちり出ているだなんて……」 「そんなの俺だって分かんねぇよ。朝、起きてみればこうなってたんだし」 俺の見た目がグレードアップした理由。思い当たるのは「眼鏡」だけだが、それを口にして誰が信じる? 眼鏡を掛けている俺自身でさえ信じられていないのだから。 「……ずるいですよ先輩。先にどんどんカッコよくなっちゃうなんて。我慢できなくなるじゃないですか……」 「ん? なんて言ったんだ?」 「別に、何でも無いっすよ~」 顔を赤くした翼が口を尖らせたまま席についた。 そこに徳永課長がやって来た。 「おは……? おま、苅羽か? 随分と、見違えたもんだな……」 ぽかんと口を開けて俺の顔から足の先まで舐めるように見ている。 「は、はは、そう、ですか?」 「ああ。一瞬、苅羽かどうか分からなかったぞ? それにしても、随分と男ぶりが上がっちまったなぁ。もしかして 好きな人でも出来たのか?」 位置的に課長の斜め後の席に座る翼が何故か肩をビクッとさせていた。 「そんな人いないですよ! 課長こそどうなんです? 離婚されて以来ずっとフリーですよね?」 「気になる奴なら居るぞ? それもすぐ近くにな」 また翼の肩がビクッと撥ねた。必死にこっちを向かないようにしているように見える。 「社内恋愛ですかぁ? ダメとは言いませんけど今のご時世、モラハラだ、セクハラだなんだと厳しいんですから、くれぐれも大人の対応でアプローチして下さいよ? 目の前で修羅場とか見たくありませんからね」 「お前がそれを言うのか? 大人の対応ならずっとやっているんだが、相手は気付いてすらいないようでな。俺としてはもう一歩踏み込んだアクションを起こしてやろうかと思っていた所だ」 「課長の身を案じて敢えて言わせて頂いただけです。女子人気が高い上司ほど自惚れて失敗しそうじゃないですか。 俺とは違ってかなりモテるってのを自覚していないと要らぬ嫉妬を買いますよ?」 「そんな心配は無用……と、言いたい所だがそうでも無さそうだ」 チラッと徳永課長がすぐ後ろに座っている翼に視線を飛ばした。 翼はすぐに顔を背けてしまった。 なんだ? この変な空気……。 「さぁて、この話はこれぐらいにして、苅羽がイケメンになった祝いに今夜あたり飲みに行こうか?」 「は、はぁ……。祝う程の事じゃないですけど課長が飲みたいなら付き合います」 翼がイスを蹴る様な勢いで立ちあがった。 「課長が先輩と飲むんなら俺も行くっす! なんか……、二人だけにしたらヤバそうだし……」 語尾が不明瞭で聞き取れなかった。 「金剛(翼のこと)もか? まぁ、来るのは構わんが大丈夫なのか? お前、酒は飲めないクチだっただろう?」 「お、お酒は厳しいっすけどソフトドリンクやお茶くらいはあるでしょうし」 「無理に来なくたっていいんだぞ? 仕事の進捗も頑張らないといけないんじゃないか?」 「ちゃんと進められてますんで締め切りには間に合います!」 翼がムキになっている理由はよく分からないものの、「俺も翼のフォローをしますので、一緒に連れて行って下さい」 と言うと、課長は渋々翼の参加を認めてくれた。 フトコロが相当厳しかったのだろうか? ◇ 「で? 何で俺ら、こんな所に来てるんです?」 キリの良い所で会社を出て、徳永課長と翼と俺との三人で前に行った事のある居酒屋に入った。 そんで、課長と俺はビールを飲みながら、翼はウーロン茶を口にしながら肴に箸をつけつつ仕事の案件から社会問題まで 幅広く、と言うか雑多に話題を振りながら会話を楽しんでいた――そこまではハッキリ覚えているし変わった点など無かった。 「何でって? そりゃぁ苅羽がそんだけカッコよくなったからだな。顔だけじゃなくてカラダも相当仕上がっているようだし、 確認させてくれ、って聞いたら『OKすよ~』と答えてただろう?」 「だからって! 何でラブホなんですか! しかも翼まで!」 「先輩がいけないんすよ? 課長の口車にホイホイ乗っちゃって。会社で課長の誘いに応じた時からこう言う流れになるんじゃないか、って予感が的中したッス」 「お、おいおい? 酔ってんのか? 翼……」 「俺は素面っす。一滴も酒なんて飲んでません」 とは言うものの翼の顔はほんのり赤いじゃないか。 「金剛はもう帰っても良いんだぞ? 苅羽は俺に任せて、な?」 「帰らないっすよ! 課長の魔の手から先輩を救うのは俺だけなんですから!」 「と、金剛は言っているが、勘違いも甚だしい。そう思うだろう? 苅羽も」 確かに、徳永課長は俺のカラダを確認したいと言っただけなのだ。 飲み会の途中で―― 「……しかし、苅羽がここまでイケメンになるとはな。こっそりメンズエステにでも通ってたいたのだろう? でなければそこまで急に変わりはしないよな?」 「そ、そうですねぇ~。まぁ、そんな所です」コンタクトから眼鏡に変えただけ、とは言えないしな。 「実際にどの程度カラダにも効果があったのか確かめてもいいか?」 「はぁ、構いませんが」 「よし! じゃぁ、確認しやすい場所へ移動しよう」 ――と、会話したのは覚えている。 「だからと言ってラブホだなんて思って無かったんですが?」 「なら、居酒屋で裸になった方が良かったか?」 「そ、そんな恥ずかしい事出来る訳ないでしょう!」 「じゃぁ、ラブホで良かったじゃないか」 ああ言えばこう言う。口の上手さでは課長に勝てる気がしない。 「ほら? そろそろ脱いでくれないか? でないと確かめようがない」 言いながら徳永課長がスーツを脱ぐ。元ラガーマンだけあってガチッとした男っぽい肉体美が露わになった。 仕事の合い間に鍛えているという話は本当だったようで、腹周りに弛みは無く腹筋がボコボコに割れている。 「課長? マジ、なんすか?」 呆気に取られている俺の横で翼がキッと徳永課長を睨んだ。 「金剛こそ、どうしたいんだ? お前こそこの機会をチャンスにするべきじゃないのか?」 「それ、どう言う意味なんです? 課長」 「苅羽に自分をアピールできるチャンスと捉えられるだろ? 俺よりも苅羽には自分がふさわしい、ってな」 え? 俺? 俺の名がなんで出てくる? 「……要するに、課長は勝負がしたいんすね? 俺と課長のどちらが先輩を自分のモノにできるか」 「まぁ、そんな所だ。ただ、選ぶのは苅羽だ。どちらが苅羽を心から悦ばせ、交際相手にふさわしいと思わせられるか、が問われているんだ」 はい? 交際相手? 悦ばせる? え? つ、つまりそれって? 「そこまで言われたらますます引き下がれません。俺は先輩が必要ですし先輩にもそう思ってもらいたいです」 「はは。それで良い。最終的には苅羽がジャッジするからな。負けてもお互い恨みっこ無しで行こう」 俺の知らない間に勝手に進め方やルールが決まっちゃってません? 「いや、だから、二人して何やろうとしてんです?」 翼までもがバサバサとスーツを脱ぎ、一気に全裸になった。 「先輩! 俺、先輩が好きです! 今まで黙ってたんすけど俺、前から先輩の事を、その……」 「性欲の対象にしていた、と言いたいのさ。金剛は」 真っ赤にしたままうつむく翼の股間は、対照的にギンギンに勃起して上を向いている。 カタチの良いまっすぐな肉棒がはち切れんばかりに膨張していた。 「翼……」 「そして、俺も苅羽に惚れている。前々からそれとなく合図は送っていたんだが全く気付いて無かっただろ? なので、こう言う状況で告白する事になっちまったが、俺だってマジ、……なんだぜ?」 徳永課長も最後の一枚となっていたトランクスを脱ぎ、性欲を滾らせたイチモツを俺に見せつけた。 「二人とも……、俺に?」 咽喉がゴクリと鳴った。 徳永課長も翼もうなずいた。 以前の俺なら「もう! 冗談キツイっすよ! 二人して俺をからかうなんて!」とはぐらかしつつこの場から一目散に逃げていただろう。 なのに、俺は……、眼鏡越しに見える二人のカラダやチンポに目が釘付けになって、ジワリとカラダの一部が熱くなっていくのを感じていた。 「俺で、良いんですか? 俺なんかに……」 「ああ、苅羽の全てを俺のモノにしたい」 「先輩を付き合いたいっす! 俺だけの先輩にしたいっす!」