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鷹取リュウゴ
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末那識の慾尾 3

紹介され会いに行った男も尻尾を持っていた。 ただ、有働とは違って淡白な印象を与える男だった。 話しは明快かつ簡潔。 「欲望の対象を正しく理解していない。或いは認知していない」と言うような内容だった。 『五十嵐君も男が好きな筈』 それが事実か否か試そうじゃないか、と男は俺を誘う。 予感が無いわけではなかった。けれど、これほど「何でも無い事」のように呈示されるとは思わなかった。 ********* 3見えない扉  俺が普段通っているキャンパスとは別の、都心から30分ほど離れた郊外にあるキャンパスに来た。 『俺よりも五十嵐に合いそうな人を紹介してやるよ。こればっかりは相性が重要だからなぁ』 と、言われて有働に紹介された人物はこの郊外キャンパスにいるらしい。 緑の濃い高台に拡がる敷地からは遠くに都心の高層ビル群が眺められ、吹き抜ける風は洗われたように心地よい。 「ええと、哲学研究室は……、あ、ここか」 人文科学棟と書かれた建物の中の案内に従ってすすむと目的の部屋に辿り着いた。 ドアをノックし来訪を告げるとすぐに開いて招き入れられた。 「ようこそ。君が有働くんが言ってた五十嵐くんかい? ちょっと座って待っててね。いまコーヒー淹れてくるからさ」 出て来た人物はグレーのジャケットにネクタイを締め、細身の体に銀縁眼鏡をかけたいかにも研究者と言った風貌の男だった。 研究室内には所狭しと並んだ書籍と論文の数々。背表紙のタイトルを見ても哲学に関する物らしい、くらいしか分からない。 古代ギリシア哲学における何々、プラトンの何とか、スピノザの何々、倫理哲学におけるアレコレ……。 そして―― 「『エピクロスにおける快楽主義の実相』? 快楽主義なんてのがあるのか」 「うんうん、あるんだよねぇ~。五十嵐君も興味あるなら読んでみる? なかなか面白い内容だったよ」 コーヒーの入ったマグカップを俺の前と自分の前に起きながらソファに腰を下ろした男は、この哲学研究室の修士課程に在籍中の大学院生、『河村 功義(かわむら こうぎ)』と自らを名乗った。 25歳ながら修士課程なのは一旦社会人になってから大学院に入ったためだからだ、と言う。 そして、この河村さんも俺と同じ尻尾持ちの男だった。 俺に尻を向けると確かに立派な尻尾が突き出している。 「さて、と。まずは何から話そうか? 俺が尻尾持ちだと知ったところから? それとも尻尾を受け入れて覚醒したところかな?」 「時間が大丈夫なら両方とも聞かせて下さい」 「OK~」 ノリが軽いのはわざとなのか。俺が身構えないよう気遣ってくれているのか。 「俺が自分の尻尾に気付いたのは意外に思うかも知れないけど成人した歳、つまり二十歳の時だった」 それが早いのか遅いのか俺には分からない。平均なんて知らないし。 「自分は認識できるのに他人は見る事も触る事もできない尻尾がある事に当時は凄く不安で悩んでいたなぁ」 天井を見上げた河村さん。当時の苦悩を思いだしたのだろう。 「そう言えば五十嵐くんはいつから? ――そうか、4年前の高1の時からか。それからずっと覚醒しないで来たとなると相当辛かったんじゃない? え? そうでもなかった?」 「この尻尾が何なのかは常に疑問でしたけど、そもそも他人との接触が無い生活をしてたので」 人と関わる意欲が無かった。尻尾が無い奴らの中に混ざれば余計に孤独を感じてしまうからだ。 何も感じない、考えなくても良いよう俺は常に一人でいる事を選んでいた。 「へぇ~。俺なんかはこのままじゃ人並みに生きていけない、なんて思い詰めていっときは死のうかなんて考えたこともあったけど、やっぱり人によってだいぶ違うんだねぇ」 実の父親に殺されそうになったからか、死に関して考える事もずっと避けていた。 だけど、だからと言って夢や希望をもって生きてきたわけじゃない。むしろ死すらも諦めて無気力になっていた、と言うのが正解だ。 「俺の場合、当時勤めていた会社の同僚が尻尾持ちでさ、そいつのお陰で俺は覚醒して尻尾に対しても拒否感を持たなくなった。 今でもそいつはその会社に勤めてるみたいだけど最近はお互い忙しくってなかなか会えてないんだよな~」 河村さんは書棚の中からさっき俺が目に止めて呟いた本、『エピクロスにおける快楽主義の実相』という本を取り出して俺の前に置いた。 「この本に書かれているのは、ひと言でいうと快楽の追及こそが幸福で、その快楽とは哲学的な思索をしている時を指す、みたいな内容なんだけど、五十嵐くんはどんな時に快楽を感じるかな?」 「俺が快楽を感じる時、ですか?」 ふと思い浮かぶのはオナニーをしている時だ。しかし、こんな回答を口にはできない。 「美味しい食事をしている時、ですかね?」 「まぁそれも一つの快楽ではある。じゃぁ、答えにくいとは思うけど、性的な快楽はちゃんと感じられているかい?」 「ええと、一応は……」 「こんな質問に何の意味があるのか、と思うかも知れないんだけど、実は俺や君に生えている尻尾は快楽と深く関わっている。特に、性的な快楽と、ね」 俺はすぐに有働と扱き合いをした昨日のことを思い出した。 俺のチンポを扱き、尻尾を舐めてイカせると有働もまた俺にチンポと尻尾を差し出し同じようにしてくれと言って来た。 女では無く男相手に俺は興奮していた。 セックスの経験は無いもののオナニーのオカズは常に女。 その俺が同性に、男のチンポや尻尾にどうしてここまで興奮を覚えてしまうのか。 有働に求められるがまま俺は有働のチンポをしゃぶり、そして尻尾を扱き、有働の精液を顔に浴びた。 初めてだったけれどイヤじゃなかった。そう感じていることに驚いていた。 俺は男でも性的興奮を覚える人間だったのだ、と。 「覚醒する前の俺はさ、女とセックスしてもちっとも満足できなくってさ。それは俺自身のカラダに問題があるからだ、と思ってたんだけど覚醒に導いてくれた会社の同僚曰く、カラダの問題ではなく性的な快楽を求める対象を正しく把握していないからだ、なんて言われて、それで思い出したんだ。 俺は尻尾が生える前だって女とセックスしても心から満足した事は無かったな、ってね」 「ええと、それは……」 「俺ね、間違ってたんだよ。セックスしたい対象を。俺が求めていたのは男。同性だったんだ」 「っ!」 「その事実を理解し、納得するまで手こずったんだけど同僚のお陰で俺はその事を受け入れ、覚醒することができた」 「じゃぁ、俺も、本当は男が性の対象で女じゃないって事ですか?」 「例外もあるだろうから絶対にそうだとは言い切れないけど、俺が知った限りではみんなそうだったね。男の尻尾持ちは男に、女の尻尾持ちは女に興奮を覚える」 「つまりは同性愛者、ゲイ、だと」 「そういう事。今まで自分をノンケだと思って生きて来たんだから、そりゃ受け入れるまで大変だった。でもまぁ、気付いた時点ですでに俺は、心のどこかで男とのセックスを求めていた。 遅かれ早かれ女じゃなくて男が性の対象だって認めていただろう」 「じゃぁ、俺もやっぱり……」 「こればかりは自分の意志で振り分けられるモノじゃない。何を快楽と感じるか、ってハナシだからね」 コーヒーを口にした。ぬるくなっていたが、大丈夫。美味しいと感じられる。 「さて、こっからがどちらかと言うと本題だ。五十嵐くんさえ良ければ俺が導師を務めよう。中途半端な状態を脱して自分自身の快楽を認め、尻尾とも折り合いをつけられるよう手伝うけど、どうだい?」 河村さんはそう言うと股間のチャックを開け、中からチンポをズルンと引き出し俺に見せた。 ゴクリと咽喉が鳴った。 なぜ? 有働の時はまだしも初対面の河村さんのチンポを見て、どうして俺は唾液を飲み込んだんだ? 「認めたいけど、まだ認めたくはない、いや、何故興奮してしまうのかまだ分からない、って感じかな? だったら余計に確かめてみるしかないと思うけど?」 河村さんはそう言って勃起したチンポをビクンと揺らした。 そのチンポから目が離せない。滲み出ている透明な粘液の熱さが俺のチンポにまで伝わってきそうだ。 「研究室でこれ以上の行為に及ぶのはさすがにマズいな。俺専用の場所じゃないし。五十嵐くんが望むならふさわしい場所に行って、そこで続きをしてあげよう」 河村さんが立ち上がって俺の背後に立った。 「俺はさ、五十嵐くんを見た瞬間から君とセックスしてぇ、って思った。導師として覚醒を促してあげたいなんて固い理屈は抜きでさ。単純に俺の性欲が五十嵐くんを求めちまった。 五十嵐くんとセックスして快楽を味わいたい、ってね」 河村さんが俺のうなじをベ〇〇と舐めた。 湿った鼻息がかかるとそれだけで俺はゾクゾクと震えた。 「お、俺……、俺は……」 「自分の真の快楽を知る事と、尻尾を受け入れる事は同じなんだ。思うんだけど、覚醒したからっていきなり幸せになったり世界がバラ色に見える訳じゃない。 ちょっとだけ自分自身への理解が進む、って感じさ」 「俺が、俺自身の事を?」 「そう。そこにはもしかしたら痛みがあるかも知れないし、何も無いのかも知れない。恐れが先だって理解できない場合もあるだろう。 だけどさ、そのために導師の俺が居るんだ。怖い時は怖いって、俺を頼ってくれ」 ここで言葉を切った河村さんは俺の右手をそっと両手で包んだ。とても暖かかった。 「もっとシンプルに考えて欲しいんだ。自分を好きになれない奴は他人も好きになれないんだ、って」 見上げた河村さんの目は、確かに欲情していたけれど暴力的なモノは全く感じ取れなかった。

末那識の慾尾 3

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