もしかしたら俺にとっての初恋はとっくの昔に終わっていたんだろう。 終わっていた事さえずっと思い出せなかったほどに。 今、過去に在った出来事を一つ一つ思い出すたびにそう感じ取れた。 瞳を閉じ、尻尾にだけ集中する。 記憶なのか妄想なのか、瞼の内に浮かんだ父さんは自分の死を自殺ではなくただの事故だと口にした。 そして、俺の尻尾を見てかっこいい、と言ってくれた……。 俺はもう胸がいっぱいになってしまって父さんに向かって大好きだ、としか言えずにいた。 ずっと言いたかった言葉、だけどずっと言えなかった言葉を。 ********* 5 月が昇る前に 「んうっ! す、っげ、チンポが! あんなデカいチンポが俺ん中、入ってるっ!」 四つん這いになった俺の尻穴に河村さんのデカいイチモツがズブズブと挿入されている。 サイズが半端無いからキツイのはキツイ。しかし、河村さんが俺の尻尾を掴んでその先端をしゃぶればメリメリ音を立てて尻穴は貪欲に拡がり、河村さんの肉棒をさらに引きずり込もうとビクついた。 「ああ~、さすが初めてのケツマンコは締め付けが凄いな! ゆっくり挿入しないと俺の方が暴発してしまいそうだ!」 下腹部がキュンキュンと疼く。 切ない快感が下半身から全身へ拡がっていく。 自然と滲む目尻の涙。堪えようとしても出てしまう喘ぎ、吐息……。 ふと、顔を上げると細い窓の向こうに蜜色の満月が低く浮かんでいた。 ◇ 思い出した過去の記憶、トラウマ、全てを河村さんに話した。 順序はメチャクチャ。行ったり来たりしてとても聞きづらかっただろう。 だけど河村さんは一切余計な質問は挟まず、小さな相槌を返すだけで最後まで聞いてくれた。 「――それは……、今まで大変だったね」 辛かったね、でもなく、悲しかったね、でもない。ごく普通の労いの言葉。 だけど、その方が今の俺にとっては心の奥底にズシンと響いた。 そのせいでか俺は泣いてしまった。泣けることに驚いた。 〇〇のように、壊れたおもちゃを嘆くように、河村さんにしがみついて泣いてしまった。 「落ち付いた?」 「え、ええ、すみません……」 渡されたティッシュで涙や鼻水を拭う。 一枚じゃ足りなくて二枚、三枚と引き抜いてなんとか体裁を整える。 そして、気持ちが静まってくるとよみがえって来るのは羞恥心。今、俺は顔が真っ赤になっている筈。凄く火照っているのを感じる。 だけど、河村さんは恥じらう俺を茶化したりはせずそっと逞しい胸で抱きしめた。 「世の中にはさ、求めても得られない物事の方が多い。むしろほとんど手に入らないと言ってもいい。だけど、快楽、快感だけは自慰にせよセックスにせよ求めれば手に入る。まぁ、フラれる事もあるけど実現できる数少ない欲望だと言える」 頭の上から河村さんの声が降って来る。 静かに滔々と、雨水が土に沁み込むように俺に入ってくる。 「尻尾が何なのか厳密には俺も分からない。尻尾は何も話してはくれないしね。だけどさ、尻尾がある事の意味は何となくだけど理解しているんだ。 それが覚醒する事の意義かも知れない」 俺は返事は返さず首だけを少し上に向けた。 「俺が思う尻尾の意味を知りたい? でも、俺が得た意味は俺だけのもの、と言いたい所だけど、 それじゃぁあまりに素っ気ないから、ちょっとだけ言葉にしてみようか」 河村さんが俺の頭を撫でる。 その手つきはまるでやさしい父親のようで―― 「俺にとって尻尾はさ、『俺は俺である』との証明なんだ。俺として生きているって証明。俺はここに在るって証明。俺の生き方を受け入れた証明。そして、快楽を感じている証明」 「証明?」 「そう。尻尾を受け入れる前は、覚醒する前はさ、さっきも言った通り死を考えたりもしていたんだ。だけどさ、尻尾を受け入れ、男への欲望を受け入れたらむしろ尻尾は俺の生存証明になった。俺は他人とは違う存在であると」 「……怖くは、無かった?」 「鋭い質問だね。正直言って怖かったさ。覚醒したら俺はもう俺でなくなるのかな? なんて考えたりもした。 だけどさ、俺の導師の男はこう言ったんだ。 『怖いと感じられる心があるなら大丈夫だ』って」 「不思議、大丈夫だなんて」 「だろ? でも後になって俺は理解した。覚醒にせよ何にせよ、未知の扉を開け新しい世界に足を踏み入れる時は誰だって、いつだって、期待と同じくらい恐怖を感じるものなんだ、って」 「……だとしたら俺も、怖さと同じくらい期待しているのかな……」 「五十嵐君にとって覚醒する事は怖い?」 「……怖いです」 今までの俺なら虚勢を張って「怖いかどうかまだわからない」なんて言っていただろう。 「じゃぁ大丈夫だね。大丈夫。ゆっくりでいいから尻尾に意識を向けて、全身は力を抜いて、そう、全てを尻尾に委ねてみてごらん?」 「……はい」 俺は河村さんの胸にもたれかかったまま目を閉じ、意識を尻尾へ送った。 ◇ 暗闇の世界で見えたものは俺を捨てて出て行った母の顔ではなく、俺を〇〇〇した不倫相手の間男でも無く、首を絞めて殺そうとしていた父の顔だった。 そして、自分自身は何故か15歳の中学生に戻っていた。 「……父さん……」 『――拓斗、母さんがあんな風になったのは俺のせいだ。俺はどうやら母さんよりも、いや、女の人よりも男の方が好きな人間だったんだ。だから母さんとはだんだん気持ちが離れてしまって、その寂しさを埋めるために母さんは不倫に走ってしまった。 だから、全部、俺の責任だ』 これは、俺の記憶なのか? こんな話を聞いた事があったのだろうか? 『お前と、拓斗と関係を持ってしまったのは世間的にはとても良くない、親子で関係を持つなんて言語道断の事だ。 だけど、俺はお前に我が子以上の愛情を持ってしまった。だからこそ、アイツに〇〇れているお前を目にした時は頭に血が上った。 アイツに〇〇れるくらいなら俺がお前を! って』 「……俺に、母さんの姿を重ねていたんじゃないの?」 父さんはゆっくりと首を左右に振った。 『俺はアイツに、あの男に嫉妬していただけだ。俺の方がお前を愛しているのに、なんで間男のアイツなんかがお前を! ってな』 「そう……、だったんだ」 『だから、お前を奪ったアイツの名をお前が口にしたのが許せなかった。自分が父親であることも許せなかった。 お前を愛する一人の男になりたかった……』 「父さん……」 『……お前を殺して、そして俺も死んで、共に生まれ変われたらいいな、と思った。だけど、お前はさ、父さんになら殺されても良いよ、なんて……。そんな事言われて殺せる父親がいるか? 俺には無理だ。無理だったんだ……』 「だから父さんは俺を殺すことは止めて、自分だけが死ぬことにしたの?」 『それは違う。最後の最後でお前が俺を愛してくれていると実感した俺はさ、情けないくらいに嬉しかったんだ。 父親としてお前に嫌われても、憎まれても、イチからやり直せるんじゃないか、って』 「でも……」 『俺が死んだのはただの交通事故だ。拓斗、お前はもしかしたらさ、俺が死んだことに責任を感じてるんじゃないか? だったらそれはもう止めるんだ。父親としては最低で最後までお前に迷惑をかけたクズだったが、お前のせいで死んじまった訳じゃない。 車線を飛び出して突っ込んで来たトラックにも、避け切れない程のスピードを出していた俺にも非がある、単なる不運な事故のせいなんだ』 父さんはすっと全身を現わし、俺の尻尾をそっと撫でた。 『拓斗の尻尾、カッコいいな。俺もそういうものが付いてりゃもっと素直になれたのかもな』 「尻尾が、カッコいい?」 肯いた父さんは満面の笑みを浮かべた。 『ああ。その尻尾は拓斗の一部だろう? だったら父さんは尻尾も大好きだ。拓斗によく似合ってる』 いつの間にか俺は中学生ではなく今の俺に戻っていた。 「俺も、俺も父さんが大好きだ。俺にとっては唯一の、たった一人しかいない大好きな父さんだから!」 『っへへ、嬉しすぎて勃起しちまった。相変わらず俺ってば情けねぇよな? だけど、お前からそんな風に好きだと言われたらカラダは素直に反応してしまうんだ。 もうお前と触れ合えはしないけど、お前と出会えたことは俺にとっちゃ最高の出来事だった。 ただ、拓斗の人生はこれからだ。 お前の人生はお前の力で創らなくちゃダメだ。 色々あるだろうが辛い事は辛いと、好きな事は好きだと言える人生を歩んでくれ。それだけが父さんの、いや、お前を愛する一人の情け無い男からの願い、だからな』 父さんは俺を強く抱きしめた。 かと思うとふっと力が抜け、気付いたらもうどこにも居なくなっていた。 ◇ 「ひぐぅぅぅん゛っ! ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛----っ!」 尻尾がビギン゛! と勃ち上がった! ドクドクと溢れて来る性的な欲望。そして全身を駆け巡る熱い劣情。 カラダが、筋肉がミシミシと歪な音を立てた。 汗が噴き出てチンポがこれでもかと勃起した。 「ああ。覚醒できたんだね。おめでとう五十嵐君。これで晴れて君も俺たちの仲間だ」 河村さんが何かを呟いていたけどほとんど聞こえちゃいない。 滾る血潮の奔流に身を任せているのが気持ち良くて、もっともっと味わっていたくて、さらに俺は全身をみなぎらせた! 「ぐひ! が! あががはぁあああーーーーーーーーっ!」 リビドーによってパンパンに膨張した肉体はやがて河村さんに負けないレベルのマッチョな肉体へと変貌し、俺をただの人間から一体の淫獣、いや、覚醒した『有尾人』へと至らせた。 「ヒュー! いいねぇ~! 五十嵐君の真の姿、超カッコイイ~!」 「これが? これが俺の本当の姿?」 「そう。こっちが俺たち尻尾持ちにとっての真の姿。さっきまでのは世間に紛れるため自然に採っている擬態だね」 とても清々しかった。 とても爽快だった。 そして、とてもムラムラしていて河村さんとセックスしたくて堪らなくなっていた。 巨大に成長した勃起チンポを河村さんに向けると、河村さんはニヤリとイヤラシイ笑みを浮かべた。 そんな河村さんの背後に見えた小さい窓はすっかり夕暮れの色に染まっていた。 「さて、五十嵐君。俺とセックスしたいかい?」 「――聞かなくたって分かってるくせに」 「そうでもないさ。俺たちは以心伝心じゃない。自分の事が分からないように他人の事も分からないからね」 「でも、尻尾持ちの有尾人同士なら相手に発情してる事は一目瞭然でしょう?」 「まぁね。五十嵐君の尻尾もチンポもバキンバキンに勃起してるし。でもさ、俺は常日頃思うんだけど言葉でのコミュニケーションをおろそかにしちゃダメじゃないか、ってね」 「じゃぁ言います。俺は河村さんとセックスしたい。このカラダでどこまで気持ち良くなれるか試してみたいです」 ベッドから立ち上がった河村さんが俺にチンポを握らせた。 河村さんも俺のチンポを握った。 「うんうん。改めておめでとう。これほどエロくてカッコイイ尻尾持ちを俺は今まで見たことが無い。いつもよりも激しい、ハードなセックスになるだろうけど構わないよな?」 「俺の方こそ、歯止めが効かないと思います。徹底的に河村さんを〇〇たいし〇〇れたいと求めています」 「ひ~! 嬉しい事言ってくれるね! そんだけ求められちゃ応じない訳には行かないよな! 絶対に忘れられない一夜にしてやるから覚悟してくれよ?」 「望むところです!」