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鷹取リュウゴ
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寄生魔竜人の性蝕アドバンテージ 7

 さぁ、双星村での調査の次は雑貨屋に頼まれていたH大学近辺に向かおう。 ヒーロー派遣会社への報告はこいつを片付けてちゃんと報告をまとめてからでいいだろう。 よくある郊外、よくあるニュータウン。最寄駅からタウン内のセンターまでバスで数分。 公共施設とショッピングスポットが集まる中心からほど近い距離にある総合大学。 駅前でちょいと聞き込みをしてから大学までやって来た。 雑貨屋の依頼があまりに漠然としているせいもあって「未知のアイテム」についての噂を集めるはずが獣人についてに引っ張られちまう。 おいおい、双星村をまだ引きずってんのかよ俺は。 だけど、出会った学生たちに質問していくと最近様子が変わった学生がいるとの情報を得た。 もしかして未知の獣人か? 雑貨屋じゃなくてヒーロー派遣会社に報告しなくちゃならない案件か? 考えるよりも行動だ。 様子が変わったと名指しされた学生に直接アタックしてみよう。 で、 その学生を探ろうとする俺の前に現れたのは―― *************** 7フリーライターと謎の学生  数日後、もう一つの依頼を片付けるためH大学のある街へとやって来た。 行動を開始する前に『双星村』での調査を簡単にまとめたメモを取り出し文字を追った。 ・噂の獣人とは村唯一の交番勤務の警官だった。 ・警官は某遺伝子研究所で改造実験を受けた狼型獣人。浄化対象である擬性獣では無かった。 ・村の長老が秘密にしていたかった理由は年に一度、双成神社の祭りで行われる秘儀が性行為であるため。 ・獣人警官は境内に部外者が入らないよう巡回していたため祭りの秘儀そのものを目にしてはいない。 「でもって、今年は祭りが中止になっている。中止の具体的理由は警官も教えられていないから不明、と」 警官と言えどあくまで生粋の村民じゃない。だから核心部分には触れられないよう遠ざけられている可能性が高い。 これは、警官が獣人であろうと無かろうと代々受け継がれていた伝統であるように感じられた。 「ん~、あの警官は浄化対象の擬性獣じゃなかったし、クライアントにはこれで報告するしかないか……」 どうして獣人警官が対処を必要とする「擬性獣」ではないと言い切れるのかは俺の能力によって断言できるのだが、その点については今のところどうでもいい。 メモを閉じ、改めて駅前のロータリーを見渡すと、ベッドタウンの郊外らしい晴れやかさと真昼間ながら歩く人の居ない素っ気なさが同居していた。 視界に入るのは「祝! H大ご入学! 一人暮らしのご相談は当店に!」と書かれたのぼりがなびく不動産屋と美容院、そしてデイサービスセンターだけ。 地図アプリを開くとコンビニは大学の近くに、スーパーや医療機関など生活に必要な施設は駅前ではなくベッドタウンの「センター」にあると知れた。 バス停の時刻表は朝と夕以外は極端に便数が少ない設定になっていて、10時から15時までは一時間に2本しかバスが来ない。 で、現在はと言うと午前の11時。 双星村のような過疎地とは逆に、居住人口も人口密度も遥かに高い地域ではあるもののフリーのライタ―が情報集めをする苦労においてはさほど差が無いな、とすぐに悟った。 たまたま見かけたベビーカーを押した若い女性に話を聞こうと近寄ったら、あからさまな警戒感を示され逃げるように去っていった。 「俺、そんな胡散臭い奴に見えるのかな?」 いささかショックではあったが仕事は仕事。気を取り直して聞き込みを開始した。 ただし、こういう時はもう一つの肩書を利用させてもらおう。 「突然申し訳ありません、私、こういう者でして」 新入学シーズンが過ぎヒマそうな不動産屋に入った俺は、「月刊シティタウン、協力ジャーナリスト・饗庭野 悍馬」との名刺を差し出した。 「ジャーナリストさん? 要するにシティタウンの記者さんか」 「はい。今回はこちらに取材をと思いまして」 名刺にある肩書も特に嘘ではない。たまに、だけど月刊シティタウンに俺の書いた記事が掲載される事もあるのだから。 「あ~、でも俺、この住民じゃないんだよ。隣の市から通っているからさ」 「いえいえ。それでも構わないんです。どんな些細な情報でもお聞かせ願えればありがたいですから」 Yシャツにネクタイだけの不動産勤務の男はニヤッと唇を歪めた。 「ねぇねぇ、良い情報と悪い情報とあるんだけど、どっちを提供すればタウンシティに採用される? 採用されればタダで見本誌くらいくれるんだろ?」 退屈しのぎの玩具を見つけたかのようにニヤける男に俺は「そうですね。採用された場合はお渡しできると思いますが、やはり『ネタ』次第になりますね」と答えておいた。 すると、余程ヒマだったのか不動産屋の男はべらべらとしゃべり始めた。 「良い情報ってのはさ、ここらを開発した業者が県会議員に賄賂を贈ってたのがバレて取っ捕まったって事かな」 幅を利かせていた開発業者の力が弱くなることは地主や仲介不動産会社にとっては悪くないハナシらしい。自由に商売するにあたって目の上のたんこぶだったようだ。 「あと、悪い情報ってのはまぁ、商売敵のアンチが流しているくそつまんねぇ噂なんだが、野良獣人がH大近辺に出没するってのがあって……」 擬性獣であろうとなかろうと人間ではない存在は人間にとって恐怖や嫌悪の対象になりやすい。 故に、野良の獣人がうろつくいているなんて噂が流れれば不動産価値は下がり、地域外からの入居希望も減るだろう。 不動産屋の男もこれらの点をしきりに強調した物言いでもって悪い情報の出所は商売敵に違いない、と思い込んでいるようだ。 「……だもんで、記者さんには悪い噂をぶっとばしてもらって、もっと客が来るような記事を書いてもらいたいぜ」 「おっしゃる通りですね。根も葉もない噂、いわゆる風評〇〇が出ないよう私どもも協力させて頂きます」 念のため不動産屋の隣りにある美容院でも話を聞いた。 内容的には不動産屋と同じネタだったが受け止め方は真逆で、「開発業者が手を引き始めたせいで地主共が勝手にアパートや小規模マンションを建て始めてしまって治安が低下し、美容院のメイン客層である女性たちはセンターの美容院ばかり利用するようになっている」 「H大学近辺に野良獣人が出る噂はセンターに集中しがちな客を多少は分散させてくれるのでむしろありがたい」と。 二つの店で取材した俺はいよいよクライアントの指示にあったH大学の前までやって来た。 「野良獣人ね……。そいつと慰昆堂さんの言っていた『当店では扱っていない商品』ってのがどうつながるのか……」 駅前で取材をした上でも雲をつかむような気持のままH大学の構内をぐるっと回ってみようと思った……のだが、あまりに面積が広いようなので今回はあきらめ、学生が集まりそうなカフェや学生食堂、図書館などポイントを絞って話を聞いてみることにした。 「休憩中に邪魔して悪いんだけど、ちょっといいかな?」 学生なんかが相手の場合、変に正体を小出しにするよりかは最初からドンと身を明かして目的も示した方が疑われにくい。 なので、街の噂の真相を追うフリーライターである事や、駅前で聞いた「噂」について先に打ち明けた上で質問を行った。 「あ~、獣人の噂かぁ、俺は直接目にした訳じゃないんだけどこのごろやけに耳にするなぁ」 飲みかけのカフェオレを口から外した学生がこう答えると、向いの学生が「そう言えば、理学部の東城って獣人じゃね? ってな噂を聞いたな。前より目が血走ってて気味が悪くなってたってハナシでさ」 おお、これはかなり有力な情報ではないだろうか。 「へぇ? 興味深いね。もう少し詳しく聞いていいかい?」 「いや俺は理学部にいるダチからちょっと聞いただけなので詳しくは分からないっす」 「じゃあさ、理学部の東城君が居そうな場所って分かる?」 「東条の居場所? う~ん、理学部の講義棟か下宿先のアパートじゃないすかね?」 俺はH大学理学部の講義棟に向かった。 が、今日は学会によって休講が多く、昼から登校している学生は半分にも満たないと言う。 それでも、と理学部棟に残っていた学生に聞けば――「東城? 2年のあの東城かな?」 「あの?」 「ああ。東城ってさ、入った時からチャラチャラしてた奴だったんだけど新年度が始まって大学に出てきたら、なんか急にマッチョになっててさ」 「そうそう! チャラマッチョになってたから面白がってイジってた奴も多かったよな? けど急に収まって、あれは少し奇妙な感じがしたな」 「東城君、今日はもう帰っちゃったのかな?」 「さっきまで居たけどもう帰ったみたいっすね」 周囲を見渡した学生の一人がそう言うと、他の者も同意した。 「急がないと、ってブツブツ言いながら帰っちまいましたよ?」 「すまないが、彼のアパートってどこか知っている?」 全員が顔を見合わせていたものの一人が「どのアパートかは知らないんですが、そばの中央公園を歩いて大学に来る姿は見かけるので、公園を抜けた先の3丁目あたりに住んでいるのかな、って程度しか分からないっす」 学生課に聞けば東城と言う学生の住まいなど一発で判明するだろう。 だが、どうやって聞き出そうか。 個人情報に対する扱いが厳しくなった昨今、関係者でも無い俺が住所を知るのはほぼ100%無理だろう。 では、地道に足を運んで調べるしかない。 3丁目の規模がいかほどかは分からないものの、学生が下宿するアパートが何十軒もあるとは思えない。 アプリのマップを開き、現在位置と中央公園、そして3丁目の街区を順に見つめ、アパートと思しき集合住宅をざっくりと数えてみる。 「学生向けマンションも含めると30軒か。う~ん、意外と多いんだな」 多いとなると今日だけでは調査を終われそうにない。 相当時間が掛かりそうだと腹を括り、依頼者である慰昆堂に今までの経過を電話で軽く報告。 「――ええ、と言う訳でして、もうしばらく調査をしないとご依頼のアイテムについてはなんとも……」 中央公園の中のベンチに座り、地面に低く咲くタンポポなんかを見つめながら通話する。 アイテムの噂よりも獣人に絡む噂に首を突っ込もうとしている部分は言わないでおこう。 『お疲れ様です。状況は分かりました。今後の調査もそのまま続けて下さい。追加費用はご心配なく。ただ――』 「ただ、なんでしょうか?」 『失礼しました。私の勘なんですが、噂の出所はもしかしたら饗庭野さんの能力では察知できない相手かも知れません。 なので、くれぐれも気を付けて下さい』 「……ええと、もしかしてオーナー、俺の能力って言うか正体についてご存知なんですかい?」 『ええ。大雑把には』 どうやって俺の秘密を知り得たか今は聞かないでおこう。報酬をもらうまでは大事なクライアントな訳だし。 しかし、俺の正体に気付くなんてこの雑貨屋のオーナー、獣人よりもはるかにヤバい気がするんだけど……。 「さようですか……。まぁ、その件はともかくご忠告ありがとうございます。それではまた」 通話を終え今日の所は一旦引き上げるか、とベンチから立ち上がる。 白い靄が漂い出した夕暮れ前の公園は静かと言うよりも不気味さが感じられる。 「そもそも東城って学生が獣人だったとして、クライアントが探している謎アイテムと結びつくかどうかも怪しいんだよな」 慰昆堂が俺に依頼しているのはあくまで「H大学周辺から噂が上がる謎の商品」について、なのだ。 獣人探しがメインじゃないのでもう一段深掘りする必要がある。 とは言え、「ここらで謎の商品についてご存知ですか?」なんて聞けやしない。怪しいと思ったネタを一つ一つ、搦め手から探るしかないのだ。 不意に草を踏む足音が聞こえた。 足音の主は靄る木立の中からヌゥっと現れた。 姿を見ればいかにも大学生と言った雰囲気の男子だ。 なら、最後にこいつから聞き込みをして今日は終わろう。 「やぁ、こんにちは。あのさ、急に呼び止めて悪いんだけどH大学の学生さんかな?」 訝し気に俺を見る二つの眼。 何故か赤く光ったように見えたが、きっと夕暮れの光が瞳に反射したんだろう。 「最近このあたりで奇妙な噂を聞いた事はある? 例えば獣人とかさ。それと、理学部の東城って学生は知ってる?」 その学生はハッと顔を上げ冷たい視線を俺に向けた。 「ええと、お兄さんは誰っすか?」 「俺? 俺はフリーの記者なんだ。『シティタウン』ってタウン誌なんかにも寄稿しているよ」 「つまりマスコミの人っすね?」 「まぁ、そうなるかな。で、どう? 何か知ってない? というか君が東城くんだったりする?」 男子学生は首を横に振った。 「いいえ。俺は東城じゃないです。でも――」 じわりと俺に近づいてきた。靄はますます濃くなり夕陽の色を融かしてピンク色のベールが立ち込めている。 「でも、東城を探ろうだなんて見過ごせないですね」 「うん?」 俺は咄嗟に身構えた。何故構えたのか自分でも分からない。けれど、危険が迫っている、と本能が知らせた。 男子学生のシルエットが一瞬大きく膨らんだように見えた。いや、靄の影が重なっていただけなのか? 俺をじっと見据えているのに何故だろう、表情が読めない上に暗くて見えないなんて……。じわりと手に汗が滲む。 「き、君は、一体……」 「…………」 そういやコイツの足音に気づいてから姿を目にするまでの時間が短すぎる。 考え込んで注意が散漫になっていたとしても俺の地獄耳であればもっと早い段階で聞こえてもいい筈なのに。 闘うべきか逃げるべきか。男子学生の次の行動を見逃すまいと全神経を傾ける。 なのに、次の瞬間俺は意識を失っていた。 どうなってやがる? 何をされたのか全く分からなかったんだが? まさか俺、死んじまった? 

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