さて、情報屋との連絡が取れなくなった2つのクライアント。 一つは1年前に擬性獣騒動を解決に導いたヒーローたちの事務所。 もう一つは中々たどり着けない上に不思議アイテムを扱う雑貨店。 これからどのように関わっていくのか。 その前夜となる彼らの動きを見てみよう。 ******** 9限界の無いヒーローと謎の雑貨店 最後に通話してから2週間。 依頼した情報屋からの連絡が途絶えた。 「余程の事が起きたに違いない」と断言しているのは、昨年起きた擬性獣事件で活躍したヒーロー達のまとめ役を務めるバレットと言う逞しい中年の男。 身に着けているスーツのジャケットがパッツパツになっていてはち切れんばかりに盛り上がっている。 「つっても、まだ2週間だろぉ? 念入りに調査してくれてんじゃねぇの~?」 デスクに肘をついて欠伸を放っているのは「杉原 列人」。通称「レット」と呼ばれているヒーローの一人だ。 都心に聳え立つ超高層ビルのオフィス。人の背よりも大きな窓から見上げれば、吸い込まれそうなほどの青い空。 眼下にはキラキラと日の光を跳ね返すビルが無数に林立している。 「いや、それでも気がかりだ。こちらからの電話ばかりかメッセージにも全く反応しない。しかも、既読すらつかない事態は初めてだ。金で雇った相手とは言え危険にさらされているのなら救助しない訳にはいかないだろう?」 「そりゃぁ、そうだが……」 「なぁレット。山形から帰ったばかりですまないが、ここは一つ、彼の様子を確かめに行ってくれないか?」 「ええ~? 俺がぁ~? 緊急対応でも獣人事案でもないのに~?」 「今現在、手が空いているのはキミしかいない。他のヒーローたちが出払っているのは見ての通りだ」 オフィスを見渡せば事務処理を行う少人数のスタッフが居るだけで他のヒーローの姿は一人もいない。 「不良獣人はめっきり減ってるってのに、何やってんだか」 「目撃情報がある以上、現地まで出向くのも我々の仕事だ。そうやって不安を取り除くのも我々の大事な役割だろう?」 「そりゃま、そうですけどねぇ……」 席を立ったボスがだるそうなレットの前に立つと、部下の緩んだネクタイをキュ! と締め上げた。 「ふぉ!?」 「なぁレット、昨夜はしっかり俺のチンポを味わえただろう? それに、ベッドの上で君はこうも言ってたな、『なんでもする! このでけぇチンポの為なら俺は何でもやってやる! だからバレット! もっともっと俺に頂戴!』、とね」 ボスの発言を耳にしたスタッフたちは、顔を赤らめ股間の位置をそっと調節していた。 「お、おう……。んなこともノリで言ったかも知んねぇけど……」 ボスの男がレットの手を取り自身のズシリとした股間の膨らみに押し当てた。 「キミが動くのが一番早いんだ。帰ってきたら真っ先に俺とセックスしよう。だから、な?」 洋画の俳優ばりにセクシーなウィンクをしたボスにうっとりと見惚れたレットは頭をぶんぶんと左右に振った。 「く、くそぅ、いつもその手で丸め込まれちまう! 人の弱みにつけ込みやがって!」 「いいじゃないか。このチンポで気持ち良くなりたいんだろう? 早く片付けてくれれば早く楽しめるんだぞ? 俺だってレットと早くヤりたいんだ」 「くそっ! くそうっ! 行きゃあ良いんだろう! 行きゃぁ!」 渋々立ち上がったレットをグッとハグしたボスがレットの耳元でささやいた。 「時間の許す限りレットとセックスしたい。何なら朝までフルコース(タチウケ両方の意)でも良い。鎧(ガイ)には内緒でいっぱい種付けし合おう」 鎧とはボスの恋人であり、かつてはレットの敵でもあった「石嶋 鎧」という人物の事である。 擬性獣事件を経た現在は鎧もまたレットと同じく事務所のヒーローの一人として問題を惹起させる獣人の対処に当たっているのだった。 「ラ、ライゴやタカシにまでそうやって誘ってやがるくせに」 「うっはっはっは! 親睦を深めるにはセックスが一番だからなぁ!」 大きく口を開けて快活に笑うボスにがくりとうなだれたレットは、萎れたヒマワリのように肩を下げオフィスを出て行こうとした。 「待ってくれレット。こいつが彼の住まいだ。家主には話を通しておくから部屋の中まで入って異常がないか確認して欲しい」 「股間をヌルヌル撫でながら言うんじゃねぇ! 俺まで勃起が収まんなくなるじゃねぇか!」 ボスから発信された住所をスマホで受け取ったヒーローは、一瞥して胸ポケットにグイッと押し込むと腰を不格好に引いたままオフィスから去っていった。 黙ってレットを見送っていたボス・バレットは柔和な顔をキリっと一変させ、憂いを込めて重く呟いた。 「……俺の杞憂であればいいんだがな。見た目とは違って義理堅い情報屋が連絡を寄越さないなど今まで一度も無かったのだが……」 ◇ 「――糸が切れた、ですか? 雲居さん」 「ええ。饗庭野さんに付けていた私の糸が」 レットが事務所を出て行ったのと同じころ、シャワーを浴び終えベッドルームに入って来た男はシーツが乱れたままのベッドの端に座り、顔を曇らせている恋人の声に疑問符を返した。 腰に巻いたバスタオルの隙間から巨大なペニスを惜しげもなく見せつけるマッチョな男は「須崎 遼平」 そして、須崎から「雲居」と呼ばれベッドサイドに座っている全裸の美青年は、須崎のマンションの隣りで雑貨屋を営むオーナーの「雲居 アラン」 雲居は顎に大きく裂けた傷跡を撫でつけながら、深刻な面持ちをさらに暗くした。 「調査をお願いした饗庭野さんには念のため私の蜘蛛糸を付けさせてもらっていたんです。それが何故か、先ほどプツリと突然切れてしまって……」 「普通の人間には触れる事も見ることも出来ない不可視の糸、ですよね? 壁さえもすり抜けどこまでも伸びる『不断の蜘蛛糸』なのに、どうして――」 俯いたままベッドから立った美青年はゆっくりと須崎の前に立った。 「……人間ではなく糸を知覚できる存在が饗庭野さんの糸を断ち切ったか、或いは……」 須崎の逞しい大胸筋に指先を乗せ、つぅ、と滑らせ口を開く。 「或いは、私の想像を超えた事態が饗庭野さんの身に起きたのかも知れません」 まだシャワーの湿りを残す胸元からピンと尖っている先端部を弾いた美青年が須崎を見上げると、須崎もまた苦し気な表情を湛えていた。 「うう、雲居さん……、そんなにもイヤラシク触れられたら、俺、またシたくなっちまうじゃありませんか……」 「おや?」 視線を下げれば勃起し始めた須崎のチンポがバスタオルを押し退けグングン角度を上げている。 「っふふ、また元気になっちゃいましたか? だったら我慢せず昨晩と同じように燃え尽きるまでセックスを、と言いたい所なんですが――」 「分かってます。饗庭野さんの様子が気になるんでしょう?」 「……はい。依頼した調査の最中なのでトラブルに遭われたの知れないですし、なにより、彼の身が案じられます」 「そんな風に饗庭野って男を心配している雲居さんを見ていると、なんだか俺、彼に嫉妬しちまうな」 「ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」 「分かってます。分かってますって。勝手に俺が腹を立てているだけです。雲居さんのせいじゃありません」 須崎の両ひざを割って体を寄せた雲居がフル勃起してのど近くにある須崎の巨大な亀頭を指で愛撫すると、喘ぎを堪えながら須崎は深いため息をついた。 「今だけは饗庭野って男を恨みますよ。このまま雲居さんを押し倒すことができなくなってしまったんですから」 雲居の肩を抱き寄せた須崎はそのまま二人してベッドに横たわった。 「俺の嫉妬が憎しみになる前に言ってもらえませんか? 饗庭野って男の様子を確認してくれ、と」 美青年がハッと顔を上げ顔を寄せて来る須崎を見つめた。 「良いんですか?」 「もちろん。貴方の為なら俺はこの命を捧げましょう。なので何なりと」 大袈裟に右腕を前にしながら執事のように恭しく口に出す須崎。 「冗談でもダメですよ。そんな事言っちゃ。もしも須崎さんが居なくなったら私、怒り狂って人類を滅ぼしかねません」 「……雲居さんこそ。貴方ならマジで人類を滅ぼせるんですから、冗談じゃなくなっちまいますよ。それに俺だって、一応人類側の存在ですよ?」 須崎の言葉に微笑を浮かべた雲居が、再び顔を曇らせた。 「大丈夫。俺は死んだりしません。危ないと思ったら雲居さんを必ず呼びますから。何なら雲居さんの糸、10本でも20本でも俺につけておいて下さい」 「須崎さんはそうやっていつも、私を甘やかすんです。私が蜘蛛の怪人だってことを忘れてないですか?」 雲居に笑顔を向けたまま顔をさらに寄せた須崎は、雲居の唇と自身の唇とを重ねた。 「――忘れるなんてできないさ。俺の頭の中は常に人の姿の雲居さんと蜘蛛男の雲居さんとでいっぱいなんだもの。……だから、ね?」 今度は雲居の方から須崎にキスを返した。 「だったら、決して深入りはしないで下さい。元々は私の店に舞い込んだ問い合わせが発端なんですから」 「了解……、で、どうします? 雲居さんのチンポも元気になっちまってるみたいだけど」 「あっ!」 顔を赤くして照れる恋人の股間に手を伸ばした須崎は申し訳なさそうに囁いた。 「前言撤回。俺、このまま外に出るなんて無理だ。我慢できなくなっちまった。また雲居さんを感じたくてどうしようもないんだけど」 抱きつく須崎の頭をゆるやかに撫でる雲居の手がそうっと須崎の背中に流れ、脇腹から腰をも愛撫した。 ぴくぴく震える逞しい筋肉たちが須崎の興奮を正直に雲居へと返している。 「仕方ないですねぇ。でも、私も須崎さんと一緒です。もう一度須崎さんを味わいたくなってしまいました。でもその前に――」 雲居は枕元に置きっぱなしの須崎のスマホを取って、メモアプリの中に住所と電話番号とを素早く入力した。 「雲居さんが心配している饗庭野って奴のアドレス?」 須崎の問いに雲居は〇〇のように微笑んだ。 「いえ、私と遼平(須崎)さんとの時間を減らそうとする愚か者の棲み処です」