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鷹取リュウゴ
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寄生魔竜人の性蝕アドバンテージ 19

19情報屋と怪人と、獣化するヒーロー  青ざめて固まった吾門のそばを離れ、ゆっくりと体育館のドアへと向かう饗庭野と沢村。  「まずはこの場から離れよう。それにしても、お前に与えた俺の体液の効果がまだ残っていて幸いだった」 「饗庭野の体液?」 「辰ケ引高校に到着した初日、クロムと対面する前に俺の体液を飲んでもらっただろ?」 「あ~、なんとなく覚えてる……」 沢村はとぼけていたが実はしっかりと覚えていた。沢村にとって饗庭野から初めて積極的にしてくれた記念すべきキスだったからだ。 「詳しい説明は後でいいか? さぁ――」 沢村の手を引いて体育館を出ようとする饗庭野の表情は見たことが無いほど深刻だ。 「え? 脱出って? 俺たち二人だけ?」 東城も仮島先輩も近くにいた魔竜人と食事セックスに夢中になっている。 「悪いが他の連中は後回しだ。さすがに全力でフォローしたとしても今すぐ救出できるのは亮真一人が限度だ」 「きゅ、救出?」 「急げ、亮真。ひとまずお前だけは安全な場所に移ってもらいたい」 ドアを越え体育館から出たところで饗庭野は擬態を解き魔竜人化した。かと思えば戸惑う沢村を背に乗せて速やかに高校の外へと離陸。 しかし、ここで饗庭野にとって想定外の問題が発生した。 高校全体を覆う結界の壁を抜けようとすると、沢村だけが壁に阻まれ饗庭野の背から滑り落ちてしまった。 「おいっ!? マジかよ! 嘘だろっ!」 驚く饗庭野。 落ちていく沢村は反射的に魔竜人の姿になり翼を羽ばたかせて再び浮上できたものの、結界の壁を突き破ることはできない。 「ダメだ! 体当たりしても出られない!」 ほどなく眼下には吾門や数体の魔竜人が体育館から出てきて鬼の形相で追いかけてきた。 「勝手な行動は許されないですよ! 饗庭野さん! 沢村さんも! 戻ってくるんです!」 急いで饗庭野は沢村の元へ駆け寄ろうとしたが今度は饗庭野が結界に阻まれた。 「くそっ! なんでダメなんだ! さっきは通過できたってのによ!」 迫る追っ手。外側から必死に結界を破ろうとする饗庭野。しかし、沢村の背後、もう手の届く距離に吾門が見えた。ならば、と沢村は体を翻して地上へと急降下。 「お、おいっ! 亮真っ!」 叫ぶ饗庭野に「饗庭野だけでも逃げて! 俺は時間を稼ぐから!」叫んだ沢村は吾門を引き付け結界の壁から離れていく。 「こちらは僕たちに任せて、あなた方は饗庭野を追いなさい!」 地表すれすれをランダムに滑空する沢村を追う吾門たち魔竜人と饗庭野を捕まえようとする二手に分かれた。 饗庭野は無念そうにマズルを歪めたがすぐに反転して空高くへ舞い上がる。 直後、沢村がわざと体育館の屋根を蹴りけたたましい音を鳴らした。その音に一瞬ではあったが気を取られた追っ手は饗庭野が早くも点のようなサイズになっていたのを見た。 諦めて沢村の追跡グループに加わった魔竜人は、地上すれすれを逃げ回ってたいた沢村を前後から挟みこみ、ようやく沢村を捕らえらることができた。 「ここまでですね、沢村さん。さぁ、余計な手間は取らせないでください」 「……くそっ。お前らは、いや、クロムは何を企んでいるんだ!」 ◇  「饗庭野さん、長らくの調査お疲れ様でした」 「お互い実物と対面すんのは何気に初だよな! まぁでも挨拶なんて無しでいいだろ?」 広いロビーの大きな窓の向こうには、滝のある立派な日本庭園の緑が鏡のような水面に色を映しているの見える。 チェックインの時刻ではないからだろう。ロビーには三人だけ。旅館スタッフはコーヒーをテーブルに置いたらどこかへと去ってしまった。 黙っていると窓越しに入る滝の音しか聞こえなくなる。 湯気がゆらりと昇るカップを持つ間も惜しんだ饗庭野が向かい側に座る二人に頭を下げた。 「……残念だがしくじった。協力者を一名、現地に残したまま脱出してしまった……。ただちに戻って救出したい。是非お二人の協力をお願いする」 「協力者ってのは報告にあった沢村って大学生だろ? ――うぉ! あっつぅ!」 口にしたコーヒーの熱さにむせたのはゆるんだネクタイのせいでちょっとだらしない着こなしの杉原。 挨拶はともかくとして、とスマートな笑みと会釈で饗庭野に自己紹介を始めたのは須崎だ。 「私が慰昆堂から参りました須崎、そしてこちらは『ULMH(Unlimited Mix Heroes)』の杉原さんです。私も彼もクライアントの代理人と思ってもらって差し支えありません」 「そいつはどうも」 饗庭野の言葉が短いのは内心の焦り如実に示している。 「さて、お急ぎのところ申し訳ないんですが最新の状況を詳しく聞かせて下さい」  「――彼ら、いえ、ボスであるクロムの目的は辰ケ引の町から支配を拡げていくのではなく別にあったんですね?」 冷静な須崎の声に饗庭野はいつもの判断力を取り戻した。 今すぐ戻っても結界に阻まれ入れないままだろう。そして、結界の前にて待ち伏せされている可能性も高い。 無策で動いては助かる者も助けられないのだ、と。   「どうやらそのようだ。彼、沢村くんのおかげでクロムの奴がなぜ同族の精神支配を行っていたのか、理由がはっきりしたからね」 飲みかけたコーヒーのカップを戻した饗庭野が顔を上げた。 「辰ケ引に集められてから毎日のように飲まされてた黒精液。あれは、クロムが体内で合成した向精神薬だ。飲めば飲むほどクロムを盲信し、奴隷のように従いたくなるヤバいドラッグだったんだ」 「自らが増やした我が子と言ってもいい存在なのに、隷属させるためにドラッグですか……」 「身内相手にロクなもんじゃねぇな。んな事しなくたって指一つで動きそうなもんじゃねーか」 須崎も杉原も汚物を見るような目で辰ケ引高校の方角を睨んだ。 「協力者の沢村くんには俺の体液を取り込ませておいたので黒精液の影響を受けず奴隷にはならないようにしていた。ただ、そんな小細工はいずれあちら側にもバレるだろうと予測はしていた」 「なんだなんだぁ? 体液っつうのはどっちの液なんだぁ~?」 杉原さんがまたニヒヒと笑う。 「レットさんはもっとヒーローらしくして下さい。でないとヒーロー事務所の評判まで下がる恐れがありますよ?」 須崎が杉原を「レット」と呼んでたしなめる。 「おたくら随分と仲が良いんだな? もしや、すでにそういう関係か?」 「ご想像にお任せします。――さて、話を本題に戻しましょうか。魔竜人の祖であるクロムは増やした魔竜人を一か所に集め、黒精液でより深く隷従するよう洗脳していた。……ああそうか、逆なんですね? 洗脳するために一か所に集めたんだ」 「そのようだ。本来、魔竜人は食事と称するセックスや、種と呼ばれる寄生用のアイテムを産みだす交尾目的で交わりを持つことはあっても、上下関係についての感覚は希薄だ。 それは彼ら一体一体が地球を支配するための戦闘員と言うよりも兵器に近い存在であり、古参も新兵も関係なく前線に出るのが基本的な戦術だからだろう」 饗庭野は自身が宿した魔竜人の「種」から引き出した基本情報を中間報告に添えて伝えた。 「魔竜人同士では洗脳もマインドコントロールもほぼ不可能……、だったがクロムは黒精液によって不可能を可能にする方法を見つけ、種を寄生させた高校の教え子だけじゃなく集めた眷属たちを片っ端から奴隷化していったんだな。不気味なことをしやがるぜ」 レットは自身の手のひらに拳をバシッとぶつけた。 「それが事実だとして高校の近辺に住んでいる人間に種を寄生させていかなかったのは何故でしょう?」 「クロムにとっては増え過ぎても困る理由があったんだ。黒精液の材料になる種も求めていたけれど、『敵』には決して見つからないようにしなければならなかったからな」 須崎はレットを、レットは須崎を見た。 「『敵』、とはもしかして蜘蛛の妖異、ですか?」 饗庭野が驚いた。 「なんであんたたちがそれを知ってるんだ? クロムに近い魔竜人でも知っている者はほとんどいないのに……。いや、それよりも話を先に進めよう」 疑問は後回しにして饗庭野は二人に伝えることを優先した。 「俺はなぜかお伽衆と言うクロムの側近のような立ち位置に選ばれた。おかげでクロムと直接話をする機会が何度かあった」 「その時にクロムからじかに聞いたんですね? 蜘蛛の妖異とのいきさつを」 「まぁ、そういう事だ。クロムはちょっとしたいざこざ、と言って余裕ぶっていたがな」 「するってぇと、今度もまた蜘蛛の妖異に邪魔されないよう人数をしぼってこっそり進めてやがった、って訳か」 「正解だ。これで魔竜人たちを一か所に集めた後は拡大路線を取らなかった理由が納得できる」 「聞けばまるで数を調整して飼育する養鶏場のようですね……。高校と言う檻に閉じ込めて延々と産卵を繰り返させて、それを異常だと思わせないように洗脳して、産まれた卵は寄生に使わせず取り上げてさらに洗脳を深く、濃くするための素材に使う……」 「異常だと思えない魔竜人にとっては楽園かも知れない。だが、俺の協力者の沢村は俺が与えた体液のせいで洗脳されず、狂うこともできず、正常なまま苦しみを味わっていた事は想像に難くない……」 饗庭野の表情が曇った。 三人が座っている座席の周囲だけ影が差し込んで暗くなったようだ。 「だからこそこのタイミングで饗庭野さんをここにお呼びさせて頂いたんです。私たち二人の助力で解決できるのか、あるいは難しいのかを見極めるために」 「案件にしちゃ遥かにデカくなっちまってる気がするがな」 饗庭野が暗澹たる表情を崩さずに続けた。 「急いで協力者と共に脱出するしかない。事態はもう俺の手には負えない。そう俺は判断した。なぜなら俺は見た。見てしまったからだ。お伽衆の魔竜人がクロムに飲み込まれ、捕食されてしまうのを」 須崎もレットもピタッと動きを止めた。 「クロムが根城にしている部屋は多重結界によって音も気配すらも外部からは察知できない。だが、そんなクロムだってお伽衆を呼んでセックスを行う場合や、仕上げた黒精液を渡すときはわずかな時間だが結界を解除する。 ま、その隙を突いて潜り込めるような生半可な相手ではなかったもんで俺は呼びつけられたお伽衆にマイク付きのマイクロカメラをこっそり部屋にセットしてもらっては探りを入れていたんだが……」 「それはそれで凄いですね」 「ま、情報屋稼業なんてのをやってると、他のヤツをダシにしてカメラを設置させる、なんてのもできるようになっちまうんで」 「ほえ~、詳しく聞いてみたいもんだぜ」 「やめときましょうレットさん。ヒーローが盗撮なんてやっていると世間に知られたら多くのファンが泣くじゃありませんか」 「はぁ? 俺の事で泣くやつなんかいるかよ!」 「いると思いますよ? 雲居さんもそうですし、あなたの仲間も。そして、レットさんはご存じないんでしょうけどファンクラブの会員も」 「は? ファンクラブ? 何それ、初めて聞いたが?」 「そうでしょうね。実はレットさんが雲居さんとお会いになった後、雲居さんがすぐにファンクラブを立ち上げたんですよ。非公認ですが」 「マジかよ?」 「ええ。マジです。会員数は10日で2万人を超えたそうです。ちなみに全員男性だそうです」 「っざけんな! 俺はアイドルじゃねーっての! なにやってんだよあんたんトコのオーナーさんは!」 「と、言われましてもねぇ。レットさんのかっこいいお顔、肉体美、獣化した後の渋い狼獣人の顔、いずれもエッチで魅力的ですからねぇ」 話題がまったく逸れてしまっているのを受けて饗庭野は咳ばらいをした。 「あのねぇ、お二人とも。クロムが配下を捕食していたと聞いても驚きもしないなんて、豪胆が過ぎるんじゃないですかい? 奴さんは同族を食うことによって更なるパワーアップを図ろうとしてるって理解できてんです?」 レットも須崎も饗庭野に平然と答えた。 「ま、どっちみち親玉を抑え込めりゃ何とかなるだろ。ボスもたまには思い切り体を動かしたいって言っていたしな」 「雲居さんであれば捕食されてしまった人間でも復元できるでしょうし。アフターケアは問題ないかと」 微笑む二人を目の当たりにした饗庭野がたじろいだ。 「あ、あんたらいったい……」 「さて、ここからは協力者である沢村さんの救出と、反撃について考えていきましょうか」 「だな。どうせなら派手にぶちかましてやろうぜ? 未だに饗庭野へ追手が来ないってのはそんだけこっちを舐めてんだろうしなぁ!」

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