2 二人への違和感 イヤホンを装着してベッドで仰向けになったまま目を閉じ、ギンギンにチンポを勃起させ亀頭からダラダラ透明な粘液を吐き出す――そんな俺を、じっと見下ろす影が二つ。 しかし、ASMRの音がもたらす快感に酔い痴れている俺は侵入者にまったく気付かない。 「……これで蕨岡君もこっち側だね」 「いや、初回だから安心はまだでけへん」 背の高い影が低い影に慎重な言葉を返す。 「あぁ~、見てほらぁ、蕨岡君のチンポが凄くイきたそうに震えてる! あんなに先走りを吐き出してるよぉ~! しゃぶってイクのを手伝ってあげたい! 彼の精液を味わいたい!」 「……我慢せぇ。俺かて必死に……、めっちゃ我慢してるんや。それに、ここで止まってもうたら元も子も無くなってまうやろ?」 今しも上半身をかがめて顔を俺の股間へ寄せそうだった背の低い一体がぐっと身を引き戻した。 「うぅ、そう、そうだね。でも、ここまで美味しそうな蕨岡くんを見ちゃうと抑えが効かなくなってしまいそう……っぐ! ううっ! ぐが、あ、ああああっ!」 歯を食いしばり辛そうに両腕で自身を抱きしめた低い影の腕が、ズズズとサイズを大きく膨張させていく。 「ったく、しゃーないなぁ。まぁ、これだけ意識が深く入り込んどったらしばらくは目を覚まさへんやろう。せやったらこの場を借りてちっとばかし処理しとこか」 背の高い影は苦笑いを浮かべると、身に着けている衣服をズブズブ体に「融け込ませ」てしまった。 「ごめんねタツミ君。様子を見に来る前にちゃんとヌいたんだけど、気持ち良さそうな蕨岡君の『音』を深い所で聞いてしまって感化されちゃった」 「マナブだけやないで。俺も実のところギリやから。とは言え、や。タマキの邪魔にはならんよう注意せんと。それと――」 同じく着ているモノをドロリと融かして吸収した一体がもう一体の影の股間と自身の股間とをズルズルと擦りつけ合う。 擦りつけながら二体とも全身の筋肉をメキメキと肥大させ、背丈の差が無くなる頃には両者とも凄まじくマッチョな肉体へと変貌していた。 「――おっとストップ。ここらで止めとかんと。あんま時間は取れんやろうから完全変態したらアカン。そっちは俺の部屋に戻るまではお預けや」 「分かってるよぉ~。アッチの姿になっちゃったらちょっとだけじゃ済まなくなるもん。今はあくまで蕨岡君がちゃんとメールに添付したファイルを開いて聞いているかどうかを確かめに来ただけ、ってね」 ASMRの音なのにリアルな実感を伴う耳舐めの快感によってチンポをビクつかせて喘ぐ俺のすぐ横で、マッチョになった二体が股間だけではなく唇を重ね、舌をぬるぬる絡めて口づけ合う。 火のついた二体は徐々に行動を激しくさせ、一方の尻穴にデカくなったイチモツを挿入してアナルセックスをおっ始めていた。 だが、俺には二体の腰が激しくぶつかる音ではなく、耳の奥を舐め脳を犯すASMRのヌチャつく「音」しか届いておらず、握っていない勃起チンポがいよいよ耐え切れず絶頂に向けて角度を変え、射精の瞬間を迎えようとしている事さえ理解できていなかった。 「んぁぁぁ! あかん! もうイグ! イグゥゥーーーーーーーッ!」 「ぐぉぉ! 俺もぉっ! 俺も出るっ! もうっ! イクイクイクーーーッ!」 別人のようなバルクと筋肉を備えた二体が歓喜に吠え、盛大に精液を放出。ビュルビュルと打ち放たれる大量の精液が挿入していたアナルに収まり切らず肛門括約筋がヒクヒクするたびにビュルッ、ブピュッとこぼれて垂れ落ちる。 そして俺もとうとう―― 「んがぁぁぁぁーーーっ! イグ! イグゥゥッ! イっちまぅ!? ダ、ダメだ、もぅ、も゛う゛っ! ぅあああああああああーーーーーーっ!」 「アカン! タマキがイってもうてる! おい! 余韻に浸ってる場合ちゃう! とっとと退散しとかんと!」 「う、うん、そうだね……。気付かれないうちに早く部屋に戻って続きをしないと……」 ドビュドビュ精液を打ち上げる俺に後ろ髪を引かれながら二体は俺の部屋を去っていった。 今まで味わったことの無い、長く激しい快感を伴う射精が終わってようやく意識を浮上させた俺の目に飛び込んできたのは、自らが出した胸や顔にまで繋がる幾筋もの白濁液――だけではなく、ベッドサイドの床にぶちまけられてできた白い粘液による巨大な水たまりだった。 「はぁ? オイオイ、嘘だろ……、俺……こんなにも精液をぶっ放していたのか?」 無音になったイヤホンを耳から抜き取る。すると、今まで感じていなかった器官に感覚がドッと戻り鼻には濃厚な精液臭が押し寄せた。 「うわ、キッツぅ……、えげつないな……。量も量だしニオイも強烈過ぎる。何十人もの男が俺の部屋の中でオナってぶっ放したとでも言うのか?」 後始末の労力を思うとカラダがずっしり重たくなってしまうが、放っておけばますます生臭いニオイが部屋に染み付いてしまう。 数日、いや数週間ぶりに味わえた至高の絶頂感。射精し切って完全燃焼した快感に身も心も浮かべてじっくり賢者タイムを噛み締めていたかったんだが……。 渋々、本当に渋々、俺はベッドを離れ、ティッシュやトイレットペーパーを総動員し、有り得ない程おびただしい白濁液を処理していった。 ◇ 次の日、床に溜まった大量の精液を片すだけで日付を跨いでしまったせいで目覚めは実にダルかった。 その上、目を閉じると再生していないのに耳の穴やそれより奥を舐めるASMRの音が聞こえてきて、常にエロい気持ち良さが耳、脳、うなじから背筋へドクドク流れるのだ。 そんな状況を迎えていたおかげで横になっても中々寝付けくて、またもや酷い睡眠不足になった。 それでもこうして一限目の講義に余裕で間に合っているのはタツミとマナブのフォローのおかげだ。 「昨日みたいに電話すんのがギリやったらまた怒るやん? 遅すぎやー、もっと早よせぇって」 「だから迎えに来たって訳。直接起こして上げた方が良いんじゃないかってタツミ君と相談してね」 「まぁ、そりゃありがたいけど……。だからってなぁ、俺の朝勃ち見てお前らまで釣られて勃起してんじゃねぇっつの! エロいタツミはまだしもマナブまで……。いくらエロ同人誌にありがちな場面だとしても男に欲情してどうすんだよ、ったく~!」 眠い目をこすりつつ玄関を開けてやれば、タツミもマナブも俺を見た途端、股間をモッコリさせてやがったのだ。俺はスケベな男だって自覚はあるけどお前らも大概だな! 「俺もマナブもめっちゃ元気があるっちゅうこっちゃ! タマキに負けへんくらいにな!」 そんなシモネタに花を咲かせつつ一限目の講義室に入ると、教壇ではなく聴講席の方に一人だけスーツを着た男が座っていた。 「……もしかして代理の講師?」 「いまさら? あの人は社会人学生の倉知さんだよ? いつもはスーツじゃなくて僕たちみたいにラフな格好だから、蕨岡君の目には入ってなかったのかな?」 「ええなぁ~! スーツ着てっとやっぱさ、大人の男って感じでかっこええわ~! 男のフェロモンがムンムン出てへんかぁ?」 「確かにカッコイイとは思うけど男からフェロモン感じてどうすんだ? タツミにフェロモン嗅がれているなんて知れば向こうが嫌がるだろうが」 3人で席に座りもせずふざけていると、ネタにした倉知さんが立ち上がってまっすぐ俺たちに向かって来るではないか。 やば、もしかしてキレてる? なんて、ヒヤヒヤしながら観察していると、表情はむしろ柔らかくほんのりと笑顔を浮かべているではないか。 内心ホッとして胸を撫でおろし、改めて近づいてくるスーツ姿の倉知さんをチェックする。 倉知さんは肩幅が広く胸板も随分と分厚い。 ネクタイは浮き上がってシャツとの間に隙間ができる程に大胸筋が盛り上がっている。 気温が上がって薄着になったら本人にその気は無くてもバキバキにマッチョな肉体美を見せつけ、女たちの視線を釘付けにし、周囲の男どもからセクシーマウントを取るに違いないだろう。 ええい、なんて羨ましいナイスバディなんだっ! 「――やぁ、みんなおはよう。なんだか俺の名前が耳に入ったんで気になってしまってね」 「あ~、いや、その……」 どうしよう。 あなたが出してるフェロモンについて話してました、なんて言えねぇ。 「おはようございます倉知さん。今日は珍しくスーツで受講されるんですね?」 口ごもる俺とは裏腹にマナブがやけにハキハキ挨拶を交わす。 「うん、そうなんだ。今日はこの講義が終わったら会社へ寄らずに別のお客様と面会する予定になっていてね」 「なんや忙しいんすねぇ。でも、また近い内に俺たちと遊んでくださいよ。タマキはまだ『調整』し始めたばっかやからキツイっすけど、俺とマナブはいつでもOKなんで!」 いつものふてぶてしさはなく、尊敬のまなざしを倉知さん向けるタツミ。 「おい、俺の『調整』ってどう言う意味だよ――」 ツッコミを入れようとしたら倉知さんが俺の肩をガッ! と掴んだ。 「ああ、そっか! 『蕨岡 環(わらびおか たまき)』くんってのは君だったのか! タツミくんやマナブくんから名前だけは聞いてたけど、こうやって挨拶をするのは初めてだよな! 俺は『倉知 三郎(くらち さぶろう)』 よければ俺とも仲良くしてくれるかい? 大学には週に……、うん? 聞こえてる?」 ……なぜだ? どうして倉知さんの声が耳に届くたび耳の奥や頭の中をレロレロ舐められゾクリと粟立つような快感が走ってしまうんだ? 「ん゛ぅっ? ぅぅ、ぅあ、んふぅ、ぐ、う゛ぅ、っく、ぅあ…………」 タツミもマナブも、そして倉知さんも目を丸くしているじゃないか。 マズい! オカシイやつだと思われちまう! 「――んぁっ! ……あ~、っと、……その、……そう! 倉知さんの声が素敵過ぎて聞き惚れていたんですよ~、ははは! マジで良い声っすねぇ!」 咄嗟に場を繕おうとして無理矢理作った笑みを顔面に貼り付ける。 じわじわと嫌な汗が額や腋に滲む。 ぅおい! 黙ってないでなんか言えよ! 何でもいいから誰か! 早く! 何か言ってくれ! 心の中でそう祈っていると講師の先生が入って来たので三人の視線から逃げるように空いている席へ向かった。 そんな俺の背後でタツミとマナブが意味深な笑みを浮かべ、倉知さんとうなずき合っていたなど全く気付かずに……。 講義後、倉知さんはすぐに講義室から去っていった。 ちょっとホッとしてタツミやマナブの側に行き、さっきの恥ずかしい行動を誤魔化し、上書きするように二人を問い詰めた。 「つうかさぁ、二人とも倉知さんと仲が良いなんて初めて聞いたぞ? そんで、裏で俺の事まで話してたんだろ?」 「まぁまぁ、そんなひがまんでも。ちょっと前にトイレで一緒になって、そっからちょいちょい話すようになったんや」 「僕もそんな感じ。タツミくんとは違って学内カフェでレポートを仕上げてたら声を掛けられてね」 「くそぅ、ちゃっかり頼れそうな大人と仲良くなりやがって~」 「そないむくれんでも。ほんでタマキ、倉知さんにひと目惚れしてもうたんか? さっきはなんやメロメロになってたやん?」 「そっかぁ、蕨岡君は先に僕たちと倉知さんが知り合っていたことに嫉妬してたんだ? まぁ、あれだけイケメンでイケボだったら恋に落ちるのも理解できちゃうな~」 なっ!? 「な! なな、何言ってんだよ! ええ? メロメロ? 嫉妬? ひと目惚れ!? ば、バカ言うなって! 倉知さんは男じゃねぇか!」 タツミとマナブはププっと噴き出した。 「必死に否定するところがタマキらしいやん。でも、マジなハナシ、好きになった対象が男か女かなんてどっちでもええんやで?」 「そうだよ。タツミくんの言う通りだと思うよ? どんな形の恋愛になろうとも僕は蕨岡君の恋を応援するからね!」 「違うって! マジで! そんなんじゃないって!」 必死に二人の早とちり、ってか誤解を解いているとタツミが俺を遮った。 「ほな次の講義室に移動せんと。もう俺らしか残ってへんで?」 言われて周囲を見れば知らない顔ぶればかり。 手にしているテキストから見て3年生のようだ。 「あ! やばいよ! 2限目開始まであと3分も無いじゃない! 急ごう!」 マナブが俺の手を掴んで講義室の出口へ引っ張った。 手を引く力が思いのほか強かったから俺は文字通り引きずられながら今まで居た講義室を後にした。 しかし……、何かが引っかかるな……。 何かって……? それが……、喉元まで出かかっているのに出てこない。 違和感に首をひねりつつ次の講義室に駆け込むと、始業チャイムより先に講師の教授が来ていたため大いに慌てて空いている席に座った。 「ちゃんと第一段階は中に入ってるね」 「せやな……。さっきの様子やとばっちし成功や」 二人がちらっと俺を見て口元を押さえた。 一体何だってんだ?