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鷹取リュウゴ
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プロトタイプと俺 その3

3秘密組織ってなんなのさ?      戦闘員に変身したプロトタイプと「限界」まで付き合う、と言って始めたセックスは、夕方を超え、 夕飯時を超え、日付をまたぐ頃まで続けられた。 結局、俺は7発、プロトタイプは、20発以上も大量発射してようやく「治まった」訳だが、部屋中が飛び散った精液のせいでドロドロになっていた。 なので、変身を解除してヒトに戻ったプロトタイプと俺は、部屋の掃除と汚れモノの後片付けでしっかり一時間以上も費やす事になった。 その後、汗だくのカラダをシャワーで流し、人心地ついたな、と思ったらすでに午前2時になっていた。 「ふぅ~、疲れた~。でも、あんなに長時間セックスしてた割に疲れていないけどな」 「恐らく、私の精液や先走り、乳首から出ていた体液を取り込んだためでしょう。あれらにも自己修復機能を高める作用がありますので」 「眠気が無いのも?」 「そうです」 性欲が一旦落ち着いたので、プロトタイプは途切れていた話の続きを切りだした。 プロトタイプは組織から逃げ出しこの街へ辿り着くまで、一度も休むことなく走り続けていた、と言う。 それぐらいプロトタイプの体は強化されていて、強化されている体を構成する様々な体液もまた常人のモノとは異なっているのだ、と。 「途中で私が身に着けていたプロテクターを捨てながら、分かれ道では足跡を別の方向に付けて、向かった先がこちらでは無い、と思いこませるような、ささやかではありますが時間稼ぎの策を施しながら山を下りて行ったのです」 長い後ろ髪を紐で結んだプロトタイプは、冷蔵庫から自分の分だけではなく俺にも冷たいドリンクを渡してきた。 「あ、すみません……つい、斗一さんのドリンクなのにまるで自分のモノのように……」 「構わないよ。て、言うかさ、俺たちこれからずっと一緒にいようって決めたんだし、あまり他人行儀なままだと窮屈なんだよなぁ」 「そう、ですか? でしたら、斗一さんが気にならないよう努力します」 「まずは『さん』を取って俺の事を呼び捨てにする、ってのから始めようぜ。どう見たってプロトタイプの方が年上の兄貴って感じなんだしさ」 「分かりました。それも努力します」 あまりに大真面目な顔で「努力します」って言うもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。 「……可笑しいでしょうか?」 「いんや、プロトタイプを笑ったんじゃないよ。なんつうか、俺にとって初めて彼氏って呼べる存在ができたけど、もの凄く意外な出会い方をしたもんだなぁ、って」 「はぁ、そう、ですね……。でも、お陰で私は助かりましたから、感謝の気持ちでいっぱいなんですが」 「それじゃぁ、さ。情報共有ってのを再開しようか?」 セックスで中断してしまったけど、プロトタイプを追う敵がどんな連中なのか、どんな方法で対処すべきかを早い内に考えておかないといけない。 「分かりました。私が把握している事を全てお伝え致します」 プロトタイプは再び腕に銀色の腕輪を形成し、その表面を指で押した。 すると、空中に画面が浮かび、ある光景が広がった。 「この場所で私は生み出されました。秘密組織の基地が存在する山です」 「ここって、阿久野山?」 「そうです。昨日、水蒸気爆発が発生した山です。私は秘密基地の地名までは脳に入力されていなかったのでテレビの映像だけでの判断になりますが、 まず間違いありません」 阿久野山に秘密組織の秘密基地があったとは驚きだ。 「組織内部の詳細についての幾つかが、昨日の昼以降、記憶から引き出すことができなくなりました」 「? それって、もしかして?」 「そうです。例の水蒸気爆発が発生した時からです」 プロトタイプは窓の外を見た。 夜になっているから暗くて何も見えないけど、その視線の先には阿久野山の秘密基地が見えているんだろう。 「――推測ではありますが、水蒸気爆発ではなく、秘密基地そのものが爆発事故を起こしたのではないか、と私は睨んでいます」 「けど、ヘリからの映像じゃ建物らしい物はなにも映っていなかったじゃん」 「秘密基地は山頂付近の地下にあるのです。当然ですが上から見ても何もありません。隠し通路がいくつかあるんですが、それらも岩や土砂でカムフラージュされています」 「なるほどね」 「組織は私のように拉致した人間に人工的に手を加えた細胞を埋めこみ、融合させ、戦闘員を製造していました。 私はその中でも試作品、実験体として1体目に生み出された者にあたります」 「つうことは、プロトタイプ以外にも何人も拉致された人が居たんだ」 「そうです。彼らもまた私とは異なるタイプの細胞を埋めこまれ、B型、C型と言った戦闘員のプロトタイプに改造されていました」 「プロトタイプ(試作品)じゃなくてさ、完成された戦闘員はいなかったの?」 「量産型が製造され始めたのはほんの2か月ほど前からでした。私や他のプロトタイプたちはそれまで 様々なテストを超え実験に耐えましたが、量産型が本格製造され始めたひと月前に秘密基地内の廃棄処理場、つまりゴミ捨て場に全てのプロトタイプが送られたのです」  プロトタイプは説明しながら銀の腕輪から別の画像を空中に投影して行く。 ベッドしか置かれていない無機質な部屋。ここでプロトタイプは寝起きしていたと言う。 続いて映されたのは戦闘データを取るために作られた広いスペース。 そこで蜘蛛のような形の不気味なロボットを薙ぎ払い、叩き潰す「変身後」のプロトタイプ。 黙々と戦っているプロトタイプの姿は、まさしく戦闘員そのものだった。 この次に見えたのは人が入れる程大きな水槽の並ぶ実験室だ。 この実験室では拉致した人間を用いずプロトタイプたちから採取した細胞を元に、クローン培養で「イチから」量産型戦闘員を生産し始めた。 目に見えない極小細胞の一塊が、培養槽で2日経過すると早くも胎児のサイズに。 そして、わずか1週間で成人男性へと成長する。 「私がゴミ捨て場に送られた頃、完成している量産型戦闘員はすでに60体は居たと思います」 量産型戦闘員はプロトタイプたちから抽出したデータを脳にインプットされ、均質かつ同じ思考パターンを持った戦闘員になった。 感情の起伏は無く、ある程度の自律思考と状況判断が可能で、ロボットに近いけれどロボットよりも柔軟な対応力、だけど組織の命令には決して逆らわない生ける「ロボット」 全て同じ顔を持ち同じ能力を持つ、それが量産型戦闘員の姿だった。 プロトタイプは腕輪からの映像をストップさせた。 腕輪に蓄積されている映像データはこれで全てだった。 「私や他のプロトタイプも記憶や人格は本来の人物のものとは異なる『別物』なんですが、素材となった人間の個性はかなり残留しているようです」 きっと、量産型や他のプロトタイプと自分とを比較しそう考えたんだろう。 そのように産み出されたことに対する悲観も諦観もプロトタイプからは受け取れない口調に、俺は少なからずホッとしていた。 もし、そんな嘆きが聞こえたとしても俺には上手く慰められるようなスキルは無いのだから。 「で、その秘密組織の目的ってなんだったんだ?」 「日本を裏から支配するのだ、とか言っていました。研究者もボスと思しき人物も仮面を被っていましたから どのような顔をしていたのかは分からず仕舞いでしたが、彼らの会話をまとめるとやはり日本の支配です」 「割と想像通りだなぁ」 「そうかも知れませんね。要所要所に戦闘員を放ち、一挙にこの国を掌握しようと言う計画だったようです」 「それにしても今までよくバレなかったもんだ」 「組織に協力的な誰かが意図的に情報を隠蔽していたのかも知れません。だとすると、かなりの実力者、 政治的権力を持つ者だとも言えますが」 「ああ~、あり得そうだ。歪んだ正義感を撒き散らすのが『正しい事』だと信じて疑わない連中が手を貸してるってのは」 それからもプロトタイプは知っている限り秘密組織についてや逃げた時の状況について話してくれたんだが、 対抗手段も完璧な回避方法も俺には思い付かなかった。 「水蒸気爆発が組織内のトラブルである事は疑いようがないのですが、今の私にそれを確かめることは 不可能です。もどかしい限りですが……」 「それはしょうがないよ。プロトタイプが阿久野山に戻ったりしたら『どうぞ捕まえて下さい』、って言ってるようなもんだし」 「その通りです」 「気になるのも分かるけど、ここは我慢してもらうしかない。約束してくれ。勝手に阿久野山に行かないって」 「分かりました。お約束します」 「さて、今後の俺たちの行動についてだけど――」 「!? しっ! 斗一さ、……いえ、斗一、今、ノックの音が聞こえませんでしたか?」 「うん? ノックって?」 にわかに殺気立つプロトタイプに気圧され、俺も思わず聞き耳を立てる。 ――ト、トントン……トン、トン 「!! た、確かに!」 微かにノックの音が聞こえた。 時刻は午前3時。 こんな時間に来訪する者など俺の知る限り一人もいない。 プロトタイプが俺の口に指を乗せ、目で「声を出さないで」と指示する。 俺はその通り身じろぎもせず玄関を注視する。 プロトタイプは確認する前に変身しておくべきかどうか迷っていたが、敵では無い可能性もある。 それに、敵ならノックなどせず窓から侵入するほうが不意打ちになるので成功率が高い、と判断するんじゃないか? ただの酔っ払いが帰宅すべき自分の部屋と俺の部屋とを間違っているだけ、かも知れないのだ。 俺は首を左右に振って、変身するのはまだ早い、と伝えた。 プロトタイプも俺の意を理解し、全身の力を少し緩める。 「ともかく私が見てきます。斗一は隠れていて下さい。いいですか? 自分の身を最優先に考えてください」 小さな声で耳打ちするプロトタイプに俺は「分かった」とうなずいた。 だけど、敵にプロトタイプが襲われてしまったのなら、俺だって援護くらいはしてやりたい。 武器になりそうなものは、何かないか? と周囲を見渡しがめぼしい物は何も無い。 そうだ。キッチンには包丁があるし、引き出しにはカッターナイフがあったな、と思い出して腰を浮かせる。 すると、 「いいえ。ダメです。相手が追っ手の戦闘員だった場合、斗一の攻撃は必ず回避されます。 むしろ自分の存在を知らせる結果を招き、逃げるチャンスをみすみす失うだけです。 いいですか? 斗一は危険に晒される前にここから脱出して下さい。私が時間稼ぎをしますから」 「だ、だったらお前が危ないだけじゃないか」 「私だってプロトタイプとは言え強化改造され戦闘員として作られた存在です。もし、敵が多く力が及ばない場合はただちに逃げます。ええ、逃げるだけなら何とかなるでしょう。 それから先に脱出した斗一とは後で合流する、そちらの作戦の方が確実です」 「で、でもさ――」 「大丈夫。私だってまだ死にたくありません。無茶な行動なんてしませんから。それに、斗一と二度と会えないなんて絶対に嫌なんです」 ウィンクと小さな微笑みを俺に向けたプロトタイプは、玄関からそうっと俺の靴を持って来て「先に履いておいて下さい」と言うと、再び玄関ドアの前に向かった。  俺は窓を開けて少しだけ頭を出し周囲を確かめた。 どうやら建物の裏側に人の気配は無い。一応上を向いて屋根の方も見てみたが、誰かが登っていそうな 感じもしなかった。 俺はプロトタイプに「大丈夫そうだ」と指で丸を作って合図を送ると、プロトタイプもまた大きく肯いて少し口許をほころばせた。 そして、ゆっくりと玄関ドアのノブに手をかけ、じわじわとドアを開けた。 その4へ続く


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